部門公開セミナー

日 時 2012年09月14日 14:00~15:00
場 所 山手3号館9階セミナー室B
演 者 内田 邦敏先生 (岡崎統合バイオサイエンスセンター 細胞生理研究部門)
演 題 膵臓β細胞に発現するTRPM2チャネルの生理的役割
要 旨

インスリン分泌は生体で血糖を低下させる唯一の有効な手段であり、この分泌機能の破綻は高血糖を生じ、糖尿病を引き起こす。最も重要なインスリン分泌刺激は血中グルコースの上昇であり、消化管ホルモン(インクレチン)や神経ペプチドなど、多くの因子により分泌量は調節されている。グルコースがβ細胞内に取り込まれて代謝されるとATPが産生され、このATPがKATPチャネルを閉口させることが膜の脱分極を引き起こす。膜の脱分極により電位作動性Ca2+チャネルが開口することで細胞内へカルシウムが流入し、インスリン分泌が起こる。この経路が最も主要なインスリン分泌メカニズムであると考えられている。しかし、これ以外にも多くのイオンチャネルが関与している可能性が報告されており、そのメカニズムは未だ完全には明らかにされていない。細胞内へのカルシウム流入に関与するイオンチャネルの1つの候補としてTRPM2(Transient Receptor Potential Melastatin 2)に注目した。

TRPM2はCa2+透過性の高い非選択性陽イオンチャネルであり、ADP-ribose等のdinucleotides、過酸化水素および細胞内Ca2+によって活性化される。2006年、所属研究室より体温近傍の温度で活性化されること、体温近傍温度条件下でcADPRによって活性化されることを明らかにした。さらにTRPM2が膵臓β細胞に発現していることを見いだした (Togashi el al. 2006)。

今回、私はTRPM2のインスリン分泌への寄与を明らかにするため、TRPM2ノックアウトマウスの解析を行った。その結果、膵臓β細胞に発現するTRPM2は消化管からの情報だけでなく膵臓β細胞におけるグルコース代謝情報をも感知し、インスリン分泌を調節していることを明らかにした。 では、TRPM2は糖尿病発症に関与するのか?糖尿病治療のターゲットになりうるのか?この疑問を明らかにするために、高脂肪食を野生型およびTRPM2ノックアウトマウスに摂餌させて作製した高脂肪食誘発肥満マウスの解析を行った。その結果、TRPM2は糖尿病発症にも関与している可能性が示唆された。

本セミナーではTRPM2ノックアウトマウスを用いた実験結果を紹介し、膵臓β細胞におけるTRPM2の生理的機能および糖尿病発症への関与、さらには糖尿病治療のターゲットとなりうる可能性について議論したい。

連絡先 細胞生理研究部門 富永真琴(5286)