4 研究連携

各研究機関間での連携研究は、自然科学研究機構発足の一つの目的とされている。中期目標には「自然科学分野の関連する研究組織間の連携による学際的研究の推進を図る」と、また中期計画には「統合バイオサイエンスセンターにおける研究の推進など、研究所間の連携による新たな分野形成の可能性を検討する」と記載されている。分野間研究連携を促進するために、機関の長らにより構成される研究連携委員会と、その下部組織として研究連携室(室長は勝木理事)が設けられている。2007年度は、生理学研究所からは、井本教授と永山教授が研究連携室員として参加しているが、会議の回数から見るかぎり研究連携室の活動は前年度に比較してやや低調であった。これは下記のサブグループの活動や機構連携研究が軌道に乗ってきているためと考えられる。

これまでの活動としては、研究連携室の企画として「イメージングサイエンス」と「科学における階層と全体」の2つのテーマで研究連携が模索されている。また『国際的研究拠点形成』と『学際的研究拠点形成』という機関が中心となる企画とともに、研究者グループレベルの『新分野創成連携プロジェクト』が推進されている。

4.1 機構連携プロジェクト「イメージングサイエンス」

2005(平成17)年度より、生理研、基生研を中心として機構連携研究「イメージングサイエンス」が進められている。2007年度は、永山教授(岡崎統合バイオサイエンスセンター)が代表となり、前年同様「超高圧位相差電子顕微鏡をベースとした光顕・電顕相関3次元イメージング」をテーマに研究を行った。連携研究参加者は、以下の通りである。

<機構内>
◎永山國昭

岡崎統合バイオサイエンスセンター 教授
Danev, Radostin
岡崎統合バイオサイエンスセンター 特任助教

瀬藤光利
岡崎統合バイオサイエンスセンター 准教授

池中一裕 生理学研究所 教授

重本隆一 生理学研究所教授

川口泰雄 生理学研究所 教授

窪田芳之 生理学研究所 准教授

小野勝彦 生理学研究所 准教授

福見-富永知子 生理学研究所准教授

深澤有吾 生理学研究所 助教

野田昌晴 基礎生物学研究所 教授

新谷隆史 基礎生物学研究所 助教

片岡正典 計算科学研究センター助教

<機構外>
原島秀吉 北海道大学大学院薬学研究院 教授

Dr. Youn-Jong Kim

韓国基礎科学研究所(KBSI)電子顕微鏡部

光顕・電顕相関イメージング法の創出を行うことがこのプロジェクトの目的である。この新手法は、生物試料において、同一サンプル同一視野に対し、動態を光学顕微鏡でとらえ、超微細構造を電子顕微鏡で観察することを可能とする。2007(平成19)年度は、2006(平成18)年度の研究成果の上に立ち、研究を深化させるため次の目標を置いた。

この中で、1) ~ 5)の研究に進展があった。特に光学用染色剤で染色した試料の位相差電顕観察において、光顕染色剤が予想以上に高コントラストで電顕位相差像を与えることが発見され、光顕・電顕相関に大きな希望を与えた。

昨年に引続き、イメージングサイエンスのシンポジウムを共催の形で行う事を計画した。岡崎で毎年開かれる生理研国際シンポジウムは2007年度で38回目を迎えるが、今年は分担者の一人生理研重本隆一が世話人となり、“Stock and Flow of Functional Molecules in Synapse”が3月17日から19日に開かれる。イメージングサイエンスの共通の研究対象が神経系であり、上記シンポジウムの開催内容と合致したため、共催で行うこととした。本連携研究からは、永山國昭、重本隆一、窪田芳之、小野勝彦、瀬藤光利、新谷隆史、片岡正典らが参加予定である。

4.2 機構連携プロジェクト「自然科学における階層と全体」

2005(平成17)年度より、分子研、核融合研を中心として、機構連携プロジェクト 「階層と全体」が進められている。2006(平成18)年度以降、「プラズマ系におけるシミュレーション」 と 「生物系における情報統合と階層連結」 との 2つの副課題を設定して、それぞれの内容を分担すると共に、研究成果の報告と議論を行う全体の研究会を継続して行い、全体をとりまとめるという方針でプロジェクトを推進している。

生理研からは、久保義弘教授(神経機能素子研究部門)と箕越靖彦教授(生殖・内分泌発達機構研究部門)が、コアメンバーとして、それぞれ 「分子階層における情報の統合による細胞階層での機能の解析」 および 「分子階層における情報の統合による細胞階層での機能の解析」という課題で参加している。

「生物系における情報統合と階層連結」の目標は以下の通りである。生体機能の成り立ちを知るためには、各階層において「階層を構成する素子(エレメント)についての理解」から始まり、「階層内でのエレメントの複合体化と情報のやりとりによる機能創出機構」の解明、さらには「上位階層への連結機構」を明らかにすることが必要である。分子・細胞の階層を例にあげると、各分子の機能を明らかにするだけではなく、分子複合体形成による新規機能の創出、分子間の情報伝達による機能統合を知ることにより、細胞機能の仕組みが理解できると考えられる。そこで、遺伝子や蛋白質など分子レベルの情報が、細胞機能のようなマクロなレベルへ伝達される過程を理解することと、分子が担う情報がよりマクロな階層で統合され細胞や組織さらには個体の振る舞いが創発される過程を理解することを目標として活動する。

今年度、これまでの活動のとりまとめとして、国内シンポジウムおよび国際シンポジウムを開催した。

国内シンポジウム

5月16, 17日に、岡崎にて第4回のプロジェクト全体の国内シンポジウムを開催した。このシンポジウムでは、プラズマ系と生物系に分かれず、全講演をプラズマ・生物両系の共通セッションとして行い、分野を横断する討論を行った。生理研関連としては、曽我部正博教授(名古屋大学、生理研客員教授)が特別講演を行い、久保義弘教授と富永真琴教授(岡崎統合バイオ、生理研)が一般講演を行った。講演者リストは別表のとおりである。

国際シンポジウム

2008(平成20)年2月21--23日に、岡崎にて“Hierarchy and Holism(階層と全体)”と題した国際シンポジウムを開催した。このシンポジウムは、全体を横断する討論を行うことを目指して、プラズマ・生物両系共通で行う Plenary session と、より密度の濃い討論を行うために両系に分かれて行う Parallel session とで構成している。

本シンポジウムの目的は、次のように述べられている。

The aim of this symposium is to bring together natural scientists working in the vast and diverse scientific fields and discuss what the hierarchy in natural sciences is, and how we can understand natural systems as a whole, from the cross-cultural and interdisciplinary viewpoint. The symposium consists of several plenary talks and several parallel session talks. All presentations will be given by prominent scientists in various natural scientific fields spanning from biology to astrophysics. 

本シンポジウムの目的は、自然科学の様々な異なる領域の研究者を集め、自然科学における階層とは何か、どのようにして自然を全体として理解できるか、を文化横断的に多領域の視点から議論することにある。シンポジウムは、数題のプレナリーレクチャーと数題の(平行して行われる)発表講演からなっている。発表は、生物学から天文学にいたる様々な自然科学領域の著明な科学者によって行われた。

Plenary sessionでは、下記10名の講演者が講演を行った。生理研関連としては、Rutgers University (USA)のGyörgy Buzsáki 教授が、“Integration and Segregation of Neuronal Assemblies by Oscillatory Synchrony in the Brain” と題する講演を行い、また、国際電気通信基礎技術研究所脳情報研究所(ATR Computational Neuroscience Laboratories)の川人光男所長(生理研客員教授)が、“Hierarchy of Computation and Brain Machine Interface”と題する講演を行った。

Parallel session では、計9の講演者が講演を行った。生理研関連としては、京都大学大学院理学研究科の平野丈夫教授が、“Motor Learning Mechanism: From Molecules to an Animal”と題する講演を行い、また大阪大学大学院情報科学研究科の四方哲也教授が、 “Fitness-induced Attractor Selection”と題する講演を行った。講演者リストは、別表を参照。

4.3 分野間連携研究事業「バイオ分子センサーの学際的・融合的共同研究」

2005(平成17)年度に発足した本研究事業は3年目を迎え、バイオ分子センサーの基礎的・多次元的研究を、自然科学研究機構内の各研究所の研究者間の分野連携的な個人提案型計画共同研究を中核にして展開した。またこれらを基礎として全国の大学や研究所や民間研究機関、更にはマックスプランク研究所やウズベキスタン国立大学などの外国研究機関との学際的共同研究を進めた。そして、岡崎3研究所及び岡崎統合バイオサイエンスセンターの研究者が精力的に解析しているバイオ分子センサーである電位センサー、Na+センサー、温度センサー、浸透圧センサー、容積センサー、グルコースセンサー、侵害刺激センサー、アミノ酸レセプター等のセンサー膜タンパク質を中心に、FRET法、パッチクランプ法、二光子レーザー顕微鏡法、免疫電顕法、動物行動解析法など多彩な技術を駆使して、これらのバイオ分子センサーの構造と機能に関する研究を分野連携的に展開した。

生理研からは、岡田所長(機能協関研究部門)、井本(神経シグナル研究部門)、永山(ナノ形態生理研究部門)、重本(脳形態解析研究部門)、鍋倉(生体恒常機能発達機構研究部門)、箕越(生殖・内分泌系発達機構研究部門)、岡村(神経分化研究部門)、富永(細胞生理研究部門)がコアメンバーとなり、基礎生物学研究所 野田昌晴教授(統合神経生物学研究部門)、分子科学研究所 宇理須恒雄教授(生体分子情報研究部門)も加わって研究を推進した。研究推進のために数名の特任助教を採用した。

2007年度は、本連携研究推進の研究課題を機構内研究者(共同研究も含めて)から主に設備備品補助を目的として公募を行い、以下の10件を採択して研究を推進した。

また、本連携研究に関わる若手研究者(特任助教、博士研究員、大学院学生)の育成に必要な消耗品費、旅費の支援を目的として公募を行い、以下の13件を採択して研究を推進した。

加えて、本連携研究推進に関連する国際共同研究推進のために、外国人研究員招聘の公募を行い、以下の3件を採択した。本連携研究推進に関連する国際共同研究推進のために、外国人研究員招聘の公募を行い、以下の3件を採択して研究を推進した。

その他の催し物としては、下記の活動を行った。

2007(平成19)年8月30、31日に岡崎カンファレンスセンターで「五感に関わる分子センサーの多彩な機能」と題したレクチャーコースを開催し、9人の機構外講演者によるレクチャーの後、活発な討論を行った。総参加者135名。講演者リスト のとおりである。

2007(平成20)年7月23-27日に岡崎で開催された「第18回生理科学実験技術トレーニングコース生体機能の解明に向けてー分子・細胞からシステムレベルまでー」で、以下の3つのコースを支援した。総参加者31名。