平成18年度 
『脳科学のためのプロテオミクス 技術の開発と普及リソース委員会・
タンパク3000(脳神経系)・蛋白研セミナー』共催・講演会
報告書・印象記

 


 

日時
平成19年1月13日(土)〜1月14日(日)
会場
自然科学研究機構
岡崎カンフェレンスセンター
中会議室

 

 

 

統合脳リソース「脳科学におけるプロテオミクス技術の開発と普及」委員会では、平成19年1月13〜14日、岡崎カンフェレンスセンターで第2回プロテオミクス研究講演会を、タンパク3000(中川敦史代表、大阪大学蛋白研教授)、大阪大学蛋白研と合同で開催しました。統合脳総括班からも支援をいただき、若手(大学院生、ポストドク)や統合脳班員、班員外合わせて73名の参加を得て、熱のこもった発表と討議が行われました。この会の感想記、写真を掲載いたしますので、ご参照ください。

統合脳「脳科学におけるプロテオミクス技術の開発と普及」リソース委員会
代表 山森哲雄(基礎生物学研究所)

 

プロテオミクス講演会に参加して


東北大学大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター
ゲノム機能解析部門 形態形成解析分野
篠原 広志(しのはら ひろし)

 今回2007年1月13-14日に岡崎の自然科学研究機構で開催されたプロテオミクス講演会に参加致しました。私は昨年の4月より現在の研究室で大隅典子教授のもと、胎生期のラット脳を用いた神経発生での分子メカニズムについて研究しており、免疫組織学やイメージングといったアプローチを主に行っております。さらに今後プロテオミクスによって我々が追っている現象に係わる因子を網羅的に解析することを計画しており、今回の講演会に参加することで大変刺激となりました。
講演内容は非常に多岐に渡っており、発生学や生化学的研究の発表があると思えば、結晶構造解析がメインの研究発表もあり、ひとことにプロテオミクスといっても様々な研究分野によって行われていることを改めて痛感致しました。今回の先生方による21題の講演はどれもとても興味深く、私にとって大変勉強になるものばかりでありましたが、全てを挙げることはできないので、印象的な研究について紹介致します。リーリンのレセプター結合部位であるリジン残基がマウス、ニワトリといった脳に層形成がみられる生物種で保存されているのに対し、層形成をもたないホヤ、ナメクジウオ、ウニなどでは他のアミノ酸へと置換されていることから、脊椎動物以前ではリーリンが層形成とは異なる機能を有しているのではないかという高木淳一先生(阪大蛋白研)の話は大変興味深いものでした。また統合失調症ではモータータンパク質の分子輸送に必要なcargoタンパク質の発現低下がみられ、その結果多くの積荷となる分子が正しく運ばれなくなり、神経細胞の発達に障害が生じているとの貝淵弘三先生(名大院医)の話や、神経系の様々な細胞種(オリゴデンドロサイト、アストロサイト、ニューロン)における発現タンパク質のプロテオーム解析を行い、さらにそれぞれの細胞種のストレス耐性から脳の老化について研究をしている戸田年総先生(都老人研)の話は、現在の私自身の研究にも大変参考となりました。プロテオミクス解析によりアルツハイマー病や前頭側頭型変性症、筋萎縮性側索硬化症などのコンフォメーション病発症に起因する分子やメカニズムを解明している川又純先生(京大医)、長谷川成人先生(都精神研)らの研究や、プロスタグランジンの結晶構造解析により、抗アレルギー、筋ジストロフィー治療剤となるプロスタグランジン阻害剤を構造情報やデータベースに基づいて開発している井上豪先生(阪大院工) の講演は、今後臨床応用への進展が非常に楽しみな内容でした。また体内時計分子の構造解析から、その作動原理を解明する石浦正寛先生(名大遺伝子)、池上貴久先生(阪大遺伝子)の研究は私にとって未知の分野であり、非常に刺激を受けました。以上、私の不勉強でしっかり理解していない点もあるかと存じますが、会の感想記とさせていただきます。そして今回の講演会で得た貴重な経験を生かし、今後の研究に役立てていきたいと思います。

印象記


東京大学・医科学研究所・癌細胞シグナル研究分野
手塚 徹

平成19年1月13日(土)から1月14日(日)にかけて、自然科学研究機構・岡崎カンファレンスセンターで開催された『脳科学のためのプロテオミクス 技術の開発と普及リソース委員会・タンパク3000(脳神経系)・蛋白研セミナー』共催の講演会に参加させていただきました。参加にあたり、統合脳の総括班よりご支援いただきました。この場をお借りして、お礼申し上げます。
この講演会は (1) 最先端のプロテオミクス手法、(2)プロテオミクスの脳神経系研究への応用、(3) 蛋白質相互作用や複合体構造の予測を目指したバイオインフォマティクス、(4) 蛋白質の立体構造解析技術と構造解析から得られた知見の応用、など幅広い内容から成っていました。これらは異なる方向からのアプローチですが、皆「蛋白質から脳神経系(今回の場合)を理解する」ことを目指していると思います。私はチロシンリン酸化反応が脳構築や脳機能にどのように重要であるかに興味を持ち、遺伝子改変マウスを使いながら実験を進めています。蛋白質研究手法の現状・展望を広く勉強し、自分の実験に取り入れられればと考え、この講演会への参加を決めました。会には蛋白質研究がご専門の先生・実際に脳研究に活用し成果を得られている先生に加え、私のような状況の方も多く参加されているようでした。

講演会を通じて、プロテオミクス・立体構造解析・バイオインフォマティクスの技術的な発展・成熟が着実に進み、例えばサンプル量・検出感度の問題などで、少し前にはできなかった解析が実現されていることがわかりました(できる研究室は限られるとは思いますが)。一方で、解析法のメインストリームは決まっているものの、それで「必勝」ではなく、個々のトラブルシューティングに皆さんが苦労されていることが伺えました。講演時間が20分と限られていることもあり、特に最先端の実験技術について、私が充分理解できたかと言われると自信がありません。しかし、会の主旨に基づき、演者の先生方は個々の実験手法がどのような解析に適しているかを丁寧に説明して下さったと思います。それぞれの解析手法の得意領域を知ることができたのは私にとって非常に有意義であり、自分の仕事にどう応用できるかを考えていました。また当然ではありますが、X線やNMRを駆使して立体構造解析をされている先生方の、構造を前にしての着眼点・次の一手も私には新鮮でした。各講演後に分野内外の先生から出される質問もユニークで、多様な考え方を聴くことができました。
いざ、先端的な蛋白質解析手法を取り入れるには、その手法をお持ちの先生に相談をお願いし、ケースバイケースで大きく変わる実現性・問題点など多くを理解する必要があると考えます。しかし最新の蛋白質解析手法と、実際にプロテオームを活用した脳神経系研究とに一度に触れたことは、戻ってから調べ直し、まず自分の実験に活用する原案を作成する上で役に立ちました。また相談を歓迎して下さる先生も多くいらっしゃり、幅広い交流を作る上でもよい講演会であったと思います。講演中・休憩時間・懇親会の様子から、分野の異なる先生としっかり会話する能力と積極性が重要であることを痛感しました。今回のような企画が学会レベルでも行われると、参加者も飛躍的に増え、「統合脳」の理念にも合う分野横断的な脳研究のシードが益々誕生すると考えます。


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『脳科学のためのプロテオミクス 技術の開発と普及リソース委員会
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