統合脳ニュース
 

“Neural Basis of Reward and Decision Making”に参加して


東京大学工学系研究科 上野有実子

私は2007年9月4日から4日間に渡り、“Neural Basis of Reward and Decision Making”という国際会議に参加させていただきました。ポルトガル・リスボン郊外で開かれたこの国際会議は、通常の学会と違って誰でも参加できるものではなく、主催者の一人である玉川大学の坂上雅道教授の許可をいただいての特別参加でした。講演者のみなさんは業界に名を馳せる方々ばかりだったため、私のような一学生の身分でこの会に聴講者として参加できたこと自体が非常にありがたいことだと思います。参加を許可していただいた坂上先生には何よりも先ずお礼を申し上げたいと思います。
この会議は去年のアメリカでの集まりを初回として今回は2度目だということで、講演者の方々同士は互いにすでに打ち解けあったご様子で、プレゼンテーションも長い前置きや社交辞令が省かれ、非常にリラックスした雰囲気の中行われていました。その分、新参者には分かりにくい表現も多数あったため、私にとっては同行させていただいた渡邊准教授の解説に助けられて初めて理解できるものが多かったのですが、やはり総合的な印象としては、研究室で論文を読んでいるだけでは到底伺い知れないような、生きた科学の先端を垣間見させてもらった、という感覚を覚えました。
具体的には、サルの電気生理実験でドーパミンニューロンの新しい特性を発見された坂上先生を始めとし、神経のポワソン発火の重要性を示したAlex Pouget氏、人間のInsulaがRisk prediction errorをも表現していることを示したPeter Bossaerts氏、味覚ノックアウトマウスでも体に吸収された糖の作用だけでドーパミン分泌量に変化が起こることを示したIvan de Araujo氏、trustゲームを用いて人間同士の信頼関係の構築過程を示したBrooks King-Casas氏、階層的強化学習の重要性を示したYael Niv女史などの講演が特に印象に残っています。
報酬と意思決定の関係を形作る神経機序が強化学習理論と合わせて語られることは近年の世界的な流行りですが、この流行りが決して一過性でないことを物語るように、どの発表者の方も議論を白熱させていました。それを裏付けるエピソードとして挙げられるのは、自説を支持するような他の発表者の知見が紹介されたとたんに「よぉし来た〜っ!」と揚がる雄叫びの数々です。人生をかけて本当に解き明かしたい問題を研究するぞという研究者魂と研究に対する強い意気込みを感じました。
会議の時間以外のイベントも非常に細やかにオーガナイズされており、ホテル−会場間の送迎やエクスカージョンはもちろん、夕食会が美しい庭園を目の前にしたホールで開かれたり、コーヒータイムがバラの植えられたバルコニーで行われたりと、ポルトガルの気候・風土の良さも満喫できるような心遣いがされていました。会議の主催者の一人であるRui Costa氏は非常に気さくな感じの方で、このクローズドな会にイレギュラーな形で参加させていただいていた私たちにも優しく接してくださり、ポルトガルの見所や日本との類似点など世間話で和ませてくださいました。
もう一つ印象的だったのは、会の最後に挨拶をされた財団の方の一言です。視野を狭めることなく研究をしてほしいというメッセージだったのですが、会議の名称にも表れている通りテーマを絞った討論の後だったこともあり、ご忠告とも取れるお言葉でした。今回の会議全体を通して多くの知識・洞察が得られただけでなく、講演者の皆さんの意気込みとこのようなご忠告も受けて、自分の研究態度を改めなければと身の引き締まる思いです。