大脳皮質興奮性神経細胞は中間帯において多極性細胞から軸索を決定する

大脳皮質機能研究系 大脳神経回路論研究部門

神経細胞は軸索と樹状突起という極性(neuron polarity)を持っており、これが情報伝達の方向性を決めています。これまで、この極性形成について主に海馬神経細胞の分散培養系を使って解析が行われてきました。このモデル系では、神経細胞は短い神経突起を伸縮させる無極性状態を経て軸索を形成すること(極性獲得)が知られています。一方生体内の網膜神経節細胞などは、神経上皮の頂底極性を引き継いで神経極性が形成されることが報告されており、実際の生体内ではどのように極性が形成されてくるのかについて議論の対象となっていました。
 本研究では、大脳皮質の約8割を構成する興奮性神経細胞の極性形成過程を調べました。神経上皮細胞を蛍光タンパク質で標識したのち、ここから派生した幼弱神経細胞の形態変化について、生体内の環境に近いスライス培養系を用い、タイムラプスイメージングにより解析しました。すると、神経上皮を離れた細胞は数時間にわたって中間帯で数十ミクロン程度の突起を盛んに伸縮させたのち、突然一本の突起を中間帯内に伸ばし始め、その突起がそのまま軸索になること、その後、細胞体は脳表面に向かって移動することがわかりました。これらの結果から、これら細胞は神経上皮の頂底極性を一度失ったのち、新たに神経細胞としての極性を獲得しているものと考えられます。このように、少なくとも皮質興奮性神経細胞は、生体内に近い状態で、上記モデル系に似た極性獲得過程をとることが示されました。
A. 幼弱な皮質興奮性細胞が中間帯で神経突起を伸縮させているところ。胎生12.5日のマウス脳室帯細胞を膜アンカー型GFPで標識した。32時間後にスライスを作製し、培養しながら共焦点レーザー顕微鏡で30分毎に記録をした。標識細胞はしばらく突起の伸縮を繰り返した後、突然一本の突起(赤矢頭)を中間帯=将来の白質内に伸ばし始め、その後この突起は軸索となった。B. 軸索(赤矢頭)が決まったのち、残りの神経突起は移動のための先導突起を形成した(青矢頭)。その後細胞は表層に向かって移動した。スケールバー A,B 20マイクロメーター。
 
関連review
Hatanaka Y, Yamauchi K, Murakami F
Formation of axon-dendrite polarity in situ: Initiation of axons from polarized and non-polarized cells.
Dev Growth Differ 54, 398-407 (2012)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22524609
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Neuronal polarization in the developing cerebral cortex.
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http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fnins.2015.00116/abstract

 

Hatanaka Y, Yamauchi K (2013)
Excitatory cortical neurons with multipolar shape establish neuronal polarity
by forming a tangentially oriented axon in the intermediate zone.
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