【課題10:Whole Tissue を用いたN結合型糖蛋白質糖鎖の発現解析】

 21世紀を迎えヒューマンゲノムプロジェクトはほぼ完成した。分子生物学的手法でニューロサイエンスを研究してきた者にとっては世界地図を片手に大海へ放り出された様な状況である。ここで脚光を浴びて登場するのが「糖鎖」である。  糖鎖は細胞の表面の大部分を覆っており、細胞間や細胞-基質間相互作用に重要な役割を果たしていると考えられている。たとえばN-CAMにはポリシアル酸が結合しているが、この長さが変化するだけで神経発達段階における可塑性や長期増強誘導にも影響を与える。このように糖蛋白質糖鎖の重要性が認識されながらも、前世紀にあまり糖鎖の機能解明が進まなかったのはなぜであろうか。実ははこれまでは細胞表面や組織中で発現している糖蛋白質糖鎖を系統だてて解析する方法がなかったのである。最近、我々はN結合型糖蛋白質糖鎖を系統的に解析する方法をほぼ自動化することに成功した。わずか2mgの凍結乾燥した組織標本をスタートにヒドラジン分解、N-アセチル化、ピリジルアミノ基による蛍光標識を自動化したロボットで行い、HPLCで糖鎖を分析することが可能になった。
 本トレーニングコースでは将来を担う若い研究者の方々に最新の糖鎖解析法を実際に体験してもらい、21世紀の神経科学に役立てていただきたいと考えている。