(メッセージ)
神経系をはじめ様々な組織、器官の発生に重要な役割を果たすNotch受容体を介した細胞間情報伝達機構が脳機能発現に果たす役割を遺伝子改変マウスを用いて研究しています。
ヒト遺伝疾患研究からNotchシグナルが記憶学習や精神疾患病理に重要な役割を担うことが示唆されています。加えて、細胞レベルの研究からもNotchシグナルが神経細胞新生の制御や成熟神経細胞の神経突起形状の調節を通して記憶学習に関与することが示唆されることから、成体脳におけるNotchシグナルの研究が急務です。が、発生期のNotchシグナルの破綻が胎生致死に至ることから現在に至るまで個体レベルでの解析が不可能でした。そこで私達は、神経細胞特異的にNotchシグナルの活性化に必須なRBP-J分子を欠失させたマウスを作製、解析しています。さらに、最近発見したNotchシグナルを抑制するMint分子を同様に欠失させたマウスを作製、解析することで、脳機能発現におけるNotchシグナルの役割、さらにはその下流で動く遺伝子ネットワークを明らかにしていきたいと考えています。現在、分子生物学と解剖学、行動学をベースに解析を進めていますが、「統合脳」に参加されている先生方からご助言を頂くとともに共同研究を行うことでより多面的な解析を進めてゆければ幸いです。医学部の学生時代に出入りしていた研究室でやっていたことの先をもう少し知りたくなり、そのまま基礎研究の大学院に入学して20年が経過しました。遠大な目標があって脳研究を始めたわけではなく、その都度面白いと思うことを色々やってきたのですが、不思議なことに色々やってきた挙句、最近は20歳台後半の頃に「こういう研究ができたらよいな」と思っていたことに舞い戻って来たような感じです。勿論その頃イメージしていたことと比べると、方法論やアプローチの仕方はだいぶ違っていますが・・・
今は手指の器用な運動や眼球のサッケード運動を制御する神経回路について、その構造と機能を健常動物で解析するとともに損傷後の機能代償機構を調べることが主な研究のテーマです。方法はin vitroのスライス標本におけるパッチクランプ法を用いた実験から麻酔動物での電気生理、また覚醒マウスのサッケード運動から覚醒サルの行動実験と電気生理実験、さらにはサルを用いたPETによる脳機能イメージングなどを組み合わせています。また共同研究では機能代償過程での遺伝子発現なども調べています。
「統合脳」では色々な研究者と出会い、共同研究の輪が広がることを期待しています。
以下、ご参考までに最近の論文から・・・・
(1) Isa T (2002)
Intrinsic processing in the mammalian superior colliculus. Current Opinion
in Neurobiology, 12:668-677.
(2) Sasaki S, Isa
T, Pettersson L-G, Alstermark B, Naito K, Yoshimura K, Seki K, Ohki Y (2004)
Dexterous finger movements in primate without monosynaptic
corticomotoneuronal excitation. Journal of Neurophysiology,
92:3142-3147.
(3) Sakatani T,
Isa T (2004) PC-based high-speed video-oculography for measuring rapid eye
movements in mice. Neuroscience Research, 49:123-131.
(4) Watanabe M,
Kobayashi Y, Inoue Y, Isa T (2005) Effects of local nicotinic activation of
the superior colliculus on saccades in monkeys. Journal of
Neurophysiology, 93: 519-534.
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