所長招聘セミナー

日 時 2014年12月01日 16:00~17:00
場 所 生理研(明大寺) 1階 大会議室
演 者 八尾 寛 先生(東北大学生命科学研究科脳機能解析分野 教授)
演 題 触覚パターン時空間認知のオプトジェネティクス研究
要 旨

本セミナーは日本語で行われます。

単細胞緑藻類クラミドモナスの一種Chlamydomonas reinhardtiiに由来するチャネルロドプシン2(ChR2)は、微生物型ロドプシンファミリータンパク質の一員であり、460-480 nmの青色光に応答して陽イオンを透過させ、膜電位を制御することにより、光依存的な行動を制御していると考えられている。Karl Deisserothのグループおよびわれわれのグループは、それぞれ独立に、ChR2の遺伝子をニューロンに導入する実験を行い、光パルスとニューロン活動を同期させることに成功した。特定の神経細胞に光感受性を組み込み、光刺激によるネットワーク活動の制御を可能にするオプトジェネティクス(光遺伝学)により、脳・神経系の機能が高い時空間分解能により解析される。この技術を推進する目的で、ChR2遺伝子をthy1.2プロモーター制御下に発現するトランスジェニックラットを開発した。このラットの一系統においては、中枢神経系のさまざまなニューロンにおいて、ChR2が発現し、光刺激に応答し活動が惹起できた。たとえば、海馬においては、歯状回顆粒細胞、CA3錐体細胞、CA1錐体細胞などの主要な細胞を光刺激できた。また、網膜においては、神経節細胞特異的な発現が認められた。したがって、脳機能の生理・病態生理研究、視覚再建研究などへの応用が期待される。
脊髄後根神経節(DRG)や三叉神経節(TG)は、皮膚、筋肉、関節などの体性感覚受容に関わるニューロンの集合である。本ラットにおいて、触覚などの機械受容や深部感覚を掌る大型のDRG/TGニューロンにChR2が発現していることを確認した。しかし、痛覚、温度感覚などの侵害受容に関与する小型の後根神経節細胞には発現していなかった。また、メルケル小体やマイスナー小体などの皮膚の触覚受容器を構成している機械受容ニューロンの末梢神経終末にもChR2が分布していた。このラットの足裏に青色LEDの光を照射したところ、光に反応した足の動きが認められた。このラットの皮膚では、光が機械感覚受容器の神経終末で受け取られ、活動電位を発生し、脊髄、脳へと伝えられ、触覚などの知覚を引き起こしたことが示唆される。しかし、痛覚などの侵害感覚は引き起こされていない。本研究は、世界で初めて、皮膚で光を感知するラットの作製に成功したものである。
ラット口吻部に規則正しく配置されている頬ひげ(ウィスカ)の接触は、毛根において感知され、三叉神経→脳幹→視床を経て、反対側の大脳皮質一次感覚野へトポグラフィカルに情報が受け渡される。一次感覚野においては、ウィスカの2次元的な配列に対応した2次元的なバレル構造が形成されている(バレル野)。ウィスカの毛根に分布する機械受容神経叢にもChR2が発現していた。さまざまな時空間パターンの光をウィスカ配列に照射することにより、ウィスカへの様々な触覚入力が大脳皮質でどのような時空間的活動パターンを経て処理されているのかが明らかになると期待される.

連絡先 視覚情報処理研究部門、吉村由美子 yumikoy@nips.ac.jp