[archive] 大規模データ解析によるimaging genetics

統合失調症、気分障害、発達障害などの精神疾患の病態メカニズムは依然不明であり、客観的な診断法にも乏しく、MRIを中心とする脳画像の客観的指標としての可能性が期待される。しかし、これらの疾患と脳画像から得られる指標との関連は、小規模の研究例が散見されるものの結果が一致せず、大規模なサンプルによる研究が必要であった。これらの背景のもと、日本国内の精神科関連の研究機関で構成されるCOCORO(認知ゲノム共同研究機構)に参加し、日本全国の研究機関で収集された計6000例を越す健常者及び精神疾患患者のMRI画像を対象に比較解析を実施した。T1強調画像による脳構造解析では、単一データ処理により海外先行研究より誤差の少ない高い解析精度の実現のため、全ての画像データを生理研に集積しデータベースを構築した後、定量的脳構造解析法であるFreeSurferを用いて、皮質および皮質下構造の体積や厚さ、面積等を算出した。解析には、1例あたり12時間程度要するため、自然科学研究機構計算科学研究センターの大規模計算機システムに解析系を実装し、並列化による高速化を行った。統合失調症では、両側の海馬、扁桃体、視床、側坐核の体積および頭蓋内容積が健常者より小さく、両側の尾状核、被殻、淡蒼球、側脳室の体積が健常者より大きく、淡蒼球体積については、統合失調症において左側優位の非対称性が存在することを見出した。本成果は、革新脳にて取り上げられ、その後のプロジェクトにおける注目すべき脳構造として淡蒼球にフォーカスが当てられた。また、統合失調症では、視床の体積が健常者に比べて小さいことに加え、WAIS-IIIやUPSA-Bなどの社会機能評価点と右視床体積に、健常者ではみられない正の相関を示し、WMS-Rによる即時再生及び遅延再生課題による記憶能力と海馬および側坐核の体積に正の相関が見出された。一方、拡散MRIおよび安静時機能的MRI画像解析では、生理研にて解析系を構築後、東京大学精神科に移設し解析を分担した。また、大阪大学の脳画像データを元に、さらに大規模なサンプルサイズの国際脳画像共同研究であるENIGMA(EnhancingNeuro Imaging Genetics Through Meta Analysis)に、画像解析を含め参加した。多施設MRI画像研究で重要となる共通撮像プロトコールの策定に参加し、現在各施設で収集される画像の均一化を推進した。

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