生理研研究会は講演者6人、指定討論者5人、ポスター発表者19人、参加者96人
の参加のもとで、盛況に終了しました。みなさまどうもありがとうございました。


[ポスター・アワード]

今年の生理研研究会では昨年から引き続き、ポスターセッションを開催しました。これは若手研究者の積極的な発表と交流を目的としたものです。

19枚のポスターに関して、4人の審査員による採点をもとに、二人のオーガナイザーによって最終決定しました。ポスター審査の基準ですが、

  1. 身体性というテーマとの合致度
  2. 研究の新規性・将来性
  3. データと議論の説得力

ということに重点を置きました。

その結果、ポスターアワードには沖田学さん(愛宕病院リハビリテーション科、高知大学大学院医学系研究科)によります「視覚と体性感覚の異種感覚情報の統合による身体の認識が模倣能力に与える影響 ~ 右片麻痺患者による手指構成模倣の視覚遮蔽下模倣検査~」が選ばれました。おめでとうございます。

[ポスター要旨]

視覚と体性感覚の異種感覚情報の統合による身体の認識が模倣能力に与える影響 ~右片麻痺患者による手指構成模倣の視覚遮蔽下模倣検査~

沖田 学1)2) 行廣孝3) 宮本謙三4) 森岡 周5) 越智 亮6) 椛 秀人7)
1)愛宕病院リハビリテーション科 2)高知大学大学院医学系研究科 3)一ノ瀬病院リハビリテーション科 4)土佐リハビリテーションカレッジ理学療法学科 5)畿央大学健康科学部理学療法学科 6)星城大学リハビリテーション学部 7)高知大学医学部生理学講座

【はじめに】異種感覚の統合能力は自己の身体性において重要な意味を持つ。人間は見て触れて身体を発達させ、行為の意図と感覚情報による結果の違いから運動を学習する。その重要な機能として視覚と体性感覚の異種感覚情報の統合能力が重要視されている。これを基に身体表象が形成され、行為の基盤となる運動表象が創造される (Gabrialla,2007)。我々は視覚と体性感覚の情報に準拠した行為能力を評価するために、手指模倣の際に自己の手指に対する視覚情報(周辺視機能を含む)を除き、模倣対象への視覚情報と自己手指の体性感覚情報による異種感覚情報の統合能力を浮き彫りにできる視覚遮蔽下模倣検査(以下、遮蔽下模倣)を考案した。本研究では手指構成の遮蔽下模倣を利用して、左半球損傷による右片麻痺患者の模倣能力における異種感覚情報の統合能力について検索した。

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左:吉田(オーガナイザー)、右:沖田学さん

【対 象】対象として非麻痺側で遮蔽下模倣検査を 2 つ以上誤った右利きの左半球損傷による右片麻痺患者 36 名(観念失行症状 7 名、観念運動失行症 22 名、構成障害 17 名、注意 障害 27 名 重複あり)を遮蔽下模倣障害群とした。一方、遮蔽下模倣検査を全て正答もしくは 1 つだけの誤りを認めた片麻痺患者 24 名(右麻痺 12 名:観念運動失行症状 1 名、構成障害 2 名、注意障害 7 名 重複あり、左片麻痺 12 名:構成障害 4 名、注意障害 3 名 重複あり)を対照群とした。対象者の非麻痺側に感覚障害や運動障害が無いことを確認した。そして、実験の内容を理解できなかった者や保続および注意が持続できずに誤判断した者は対象から除外した。施設からの承諾および全対象者から撮影と検査の同意を得た。

【方 法】本研究では,非麻痺側による手指構成の模倣時に検者の手指は見えるが自己の手指を遮蔽して見えないようする遮蔽下模倣検査と通常の自己の手指が視野内にある検査 (通常模倣)の 2 条件で検査成績を比較した。模倣課題は 5 種類の手指構成模倣課題とした。

検討項目として検査場面の映像記録から模倣の正答数と達成時間を記録した。2 群と 2 条件の模倣検査の関係性を明確にするために、正答数の比較では Mann-Whitney U 検定を使用した。一方、達成時間では等分散性を確認した後に各種の対応のない t 検定を適用した。なお、有意水準においては Bonferroni Correction(P<0.0125)を用いた。

【結 果】2 条件の模倣検査の正答数の比較では、対照群の 2 条件間には有意差が認められなかった。一方、模倣障害群では遮蔽下模倣の正答数が有意に少なかった。模倣検査における 2 群の正答数の比較では、遮蔽下模倣のみ模倣障害群の正答数が有意に少なかった。 特筆するべき事として、通常模倣では全ての模倣課題を正しくできるにもかかわらず遮蔽下模倣で 2 つ以上誤った模倣障害群の対象者は 17 名(約 47%)も存在した。達成時間の比較では、2 条件ともに模倣障害群が対照群よりも有意に達成までに時間を要した。

【考 察】簡易な視覚遮蔽下模倣検査により、視覚で捉えた検者の手指と自己の手指の形態を体性感覚によって照合するという異種感覚情報の統合障害と考えられる機能障害が検出された。2 条件の模倣検査では手指を認識する様相が異なる。自分の身体(手指)がここにあるという存在感(河本,2006)を遮蔽下模倣では体性感覚のみで認識しなければならない。 通常模倣ではできる模倣でも遮蔽下模倣では誤りに気付かなかった。これは模倣を誤る運動性の失行症状の中核は異種感覚情報の統合障害である(酒田,1994;Perfetti,2005)とする感覚情報の情報処理の障害を示している。さらに、本検査結果は主体的な身体を扱う研究や模倣課題を利用した脳機能研究においても考慮しなければならない要因を明示している。今後は課題要素とともに他の高次脳機能や脳機能局在との関連を検討する必要がある。


生理研研究会は講演者6人、指定討論者5人、ポスター発表者19人、参加者96人
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