第1回 
脳磁場ニューロイメージング

抄録集

特別講演1


 視覚心理学の立場から展望した
           脳イメージング装置による脳研究の将来

江島義道(京都大学 人間・環境学研究科)


 心理学的研究と脳イメージング装置(MEG, fMRI、EEG など)による神経科学的研究の連携についての事例を紹介しながら、脳イメージン グ装置による脳研究の将来を、心理学の立場から展望したい。先ず色覚研究の例を取 り上げる。心理学では、色覚過程は錐体過程、反対色過程、空間対比過程および高次過程の4段階の階層過程と捉えている。他方、fMRIの研究では、色刺激に対する脳活動はV1〜V4、V8までの全ての段階にあらわれること、視覚第一野の波長特性は反対色的特性を示すことを明らかにしている。また、MEGの研究では、色刺激に対するMEG反応が2つのコンポーネントからなること、早期成分はV1近傍に、後期成分は、V4、V8近傍に信号源が存在することを明らかにしている。
 これら3方向からの研究を横断的に観る時、色覚機構の情報構造についてどのようなイメージが浮かぶだろうか。この分野では、今後どのような研究が求められるだろうか。これらについて私見を述べたい。

特別講演2


 磁気刺激および電気的磁気共鳴イメージングでみる
                    脳機能ダイナミックス

上野 照剛(東京大学 大学院医学系研究科)


 機能的MRIや脳磁図などの非侵襲脳機能計測法の進歩により、ヒト脳の機能局在性が明らかになりつつある。しかし、脳機能のダイナミクス、すなわち、ミリ秒での機能部位の変化や脳内ネットワーク相互の関連性をこれらの手法で調べるには多くの困難を伴う。我々は、脳神経の局所的磁気刺激による脳神経活動の制御、および、神経電流活動の電流分布イメージングを用いて、脳機能ダイナミックスを調べるイメージング法の構築を行っている。ここでは、脳の磁気刺激、および、電気的MRイメージングの原理と特徴について述べる。脳の磁気制御は8字コイルによりヒト大脳皮質を3-5mmの分解能で経頭蓋的に脳神経を刺激するものであり、時間的、空間的に制御しながら脳機能の反応の変化を調べることができる。
 電流分布MRイメージングは、従来の血液情報を用いる機能的MRIとは異なり、神経の電気活動に伴って生ずる電流源の分布を求めようとするものである。また、インピーダンスMRイメージングは、従来の電極を用いたインピーダンスCTとは異なり、磁気共鳴を用いて非侵襲的に体内の電気的インピーダンスのイメージングを得ようとするものである。

体性感覚1

 体性感覚誘発オン・オフ磁場反応


湯本真人 1-2)、齋藤 治 2)、金子 裕 2)、中原一彦 1)

1)東京大学医学部附属病院、2)国立精神・神経センター武蔵病院

 6名の健常者を対象とし、右示指末節に8点点字ピン(KGS社製Braille Cellを改変)が同時に突出(オン)および引入(オフ)する周期500msの反復刺激呈示時の誘発磁場反応を、Neuromag社製204Ch全頭型脳磁計により記録した。実験1:周期500ms中のオン、オフ期間をそれぞれ250msとして3000回加算した。N1on、P1on、N2on、P2onおよびN1off、P1off、N2off、P2offが得られ、N1on、N1off間およびP1on、P1off 間に振幅の有意差、N1on、N1offの推定電流双極子の方向に有意差を認めた。実験2:オン、オフ期間をそれぞれ10、20、40、60、80、100、150、250msとして各400回加算し、先行するオン、オフ期間変化によるオフ、オン反応の振幅変化を比較検討した。Surらによるサルを対象とした報告に矛盾しない結果がヒトで得られた。


 口唇部電気刺激誘発磁界の一次皮質反応

○永松謙一、中里信和*、隈部俊宏、畑中啓作**、菅野彰剛***、吉本高志

東北大学脳神経外科、広南病院脳神経外科*、(株)エレクタ**、広南病院療護センター***、

 目的:三叉神経刺激誘発磁界において、正中神経刺激N20mにあたる、一次皮質反応の報告はなかった。刺激・測定条件を検討し、これを検出したので報告する。 方法:対象は健常人11例。刺激強度を感覚閾値の9倍、刺激頻度を0.7Hzとし、下口唇に対し電気刺激を行い、全頭型脳磁計を用い誘発反応を記録した。 結果:刺激対側22半球中20半球で、潜時14.6±1.3 msに頂点潜時を持つ反応(N15m)を認めた。電流双極子は前上方を向き中心溝後壁に推定された。その位置は正中神経刺激誘発磁界の信号源位置と比較し、右半球で23.0±7.2mm、左半球で18.6±2.1mm下方に推定された。 考察:三叉神経刺激誘発磁界N15mは、潜時、電流双極子の位置・方向から、正中神経刺激誘発磁界N20mに相当する一次皮質反応である。


 指の一次体性感覚野の発達的変化に関する検討:タッピング刺激を用いた体性感覚誘発脳磁野の乳児例と成人例の比較


權藤健二郎(1)、飛松省三(2)、吉良龍太郎(1)、鳥巣浩幸(1)、原 寿郎(1)

(1)九州大学大学院医学研究院小児科、(2)同 脳神経病研究施設臨床神経生理

 乳児の体部位局在の発達的変化を検討した。対象は健常発達と判定された乳幼児10名(6 - 8生月)と健康なボランティア成人5名(31 - 37歳)である。成人も乳幼児と同様に抱水クロラール(30-50mg/kg) を用いて睡眠II-III段階に鎮静し母指と薬指の掌側をair-tapping装置を用いて刺激し加算平均した。脳磁界の測定は37チャンネル脳磁計を用いた。SEPにおけるN1に相当する反応(W1)に注目し、等価双極子電流源の三次元座標を母指、薬指刺激それぞれにおいて算出し2点間の距離を求めた。乳幼児10例のうちノイズが少ない5例(6 - 8生月)と成人例5例を解析の対象とした。拇指ー薬指間距離は乳児群で平均3.9±0.85cmであるのに対し成人群では平均2.0±0.51cmと有意に距離が短かった(P < 0.01)。これは発達に伴って皮質の機能の局在化・特殊化が生じた可能性があると考えられた。

聴 覚1

 純音刺激における中・長潜時聴覚誘発反応P50m・N100m信号源の比較


菅野彰剛[1,2]、中里信和[1]、永松謙一[3]、岩崎真樹[3]、畑中啓作[4]、村山伸樹[2]、吉本高志[3]

[1]広南病院東北療護センタ−、[2]熊本大学大学院自然科学研究科、[3]東北大学・医学部脳神経外科、[4](株)エレクタ

 聴覚誘発反応における中・長潜時成分の信号源に差があるか否かは明確には示されていなかった.われわれはヘルメット型脳磁計を用い,健常人24名を対象に,純音刺激聴覚誘発磁界を計測した.P50mおよびN100mの頂点潜時の信号源を電流双極子モデルにより推定した.信号源はいずれも側頭葉上面に推定され,前後,左右,上下の各軸方向すべてにおいて,有意な位置の差を認めなかった.従来は,聴覚皮質の前後軸方向での信号源の差が議論されていたが,本研究では,両者の明らかな差を認めなかった.P50m,N100mの信号源には,ともにある程度の拡がりを考慮しなければならず,両者の起源は同一か,あるいは多くを共有している可能性が示唆された.


 12歳の絶対音感保持者の脳磁場計測


○広瀬宏之、久保田雅也、榊原洋一(東京大学医学部小児科)、湯本真人(東京大学医学部附属病院検査部)、
榊原彩子(一音会ミュージックスクール講師)

 絶対音感保持者に様々なタスクを与え脳磁場計測を行なった。被験者は12歳男児、3歳から9年間ピアノを習っている。1000Hzの純音を聞かせる課題では、 100msec付近で両側の聴覚中枢近傍にdipoleが認められた。右側の方が反応は強 く、より前方に位置していた。8種類の純音(C4-C5)を聞かせて音名を当てさせ るlabelling課題では、100msec付近で両側の聴覚中枢近傍にdipoleが認められ、 200msec以降で視覚中枢と頭頂後頭連合野付近にdipoleが認められた。P300に関しては、白色雑音と純音(A4)のオドボール課題では、純音の標的刺激に対して明らかなP300を330msec付近に認め、両側の視覚中枢近傍にdipoleが認められた。 二つの純音(C4とE4)のオドボール課題では、P300の振幅は低く潜時も延長していた。スクリーンに様々な音符を提示して音を想起させる課題では、視覚中枢の他に頭頂後頭連合野付近にdipoleが認められた。絶対音感保持者の音処理過程では視覚中枢も関与している可能性が示唆された。


 先天性難聴を有する小児の聴覚誘発磁場


久保田雅也 1、広瀬宏之 1、榊原洋一 1、湯本真人 2

1 東京大学小児科、2 同検査部

 先天性サイトメガロウィルス感染症による難聴を呈する7才兄弟(双胎)の聴覚誘発磁場を記録したので報告する。症例1は両側、症例2は右側の高度難聴を認める。ABR(105dB)は症例1で両側、症例2で右側で無反応であった。両者とも普通学級に通学、症例1は言葉は出ないが他者の動作や口唇の動きを読みコミュニケ-ション可能、症例2の言語発達に遅滞はない。全頭型脳磁図測定装置(Neuromag)にて聴覚誘発磁場を求めると症例1では105dB,2kHz純音で左聴覚野に,105dB,1kHzおよび440Hz純音,白色雑音では聴覚野に活性はなく、左一次感覚野に長潜時で活性を認めた。症例2では聴覚野での反応は認めたが、一次感覚野での反応はなかった。高度難聴者において振動刺激で 一次感覚野、聴覚野の活性化の報告はあるが、純音で一次感覚野のみに反応を認めた報告はない。聴覚野-一次感覚野の発達上の改変が起こり、純音周波数成分に一次感覚野が反応した可能性がある。


 骨導超音波知覚時の脳活動計測


中川誠司*,阪口剛史**,西村忠己***,山口雅彦*,外池光雄*,細井裕司***,今泉 敏****,渡辺好章**

*電子技術総合研究所,**同志社大学,***奈良県立医科大学,****東京大学

 超音波であっても骨伝導で知覚できる.さらに,この骨導超音波は高度難聴者であっても知覚できる場合があることが知られている.我々は,骨導超音波を利用した補聴システムの構築を目的として,その知覚特性の研究を行ってきた.しかしながら,骨導超音波知覚の神経生理学的メカニズムには,依然として不明な点が数多く残されている. 我々は,誘発脳磁界計測(聴覚健常者および高度難聴者)および誘発電位(聴性脳幹反応,聴覚健常者)計測を行い,骨導超音波知覚のメカニズムの解明を試みた.その結果,聴覚健常者,高度難聴者に関わらず明瞭なN1m成分の出現が認められ,その等価電流双極子は聴覚野内に推定された.また,聴性脳幹反応の II〜V波の出現を認めた.

臨床応用1

 Mesial temporal lobe epilepsyにおけるMEGとEEGの比較検討


露口尚弘(1)、森野道晴(1)、服部英司(2)、蔦田強司(3)、下川原正博(4)、原 充弘(1)

大阪市立大学脳神経外科(1)、小児科(2)、老年科神経内科(3)、金沢工業大学先端電子技術応用研究所(4)

 MEGでは内側側頭葉てんかんMesial temporal lobe epilepsy(MTLE)における焦点の同定は困難とする意見がある。今回我々は臨床症状、持続脳波モニタリング、MRにてMTLEと診断した7例にたいし発作間歇期でのMEG、EEGにててんかん焦点の評価を行った。装置は160ch仰臥位全頭型脳磁計横河電機)を用い、同時に12chの脳波と心電図を記録した。脳磁はバンドパスフィルター3-200Hz、サンプリング周波数500Hzで測定した。7例のうち5例でMRの所見と一致して内側側頭葉に焦点を認めたが、内側だけでなく同側側頭葉全体にも焦点がもとまった。また内側側頭葉由来のてんかん波はMEGのみに認めEEGでは検出できない場合が多かった。逆にEEGにおけるてんかん波でMEGによりECDを求めると側頭葉内側には同定できない傾向にあった。側頭葉内側は脳表から深い位置にあるため頭皮脳波では検出困難なことが考えられる。またてんかん波自体の出力が小さいとMEGでも検出できない可能性がある。


 光刺激と脳磁図における光突発反応の位相差について

白石秀明(1) 芳村勝城(2) 渡辺裕貴(2) 八木和一(2)

(1)北海道大学医学部小児科 (2)国立療養所静岡東病院(てんかんセンター)

 <目的>間欠的光刺激における、頭皮上脳波の光突発反応(PPR)とMEG上の磁場変化を検討した。<症例・方法>11歳から25歳のてんかん症例で、症例1が特発性全般てんかん、症例2・3が症候性全般てんかん、症例4が症候性局在関連てんかんであった。全例においてGrass社製光刺激装置PS33 plusで脳波上、両側広汎性棘・徐波、多棘・徐波複合が出現し刺激終了後も少なくとも100msec以上反応が持続する、いわゆるclassic PPRが出現していた。脳磁計はBTi社製の74ch一次微分型SQUIDを用い、頭皮上脳波を同時記録した。IPSは赤色発光ダイオード(LED)より発生したものを光ファイバーを用いて患者の眼前のゴーグル型投光装置に送り刺激を行った。患者には眼球表面から、この装置の発光面までが約2cmとなるように装着し検査を施行した。<結果>MEG検査におけるLEDの刺激では症例2、3、4でclassic PPRが出現した。症例1ではLEDのIPSで、両側広汎性棘・徐波は出現するものの、光刺激終了後反応は持続しなかった。
各々の光刺激に対して出現した磁気棘の頂点における、光刺激からの位相差を求めると、症例2・3では種々の刺激頻度において、光刺激を繰り返すにしたがって位相差は漸増し、やがて刺激周期と全く無関係となっていった。一方、症例1と4では位相差はほぼ一定して推移していた。<まとめ>PPRの発現機構は、てんかん類型の違い、光突発反応の形態の違いによって異なることが示唆された。


 MEGでとらえた発作間欠期突発波の鏡像焦点


岩崎真樹、中里信和、菅野彰剛、畑中啓作、吉本高志

東北大学脳神経外科、広南病院脳神経外科、広南病院療護センター、エレクタ

 頭皮上脳波と脳磁図の同時計測にて発作間欠時突発活動における両側同期性棘波の半球間伝播をとらえた2てんかん症例を報告する。【症例1】27才女性の複雑部分発作症例。両側同期性の側頭部棘波を高頻度に認めた。信号源は左右側頭葉後方に推定され、活動のピークは全て右半球が左に対して平均15ms先行していた。【症例2】21才女性の全般性けいれん症例。両側独立もしくは同期性の中心側頭部棘波を高頻度に認めた。信号源は左右中心溝に推定され、同期性棘波においては左右半球の活動のピークに15〜40msの時間差を認めた。2例とも、左右半球の信号源における局在と電流方向は鏡像関係にあった。【結論】ピークの半球間時間差は発作間欠時突発波の鏡像焦点への伝播を示唆する所見と考えられた。脳磁図は両側同期性の突発波を高い時間および空間分解能で識別する上で有利である。


 持続性部分てんかんの症例における脳磁図所見


出店正隆,中村文裕

北海道大学医学部精神医学教室

 左手指の持続性けいれんが連続して数日から1週間続く持続性部分てんかん(EPC)の症例に対し,全頭型204チャンネル脳磁図システム(Neuromag社製)を用い,発作時脳磁図および脳波を記録した.脳波および脳磁図上,右前頭・頭頂部付近に棘波が認められ,推定された等価電流双極子は右中心後回の一部に比較的高密度に集積した.一般にEPCは前頭葉てんかんの一種と考えられて いるが,本症例においては,てんかん源性焦点は頭頂葉に存在する可能性が示唆された.


 後頭葉てんかんにおける発作症状の検討 ~Magnetoencephalographic study~

山田康一郎1,2) 白石秀明1) 渡辺裕貴1) 八木和一1) 滝川守国2)

1) 国立療養所静岡東病院(てんかんセンター) 2) 鹿児島大学医学部神経精神科

 視覚発作を有する10例の症候性後頭葉てんかん患者に対して脳波,脳磁図同時記録を施行し,脳磁図上の発作間歇時発射を解析して得られた単一等価電流双極子(single equivalent current dipole:以下ECD)の局在位置について検討した。ECDの局在位置と視覚発作症状との間に相関があり,後頭葉内側にECDが局在する症例では要素性幻視を,後頭葉外側に局在する症例では複雑性幻視を呈する傾向があった。この違いは後頭葉各部位の機能と関連していると思われ,後頭葉てんかんの診断上で視覚発作の内容吟味がてんかん焦点の局在位置を推定する際に有用であることが示唆された。また,視覚発作に続いておこる発作症状を調べることで発作波伝播の機序についても若干の考察を行った。

聴 覚2

 聴覚刺激間隔における1/fn ゆらぎのミスマッチフィールド(MMF)形成に及ぼす影響


原田 暢善 2、増田 正 1, 2、遠藤 博史 1, 2、中村 亨弥1、武田 常広 3,2

1通商産業省工業技術院 生命工学工業技術研究所、2科学技術振興事業団 戦略的基礎研究推進事業、
3東京大学大学院 新領域創成科学研究科

 ヒトが環境中の変動する刺激の中に存在する規則性を抽出する
能力が、脳内のどのような部位・機能に基盤を持つかについて明らかにしたいと考えた。ランダムに変動させた聴覚刺激間隔の中に規則性を増加させた時、すなわち、刺激間隔のゆらぎを1/f0ゆらぎ、1/f1ゆらぎ、1/f2ゆらぎ、1/f∞ゆらぎ(一定間隔)、の4条件で与えたときに、聴覚刺激により引き起こされるミスマッチフィールド(MMF)の形成がどのように変化するかについて検討した。低頻度刺激条件と高頻度刺激条件の差分から得られる波形の振幅の二乗平均の値を、各被験者、各条件ごと計算し、ゆらぎのべき乗で比較したところ、ゆらぎのべき乗の増加とともに振幅の二乗平均の値が有意に増加することが明らかになった。このことから、ゆらぎのべき乗が変化すること、すなわち規則性が変化することが、MMFの形成に影響を与えることが明らかになった。


 聴覚マスキング条件下の発声関連脳磁場

○軍司 敦子,宝珠山 稔,柿木 隆介

岡崎国立共同研究機構 生理学研究所 統合生理研究施設

 健常者を対象に,自分の声が聞こえないmasking条件下の発声関連脳磁場(vocali
zation related cortical fields:VRCF)と通常(control)のVRCFを記録し,VRCFを構成する運動成分と聴覚成分について検討した。発声後に出現した成分の振幅は,masking条件よりcontrolで有意に大きく(p<0.05),条件間の差分は発声開始後81.3 ± 20.5 msで頂点となる1M成分を示した。1M成分は音声を聴取した時に認められるauditory evoked magnetic fields (AEF)のM100成分に対する信号源と同様に聴覚野付近に推定されたことから,1Mが自分の声に対する反応であり,M100と同様の成分であると推察された。発声前のcontrol-masking条件間に有意差は無く,単純な発声の準備過程にはmaskingの影響は小さいと考えられた。


 日本語ピッチアクセントと音韻認知に関する一検討


林良子* **・今泉敏*・上野照剛*・森浩一**

*東京大学大学院医学系研究科 **国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所

 日本語ピッチアクセントが単語認知に果たす役割について、音韻処理過程と比較することで、脳磁図計測により検討した。プライムとして聴覚呈示されるなぞなぞ文の後に、2モーラ語の正答、アクセント型が不適切な答、音韻の不適切な答を呈示した場合について、N400電流双極子の潜時、モーメント、電流源推定部位を解析した。その結果、脳磁波形上では、3群で異なった波形が左右側頭部で観察された。N400成分では、音韻の間違った答でより多くの被験者から電流双極子を推定することができたものの、アクセント型不適切群と潜時、モーメントの有意な差異は見られなかった。電流源は、両群とも左右上側頭回、縁上回付近に推定された。これらの結果から、単語の意味的認知という観点では、アクセント型、音韻ともに等価の役割を果たしていると考えられるが、意味処理に至る過程には両者間に差異があることが示唆された。

体性感覚2

 脊髄誘発磁界測定の現状と将来展望


小森 博達、 川端 茂徳、 大久保 治修、 四宮 謙一

東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 脊椎脊髄神経外科学

 我々は、昨年より磁界計測による脊髄機能診断装置の開発を目標に研究を開始している。現在、動物実験において脊髄刺激脊髄誘発磁界、末梢神経刺激脊髄誘発磁界、脳刺激脊髄誘発磁界を測定し、磁界計測による脊髄障害部位診断の可能性、臨床生理学的な知見について検討を重ねている。また、ヒトの脊髄磁界測定にも着手し、条件付きではあるが脊髄磁界と考えられる磁界の測定に成功した。今研究会では、現在までのデータをもとに脊髄磁界測定の現状と解決すべき問題点について意見を交換するとともに、我々脊椎外科医の立場からみた脊髄磁界測定の将来性についてお話ししたい。


 正中神経刺激による短潜時皮質体性感覚誘発脳磁界成分と体性感覚誘発脳電位成分の対応


1,2)宝珠山 稔,2)柿木 隆介

1)名古屋大学医学部保健学科,2)生理学研究所統合生理研究施設

 【目的】正中神経刺激による短潜時体性感覚誘発脳磁界(SEF)と体性感覚脳電位(SEP)の対応する成分を明らかにした.【方法】正中神経刺激により対側半球よりSEF(37チャンネル)とSEP(Fz-Ai,C3-Ai,P3-Ai,P3-Fz)を同時記録した。1回毎の刺激により同定される1Mの頂点,2Mの頂点をそれぞれ時間0として脳波と共に加算平均し、得られた波形のSEP各成分の広がり(TD)を比較した。【結果】1Mでの加算ではSEPのN20-P20(P3-Ai,P3-Fz)のTDが小さくなり,2Mでの加算ではN30(Fz-Ai,P3-Fz)のTDが小さくなった.【考察及び結論】SEFの1Mと2MはSEPのN20-P20およびN30にそれぞれ対応する成分と考えられた.SEPのP25-N33に対応するSEF成分は認められず、P25-N30は1野起源のradial dipoleが発生源と考えられた。


 fMRIの結果から位置を固定してMEGダイポールを解く方法の検討


藤巻則夫、早川友恵、Matthew Nielsen、宮内哲

郵政省 通信総合研究所

 [はじめに] "ill-posed"であるMEGマルチダイポールの逆問題を解くため、 fMRIの情報を利用することを検討した。 [方法] 空間的に拡がるfMRI脳活動領域にどのようにダイポールを配置すべきかについて、シミュレーションで検討した。(1)ダイポール1つを模擬的に作成した脳磁界に対して位置固定の制約下でフィットし、磁場がよく合うための位置許容範囲を求めた。(2) 2つのダイポールをフィットし、互いの影響(crosstalk)が小さくなるための分離許容範囲を求めた。また(1)と(2)の結果を使い、内語課題の実験データ一例を解いた。[結果と考察] 最小の位置許容範囲は磁場correlation>85%の条件下で2 cm、最大の分離許容範囲はcrosstalk<70%の条件下で接線方向に4 cmであった。特に後者は、磁場のフィッティング特性に由来する空間的な異方性が強かった。これらの許容値を元に実測データを解いたところ、11個の有意なダイポール群が抽出できた。これらは左上側頭後部(潜時203-210 ms)と左下前頭部(247-272 msおよび416-427 ms)の内語処理部位の活動を含んでおり妥当と思われる。


 ウェーブレット変換を用いたMEGノイズ除去法とその適用


〇小野 弓絵[1],石山 敦士[1],外池 光雄[2],山口 雅彦[2],葛西 直子[2]

1.早稲田大学、2.電子技術総合研究所

 昨今、MEG計測は脳のより高次の機能に応用されようとしている。このような高次機能に対する誘発脳磁界反応は、その大きさも一次応答などと比べると小さいために、高いS/Nでの測定が難しい。また、少ない加算平均回数でMEG測定を行うことは、被験者の頭の動きの影響を小さくすることができ推定精度の向上につながる。これらの理由から、MEGデータのS/Nを改善する目的で、ウェーブレット変換を用いた時間-周波数解析によるノイズ除去法を開発した。従来のフーリエ解析と比べ、ウェーブレット解析は周波数情報と共に時間情報が得られるため、時間軸に対して局在的なMEG信号成分を抽出する手段として有利である。本ノイズ除去法を様々なS/Nで測定された聴覚MEGに適用してその有用性を検証し、さらに被験者の慣れの影響が大きくノイズを多く含んでしまう嗅覚MEGに対してもこれを適用して精度の高い信号源推定をめざした。

臨床応用2

 全脳型脳磁計を用いたてんかん解析時の工夫


橋詰 顕、栗栖 薫、有田和徳、花谷亮典、飯田幸治

広島大学医学部脳神経外科

てんかん患者の脳磁測定を行う場合、全脳型脳磁計では脳磁図の情報が膨大で あり得られた情報を効率よく解析する方法が望まれる。Neuromag社製204ch脳磁計では204個の波形が得られるが、同時に測定した脳波・心電図・眼電図を参照しながらてんかん波のdipole推定を限られたモニター上で検討していくことは困難である。Neuromag 社はEpilepsy Spike Search V2.1というprogramを提供しているが、脳波の表示が十分でなく、あきらかな棘波以外の解析は困難である。そこで我々は脳磁計のセンサーを脳波の10-20法に準ずる形で19個に区分し、それぞれのroot mean square、脳波のroot mean square、心電図と眼電図を1画面に表示することでてんかん波形を解析することを試みた。この方法では脳波の棘波のみでなく棘波に先行する脳波の変化も反映しており、簡便にてんかん波形を捉えることができ有用であると思われた。


 単一電流双極子法によるてんかん焦点推定の有用性と問題点


大石 誠、亀山茂樹

国立療養所西新潟中央病院てんかんセンター 脳神経外科

MEGによる非侵襲的なてんかん焦点の推定が期待されているが,まだ問題点も多い.当院の難治性てんかんに対する外科治療では,慢性硬膜下記録により同定された焦点に対し,できる限り限局した切除を行って来た.2000年4月のMEG測定開始後8例の難治性てんかん症例(新皮質焦点7例,内側側頭葉てんかん1例)に手術が施行された.これらのMEG推定焦点と硬膜下記録・手術関連所見を合わせ,MEGの有用性と問題点を検討した.MEG測定はNeuromag 204で行い,発作間欠時棘波の単一電流双極子により焦点推定した.6例でMEG推定焦点と硬膜下記録,手術関連所見は一致した.前頭葉底部・大脳間裂内の焦点(SMA)例はMEGの弱点と思われた.解析上はback groundとfilter処理が問題となり,GOF値やdipole momentの評価も重要であった.手術症例を通してMEGによる推定焦点の信頼性を確認したが,解析においては一定の基準を作成すべき点も多い.


 持続部分てんかんの病態生理: 脳磁図による検討


飛松省三1, 大石文芽2, 重藤寛史1,2 , 谷脇考恭1, 森岡隆人3, 吉良潤一2

九州大学大学院医学研究院脳神経病研究施設,臨床神経生理1, 神経内科2, 脳外科3

持続部分てんかん(EPC)はてんかん焦点が1次運動野にあるとされる稀な疾患である. 私共はEPCの病態生理を脳波, 脳磁図(MEG), jerk-locked back averaging (JBA)法で検討した. 症例1は69歳,男. 右上肢のけいれんが持続し, 脳波ではC3を中心とする棘波を認めた. 棘波のdipoleは左運動野から前運動野にある皮質異形成の周辺に散在した. MEGのJBAにより筋放電に関連した棘波のdipoleを推定すると術中皮質脳波で認めた棘波の焦点とほぼ一致した. 症例2は32歳, 女. 右下肢の律動性けいれんを認めた. 脳波は正常であったが, 脳波のJBAにより筋放電に先行する棘波を認めた. C2付近に陰性棘波, C1付近に陽性棘波があり, 接線方向のdipoleの存在が疑われた. MEGのJBAにより左下肢運動野に限局する接線方向のdipoleが推定され, 脳波所見と一致した. MEGはEPCの棘波の電流源推定に優れているが, JBA法を行うことによりさらにその精度が向上し, 病態の解明に有用となる.


 てんかん棘波のdipole推定結果に及ぼす要因についての検討


芳村勝城、渡辺裕貴、白石秀明*、八木和一

国立療養所静岡東病院(てんかんセンター)、北海道大学医学部小児科*

 てんかん患者では、大脳の背景活動の乱れが大きく、てんかん棘波のdipole解析はその影響を強く受ける。このため、背景活動をどのようにして除去するかがdipole推定の結果の良し悪しを決めるもっとも重要な要因である。MEGを設置した病院が増えてきたことから、MEGによるてんかん焦点の推定もこれからより多くの施設で行われるようになるであろう。そこで、背景活動の除去、または背景活動と棘波との分離の問題は、われわれの施設のみでなく、全施設での共通の問題として、今後、重要になると考えられる。そこで、今回、われわれは、てんかん棘波のdipole推定を行う前の適切な前処理法について考察してみた。まず、加算平均法について、側頭葉てんかん患者の海馬内電極から記録した棘波と、側頭部のMEG棘波についてそれぞれを基準として加算をおこない、改善するかを調べた。その結果、海馬棘波を基準にして得られたMEG加算波形のdipole推定結果は良好であるが、頭蓋外のMEGを基準にして加算を行うと、海馬棘波はつぶれてしまい、推定結果も海馬外となった。二番目に帯域通過フィルターによる背景活動の除去について検討した。その結果、1-100Hz通過では、波形のゆがみは極めて少ないが、dipoleの推定結果は患者により差があり、明らかに徐波の混入が多い患者ではdipoleのばらつきが大きくなってしまうことがあった。4-100Hz通過ではやや波形のゆがみがみられるが、概してdipoleの推定結果は臨床所見と符合する良好な結果が得られた。ただし、義歯や体動による巨大なアーチファクトが重畳する特殊な場合ではdipoleはばらばらになり結果はよくなかった。さらに15-100Hz通過では、波形はゆがみが大きく棘波も低振幅となってしまうことが顕著であった。最後のフィルターは、大きなアーチファクトに対して、dipole分布のばらつきは小さくなったものの、一般にモーメントがかなり小さくなり、位置も頭皮下の浅い位置に推定され、臨床的な利用に耐えないと思われた。


 脳磁図の臨床応用の試みー-側頭葉病変と残存神経機能評価について-

鎌田恭輔1、喬 梵1、竹内文也2、栗城真也2、原田達夫1、北川道生1、宝金清博1・岩崎喜信1、三森研自3

1 北海道大学 医学部 脳神経外科 ,2 北海道大学 電子科学研究所 ,3 北海道脳神経外科記念病院

 脳磁図は限局した脳皮質活動を解析することが可能であるため、左右側頭葉機能を分離して観察することが可能である。今回我々は側頭葉病変による脳の損傷程度と脳磁図による聴皮質機能の評価について検討したので報告する。対象は側頭葉後半部の脳梗塞患者13例である。1000 Hz純音刺激による聴覚誘発脳磁界(AEF)を通常より長い2.5 secの潜時まで計測した。同様の刺激による機能MRIもあわせて施行した。失語の重症例ではAEFおよびfMRIによる反応は全く認めなかった。広範な虚血病巣が出現しトいるにも関わらず、劇的な症状の改善を認めた2症例では、左上側頭領域にAEF信号が局在していた。また、患側では長潜時の(1 sec以上)の AEF応答を認め、障害半球に特異的な病的反応と考えられた。


 SAM解析による速波発生源とてんかん源性領域との関連の検討


二宮宏智、加藤天美、平田雅之、新居康夫、久村英嗣、平野俊一朗、谷口理章、今井克美*、吉峰俊樹

大阪大学 脳神経外科、小児科*

 てんかん患者において、γ帯域の連続する速波は、皮質脳波において、seizure onset zoneやその周囲に高頻度に観察される。そこで、MEGのγ帯域の連続する速波の発生源と、てんかん源性領域との関連を検討した。症例は、5例(海馬硬化をともなう内側型側頭葉てんかん2例、海馬に腫瘍のあった側頭葉てんかん1例、外側型側頭葉てんかん1例、外傷性の前頭葉てんかん1例)。そのうちの3例で は、γ帯域の連続する速波は、発作時に観察された。これをSAM解析法にて、その発生源を求めた。器質性変化のある4例は、その周囲から発生し、外側型側頭葉てんかんでは、側頭葉外側にその発生源がもとまった。また、手術の行われた2症例では、皮質脳波によりseizure onset zoneと同定された部位に、その発生源はほぼ局在した。MEGのγ帯域の速波の発生源は、てんかん源性領域との関連が高いと思われた。

味覚・嗅覚

 嗅覚に対する非侵襲計測と脳内の嗅覚神経路


外池光雄*、山口雅彦*、浜田隆史*、瀬尾 律**、嘉悦 勲***、肥塚泉****

*電総研大阪LERC、**瀬尾耳鼻咽喉科院、***近畿大理工学部、****聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科

 これまでのヒトの嗅覚に関する中枢研究は、他の感覚神経研究に比べて遅れており,脳内の嗅覚野、並びに嗅覚神経路は未だ、充分に明らかにされていない。そこで、筆者らは、人間に対する種々の非侵襲的計測法に先駆けて取組み、におい刺激法の開発・検討をはじめ、脳波、脳磁図、fMRI等、異なる刺激手法や種々の計測法を用いた研究を多面的に実施してきた。そこで、本発表ではこれらの研究結果を分析して、現在の時点での総括を行うとともに、他の研究者のデータ結果とも比較検討しながら、人間の嗅覚野、並びに脳内嗅覚神経路について考察する。


 ニオイ刺激によるヒトの脳磁図の周波数分析


○白石君男,毛利 毅,加藤寿彦,原田博文,周防屋祐司,力丸文秀

福岡大学医学部耳鼻咽喉科学教室),柿木隆介(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)

 ヒトにニオイ刺激と無臭刺激を与えたときの脳磁図を記録し、それらの信号を高速フーリエ変換によって解析して、ヒトの脳活動がどのように変動するかを検討した。対象は右利きの嗅覚正常者9例とした。方法はテフロンチューブを右鼻腔に約1cm挿入し吸気時に刺激を提示した。臭素にはアミルアセテートを用い、無臭刺激は窒素ガスを用いた。刺激圧力は0.05mPa、刺激時間1秒とし、無臭刺激とニオイ刺激はそれぞれ50%の頻度でランダムに、3〜5呼吸に1回の割合で30回ずつ与えた。チャンネル毎に刺激開始後3.93秒間の脳磁図を解析し、θ波、α1波、α2波、β波および1Hz毎のスペクトル密度をチャンネル別に算出した。その結果,周波数によって無刺激と無臭刺激,無刺激とニオイ刺激などの検討で,反応の様相が異なっていた。これらの変動は,ニオイの認知や,覚醒レベルの上昇,注意力の集中,体性感覚などが関与していると考えられた。


 刺激強度が異なる味刺激に対する味覚一次野の磁場応答

斉藤幸子1、小早川達1、後藤なおみ1、小川尚2

1通産省工業技術院・生命工学工業技術研究所、2熊本大学・医学部

 筆者らは脳磁場計測によって、人間の第一次味覚野が大脳の頭頂弁蓋部の内側と島への移行部(Area G)であることを報告した。今回は刺激強度が異なる味刺激によるArea Gの活動の違いを調べた。ここでいう刺激強度は、物理的濃度と心理的強度を含むものとする。被験者8人を対象に、0.1、0.3、1 M NaClに対する味覚誘発磁場を高速味覚刺激装置と64chホールヘッド脳磁場計を用いて計測した。0.03M NaClについてもこのうち6人が参加した。データ解析の結果、Area Gが確認された実験において、刺激開始から味覚誘発磁場が生じ始めるまでの潜時は濃度によって変わるとはいえなかった。一方、Area Gに推定されたダイポールの大きさは物理的濃度と有意な相関を持ち、濃度と共に増大する傾向を示した。もう一つの刺激強度である心理的強度と、物理的濃度およびダイポールの大きさの関係についても検討した。


 脳磁場計測と機能的核磁気共鳴画像法による味覚関連皮質(2)

小早川 達1、綾部 早穂2、山内 康司1、溝口 千恵1、斉藤 幸子1、小川 尚3

1 生命工学工業技術研究所、2 筑波大学心理学系、3 熊本大学医学部

 前回の発表においては,順応をさせずに数十秒の味刺激を与え続ける刺激法を開発し, fMRIを用いた味刺激による脳血流の変化の計測を行い,その実験の報告を行った.今回は被験者数を12人に増やし,SPM (statistical parametric mapping) を用いて解析を行った.この結果,島皮質,前頭弁蓋部,中心後回,角回,中前頭回などに活動が見られ,従来のMEGの短潜時,長潜時において推定された結果とよく一致していた. 脳血流の変化が見られた部位の中で,従来の脳磁計を用いた味覚実験で短潜時に推定されるArea G (頭頂弁蓋部と島皮質の移行部)の活動が観測される頻度は全体の約20%であった.また,この部位は1回の実験で得られる画像データを用いて統計処理を行った場合より,3回の実験で得られる画像データを用いた場合に,より高い頻度で活動を見ることができた.この実験結果はArea Gが他の味覚関連部位と比較した場合,そのMR信号のS/N比が低いことを示唆していると思われる.

高次機能1

 感覚応答を伴わないヒトの認識関連磁場応答の観察

吉田秀樹[1,2] and Claudia D. Tesche[1,3]

[1] Low Temperature Laboratory, Helsinki University of Technology,PO Box 2200, FIN-02015 HUT, FINLAND
[2] 東和大学工学部電気工学科

 例えば聴性情報処理は、呈示音の特徴抽出処理(感覚応答)と、高次の認識関連処理に大別される。両情報処理過程は、殆ど同時に処理が実現されると共に、空間的にも一部重なり合っていることが指摘される。多チャンネル化した脳磁計が、単一ダイポールでは説明の難しい、複雑で緻密な磁場空間分布情報を提供する可能性は予想に難く無い。我々の試みは、心理実験的手法により認識処理を感覚応答から分離し観察することにあった。着目した部位は、音響識別に関わりが深いとされる右側の側頭葉上面であり、静寂時であっても磁場応答が観察された。


 MEGによる記憶想起の研究


○嘉悦 勲*、須谷 康一*、内田 熊男**、外池 光雄***、山口 雅彦***、岩木 直***

*近畿大学大学院総合理工学研究科,**近畿大学理工学部原子炉工学科,
***電子技術総合研究所 大阪ライフエレクトロニクス研究センター

 記憶を探索して異種の記憶を結合する創造活動では、前頭葉と側頭葉の相互作用が重要と思われる。暗算のような意志的想起では前頭葉が側頭葉を賦活して記憶を想起し、ルールと照合して合目的性を判断しつつ、目的を達するまで両者間のフィードバック往復が行われると考えられる。無意志的想起では、コンセプトやアイデアが浮ぶ直感想起が重要であり、前頭葉が過去に賦課した未解決の課題を、無意識下で側頭葉が継続して探索した結果と推察される。本研究では、暗算のようにルールやカテゴリーの規制度が強い照合想起的タスクと、想起の自由度の高い連想想起タスクを比較して、前者では脳活動に伴うダイポールが皮質内空間の限定された領域に分布するのに対し、後者では広域に不連続に分散して現われることを認めた。連想想起は意志的であるが前頭葉の合目的制御に束縛されないので、カテゴリーの多様さのため様々の中枢を経過する分散分布を示すと解釈される。本研究ではθ波に着目したが、θ波は前頭葉優位の意志的想起活動の指標となる脳磁波と思われ、無意志的想起については、δ波のような低周波数脳磁波を解明する必要があろう。

逆問題・信号解析2

 被験者間平均波形計算のための頭部標準位置への変換------ 頭部位置ズレによる脳磁界計測誤差と頭部標準位置への変換による誤差

今田 俊明

日本電信電話(株)コミュニケーション科学基礎研究所 RWCP マルチモーダル機能NTT研究室


 脳磁界計測の各セッションにおける被験者の頭部(脳)と磁界センサとの位置 関係が一定であることは少なく,頭部座標系自体に数mm,数度の違いが生じる.まず,これまでのNeuromag-122を用いた実験から,33名の被験者の頭部の平均位置r,標準偏差σを求める.頭部が平均位置から1σ,2σずれた時の計測磁界を平均位置の時と比較すると,goodness-of-fitが75-96%となり,かなり誤差が生じることが分かる.一方,頭部が平均位置から1σ,2σずれた時の計測磁界を,頭部が平均位置にあるとした時の磁界値に変換した場合,そのgoodness-of-fitは99-100%となり,平均位置への変換が効果があることが分かる.この変換を用いて,全被験者の頭部位置を標準位置にすることにより,被験者間のGrand Mean波形を計算でき,被験者間に渡る全体的な傾向を波形上で比較することがある程度可能となる.


 脳内の離れた部位間での脳磁シグナル協調活動検出の試み 第2報


河津省司(1,2,6)、中村昭範(1)、右代谷昇(3)、濱崎淳洋(4)、堀部賢太郎(5)、山田孝子(5)、加藤隆司(1)、伊藤健吾(1)

(1)長寿医療研究センター 生体機能研究部 ,(2)名古屋大学医学部放射線科,(3)和歌山工業高等専門学校 
(4)京都学園大学 経済学部 ,(5)国立療養所中部病院 神経内科,(6)トヨタ記念病院 放射線科

 我々は脳内の離れた部位での協調活動(Synchronization)をMEGを用いて検出する試みを行っているので報告する。MEGデータに対して脳内のVoxcelでの仮想的電流VectorをMFT(Magnetic Field Tomography)を用いて時系列データを構成した。これに対し、最近EEGを用いRodriguez(1)らが報告しているような、時間周波数解析法を用いた解析法による処理を行った。注目する周波数成分に関してLong distance synchronizationと思われる現象を捉えつつあると考えている。MFTによる仮想的電流Vector構成の部分に理論的、意味論的に未知な要素が考えられるものの、MEGデータでの位置情報の精度はEEGに比べて圧倒的に有利であると考えられる。さらにMRIの解剖学的位置情報との coregirtrationとnormalizationを適用したデータベース化と統計学的手法の導入も検討している。
(1)Rodriguez E et al. (1999) Perception's shadow: long-distance synchronization of human brain activity. Nature 397: 430-433


 脳機能解析統合ソフト開発の試み


中村昭範(1),河津省司(1),右代谷昇(2), 濱崎淳洋(3),山田孝子(4),堀部賢太郎(4),文堂昌彦(1),
加知輝彦(4),加藤隆司(1),伊藤健吾(1)

(1)長寿医療研究センター生体機能研究部 ,(2)和歌山工業高等専門学校,(3)京都学園大学経済学部,(4)国立中部病院神経内科

 高次脳機能活動の解析を従来の双極子モデルのみで行うのは困難が多いが、 近年は空間フィルター法やSPM-SAM等の新しい分析法を用いたり、PETやfMRI等の他のモダリティを併用したりすることによって道が広がりつつある。 これらの方法は魅力的ではあるが、1)高額なソフトウエアパッケージ、あるいはMEGそのものを購入しないと手に入らない。2)自前で作って使いこなすには高度の数学的知識を必要とする。3)PETやfMRIが必要。等の問題があり、適用す るにあたってはハードルが高い。そこで、PC上で動き(安価)、WindowsベースのGUIで扱え(簡単)、恣意の入りにくいデータ排出(客観性)ができるソフトの統合パッケージ開発を試みている。開発環境はMathematica, Matlab, C言語及びvisual basicで、目標は以下の通りである。データ入力は、sensor layout, headshape, MEG data等をASCII fileとして受け取る。分析は、空間フィルター法を用いてメッシュ状に分割されたvirtual sensor上でtopographicalに行われ、FFT, coherence, synchronisity等のevent-related な変化を捉えることができる。結果は個々人のMRI上にoverlayできるが、標準脳座標に変換して投影することも可能で、これにより個人間の共通項や相違点を明らかにしたり、PETやfMRIの報告と比較することができる。これらは開発途上であるが、これまでにできている部分について紹介する。

視 覚

 両眼立体視時の誘発脳磁場に対する注意の影響

大脇崇史 武田常広

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻,科学技術振興事業団 戦略的基礎研究推進事業

 random-dot stereogram(RDS)を用いて両眼視差刺激を被験者に提示すると,潜 時150msから400msにピークを持つ誘発脳磁場応答が生じる.しかし,この応答が被験者の奥行き知覚とどのような関係があるかは明らかではない.そこで本研究では,被験者に対して奥行き知覚に関連した注意課題を課し,被験者の注意状態が脳磁場応答に及ぼす影響を調べた.提示したRDSは,一様な背景から正方形が手前に浮かんで見えるものとし,提示する位置2種類,奥行き2種類それぞれを組み合わせて合計4種類のRDSを用いた.注意の条件は,(1)位置に注意する,(2)奥行きに注意する,(3)何も注意しない(コントロール)の3種類とした.その結果,条件(1),(2)では条件(3)に比べて脳磁場応答の強度が増大する傾向があり,特に視差が小さい場合に増大の度合いが大きいことがわかった. 条件(1),(2)それぞれの脳磁場応答の間には明瞭な差はなかった.


 視覚領野における色彩情報処理特性の差異


○芝崎俊幸1・大谷芳夫2・岡村昇一3・吉田佳一3・外山敬介4・江島義道5

1京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 2京都工芸繊維大学 工芸学部
3島津製作所 基盤技術研究所 4島津製作所 5京都大学大学院 人間・環境学研究科

 ヒトの大脳視覚領野における色彩情報処理過程を明らかにするために、等輝度赤−緑正弦波刺激に対する脳磁応答を、刺激の色コントラスト、提示時間、空間周波数の関数として測定した。その結果、潜時100-140msの初期応答と140-200msの後期応答が得られた。初期・後期成分について単一電源推定法によって得られた電流源は異なっており、前者は第一次視覚野近傍に、後者はその前頭腹側寄りに推定された。各応答の大きさおよび潜時は異なる刺激依存性を示し、初期応答は後期応答に比べ、応答の大きさに関して、コントラスト依存性が大きく、時間加算効率が高く、空間周波数選択性が強いことが明らかとなった。また潜時に関しては、初期応答のコントラスト・提示時間・周波数依存性がいずれも後期応答よりも小さいことが示された。以上の結果は、各応答に関与する視覚領野における色彩情報処理特性の差異を示すものである。


 睡眠中のフラッシュ視覚誘発脳磁場

大草知裕、柿木隆介、宝珠山稔、王麗紅

生理学研究所統合生理研究施設

 【目的】睡眠中の視覚情報処理活動を明らかにするために、閃光刺激に対する視覚誘発脳磁場(VEF)を覚醒時および睡眠時に記録し、その特性を比較した。【方法】10名の健常被験者に0.5Hzの頻度で閃光刺激を与え、覚醒時と睡眠時のVEFを後頭部から記録した。同時記録の脳波で睡眠深度を確認し、各被験者について覚醒時および睡眠国際分類の stage 1と stage 2 におけるVEFを記録した。【結果】覚醒時の波形は個人差が大きかったが、共通した成分として1M (50ms), 2M (84ms), 3M (130ms) の3成分が認められた。睡眠時 (stage 1およびstage 2) において1Mは振幅減少と潜時遅延、2Mは振幅増大と潜時遅延、3Mは消失という変化を示した。【考察】これまでに睡眠中の体性感覚や聴覚における誘発脳磁場の変化が報告されている。今回の結果は、視覚においても覚醒時と睡眠時では刺激に対する脳内の反応機構に差異があることを示唆している。


 GO/NOGO反応選択課題実行中に認められたposterior parietal cortexの活動


柴田 忠彦, Andreas A. Ioannides

理化学研究所 脳科学総合研究センター 認知脳科学研究グループ 脳機能> ダイナミクス研究チーム

 近年posterior parietal cortex (PPC)が高次運動関連中枢のひとつであり、特に空間情報処理との関連が動物実験等から示唆されているが、ヒトでの報告は少ない。空間選択とPPCの関連を調べるために、視覚刺激を用いGO条件時の反応指を左右から選択するGO/NOGO反応選択課題実行中の脳磁図を記録し(6被験者)、Minimum Norm Least squares法(CURRY4)を用いて解析を行った。その結果、central sulcus周辺の信号源に加えて、両側のsuperior parietal lobule (SPL)付近に信号源が推定され、その強度は同側指の運動反応時よりも対側指の運動反応時に大きな活動を示し、両側指の運動時には両側SPLが大きな活動を示した。これより、ヒトにおいてPPCが視空間選択課題における空間選択に関与していることが示唆された。

高次機能2

 日本語の文章理解時におけるMEG応答


中島利崇 砂盃尚子 竹内文也 栗城眞也

北海道大学電子科学研究所

 日本語は、文章の述語のみを変える事によって、文法や意味の整合性を操作できる性質を持つ言語である。文章の文法理解、意味理解時の脳活動の差異を、204ch全頭型磁束計を用いて観察した。刺激には、この日本語の性質を用い、同一の文章で述語(動詞)のみを替えて、3種類の文章(文法も意味も正しい200文、文法が間違っている100文、意味が間違っている100文)を作成した。被験者は右利きの健常者で、与えられた刺激の文章が正しいかどうかを判断した。各文章に対して測定したMEG反応を、種類別に加算平均した。意味が間違っている文章に対し、潜時380〜470msにおいて特徴的な活動が観察され、N400の成分と推測された。一方、文法が間違っている文章に対する脳活動には、特徴的な活動が観察されなかった。


 視覚/聴覚オドボール課題に関連する脳内神経活動の可視化


岩木 直*, 平田 直也* **, 外池 光雄*, 山口 雅彦*

*電子技術総合研究所 大阪ライフエレクトロニクス研究センター **近畿大学 理工学部

 視聴覚における新奇刺激の検出処理に関して,これまでオドボール課題を用いた多くの研究が行われており,刺激呈示後300ms前後でP300と呼ばれる特徴的な成分が観測されることがよく知られている.しかしながら,この成分に対応する脳内活動分布の複雑さから,従来の少数個の電流双極子による解析ではその詳細を明らかにすることは非常に困難で,脳内の神経活動のダイナミクスは未だ明らかにされていない.本研究では,高次機能に対応する複雑な脳活動を,MEG計測を用いて,一組の測定条件間における活動の差として視覚化する方法を提案し,これを用いて視覚および聴覚各モダリティにおける新奇刺激検出に関わる複雑な脳内神経活動分布の可視化を試みた.この結果,新奇刺激の検出には,潜時300 ms前後における,刺激入力モダリティ依存/非依存の複数の脳内部位における神経活動が関与していることを示した.