(所属領域)  第5領域・公募班員

(氏名)   橋 本  康 弘

(所属・職名)独立行政法人理化学研究所・

  フロンティア研究システム・チームリーダー

(電話)

048-467-9613

FAX

048-462-4690

(E-mail)

yasua@riken.jp

(URL)

http://www.riken.jp/r-world/research/lab/

frontier-rs/supra-bio/glyco/index.html

(メッセージ)

 私は、山川民夫先生の指導のもとで大学院生の時代から一貫して糖鎖の研究を続けて参りました。糖鎖研究は地味な領域で、なじみのない方が多いと思います。しかし、最近では、細胞表面の糖鎖が分化や発生に重要であることが示されホットなテーマになりつつあります。例えば、Notch機能を修飾するFringeは糖転移酵素であり、Notchの糖鎖修飾は発生に必須であることがしめされております。

 私の研究室の北爪しのぶは、糖鎖の末端に存在するシアル酸(酸性基を持つ単糖の一種)に注目して、その生合成を調べておりました。シアル酸をゴルジ内腔で糖鎖に付加する反応を触媒するのがシアル酸転移酵素です。不思議なことに、この膜結合型の転移酵素は比較的短時間、ゴルジ内に留まったのち、プロテアーゼによる切断を受けて細胞外に放出されます。このプロテアーゼを同定するプロジェクトを行っておりましたが、はかばかしい結果が得られませんでした。そこで、プロテアーゼの専門家である西道先生に相談することに致しました。西道先生にセミナーをして頂いた後に雑談混じりにプロジェクトの相談を致しました。その際、「酵素の存在場所や切断端のアミノ酸配列を考えると、βセクレターゼ(BACE1)がそのプロテアーゼかもしれない。BACE1cDNAを差し上げますからダメもとで試してみましょう。」というわけで実験を行ったところ、大当たりとなりました。BACE1の遺伝子クローニングが報告された半年後のことです。

 BACE1APPはともにI型の膜タンパク質ですから、II型の膜タンパク質である転移酵素を切るのはおかしくはないか?等々、最初は半信半疑でしたが、実験をすればするほど確実になってきました。II型の膜タンパク質とはいえ、転移酵素の触媒ドメインは一定の立体構造をとるものの、膜へアンカーされる部分の近傍は風船のひものようにflexibleなのでBACE1に切られても不思議はないと考えるようになりました。また、αセクレターゼ(TACE)もI型とII型の両者を基質としうることなどから、徐々に自信を深めて論文を出すことに致しました(Kitazume-Kawaguchi et al., PNAS 98: 13554-13559, 2001)。その後、転移酵素の切断端に対する抗体を作ってBACE1活性のモニター法を開発する研究(Kitazume et al., JBC 278: 14865-14871, 2003)、酵素の生体内での切断をBACE1-transgenic mouseknockout mouseを使って証明する研究を行いました(Kitazume et al., JBC 280:8589-8595, 2005)。最近になって、APPがシアル酸化されるとその代謝が促進され、Aβ・sAPPβ・sAPPαの分泌が亢進する現象を見いだしております。現在、この現象がアルツハイマー病の病理現象と関係するか否かを調べるために、老人研の村山先生のご協力を得てヒト材料での解析を開始致しております。

(研究室で有する実験技術・リソースとその公開の可能性)

可溶性シアル酸転移酵素によるBACE1活性のモニター系(サンドイッチELISAシステム:ラットバージョン、ちなみにヒトバージョンは近々完成予定)

ヒトBACE1タンパク質のモニター系(サンドイッチELISAシステム):数ヶ月後に完成予定

体液中のα2,6シアル酸糖鎖の定量法(レクチンELISAシステム)