2005年プレス発表一覧表  ホーム

2005年度 プレス発表

第二領域「脳の高次機能学」


     
氏  名
所  属
雑 誌 名
研究タイトル
掲載新聞
木村 實
京都府立医科大学

Science 2005 Nov 25;310(5752):1337-40


選択肢のメリットを評価する線条体の神経細胞

京都新聞(2005/11/25朝刊29面)
産経新聞(2005/11/25大阪版朝刊28面)
読売新聞(2005/11/25大阪版朝刊2面)
日経産業新聞(2005/11/25.8面)
日本経済新聞(2005/11/25朝刊15面)
毎日新聞(2005/11/25大阪版朝刊3面)

ある行動をとった結果どの程度の報酬が得られるかを推測することは、意思決定を行う上で不可欠である。この過程における大脳基底核の役割を明らかにするために、右または左にハンドルを倒す2つの選択肢の報酬確率を試行錯誤によって推定して選択させる行動課題をサルにおこなわせ、そのときの線条体の神経細胞の活動を記録した。選択前の遅延期間に、線条体の投射神経細胞の3分の1以上が、2つの選択肢の中の1つの選択肢の価値(報酬確率)の大小に対応して活動を増減した。また、選択肢間の相対的な価値または価値と関わらない行動選択に関係する神経細胞は少数であった。以上の結果は、線条体には選択肢のメリットを評価する神経細胞が多数存在し、大脳基底核の神経回路において行動の選択を誘導することを示唆している。

木村 實
京都府立医科大学
Science 2005 Jun 17;308(5729):1798-801. 行動のバイアス過程を補完する視床正中中心核のはたらき 京都新聞(2005/6/17朝刊27面)
朝日新聞)(2005/6/1大阪版)
読売新聞(2005/6/17大阪版)
産経新聞(2005/6/17大阪版)
日経産業新聞(2005/6/17)
北日本新聞(共同通信) Web版(2005/6/17)
将来報酬につながる手がかりを期待して待っている時に、ヒトやサルの複数の脳部位の活動が増大して、報酬の獲得に向けて意思決定や行動選択に偏り(バイアス)が生ずることが知られている。しかし、日常の活動では必ずしも期待通りには事態は進行せず、望ましくない選択肢を選ばなければならないことが多い。サルを対象として行ったこの研究では、大きな報酬を伴う選択肢も可能である状況でありながら、わずかな報酬しか得られない選択肢が要求された時には、大脳皮質の奥深くにある視床正中中心(CM)核の半数以上のニューロンが特異的に活性化されることを発見した。また、大きな報酬を伴う選択肢の要求にしたがってサルが素早く、確実な行動を始める直前に、人為的にCM核を微弱な電流で刺激すると、望ましくない選択肢の行動のようなのろい行動に変ってしまった。以上の結果は、報酬の獲得に向けた望ましい意思決定や行動選択のバイアスが不可能な事態が生じた場合に、一旦他の選択肢を選ぶことによって次の機会に備える相補的なメカニズムを示唆しており、報酬に基づく意思決定と行動選択に関する新しい包括的な理解への突破口を開いたことになる。

田中 啓治
理化学研究所 
脳科学総合研究センター
Neuron 47, 607-620 (2005) ヒト初期視覚野におけるコントラスト順応と表現

化学工業日報(2005/8/22.10面)
フジサンケイビジネスアイ(2005/8/26.13面)
教育学術新聞(2005/9/28.3面)
いろいろな強さの明暗対比(コントラスト)を持った刺激に対する視覚野神経細胞の応答を調べると、コントラストの増加に対応して応答が増加するコントラストの範囲は、かなり限られていることがこれまでの研究成果から知られています。ところが、私たちは、もっとずっと広い範囲でコントラストの違いを見分けることができます。この違いは、視覚野神経細胞がコントラスト変化に対応して応答するコントラストの範囲が,まわりにあるコントラストの平均値の変化に応じて移動する(コントラスト順応)ために、広い範囲のコントラストの違いを見分けることができるという仮説を立てることにより説明できます。今回私達は、fMRIを用いて人の初期視覚野(V1野からV4野)の神経活動を測定し、コントラスト順応による応答の変化を調べました。V1野、V2野、V3野では、仮説通り、提示される刺激の平均コントラストに応じて、高感度で応答するコントラストの範囲が移動しました。しかし、より高次の視覚野(V4野)では、コントラストの増加と減少の両方に対して神経活動応答が増加することが分かりました。V1-V3野はコントラスト順応によって広い範囲のコントラストを表現し、V4野は身の周りに起こる変化を変化の方向によらずに検出していると考えられます。

田中 啓治
理化学研究所 
脳科学総合研究センター
Nature Neuroscience 8, 1768 - 1775 (2005)
物体回転の経験なしに成立する物体を異なる観察角度から認識する能力
化学工業日報(2005/11/21.6面)
日刊工業新聞(2005/11/21.26面)
日経産業新聞(2005/11/21.11面)
読売新聞(2005/11/23.33面)
科学新聞(2005/11/25.4面)
脳における視覚的物体認識のメカニズムを知る上で最も困難な問題は、観察角度の変化によって物体像が変わった場合に、同じ物体であるかどうかをどのように認識するか、という問題です。従来の学説では、「回転している物体を見る場合のように、異なる(観察)角度の像を時間的に連続に見ることにより、脳の中で異なる投影像が結びつけられる(連合される)」と説明していました。今回私達は、サルを用いた行動実験により、「それぞれの像を独立に『見慣れる』だけで、同じ物体の異なる投影像の脳内表現(脳の中で作られる物体の表現)が自然に結びつけられること」を見出しました。この結果は、「脳の中では物体の回転によって変化しにくい図形特徴と変化しやすい特徴が区別されていて、物体の投影像の脳内表現には変化しにくい特徴が好んで用いられる」と仮定することによって説明できます。


酒井 邦嘉 東京大学 大学院総合文化研究科
Science 310, 815-819 (2005). 左脳の「言語地図」作成 読売新聞(2005/11/4.2面)
人間の言語はさまざまな要素から成り立っている。文法を使って文章を理解する時と、単語の意味が分かり音韻(アクセントなど)を聞き分ける時とでは、それぞれ脳の異なる部分が必要となることを東京大学の酒井邦嘉・助教授(言語脳科学)が突き止め、左脳の「言語地図」を作成した。2005年11月4日発行の米科学誌「サイエンス」に発表された。
 左脳で言語をつかさどる領域は「言語野」と呼ばれるが、ブローカ野やウェルニッケ野のように大まかな区分しか分かっていなかった。酒井助教授らは、延べ約70人の参加者に対し、文法知識や文章理解、単語やアクセントの正誤などを問う問題を解いている時の脳の活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)や経頭蓋的磁気刺激法(TMS)などを用いて調べた。
 その結果、例えば文法について判断する時は前頭葉下部が、音韻について判断する時は側頭葉上部が活発に働き、その活動パターンを地図にすると、文法・文章理解・単語・音韻の四つの中枢に分けられることが明らかになった。細分化した言語地図を作ることで、言語障害が脳のどの部分と関連するかが明らかになる可能性があり、語学学習の成績を脳活動から評価する時にも役立つと考えられている。

山脇 成人

広島大学大学院医歯薬学総合研究科(精神神経医科学)

British Journal of Psychiatry 186:48-53 (2005) 不快な身体イメージに対する脳活動は男女で異なる:摂食障害の病態解明に貢献 英国国営放送(BBC)
(5January,2005,00:08)
アメリカ(5 January,2005)
オランダ(7 January,2005)
ブラジル各報道機関(5 January,2005)
毎日新聞(2005/3/2大阪版)
読売新聞(2005/2/6)
産経新聞(2005/3/2日刊)
男女各13名を対象として、「太る」「デブ」「肥満」などの不快な身体イメージを連想させる単語刺激を用いた情動決定課題を遂行中の脳活動を機能的MRI(fMRI)で測定した。その結果、女性では不快な身体イメージ単語に対して、恐怖の認知に関連する扁桃体を含む海馬傍回の反応が亢進していたが、男性では扁桃体の反応はあまり認められず、これを抑制的に制御する左内側前頭前野の活動が有意に高かった。この結果から、不快な身体イメージの単語刺激の情報処理に関して、女性ではより感情的に処理しているのに対し、男性ではより理性的に処理していることが示唆された。また、女性では左内側前頭前野の活動が低いほど摂食障害の症状スコアが高いことから、この部位の機能異常が摂食障害の病態に関連している可能性が示唆された。

合原一幸
東京大学
生産技術研究所

  ニューロンの非線形応答特性をモデル化したカオスコンピューティングシステムの構築
産経新聞(2005/6/6)
ニューロンは固有の非線形性を有しており,ニューロン間の相互作用に駆動されてカオス的応答等の興味深いアナログダイナミクスを生み出す。本研究成果は,ニューロンのカオス応答に注目してモデル化したカオスニューラルネットワークを実装したアナログ集積回路を基にカオスコンピューティングシステムを構築し,二次割当問題に適用したものである。統合脳の研究テーマと直接関係するものではないが,我々は,本研究成果のように,脳科学研究の基礎的成果を「脳を創る」の観点から応用展開し,社会に還元することも重要であると考えている。