部門公開セミナー

日 時 2012年12月10日 13:00~14:00
場 所 職員会館2階大会議室
演 者 稲田浩之先生 (生理学研究所 生体恒常発達機構研究部門)
演 題 生体脳における大脳皮質抑制性神経細胞の移動制御メカニズムの解明
要 旨

脳の発達過程において、神経細胞は領域特異的、細胞種特異的な様式に従って移動することが知られている。多様な神経細胞が整然と移動・配列す るメカニズムを解明することは、神経回路形成機構を理解するために極めて重要である。本研究では大脳皮質の抑制性神経細胞に焦点を当てて、そ の移動メカニズムを解明することを目的とした。大脳皮質抑制性神経細胞は終脳腹側の基底核原基で分裂・産生され、胎生期から生後発達初期にか けて接線方向の移動を経て皮質に到達する。本研究ではまず、幼若期マウスのin vivo イメージング法を開発し、抑制性神経細胞が選択的に蛍光標識されているGAD67-GFPノックインマウスとVGAT-Venusトランスジェニックマウ スを用いることで、抑制性神経細胞が皮質内に配置される過程を生体内で観察した。皮質辺縁帯における移動様式を解析した結果、どちらの系統も 多方向性の移動を見せたが、その移動速度には有意差が認められた(VGAT-Venus>GAD67-GFP)。幼若期のGAD67-GFP マウスは大脳皮質GABA含有量が野生型に比べて低いことが知られており、細胞外GABAが多方向性移動を制御している可能性が考えられた。 そこで薬理学的手法を用いてGABA(A)受容体の機能を阻害したところ、移動速度は有意に減少した。また移動時期の細胞にグラミシジン穿孔 パッチクランプ法 を用いてCl-の平衡電位を調べた所、細胞外GABAは 脱分極性に作用す ることが明らかとなった。Cl-トランスポーターであるNKCC1の機能を阻害しCl-の平衡電位を過分極側にシフトさせたところ、移動速度は減少 した。以上の結果 からGABA(A)受容体の活性化は膜の脱分極を誘導することで抑制性神経細胞の多方向性移動を促進していると考えられる。

連絡先 生体恒常発達機構研究部門 鍋倉淳一(7851)