昼食セミナー

日 時 2012年11月26日 12:20~13:20
場 所 基礎生物学研究所(明大寺地区)第1セミナー室 (132)
演 者 木下 正治 博士(生理学研究所・認知行動発達機構研究部門 特任助教)
演 題 ウイルスベクター二重感染法によるマカクザル前肢巧緻運動神経回路の選択的な遮断
要 旨

マカクザルにおける大脳皮質運動野から脊髄運動ニューロンへ至る運動指令経路には,単シナプス性の直接経路と介在ニューロンを経由した間接経路が存在する。直接経路は進化的に新しく,この経路が手の巧緻運動に本質的な役割を果たしていると考えられてきた(Lawrence & Kuypers, 1968)。我々の研究グループは直接経路の切断実験により,間接経路を構成している頸髄中部の脊髄固有ニューロン(PNs)の役割を明らかにしてきた(Sasaki, et al., 2004)。本研究ではPNs選択的に遺伝子導入してその神経伝達を遮断することで、物理的切断を伴わない健常時のPNs経路の前肢巧緻運動における役割を検証した。 トランスジェニックの作成が事実上不可能なマカクザルにおいて、神経経路選択的かつ可逆的な遺伝子発現制御を実現するために,ウイルスベクター2重感染法およびTet-ONシステムを用いた手法を開発した。これにより頸髄中部に存在するPNsにのみ破傷風毒素(eTeNT)を発現させた。ベクター注入から1-2ヶ月後にサルへDoxの経口投与を開始してPNsの神経伝達を遮断し、4頭中4頭において前肢巧緻運動の障害を観察した。この結果はPNsが前肢の運動制御に本質的な役割を果たしていることを示唆する。 本研究で開発したウイルスベクター二重感染法は、細胞種特異的プロモーターなどに依存せずに特定経路のニューロンに遺伝子導入を行い、その機能を操作することを可能にするものであり、神経回路機能の操作的研究に新しい道を開くものである。 Reference: Kinoshita, et al., Nature 487, 235-238 (2012)

連絡先 深田 優子(生体膜研究部門#5873)