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細胞系譜に依存した双方向性神経結合形成は胎生期の遺伝子発現制御により規定される

2016年12月02日

 大脳皮質の正常な発達には、遺伝的プログラムにより神経結合が形成される過程と、それに引き続きその神経結合が生後の経験に依存して再調整される過程が必要である。遺伝的プログラムによる神経結合形成に関連して、これまでに、胎生期に同じ神経幹細胞から発生した姉妹神経細胞同士は、生後の発達過程において神経結合を形成しやすいことが報告されている。したがって、胎生期に姉妹細胞群が何らかのメカニズムで標識されており、それが生後の神経結合形成時期に認識される必要があると考えられるが、その分子メカニズムは明らかにされていなかった。
 今回我々は、生後発達期のマウスの大脳皮質体性感覚野4層において、胎生期に同じ神経幹細胞から発生したクローン興奮性神経細胞間の結合を同時ホールセル記録法により解析した。その結果、クローン神経細胞同士には、そうでない細胞同士に比べて、双方向性神経結合がはるかに高い確率で形成されていることを見出した。また、胎生期にのみ発現するDNAメチル化酵素(Dnmt3b)による遺伝子発現制御が双方向性結合の形成に必要であることを、Dnmt3b遺伝子を欠損させた神経細胞の結合解析により明らかにした。従って、Dnmt3bは、胎生期の大脳皮質の発生初期にのみ働いているにもかかわらず、その時期の遺伝子発現制御が生後の神経結合形成に影響を与えていると考えられ、これらの結果は、神経回路形成に胎生期のエピジェネティックな遺伝子発現制御が関わることを示唆する。
 さらに我々は、Dnmt3bのターゲット遺伝子の中から、クラスター型プロトカドヘリンがクローン神経細胞間の双方向性結合の形成に重要であることを見出した。大阪大学の八木健研究グループにより発見されたクラスター型プロトカドヘリンは、58種類の分子からなる細胞接着因子である。個々の神経細胞において、この58種類の中から選ばれた約15種類が発現しており、その15種類の選択にDnmt3bが関わることが知られている。その組み合わせは個々の神経細胞で異なることから、組み合わせパターンにより神経細胞に個性を持たせていると考えられている。このクラスター型プロトカドヘリンを欠損したクローン神経細胞間の神経結合の解析により、細胞系譜特異的な双方性結合が形成されないことを見出した。この結果は、クローン神経細胞がお互いを認識する分子機構に、クラスター型プロトカドヘリンが関与することを示唆する。

Tarusawa E et al., (2016) Establishment of high reciprocal connectivity between clonal cortical neurons is regulated by the Dnmt3b DNA methyltransferase and clustered protocadherins. BMC Biol. 14(1):103.
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マウス大脳皮質における同じ神経幹細胞から発生した神経細胞の蛍光標識法と電気生理学的解析



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発生期の細胞系譜に依存した双方向性神経結合形成の分子機構仮説