公開シンポ in KANSAI 講演QA集

川人光男先生

先日、海外のニュースで、夢の映像化の研究を知りました。現在の日本の技術でも、この様なことは可能ですか。また実用化するとしたら、いつ頃でしょうか。
残念ながら、未だ、夢の映像化そのものは実現されていません。夢ではありませんが、ニュースで取り上げられた海外の研究でも、厳密には、脳情報を解読して映像を再構成したとはいえないのかもしれません(複数の候補となる映像から少数を選んでいるだけです)。日本では、ATRの神谷之康さん(脳プロ・課題A)が長年この研究を続けており、現在、非常に進んできています。結果については今の時点でお話しできませんが、近いうちに公表できると期待しています。
脳の表面付近からは、脳の情報をどの程度読み取れるのでしょうか。今後はさらに詳しく読み取れるようになるのでしょうか。(ロボットハンドの操作以外で現在、ECoG(低侵襲BMI)でできることは何でしょうか。)また手術が必要な侵襲BMIと、手術の必要のない非侵襲BMIの、それぞれの利点や限界について教えてください。
これまでは、侵襲型は非侵襲型より性能が良いとされていましたが、最近の脳プロなどの研究で、脳内の電流を推定することによって、非侵襲型でも侵襲型より性能が良くなる場合があることも分かってきました。また脳プロの成果として、大脳皮質表面に電極を置くECoGで、大脳の深さ3ミリメートルほどの活動も推定できることが分かってきました。したがって、各方式の限界はいまのところ研究課題で本当のところは分かりません。ただし、非侵襲型>低侵襲型>侵襲型の順にユーザーに優しいのですが、一方で、実用化されているBMIは人工内耳、脳深部刺激など侵襲型であるということは言えます。
“MRI信号(脳血流信号)”から、“神経信号”のデコーディングをする方法について、もう少し詳しく教えてください。
fMRIで脳の活動がミリメートル程度、ボクセル数にして数千個観測できます。この多次元のデータを、解読したい脳情報、たとえば画像、運動、認知情報と組にします。脳活動データから脳情報へのマッピングを、機械学習(デコーディング)の手法で対応づけると、脳活動データが与えられたとき、それに対応する情報が読めるようになります。
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田中啓治先生

視覚刺激に対しては、同じ物体カテゴリに連合した異なる図形特徴に反応する神経細胞が集まっているとのことですが、“視覚”以外、例えば“味覚”や“嗅覚”についても同様のことが言えるのでしょうか。
味覚や嗅覚の刺激は視覚刺激と異なり化学物質です。その物質が似た構造であれば、私たちの脳では近い感覚を得ると考えられます。一方、視覚刺激は光の刺激で、それが形作る物理的な特徴と私たちにとって意味をもつカテゴリーとの間には大きな隔たりがありますが、入力刺激に対して脳が多くの処理を行うことで似た意味を持つ刺激を関連づけています。味覚や嗅覚に関した高次の処理についての研究については、視覚研究ほど進んでいないと思います。
先生のご発表で「各細胞について、17個の物体カテゴリーのそれぞれ50個の刺激映像で構成される850枚の物体画像刺激に対する反応を記録した」とありましたが、これらの数字はどのようにして決めたのですか。
実験に用いた物体カテゴリーの数17個は、以前に行った700個ほどの神経細胞の反応を1000個の物体像で調べた実験で神経細胞集団の活動パターンにより再現された物体カテゴリー13個を参考に決めました。ひとつの物体カテゴリー当たり50個の刺激を使ったのは、ひとつのカテゴリーの中での刺激に対する選択性の複数の神経細胞の間の類似度を詳細に検討するためです。30個でも十分だったかもしれませんが、10個では少なすぎたでしょう。
ピカソの絵のように、人の顔なのか図形なのか分かりにくいものでは、人の顔のカテゴリーの反応が一番高いから、顔と分かるのでしょうか。他の図形カテゴリーも反応しているのでしょうか。
抽象画の顔は実際の顔によく含まれる図形特徴を持っていますが、他の物体カテゴリーによく含まれる図形特徴はほとんど持っていません。抽象画を見て物体を思い描く場合は、顔か図形かを判断するのではなく、顔か別の物体カテゴリーか判断することが多いです。抽象的で図形特徴の数は少ないけれど、顔の特徴が一番多いので顔だと感じるのでしょう。
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吉峰俊樹先生

脳表の脳波を利用して、 全く体を動かせないALS患者が、自分から簡単な意思表現ができるようになるには、どのような課題がありますか。いつ頃実現できそうですか。
大きく2つの課題があります。1つは、今回ご紹介した内容は難治性疼痛や難治性てんかんの治療のため、一時的に脳表に電極を置いた患者さんの結果で、これと同様のことがALSの患者さんで再現できるか確認する必要があります。2つ目に、埋め込み型のシステムを確立する必要があります。今のままでは体からコードが出たままですので、自宅に帰っていただくには無理があります。現在、この2つの課題克服に向けて、研究を進めていますが、医療機器として認可いただくには5年ほどかかるかと考えています。
脳の表面付近からは、脳の情報をどの程度読み取れるのでしょうか。今後はさらに詳しく読み取れるようになるのでしょうか。(ロボットハンドの操作以外で現在、ECoG(低侵襲BMI)でできることは何でしょうか。)また手術が必要な侵襲BMIと、手術の必要のない非侵襲BMIの、それぞれの利点や限界について教えてください。
現在のところ、脳表の脳波からは、「3種類の運動うち、どれかを1回だけした場合、70-90%程度の精度でどの運動かを推定することができる」程度です。今後は、電極の密度を高める、解読方法を改善する、患者がトレーニングをするなどにより、さらに詳しく読み取れるようになると思われます。(ロボットハンドの操作以外では、コンピュータのカーソルの操作が可能です) 侵襲BMIの利点は高い性能を出せることや一度埋め込むとずっと使えることですが、手術のリスクがあるため軽症の患者さんや一時的使用には適さないことが限界です。反対に非侵襲BMIは誰でも利用できることが利点ですが、性能は一般的にいえば侵襲BMIに及ばないため、複雑あるいは精密な解析には限界があると考えられます。二つの方法は用途によって使い分けられ、どちらも利点を伸ばし欠点を補う方向で進歩すると思います。
数人の脳波から取得された情報は、万人に当てはまるようなものでしょうか。個体差がある場合、どのように対応するのでしょうか?
脳波から取得された情報には、万人にあてはまる一般的な部分と、個人差のある部分があります。一般的な部分としては、ガンマ波という高周波帯域の活動が運動内容の解読に重要です。今回のように精密な分析では個人差がありますので、患者さんごとに種々の運動のイメージを行っていただき、その脳波変化をコンピュータで解析、記憶するようにして、個人個人に合わせた解読ができるように対応しています。
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片山容一先生

DBSによるリスク、副作用などの問題点について、ご教授ください。
主なリスクは手術中の脳内出血です。 1%くらいの確率です。副作用は刺激部位によって違いますが、大きな問題がないことを確認してから治療に使います。
DBSのパーキンソン病に対する効果に驚きました。あれは永続的なのでしょうか。すべての患者さんに効果があるのでしょうか。
効果は永続的です。ただし、パーキンソン病の進行を止められるわけではありませんので、あまりにパーキンソン病が進んでしまうと、効果も減弱してきます。
DBSを通じて神経回路の新しい発見などはありましたでしょうか。
より良い効果を得るために、DBSの電極を設置する位置を色々工夫しています。その結果として、神経回路の詳細がはっきりしてきたということもありました。
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伊佐 正先生

2種類のベクターを用いる方法は、サルに応用できる以外に、光遺伝学と比べてどのようなメリットがありますでしょうか。
ウイルスベクターの二重感染法は、複雑な神経回路の中で、ある特定のエリアとエリアをつなぐ経路のみに遺伝子的な操作を施す画期的な方法です。今回は、この方法を用いて、数日かけて神経活動を抑え、行動が変化したことをご紹介しました。一方、光遺伝学とは、光に反応して、数ミリ秒のオーダーで神経活動をオンにしたりオフにしたりできるタンパク質を発現させる方法です。これらはそれぞれ素晴らしい技術ですが、この2つを組み合わせることで、目的の神経経路だけを自由自在にオン/オフすることが可能になります。
特定のニューロンを作用させなくする技術はニューロンのみの技術なのでしょうか。それ以外にウイルスベクターを用いた技術があれば教えて下さい。
ウイルスベクターは現在遺伝子治療の技術として身体の様々な部位の細胞(白血病の治療のための骨髄細胞や糖尿病の治療のための膵臓の細胞)に対して用いられるようになってきています。
進化的に霊長類にしかない新しい回路の方も切断すると、進化の古い方の動物のような行動に戻るのでしょうか。
それは既に研究が進んでいまして、新しい経路を遮断すると、古い経路によって機能が代償され、行動もそれで可能な範囲のものになるようです。
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岡野栄之先生

マーモセット・マカクザル・ヒトの脳にどのくらいの違いがあるのでしょうか。今分かっている最新の情報を教えて下さい。
まず、ヒトの脳についてですが、他の2つの脳と比べて非常に大きいです。重い頭部を支えることのできる二足歩行が可能になったことと、脳が大きくなったことは大きく関連していると考えられています。特に大きくなった部分は、前頭葉であり、ここは運動性の言語機能、判断、作業記憶といった高次の脳の機能と関係しています。また、マカクザルに道具を使用させるトレーニングを行うことで、ヒトにしかない領域が拡大することより、構造と機能は非常に対応しているものだとわかってきました。マーモセットはマカクザルに比べて社会行動や親子関係に関し、ヒトにより近い特徴がありますので、そういったことに関連する領域を中心に調べることで興味深い研究が進展すると期待されています。
マーモセットに言語や脳の大きさに関連するヒトの遺伝子を導入する予定はありますか。
現在計画中です。
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