(メッセージ)
「統合脳」における本研究課題について:中枢神経系を構成する主要な細胞群であるニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトは、神経幹細胞が分化の運命決定を受けてそれぞれの特性を備えた細胞へと成熟する。神経幹細胞の分化の運命付けの過程には、多能性を維持する機構、分化の運命付け誘導の機構、他の細胞種にならない運命付けの排他性の機構、運命付けの固定と維持の機構のそれぞれが重要であり、脳機能構築の理解にはこれらの神経幹細胞運命決定機構の解明が不可避の課題である。「統合脳」における本研究課題は、細胞外来性シグナルと細胞内在性要因の相互作用の解析に的を絞って、神経幹細胞の運命決定機構の解明を目的として実施される。本研究課題が取り組む神経幹細胞の運命決定機構は、その解明が脳機能構築の基本的概念の提示につながる可能性を秘めているという学術的興味深さもさることながら、その解明が新しい治療法の開発に向けた基盤造りとなり得ることから、この研究の遂行によってそれら学問的・社会的要請に応えたいと考える。医学部の学生時代に出入りしていた研究室でやっていたことの先をもう少し知りたくなり、そのまま基礎研究の大学院に入学して20年が経過しました。遠大な目標があって脳研究を始めたわけではなく、その都度面白いと思うことを色々やってきたのですが、不思議なことに色々やってきた挙句、最近は20歳台後半の頃に「こういう研究ができたらよいな」と思っていたことに舞い戻って来たような感じです。勿論その頃イメージしていたことと比べると、方法論やアプローチの仕方はだいぶ違っていますが・・・
研究代表者プロフィール:1982年京都大学理学部卒業.'’88年大阪大学大学院医学研究科修了(医学博士).’89年大阪大学細胞工学センター助手.’96年同助教授.同年東京医科歯科大学難治疾患研究所教授.2000年熊本大学発生医学研究センター教授.’01年より同センター長併任.’02年21世紀COEプログラム「細胞系譜制御研究教育ユニットの構築」拠点リーダー.研究は芸術と相通ずるという哲学のもと、高いオリジナリティー、精緻な技巧、感銘を与える自己表現を心掛けようと常々思いつつ時に現状を省みながら、サイトカインに代表される細胞外来性シグナルとエピジェネティック修飾を基盤とする細胞内在性プログラムの相互作用による神経幹細胞と造血幹細胞の分化制御機構に取り組み、細胞系譜制御に関する普遍的概念の提示とその応用に関する情報発信を目指している。
2004年以降最近の論文抜粋:Inoue et al. Activation
of canonical Wnt pathway promotes proliferation of retinal stem cells derived
from adult mouse ciliary margin. Stem Cells, in press.; Kondo et. al. Persistence of a small subpopulation of cancer
stem-like cells in the C6 glioma cell line. PNAS 101, 781-786, 2004;
Nobuhisa et. al. Spred-2
suppresses aorta-gonad-mesonephros hematopoiesis by inhibiting MAP kinase
activation. J. Exp. Med. 199, 737-742, 2004; Fukuda et al. Negative regulatory effect
of an oligodendrocytic bHLH factor OLIG2 on the astrocytic differentiation
pathway. Cell Death. Differ. 11, 196-202, 2004
4;今は手指の器用な運動や眼球のサッケード運動を制御する神経回路について、その構造と機能を健常動物で解析するとともに損傷後の機能代償機構を調べることが主な研究のテーマです。方法はin vitroのスライス標本におけるパッチクランプ法を用いた実験から麻酔動物での電気生理、また覚醒マウスのサッケード運動から覚醒サルの行動実験と電気生理実験、さらにはサルを用いたPETによる脳機能イメージングなどを組み合わせています。また共同研究では機能代償過程での遺伝子発現なども調べています。
「統合脳」では色々な研究者と出会い、共同研究の輪が広がることを期待しています。
以下、ご参考までに最近の論文から・・・・
(1) Isa T (2002) Intrinsic processing in the
mammalian superior colliculus. Current
Opinion in Neurobiology, 12:668-677.
(2) Sasaki S, Isa T, Pettersson L-G, Alstermark
B, Naito K, Yoshimura K, Seki K, Ohki Y (2004) Dexterous finger movements in
primate without monosynaptic corticomotoneuronal excitation. Journal of Neurophysiology,
92:3142-3147.
(3) Sakatani T, Isa T (2004) PC-based high-speed
video-oculography for measuring rapid eye movements in mice. Neuroscience Research, 49:123-131.
(4) Watanabe M, Kobayashi Y, Inoue Y, Isa T
(2005) Effects of local nicotinic activation of the superior colliculus on
saccades in monkeys. Journal of
Neurophysiology, 93: 519-534.
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