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抗酸化物質グルタチオンが細胞から放出される「通り道」を発見

プレスリリース 2013年1月31日

 内容

  グルタチオンは、アミノ酸3つからなる抗酸化物質で、体の中で活性酸素から細胞を守る働きをしている物質です。グルタチオンは、細胞内で絶えず作られ、細胞外に放出されています。今回、自然科学研究機構生理学研究所の岡田泰伸所長らの研究グループは、ウズベキスタン科学アカデミー生物有機化学研究所とウズベキスタン国立大学のR.Z. サビロブ教授との国際共同研究によって、ラット胸腺の免疫細胞である胸腺リンパ球からのグルタチオン放出は、VSORチャネル(ブイサーチャネル:容積感受性外向整流性アニオンチャネル)を主たる「通り道」にして放出されることをつきとめました。活性酸素から細胞を守り、細胞の傷害防止、老化防止、ガン化抑止につながる研究成果です。米国科学誌プロスワン(PLoS ONE、2013年1月30日電子版)に掲載されます。

研究グループは、ラット胸腺の免疫細胞である胸腺リンパ球からグルタチオンが放出されるメカニズムに注目。細胞周囲の溶液を薄めて細胞を刺激(低浸透圧刺激)したところ、細胞が膨張し、グルタチオン放出が著しく増えることをつきとめました。ふだんは、1秒あたり8000分子(1細胞から)を放出するのですが、およそ2倍近くに細胞膨張したときには放出量は61000分子にも上昇することが判明しました。この際、グルタチオンの細胞内から外へと放出される主たる「通り道」となるのは、VSORチャネル(容積感受性外向整流性アニオンチャネル)であることを、生物物理学的・薬理学的・電気生理学的研究によって、世界で初めて明らかにしました。

グルタチオンは、自らのチオール基(SH基)を用いて、活性酸素種や過酸化物を還元して消去するという抗酸化作用を示したり、様々な毒物や薬物のシステイン残基のチオール基にS-S結合(グルタチオン抱合)することによって解毒作用を示し、これによって、細胞の傷害死やがん化や老化を防御する役割を果たしています。岡田泰伸所長は、「VSORチャネルの開閉を薬によってコントロールすることによって、細胞内でのみ生成されるグルタチオンの細胞外放出を制御し、細胞の傷害防止、老化防止、ガン化抑止をする道が、今後の研究によってひらかれる可能性があります」と話しています。

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本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

今回の発見

1.ラット胸腺の免疫細胞である胸腺リンパ球周囲の溶液を薄めて細胞を刺激したところ(低浸透圧刺激)、細胞が膨張し、グルタチオン放出が著しく増えることをつきとめました。
2.この際、グルタチオンの細胞内から外へと放出される主たる「通り道」となるのは、VSORチャネル(容積感受性外向整流性アニオンチャネル)であることを、生物物理学的・薬理学的・電気生理学的研究によって、世界で初めて明らかにしました。

図1 低浸透圧刺激によって、グルタチオン放出が亢進

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ラット胸腺の免疫細胞である胸腺リンパ球の細胞周囲の溶液を薄めて刺激したところ(低浸透圧刺激)、細胞が膨張し、グルタチオン放出が著しく増えました。ふだんは、1秒あたり8000分子(1細胞から)を放出するのですが、およそ2倍近くに細胞膨張したときには放出量は61000分子にも上昇することが判明しました。

図2 グルタチオン放出は、VSORチャネルを閉じると著しく減少

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低浸透圧刺激をうけたときのグルタチオン放出は、VSORチャネルを閉じる薬剤(フロレチンやDCPIB)を投与すると、半減しました。このことから、グルタチオンの放出の主たる「通り道」がVSORチャネルであると考えられます。その他、グルタチオンを細胞内外で輸送する輸送体となるタンパク質の働きを止める薬剤(PAH)の投与ではあまり影響がありませんでした。

また、VSORチャネルを実際に、グルタチオンが一価アニオン(陰イオン)として通って電流を発生することを証明しました。

図3 VSORチャネルは、グルタチオンの主たる「通り道」

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これまでは、主として細胞膜上の輸送体と呼ばれるタンパク質が、細胞内外でグルタチオンを輸送していると考えられていました。今回、研究グループは、低浸透圧刺激をうけたときには、VSORチャネルがグルタチオンを放出させる主たる「通り道」となることを明らかにしました。

この研究の社会的意義

VSORチャネルを介したグルタチオンの放出で抗酸化作用を高める効果
グルタチオンは、自らのチオール基(SH基)を用いて、活性酸素種や過酸化物を還元して消去するという抗酸化作用を示したり、様々な毒物や薬物のシステイン残基のチオール基にS-S結合(グルタチオン抱合)することによって解毒作用を示し、これによって細胞の傷害死やがん化や老化を防御する役割を果たしています。VSORチャネルを制御することによって、細胞内でのみ生成されるグルタチオンの細胞外放出をコントロールすることができれば、細胞の傷害防止、老化防止、ガン化抑止へつながる道が、今後の研究によってひらかれる可能性があります。
また、脳では神経細胞よりもアストロサイトと呼ばれるグリア細胞の方がより多くのグルタチオンを含有しており、脳虚血や脳浮腫や脳過興奮毒性(グルタミン酸毒性)時においては、アストロサイトが細胞膨張を示し、グルタチオンを放出して、神経細胞に保護的に働く可能性があります。これも、VSORチャネルを制御することによって、これらの脳の病態時における神経細胞死を防御・救済する道が、今後の研究によってひらかれる可能性があります。

論文情報

Volume-Sensitive Anion Channels Mediate Osmosensitive Glutathione Release From Rat Thymocytes
Ravshan Z. Sabirov, Ranokon S. Kurbannazarova, Nazira R. Melanova, Yasunobu Okada
米国科学誌プロスワン(PLoS One、2013年1月30日電子版)

お問い合わせ先

<研究に関すること>
岡田 泰伸 (オカダ ヤスノブ)
自然科学研究機構 生理学研究所 所長

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 
 

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