部門公開セミナー

日 時 2011年05月30日 17:00~18:30
場 所 山手3号館2階西大会議室
演 者 稲田 仁(ハーバード大学、分子細胞生物学)
演 題 ヒトTRPV4チャネルのアンキリンリピートドメインにおけるATP結合によって引き起こされる構造変化:TRPVチャネルにおける構造比較
要 旨

TRPV4はTRPチャネルファミリーに属するCa2+イオン透過性の高い 陽イオンチャネルであり、浸透圧受容や機械刺激受容、皮膚のバリアー形成、骨 の発達など、様々な生理機能に重要な機能を果たしている。最近、神経変性や骨 形成異常を生じるヒトの遺伝病が、TRPV4の変異によって引き起こされることが 報告された。変異を含むTRPV4は培養細胞において恒常的な活性を示し、この恒 常的活性化による細胞内Ca2+の上昇が神経変性を引き起こすことが 示唆された。
 TRPV4は低浸透圧刺激や体温近傍の温刺激、脂質などのリガンドによって活性 化される。その活性は、細胞内N末に存在するアンキリンリピートドメイン (ankyrin repeat domain, ARD)に、ATPやカルモジュリンといった細胞内因子 が結合することによって制御されることが、我々の研究グループによって報告さ れた。我々は、ATPによるTRPV4活性制御の機構を明らかにするために、ATP結合 型/非結合型のTRPV4-ARDの構造を決定した。
 TRPVチャネルARDの構造は、6つのアンキリンモチーフ(ANK)とそれらの間を つなぐ5つのフィンガーループ(Finger)からなる。TRPV4-ARDにおいてATP結合 型/非結合型の構造を比較したところ、3番目のフィンガーループ(Finger 3) に顕著な違いが観察された。このことはFinger 3がATP結合における制御スイッ チとして働くことを示唆している。さらに、生化学的解析から、ATPの結合は TRPV4-ARDの構造の安定化に寄与することが示唆された。興味深いことに、ATP結 合型のTRPV4-ARDの構造は、ATP結合能を持たないTRPVチャネルのARD(TPV2-ARD およびTRPV6-ARD)の構造に似ていた。また、ヒトの遺伝病に関与する変異を持 つ13のTRPV4-ARD変異体の熱安定性を解析したところ、ほとんどの変異体におい て熱安定性が顕著に減少していた。さらに、これら変異体のATP結合能を調べた ところ、結合能が野生型よりも顕著に1)増加したもの、2)減少したもの、 3)差がなかったもの分類された。これらの結果は、遺伝病を引き起こすTRPV4- ARD変異体恒常的活性化の機構を説明できるかもしれない。

連絡先 富永真琴(細胞生理)