12 知的財産

12.1全体的な動向

2002年11月に知的財産基本法が制定され、2003年3月には内閣に知的財産戦略本部が設置される等、政府の主導により知的財産の創出・取得・管理・活用の推進が進められてきた(詳細に関しては、第12号以降の点検評価報告書参照)。その具体的な内容は、時々の政府の意向によりかなりの変化が見られる。2007年5月31日に内閣府知的財産戦略本部より発表された「知的財産推進計画2007(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/070531keikaku.pdf」によると、特許審査の迅速化、模倣品・海賊版対策、アニメ、マンガ、食文化等のコンテンツなどが重視されているように見受けられる。また計画ではこれまでに指摘されてきた具体的な問題点に対処しようとする姿勢が伺われる。参考までに、計画の本編から、関係深いと思われる部分のタイトルを引用しておく。

第1章 知的財産の創造

2.大学等の知的財産活動の現場の課題を解決する

計画書が発表された5月以降、内閣が変わるなど状況が大きく変化しているために、これらの計画が重点的に実施されるかは確かではないが、生理学研究所として実施すべき事項に関しては取り組んでいく必要がある。

なお利益相反の問題は、研究者倫理とも関係があるが、知的財産との関係がより深いと考えられるので、この章に記述する。

12.2 大学共同利用機関知的財産本部整備事業

大学共同利用機関知的財産本部事業は、2003年度より5年間の予定で開始した4大学共同利用期間法人の合同の事業であり、国立情報学研究所に本保を置き、知的財産の専門家による諸規定の整備、知財管理システム(知財データベース+特許出願システム)の構築、教育(l各種セミナーの実施等)を行なってきた。本事業は2007年度で終了するため、この事業に代わる制度に関して、自然科学研究機構の知的財産委員会等で今後の方針が検討された。その結果、今後も4機構での情報交換は必要であるが、これまでのような合同の組織は特に必要がない、との結論に至った。

大学共同利用機関知的財産本部の存在意義は、特に制度整備の段階で非常に大きかった。知的財産に関する知識を十分に有している職員がほとんどいないという状況で、知的財産に関する諸規定を作る事は困難であり、知財本部が雛形をつくり各機構がそれを基に規定を制定するという手法は、無駄を省く上で有効であった。また数字上、特許出願数の増加も見られた。これらの成果は、知財本部知財マネジャー(企業出身者)のリーダーシップによるところが大きいと思われる。しかし知財マネジャーが予想した程にはロイヤリティ収入の増加には結びつかなかったのも事実である。

12.3 生理学研究所での取り組みと課題

生理学研究所では、いろいろな研究成果を特許として出願することを促してきた。2004年以来、科学技術振興機構(JST)の専門家による特許発明相談を行ない、その助言に従って年間約10件の特許出願を行なってきた。しかし出願後の状況は一般的にはあまり芳しくなく、実用化の見込みのある例は少数である。今後の手続き費用と見込まれる収入のバランスを考え、審査請求の時期までに引き合いのない申請は、特に理由がない場合は権利を放棄することとしている。

このような事態は、技術移転の努力が足りないためであると言えばそれまでであるが、現状では研究所としてそのような活動をするだけの人的・経済的余裕はない。従来、大学等での特許出願は企業とタイアップして行なうというのが常識であったように思われるが、現状ではそのような方法が無難である様に思われる。

大学共同利用機関としての知的財産の創出は発明・特許に限ったことではない。むしろ社会に共有できる知識・情報の提供にもっと重点が置かれるべきである。技術課を中心として開発が進められている生理科学技術データベースは、コンテンツの充実が進んできており、今年度中に一般公開が予定されている。

12.4 利益相反マネジメント

特許等の知的財産を実用化していく場合、産業界等との連携は不可欠である。そのような場合に、本来の職務との兼ね合いが問題となってくる。利益相反マネジメントの基本的な考え方は、産業界等との連携活動を否定するのではなく、社会一般の常識から考えて妥当と考えられる範囲で産業界等との連携活動を促し、知的財産の活用を促進するものである。

利益相反マネジメントの体制は、知的財産関係の体制整備の中でも最後まで残った課題であった。その理由としては、自然科学研究機構の研究が基本的には基盤研究であり、早急な実用化とあまり関係がないこと、本来主導的役割を果たすべき機構本部の機能が十分発揮されなかったこと等があげられる。

利益相反マネジメントは、自然科学研究機構利益相反ポリシー(平成16年4月1日制定、平成18年3月31日一部改正)に基づいて行なわれる。このポリシーの下に自然科学研究機構利益相反委員会規定(平成18年3月30日)がある。機構の委員会は個別の事例を扱うのではなく、各機関の利益相反ガイドラインの承認等をその任務としている。従ってガイドラインの作成から個別の事例の判断は、各機関に委ねられていることとなる。

生理学研究所では、2007(平成19)年1月24日に生理学研究所利益相反委員会で利益相反ガイドラインを作成し、翌1月25日に機構利益相反委員会にて一部修正の上承認された。

生理学研究所で利益相反マネジメントの対象となったのは、株式会社テラベースである。テラベースは、永山國昭教授が開発した位相差電子顕微鏡(テラベース所有)を用いるベンチャービジネスである。テラベースに、研究室を賃貸すること、自然科学研究機構発の呼称を認めること等が利益相反委員会の審議内容であった。

なお特許の事業化とかベンチャービジネスというと、巨額な利益が個人の懐に入る様に一般的に思われているようであるが、そのような場合は少ないのが現実である。

12.5 発明出願状況

2006年度点検評価報告書(第14号)以降のもの

  1. 永山國昭
    • 「電子顕微鏡用位相板及びその製造方法」
    • 出願日 2006年11月1日
    • 出願番号 特願2006-298292号(永山IPへ譲渡済)
  2. 箕越靖彦・斉藤久美子・志内哲也
    • 「2-デオキシグルコースの代謝速度の測定方法」
    • 出願日 2007年2月6日
    • 出願番号 特願2007-026616号
  3. 永山國昭
    • 「細胞などの有機物内の目的分子の位置を特定する方法」
    • 出願日 2007年2月7日
    • 出願番号 特願2007-027692号
  4. 片岡正典
    • 「架台ユニット、組み立て架台及び脚注付き組み立て架台」
    • 出願日 2007年6月15日
    • 出願番号 特願2007-158869号
  5. 片岡正典・永山國昭
    • 「核酸塩基置換修飾法、核酸塩基選択的置換修飾法及び核酸塩基置換修飾体」
    • 出願日 2007年8月8日
    • 出願番号 特願2007-207083号
  6. 片岡正典・永山國昭
    • 「修飾ポリヌクレオチド及びその製方」
    • 出願日 2007年9月10日
    • 出願番号 特願2007-233592号
  7. 富永真琴
    • 「評価方法」
    • 出願日 2007年9月28日
    • 出願番号 特願2007-254938号
  8. 瀬藤光利
    • 「質量分析装置」
    • 出願日 2006年2月27日
    • PCT出願番号 PCT/JP2006/303614