(所属領域)      第一領域・計画班員     

(氏名)        ヘンシュ 貴雄

(所属・職名) ()理化学研究所 脳科学総合研究センター

臨界期機構研究 グループディレクター

(電話)048-467-9634        

FAX 048-467-2306             

(E-mail)

hensch@riken.jp           

URL

http://www.brain.riken.jp/bsi/t_hensch.html

(メッセージ)  Hensch, T.K.: "Critical period regulation" Annu. Rev. Neurosci. 27, 549-579 (2004).

頭が柔らかい。」発想や思考の柔軟性を表す言葉だが、あながち根拠のない例えではない。子どもの脳では、外部からの刺激に応じて神経回路が盛んに組み換えられる。多言語の習得など、この神経回路網の「臨界期」に起因すると考えられている。哺乳類の中枢神経系は出生時には未熟で、自己の経験を通じて再構築を行っている。生後の発達初期に短期間の片眼遮断を行うと、遮断しなかった眼からの入力が機能的にも構造的にも優位になる一方、成熟動物では、弱視の回復は極めて困難である。我々は、特有なGABA作動性回路や細胞外プロテアーゼ活性が臨界期可塑性に不可欠であることを見出してきた。脳が柔らかいのは事実で、その時期に適切な刺激を与えるのが重要だが、何が適切かは、どのような人間を望ましいとするかに深く関わる。脳を育む研究は、人を育む研究でもある。

「統合脳」では、この発達段階に伴って特異的に発現する遺伝子群のマウス完全長cDNA をマイクロアレイに並べ、可塑性に特化した遺伝子を体系的に解析し、生涯学習機構や動物・数理モデル開発の基盤を整備する。脳の構成原理の解明に新たな知見を与えるとともに、脳の個人差や正常な発達の理解、再生・移植した脳組織を正常に機能させる手法の確立に貢献することを期待する。臨界期出現に、抑制という一見反対方向に思える要因が必須であることも臨界期の意義を考える上で興味深い。また、領域内の共同研究によって、マウスで得た大脳視覚領での可塑性関連遺伝子について、より進化した動物の大脳視覚領においても解析が可能となり、種を超えた大脳可塑性の分子機構へのアプローチを試みる。他方、分子生物学的・神経生理学的手法を有機的に統合した研究方針と成果は、今後の脳研究の方向性を示すという意味で若手研究者の研究発展にも寄与する。

(研究室で有する実験技術・リソースとその公開の可能性)

大脳皮質視覚野の遺伝子操作・薬物局所注入、慢性・麻酔下マウスでの視力・神経活動記録

(単一細胞外記録、テトロード、内因性信号イメージング)

スライスパッチクランプ法、細胞内染色法、レーザーフォト刺激法、スライスイメージング

(膜電位感受性色素、多光子顕微鏡)