部門公開セミナー

日 時 2012年01月11日 10:00~11:00
場 所 山手3号館2階西、共通セミナー室
演 者 足澤悦子博士(生理学研究所・神経分化研究部門、博士研究員)
演 題 脳内シナプスの分子局在解析
要 旨

脳内における個々のシナプス結合は、機能に即したシナプス伝達特性を持ち、そ れが特定の神経細胞間で形成されることによって、情報処理機構の基盤を担う神 経回路を形成していると考えられる。シナプス伝達特性の多様性やシナプス結合 の特異性を支える分子メカニズムを解明することは、脳内情報処理機構の理解に 必須である。そのためには、シナプス内に存在する機能分子の局在を知ることが 重要であると考えられる。これまでに私は、SDS-digested Freeze-fracture Replica Labeling(SDS-FRL)法を用いて、単一シナプスにおけるグルタミン酸 受容体の局在様式とシナプス伝達特性の関係を解析してきたので、本セミナーで はそれらの成果と今後の研究について紹介する。 外側膝状体の中継細胞は、網膜と大脳皮質からグルタミン酸作動性シナプス入力 を受けており、それぞれ異なるシナプス伝達特性を示す。この二種類のシナプス に着目し、AMPA型受容体およびNMDA型受容体の発現様式を明らかにしたのでそれ を紹介したい。次に、これまでに海馬を対象とした電気生理学的解析により、カ イニン酸型受容体がシナプス伝達に関与することが報告されているので、私は歯 状回およびCA3の興奮性細胞上のシナプスでのカイニン酸型受容体の分布を解析 し、入力経路特異的な発現を見出したので、その結果について報告する。最後 に、特異的なシナプス結合を規定する分子メカニズムの解明を目的として、クラ スター型プロトカドヘリンシナプス接着分子群に着目して現在行っている研究に ついて紹介する。
大脳皮質には特異的な神経結合により微小神経回路網が形成さ れていることが明らかになってきているが、そのような特異的神経回路形成の分 子基盤についてはほとんど明らかにされていない。クラスター型プロトカドヘリ ンはそのisoformの多様性に特徴があり、この接着分子群の多様性が神経回路形 成の特異性を生み出している可能性がある。そこで、形態学的手法によりその単 一シナプスレベルでの局在を解析するとともに、電気生理学的手法により、特定 のisoformのみを発現する遺伝子改変動物に形成される神経回路を調べること で、特異的な神経回路形成メカニズムについて明らかにして行きたいと考えている。

連絡先 吉村由美子(神経分化)