(所属領域)  第五領域・公募班員         

(氏名)  松沢 厚             

(所属・職名)東京大学 大学院薬学系研究科           

     細胞情報学教室・助手    

(電話)03-5841-4858

FAX03-5841-4798

(E-mail)

matsushi@mol.f.u-tokyo.ac.jp

URL

http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~toxicol/index.html

(メッセージ)

 神経変性疾患の「引き金」としての「異常蛋白質の蓄積」を理解することが、その治療戦略にとって非常に重要であることは言うまでもありません。何が蓄積しているのかについては、ここ数年かなり理解が進んできた気がします。ここで、@異常蛋白質はどのようにして、あるいは何が原因で蓄積するのかA異常蛋白質の蓄積がどのようにして神経毒性に繋がるのか、この2つの問題点の解決が大きな鍵になると考えられます。このうちの後者、すなわち最終的に神経機能異常や細胞死に繋がる分子メカニズム、特にシグナル伝達について解明したいというのが我々のチームの研究課題であります。本研究では、ストレス応答MAP3キナーゼであるASK1(Apoptosis Signal-regulating Kinase 1)に注目し、ASK1が異常蛋白質の蓄積によって活性化し、神経機能異常やアポトーシスを誘導するシグナル伝達機構、及びそのメカニズムを分子レベルで解明することを目的としております。

 これまで我々は、ASK1分子のクローニング、ASK1欠損マウスの樹立・解析によって、ASK1が小胞体ストレスシグナルに深く関与し、神経細胞でのポリグルタミン凝集によって誘起される小胞体ストレス誘導性アポトーシスに必須であることを証明してきました。今回、様々な神経変性疾患において、このようなASK1依存的神経細胞死が普遍的に存在するか否かについて、筋萎縮性側索硬化症(ALS)アルツハイマー病などのモデルマウスや細胞レベルでの実験系を用いて検討したいと考えています。実際これまで、ALS及びアルツハイマー病の原因蛋白質であるSOD1やアミロイドβによって誘導される神経細胞死に対してASK1が深く関わっていることを示す結果も得られています。今後、これら個々の神経変性疾患にASK1がどのように関与しているのか、小胞体ストレスや酸化ストレスなどストレスシグナルとの関連性とも照らし合わせながら、さらに詳細に分子レベルでの検討を進めていく予定です。

 孫の代に文化を伝承できるまで人類の寿命が伸びたことが文明発祥の1つの要因であり人類の歴史の中でのブレークスルーであったという有名な説がありますが、それと同時に神経変性疾患が人類の中に顕在化してきたとも考えられます。長寿と健全な脳機能の維持の両立が更なる人類の発展に重要であることは間違いありません。

[ASK1に関する参考文献]   1) Ichijo, H. et al. (1997) Science 275, 90-94. 

2) Tobiume, K. et al. (2001) EMBO Rep. 2, 222-228.   3) Nishitoh, H. et al. (2003) Genes Dev. 16, 1345-1355. 

4) Kadowaki, H. et al. (2005) Cell Death Differ. 12, 19-24.   5) Matsuzawa, A. et al. (2005) Nat. Immunol. 6, 587-592.

(研究室で有する実験技術・リソースとその公開の可能性)

ASK1欠損マウスを用いた解析→様々な神経疾患に対するASK1の関与についてモデルマウスとの掛け合わせによりバリデート。その病因のメカニズム(神経細胞死や機能異常)について、個体レベル、細胞レベルで解析可能。

・活性化型ASK1認識抗体による細胞・組織レベルでの活性化ASK1の検出。その他、様々なキナーゼ及びシグナル分子の活性化検出法。

・マウス胎児由来の運動神経など初代培養神経細胞の単離・カルチャーと、様々な細胞への遺伝子導入法。

・細胞内での活性酸素の検出など→バイオプローブによる細胞染色技術。