昼食セミナー

日 時 2013年09月25日 12:15~13:15
場 所 生理研明大寺地区 1Fセミナー室
演 者 西田基宏 先生(岡崎統合バイオサイエンスセンター 生命時空間設計研究領域 教授)
演 題 TRPCチャネルによる心血管リモデリング制御
要 旨

高血圧や虚血などのストレスにより誘発される心臓の組織構造改変(リモデリング)は心機能を低下させる原因として注目されている.心臓リモデリングの発症・進展には,心筋の細胞内Ca2+濃度上昇により生じる転写因子Nuclear Factor of Activated T cells(NFAT)の活性化が関与することわかっている.しかし,心臓の興奮収縮連関を担うリズミカルな細胞内Ca2+濃度上昇ではNFATが活性化されないことから,興奮転写連関を担う別のCa2+流入経路の存在が示唆されている.我々は,ラット初代培養心筋細胞を用いてNFAT活性化につながるCa2+流入経路を解析し,ジアシルグリセロール(DAG)により直接活性化されるtransient receptor potential (TRP)チャネル(TRPC3とTRPC6)がアンジオテンシン(Ang)II刺激によるNFATの活性化を仲介することを明らかにした. TRPC3がTRPC6とヘテロ4量体を形成する意義としては,①様々な環境変化を感知するマルチモーダル機能の獲得,②チャネル活性のfine-tuning,③細胞内シグナルタンパク質との複合体形成による活性酸素シグナリングの増幅,などがわかってきた.さらに,スクリーニングによりTRPC3チャネルを選択的に阻害する化合物(Pyrazole-3)を新たに同定し,Pyrazole-3が血圧・心拍数に影響を与えない用量で心重量の増大(心肥大)と心機能の低下を著しく改善することを様々な心不全モデルマウスを用いて確認した.興味深いことに,TRPC3阻害は心臓リモデリングの原因と考えられている線維化と虚血(新生血管数の減少),および酸化ストレスを有意に抑制することを明らかにした.以上の結果から,TRPC3チャネルが心不全治療薬の新たな標的分子となる可能性が示された.本セミナーでは,我々がこれまで報告してきた知見に加えて,心臓でTRPCがTRPC3/6ヘテロ4量体チャネルを形成する生理的意義についても考察したい.

連絡先 古江 秀昌(神経シグナル#5887)