日 時 | 2013年03月25日(月) 16:30 より 17:30 まで |
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講演者 | 竹村 浩昌 先生 |
お問い合わせ先 | 小松英彦(感覚認知情報研究部門 内線7861) |
要旨 |
我々の動きの知覚は、背景に存在する動きの情報によって大きく変わることが知
られている。日常生活でも、空に浮かぶ月が、手前で動く雲と逆方向に 動いて
見えるような錯覚体験をすることがある。このような錯覚運動のことを「誘導運
動 (induced motion; Duncker, 1929)」と呼ぶ。誘導運動は、視覚系に入力され
た動きの情報を、空間的に近傍の動きの情報と対比させるメカニズムの現れであ
ると考えられ、そのような メカニズムは動いているオブジェクトを背景から抽
出する上で重要な役割を果たしていると考えられている。マカクザルを対象とし
た電気生理学的研究 では、MT野におけるニューロン活動の特性と誘導運動の間
に類似性があることが指摘されてきた。しかし、実際に主観的な誘導運動の知覚
と、ヒト脳 における神経活動がどのように関連しているのかは未だに明らかに
なっていない。そこで本研究では、誘導運動を知覚する際のヒト視覚皮質の活動
を fMRIを用いて計測した。刺激周辺部には一定速度の運動刺激を、中心部には
静止刺激または周辺と同方向・逆方向の様々な速さの刺激を呈示した。 周辺刺
激と逆方向に動き中心刺激の知覚速度が最大となる条件で、hMT+野は最大の応答
を示した。一方、中心刺激の物理運動と周辺刺激のもたらす 誘導運動が相殺し
て中心刺激が静止して見える条件で、hMT+野は最小の応答を示した。この特性は
V1 野なとの初期領野に比べ、hMT+野でより顕著であった。これらの結果は、
hMT+野が誘導運動の生成に重要な役割をもつことを示唆する。 |