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セミナー詳細

2012年08月28日

サルMT野における奥行き運動(Motion-in-depth)に対する選択性

日 時 2012年08月28日(火) 13:30 より 14:30 まで
講演者 眞田 尚久 先生
講演者所属 University of Rochester, Rochester, NY, USA
お問い合わせ先 小松英彦(感覚認知情報研究部門 内線7861)
要旨

我々は物体が近づいてきたり、遠ざかってゆく、奥行き方向の動き(Motion- in-depth)を知覚することができる.しかしながら、こ のMotion-in-depthに対 する神経細胞の選択性は十分明らかにされていない.過去にネコ大脳皮質におい てMotion-in- depth選択性の研究がなされているが(Cynader and Regan, 1978)、サルを用いた研究ではMotion-in-depth選択性は無いとの報告があり (Maunsell and Van Essen, 1983)、サル大脳皮質における生理学的基盤は十分に 解明されたとは言えない.奥行き方向の運動は主に二つの手がかりによって知覚 できる.一つは両眼視 差が時間的に変化する手がかり (Change in horizontal disparity, CD)であり、もう一つは物体が奥行き運動することによって生じる、 左右網膜像上の速度の差 (Interocular velocity difference, IOVD)である.こ れらの手がかりのどちらがMotion-in-depth知覚に寄与しているのかは心理物理 学的研究において議論されており、その生 理学的基盤を明らかにすることは重 要だと考えられる.

 覚醒状態のマカクザルMT野細胞から細胞外電位記録を行い、Motion-in-depth が脳内でどのように符合化されているのか、またどの 手がかりがMotion-in- depthの知覚に寄与しているのかを調べた。視覚刺激にRandom dots stereogram (RDS)を用い、刺激の両眼視差を動的に変化させることで奥行き方向に運動する 刺激を作成した.RDS刺激の両眼視差を変化させると、左右眼のドットパ ターン は水平軸上でお互いに逆向きに動く.例えば被験者に向かって物体が近づいてく る時、左目刺激は右方向の運動、右目刺激では左方向の運動が生 じる。左右眼 間での速度が違い、且つ両眼視差も変化することから、視覚刺激には両眼間速度 差(IOVD cue) 及び両眼視差の時間的変化(CD cue)の両方の手がかりが含まれる (Combined条件).  RDS刺激は、MT細胞の受容野上に提示され、面状のRDS刺激が前進もしくは後退 の2方向どちらかに運動する.この2方向の運動を複数の速度 条件で提示する ことにより、単一細胞におけるMotion-in-depth選択性曲線を測った.記録した 86個のMT野細胞の内、約半数の神経 細胞が有意に刺激の前進、もしくは後退運 動に選択的に反応することがわかった.さらに、これらの細胞の選択性に、CD cue, IOVD cueのどちらの手がかりが寄与しているかを調べるために、それぞれ の手がかりを単体で含む刺激を用いてMotion-in-depth選択性を調べた. その結 果、多くのMT野細胞はIOVD cueのみを含む条件 (IOVD条件)では、強いMotion- in-depth選択性を示したが、CD cue のみの条件(CD 条件)では選択性が弱かっ た.IOVD条件における選択性の強さは、Combined条件と同程度であることから、 MT野細胞は主に両眼間速度差によって 奥行き方向の運動を符号化している可能 性が示唆される.