平成17年度 統合脳レクチャーコース


 

日時
2005年7月31日(日)〜8月1日(月)
会場
自然科学研究機構・岡崎コンファレンスセンター

 

 

「統合脳」レクチャーコース報告

「統合脳5領域」では、分子レベルからシステム、脳疾患にわたる様々な階層を統合する研究を推進するため、5領域が連携して若手研究者の育成、研究リソースの開発などを行うことを重視している。その5領域合同の「研究者育成支援委員会」の活動の一貫として、生理研のトレーニングコースと連携する形で7月31日午後から8月1日午前まで、「脳科学の新技術:分子・細胞から個体システムまで」と題するレクチャーコースを岡崎コンファレンスセンター中会議室において開催した。トレーニングコースへの参加者31名も含め、全体で約100名の参加を得ることができた。
今回のレクチャーコースは個体レベルの脳機能を解明するための様々な新しい方法論をテーマとした。最初に生理研の重本教授はレプリカ法を用い、定量的に神経伝達物質受容体の数と密度を計測する手法を開発し、その手法を用いて、マウスの小脳片葉において視機性眼球運動の短期的適応の際にはグルタミン酸のAMPA型受容体の数が、長期的な適応の際にはシナプスの数も変化することを示した。
次に理化学研究所発生・再生センターの八田公平博士は、紫外光によって蛍光が緑から赤に変化する珊瑚のタンパク質である”kaede”を発現させたゼブラフィッシュの発生過程において特定の細胞群だけ蛍光を変化させる手法を用い、発生過程における細胞移動を可視化し、神経発生における重要な基本的な問題を解明する研究を紹介した。
2日目の最初の講演では、ハーバード大学の大木研一博士が、2光子レーザー顕微鏡を用いてネコの大脳皮質視覚野の240-300 mmの範囲のニューロンの全ての活動を可視化し、従来の電気生理学的では一部のニューロンしか記録できず、また電位依存性色素やintrinsic signalによるイメージングでは空間的解像度に限界があったため実は明確にはわかっていなかった方位選択性カラムの構造及び内部構造に関して見解の分かれていたpinwheel の内部構造を見事に明らかにする最新の研究成果を紹介した。この研究によって脳活動のイメージングは新しい時代を迎えたことを印象付ける発表だった。
最後は理化学研究所脳科学研究センターの藤井直敬博士は、これまでのサルを用いた高次脳機能研究は、オーバートレイニングされた「特殊なサル」において活動を多数の回数の試行を繰り返し行わせたときの活動を加算平均して解析しており、一回きりの現象や時々刻々変化する脳の内的状態を調べるのには不適切であったことを指摘し、その問題点を克服するために現在進めている多数の領域からの多数のニューロン活動、フィールド電位、motion captureによる多関節運動指標の同時計測をなるべく自然な行動中に前提を置かずに行い、データから何が情報であるかを抽出する研究手法について紹介した。研究の成果についてはこれからであるが、挑戦的な研究パラダイムの展開に期待したい。
以上の4人の講師による講演は分子からシステムまで多岐にわたる領域をカバーしていたが、先端的な研究手法を駆使する挑戦的な研究には今後の脳研究をリードする「元気」が満ち溢れており、参加者には皆大変刺激的な講演だった。
懇親会は、バイオ分子センサーのレクチャーコースと合同で行った。残念ながら同時開催だったので、一方にしか参加することはできなかった参加者にとって他方の講師の短いスピーチは大変興味深いもので、ここでも「異分野交流」が盛んに行われていた。
このようなレクチャーコースで育った芽が新しい研究成果として世に現れてくるのは5年、10年後かもしれないが、そのような将来の展開を期待しつつ、このような試みを地道に継続していく必要があると思う。  

(文責 伊佐(生理研))

 

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