巻頭言

生理学研究所は“人体と脳の働きとそのメカニズムを解明する”という目標に向けて、第1に世界トップレベルの研究を行い、第2に国内外の研究機関・研究者との共同利用研究を推進し、第3に若手研究者の育成・発掘をするという使命を持っています。2008年度においても、それらの使命を果たすための努力を力一杯してまいりました。また、生理学研究所は1993年度より毎年、その活動を自己点検・評価し、その結果を報告書にまとめてまいりました。本年度も、この点検・評価の作業は「運営会議」のもとに置かれた所外委員4名を含む「点検評価委員会」において、研究所全体の活動評価と研究部門の業績評価の2つを柱として行われました。後者については、例年通りおよそ5年毎に選ばれた対象3部門それぞれに対して3名(うち1名は外国から)の所外専門委員によって行われました。本年度の自己点検・評価においては、昨年度に私から提出しました「生理学研究所の目標・使命と今後の運営方向」(いわゆる“生理研グランドデザイン”)生理研ホームページ「生理研案内/目標・使命・運営方法」参照 に沿った形ででも行われることになりました(第Ⅲ部「研究総括」参照)。それらの2008年度点検・評価をとりまとめたものが本書であります。皆様からの忌憚のない御意見をいただければ、大変ありがたく存じます。

第1の使命である先導的な、即ち世界トップレベルの、研究の展開については、論文引用度指数(2002--2006年)からみた“大学ランキング”(神経科学分野第1位:本文参照)においても、科学研究費補助金採択率(2008年度第7位:文部科学省ホームページ参照)においても常に上位を占めていることからも、それなりの役割を果たしているのではないかと自負しています。2008年4月から空席であった「神経分化研究部門」の教授に吉村由美子氏が2009年2月より着任するなど新たに若い力がスタッフとして何人も加わることとなり、2009年度から生理研は更にパワーアップすることになりました。第2の使命である共同利用研究の推進については、「一般共同研究」、「計画共同研究」、「超高圧電子顕微鏡共同利用実験」、「磁気共鳴装置(fMRI)共同利用実験」、「生体磁気計測装置(MEG)共同利用実験」、「日米脳共同研究」、「国際シンポジウム」、「研究会」という多彩・多数の事業に加え、2008年度からは「国際研究集会」の公募・採択による開催も開始しました。更に、2008年度から新たに措置された「特別教育研究経費」からのサポートを得て、多分野の全国の脳科学研究者とネットワークを組みながら多次元的な共同研究を展開するための場として「多次元共同脳科学推進センター」を新設しました。第3の使命の若手研究者の育成については、総合研究大学院大学の生理科学専攻として大学院生教育を行うのみならず、毎夏に「生理科学実験技術トレーニングコース」を開催したり、2008年度からは新たに多次元共同脳科学推進センターにおいて若手脳科学者育成のためのモデル講義を2回開催するなど、全国の若手研究者・大学院生・学部学生を対象とする取り組みにも力を入れてきました。更には、新たに「情報処理・発信センター」を設置し、その広報展開推進室を中心にして未来の若手研究者の発掘のための広報・アウトリーチ活動にも力を入れてまいりました。その結果、新聞報道数(2007年度73件に対し2008年度は2月17日現在で155件)においても、生理研ホームページアクセス数(2007年度1,729万件強に対し2008年度1月8日現在で既に1,736万件で年度末には2,000万件を超す勢い)においても飛躍的な増加が見られました。2008年11月には「一般公開」を開催して約2,000名(2005年度の前回は約1,800名)の参加者を得ました。また、2008年12月からは「広報展示室」を開設し、一般の方々からの見学者数も2月現在で460名(2007年度は192名)と増加しています。このように生理研の“露出度”や“知名度”の向上は、私達所員が更に襟を正しながら本務に力を注ぐことに力を貸してくれるにちがいありません。

生理学研究所は、基礎科学研究を行う大学共同利用機関として、その創設来の使命の達成を目指して、所員全員が一丸となって更に努力を続けてまいりたいと考えております。皆様方からの更なる御支援と御鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

2009年 3月
生理学研究所長   岡 田 泰 伸