大脳皮質の機能は、生まれ育った環境に適応するために、生後の経験や学習に依存して柔軟に発達します。このような機能発達は、大脳皮質のシナプス・神経回路が可塑的に調整されることにより生じると考えられています。我々の研究部門は、大脳皮質における視覚情報処理とその経験依存的調節のしくみを神経回路レベルで理解することを目指し、主にラット・マウスの視覚系を対象に、機能と神経回路を対応付ける解析を行っています。この解析により、情報処理の基盤となる神経回路や、神経回路・機能発達における視覚経験の役割などを明らかにしてきました。またこれに関連して、シナプス標的の分子機構や学習に伴う神経活動の変化についても解析しています。実験手法としては、スパイク活動の多点記録や2光子顕微鏡を用いたCa2+イメージングによる視覚反応の解析、脳切片標本にケージドグルタミン酸や光遺伝学よる局所刺激法とホールセル記録法を適用した神経回路の機能解析、越シナプス性ウイルストレーサーによる神経結合の形態学的解析等を用い、多面的に研究を進めています。下記の項目が、現在遂行している主な研究課題です。
(1) 特異的神経結合による微小神経回路網の形成メカニズムおよび情報処理における役割
(2) 発生期の細胞系譜に依存した神経結合と視覚反応選択性の形成
(3) 様々な発達段階にある動物や生後の視覚入力を操作した動物の視覚野におけるシナプス可塑性と視覚反応可塑性
(4) 越シナプス性ウイルストレーサーによる神経回路解析
(5) 視覚誘発性の行動課題を担う皮質神経細胞の活動