頭蓋内病変症例における体性感覚誘発磁界の信号源偏位の評価

 

永松謙一,中里信和,井上 敬,大友 智,菅野彰剛*,畑中啓作**,

隈部俊宏,嘉山孝正***,吉本高志

東北大学医学部脳神経外科,広南病院療護センター*,エレクタ(株)**,山形

大学医学部脳神経外科***


頭蓋内病変を有する症例でMEGにて脳機能局在を調べると,患側では健側に比べ信号源位置が偏位する場合がある.その原因としては,脳機能局在の可塑性による可能性と,圧排病変による移動の可能性の両面からの評価が必要である.われわれがこれまで経験した症例を提示し考察する.

 症例1:50才女性.小児期脳損傷による上肢麻痺からの回復例.生後1か月時に発熱後,右半身麻痺が出現したが放置.成人となった現在は,上肢に強い右半身の脱力と知覚鈍麻を認める.今回,偶然CTにて左前頭葉から頭頂葉にかけての孔脳症を認めたため精査となった.正中神経刺激による体性感覚誘発磁界(SEF)では,患側半球反応の信号は微弱でかつ潜時の延長を認めた.患側の信号源位置は,病変を避けるように上内側方向に偏位していた.

 症例2:50才男性.脳悪性リンパ腫.左下肢の脱力と軽度知覚低下にて発症.MRIにて右前頭頭葉ー頂葉境界部の半球間裂寄りに浸潤性の脳内腫瘍病変を認めた.後脛骨神経刺激SEFでは患側半球反応の振幅減弱と潜時延長を認めた.信号源位置は通常の下肢領域よりも外側よりで手の領域に近接して推定されたが,腫瘍による圧排所見は軽度であった.

 症例3:68才男性.右前頭葉神経膠腫.術中覚醒下に脳表電気刺激機能マッピングを行い,顔面の運動・感覚野を切除した.術後一過性の強い左半身麻痺が出現したが,その回復過程で正中神経刺激SEFを計測したところ,その信号源は健側に比べて大きく上内側方に偏位した.

 いずれの3症例も圧排病変のみでは機能局在の偏位を説明できず,機能局在可塑性の存在を示唆する.