11 基盤整備

研究所の研究基盤には様々な施設・設備があり、それらの設置、保守、更新にはいずれもかなりの財政的措置を必要とするため、基盤整備の計画は長期的な視野をもって行われなくてはならない。しかし、特に最近は財政も逼迫し、研究の進歩にともなった施設整備が十分に進められなくなってきている。

11.1 老朽対策

明大寺地区には研究実験棟、超高圧電子顕微鏡棟、共通棟Ⅰ(電子顕微鏡室)、共通棟Ⅱ(機器研究試作室)、動物実験センター棟、MRI 実験棟がある。これら棟は築後26年を越え、建物、電気設備、機械設備、防災・防火設備も経年劣化により、大型改修または設備の更新が必要になっているが、その経費の確保が難しく、事故や故障への一過性の処理対応に終始している。今回は、その処理対応の報告と今後の課題の報告である。

① 建築全般:
建物に関わることでは、地震に対する耐震補強と雨水の浸水、漏水がある。前者は、岡崎3機関の耐震診断調査の結果から、明大寺地区研究実験棟がその対象であり、岡崎3機関・耐震補強計画が立てられ、順次進められる事になっている。今年度基生研実験研究棟が完了し、来年度の予算で分子研の耐震改修が認められた。岡崎3機関のうち2機関の耐震改修が認められたことから、数年内に生理研の耐震改修が行われる可能性が高いと考えられる。耐震改修は、耐震工事とともに老朽化した配管等を取替える等の大がかりな工事であり、研究室を一時的に移転することが必要である。動物飼育室の問題もあり、耐震改修工事を行うとなると期間中のスペース確保が大きな課題となる。

後者については、今年8月下旬、集中豪雨が岡崎市を中心にあり、実験棟の実験室で浸水、漏水が4室、超高圧電子顕微鏡棟の電子顕微鏡室でも雨漏りがあり、その補修工事を行った。建物劣化によるこうした問題が、今後も頻発が懸念され、その場合の経費の確保が引き続き問題となっている。

② 電気設備:
電気設備においては、施設課が担当する研究所等の基盤設備(実験棟の電気室のハロン消火設備予備電源取替工事、動物実験センターの高圧引込盤改造工事、実験棟地階変電設備の更新工事)は、その必要性、重要性、優先性から順次計画的に進められている。実験研究における基盤設備としては、停電時の緊急用電力供給設備として非常用パッケージ発電機がある。先年装置の故障が起き、応急処置により、現在も、稼働させている状態で、いつまた再故障が起きてもおかしくない状態である。早急な更新が必要となっている。  

③ 機械設備:
機械設備の経年列化が進んでいる事故が起きた。各実験室には、空調機用の冷却水配管が引かれている。今回、計画停電後の復電において、冷却水ポンプの稼働を行い、冷却水を循環させたところ、一実験室の配管から大量の漏水があり、その階の3室と階下の2室への大量の浸水があり、実験機器への被水事故が発生した。その後の調査において、冷却水配管に経年劣化による亀裂が入り、今回、急激な給水圧力が配管にかかり破断したことが判明した。さらにその亀裂による漏水の発見が遅れたのは、配管に巻かれた断熱材がその漏水を吸収し、室内への漏水として見られなかったためである。一方配管は長年の漏水により相当な腐食が配管全体に及んでいることがさらに判明した。こうした現象は一部所に限らず、全配管に及んでいることが推測されるが、配管の全交換工事となると、相当な経費を必要とするので、当面は漏水が置きた場合に給水を一時停止するバルブの交換作業で対処することとなった。今後根本的な対策が必要となっている。

空調機は、機械設備の基本設備で、居室を含め研究実験棟だけで300 基近くが設置されている。これまでは基幹整備により順次交換されてきたが、現在そうした整備計画も頓挫したままで、そうした中で、経年劣化による故障修理と部品供給の停止による一式全交換を、本年度は、8基(全交換台数:3基、修理台数:5基)行った。こうした経費も大きな負担を強いている。また、パッケージ型空調機の設置も多く、室の効率的な使用の障害となっているので、撤去を進めたいが、その経費も大きく、緊急を要する実験室の改修以外、進まない状況にある。またパッケージ型空調機の配管でも劣化による漏水事故が起きており、早急な対応が必要となっている。

研究実験棟には各種の配管がされている。その配管のなかには稼働ポンプを付け、循環機能を持つものがあるが、そのポンプの経年劣化もおおきな問題になってきている。こうした中で、雨水排水ポンプの故障があり、取替工事を行った。

その他、化学排水配管修理、廃水処理施設の排水弁取替工事を行ったが、こうした交換部品のある修理は良いが、給湯設備である電気ボイラーのヒーターのような部品は経年により入手がもう不可能で、そうした場合には設備一式の交換となり、こうした設備についても年次的な交換計画が必要となっている。

④ 防災・防火設備:
建物の防災・防火設備として自動火災感知器、防火扉、消火栓、消火器、非常照明、非常口誘導灯が備えられている。これらは事務センター・施設課およびエネルギセンターにより毎年定期的に点検整備され、維持管理されているが、こうした設備の劣化も進んでおり、更新計画が必要となっている。

11.2 スペースマネジメント

研究活動の変化に対応した円滑な利用とその効率的な活用が実験室使用に求められているが、研究所ではスペース委員会を設け、室の効率的な利用を進めている。今年度、多次元共同脳科学推進センター、脳科学研究戦略推進プログラム、動物実験コーディネータ室の設置、多光子顕微鏡室の拡充、客員教授室の整備があり、各室の設置を共通室の見直しにより対処した。

11.3 中長期施設計画

生理学研究所では当面の間5つの研究テーマを柱として研究を進める方向性が定められた。これらの研究方針を支援するために施設整備に取り組んでいる。特に「認知行動機能の解明」の研究支援のために「マウス・ラット行動様式解析施設」を充実させる。「より高度な認知行動機構の解明」のため、「霊長類の遺伝子改変施設」を設置する。「四次元脳・生体分子統合イメージング法の開発」のためには、神経情報のキャリアーである神経電流の非侵襲的・大域的可視化を行う。またサブミリメートル分解能を持つ新しいfMRI法やMEG法(マイクロMRI法/マイクロMEG法)の開発を中心に、無固定・無染色標本をサブミクロンで可視化する多光子励起レーザー顕微鏡法を開発し、レーザー顕微鏡用標本をそのままナノメーター分解能で可視化することができる極低温位相差超高圧電子顕微鏡を開発する。これらの三次元イメージングの統合的時間記述(四次元統合イメージング)によって、精神活動を含む脳機能の定量化と、分子レベルからの統合化、およびそれらの実時間的可視化を実現する。

11.4 ネットワーク設備

インターネット等の基盤であるネットワーク設備は、研究所の最重要インフラ設備となっている。ネットワーク設備の管理運営は、岡崎3機関の情報ネッワーク管理室を中心に、各研究所の計算機室が連携し、管理運営に当たっている。生理研では情報処理・発信センター ネットワーク管理室の技術課職員2名が、ネットワークの保守、運用などの実際的な業務を担当している。

ネットワークのセキュリティに関しては、岡崎3機関で共通の対応がなされ、接続端末コンピュータの管理、ファイアウォールの設置、アンチウイルスソフトの配布、各種プロトコールの使用制限などの対応がとられている。下記が現在の問題点で、機能増強は見送り機能の現状維持を基本に対応せざるをえない。機器、設備の更新、人員の増強が必要となっている。

1. ネットワークの増速ができない
PCは通信速度1 Gbps対応にもかかわらず、提供しているネットワークは100 Mbpsで10分の1の速度にしか対応していない。これには、2001年度に導入した岡崎3機関で100台を超えるエッジスイッチの更新と、1995年度に導入した100 Mbpsまでしか保証できない情報コンセントの改修工事を必要とする。

2. 7年間24時間運転してきたネットワーク機器の故障率の増加

3. 無停電電源装置の電池寿命により瞬時停電に対応できない

4. ハードウェア、ソフトウェアのメーカーサポート打ち切り
サービスを停止しないように内部措置にて更新を行っている。
2006年度:Anti Virus、ネットワーク監視ソフト: 2007年2月に更新
2007年度:メールサーバ等ワークステーション: 2007年度末に更新
2008年度:ファイアウォール機器: 2008年度10月に更新
2009年度:基幹ノード装置: 対応検討中

5.新旧機器の協調的運用による複雑化したネットワークのため,保守作業は増加し,同時にネットワークの停止が多発している

6.ネットワークインフラや情報量の拡大、virusやspamなどの脅威の増加、これらの対応機器導入等による運用人員不足

11.5 省エネ対策

  岡崎3機関は省エネルギー法に基づき明大寺地区と山手地区が第1種エネルギー管理指定工場に指定されているため、これらの地区においてエネルギーの使用が原単位年平均1\%以上の改善を義務付されている。このことから、施設課では改修工事において計画的に各種の省エネルギー対策の実施、また、省エネルギーの意識向上の一環として毎月の教授会において明大寺、山手地区における電気、ガス、水の使用量の報告、毎月1日を省エネルギー普及活動の日として省エネルギー対策事項を機構オールで配信及び省エネ垂れ幕の掲示を行っている。研究所では、夏、冬用の省エネポスターを作成し、啓蒙に努めている。  

11.6 生活環境整備

山手地区では、研究支援センターの設置の見通しがつかないなかで、山手地区職員の生活環境整備が山手地区連絡協議会で議論され、進められてきた。今年度、研究棟周辺の環境整備がアンケート調査され、その調査結果に基づき、高木植樹と小道による憩いの場の整備が行われる。一方研究棟内には生協、自動販売機等による生活環境の整備も進められてきたが、最近の経済状況による業者の営業破綻により自動販売機の販売が中断される事態が起きており、そうした事への代替整備が即求められている。 

11.7 電子顕微鏡室

電子顕微鏡室は、生理学研究所と基礎生物学研究所の共通実験施設として設置され、各種電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、生物試料作製のための実験機器、写真処理・スライド作成に必要な機器が設備され、試料作製から電子顕微鏡観察、写真処理・作画までの一連の工程が行える施設である。電子顕微鏡室は検鏡室、顕微画像解析室、試料作製室、暗室、写真作画室に大別される。明大寺地区(共通施設棟Ⅰ地下電子顕微鏡室)には透過型電子顕微鏡が3台、走査型電子顕微鏡が1台あり、共焦点レーザー顕微鏡(正立)が1台ある。山手地区(山手2号館3階西電子顕微鏡室)には透過型電子顕微鏡が6台設置され、研究目的に応じて利用できるようになっている。

電子顕微鏡の利用率については、明大寺地区と山手地区との間で大きな差がみられ、山手地区の電子顕微鏡ならびに付随機器は総じて利用率が高いが、明大寺地区の電子顕微鏡ならびに付随機器の利用率は総じて低いという傾向がみられる。これは電子顕微鏡を利用する研究室が山手地区に集中しているためであり、今後、研究者の流動と共に変わる可能性がある。

電子顕微鏡室で利用申請される年間の研究の総件数は、ここ3年間の平均で43件である。 うち30件は機構内、7件は国内の大学・研究所で、残り6件は国外の研究者のものである。 電子顕微鏡室の予算が平成15年度から削減されたことに伴い、保守契約費を見直し、4台保守契約していたものを2台に減らし、その内容も年2回から年1回の点検とした。また、両地区で1台ずつ保守契約を行っている装置があるようにしていたが、明大寺地区の電子顕微鏡の使用率の低下に伴い、明大寺地区の電子顕微鏡の保守契約の停止を予定している。保守契約を行っていない装置については原則として部品を取り寄せ、技術職員により交換を行っており、保守契約の停止を予定している機器に関しても来年度より同様の対応を行う予定である。

電子顕微鏡室の問題点としては、①技術職員が1名であるため、山手地区と明大寺地区を往復する為連絡がとりにくく、即時に対応ができない。②電子顕微鏡画像の電子化促進のため記録装置としてCCDカメラ(2000×2000ピクセル以上)の装着が望まれる。\ajMaru{3}走査型電子顕微鏡が明大寺地区にしかないため山手地区にも1台設置が望まれる、といった点が挙げられる。

①に関してはこれまでPHS電話の利用やEメール、連絡ボードを利用して情報伝達の円滑化を図ってきたがまだ十分でない。今後更にweb等を利用した双方向の情報伝達手段の強化が求められる。②③に関しては予算の問題から実現には至っていない。この点、\ajMaru{2}\ajMaru{3}が実現されなくとも研究が出来ないわけではないが、今後優れた研究遂行には必要な対応と考えられるため、長期的な計画を立て対応を進めてゆきたい。

最後に本年度の電子顕微鏡室の運営に関しては、従来の運営保守業務に加え、電子顕微鏡操作方法ならびに電子顕微鏡用試料作成方法のマニュアル化、電子化を進めてきた。また電子顕微鏡室に関する情報の公開を企図したデータベースの作成も行った。更に、近隣中学の学生を対象とした職場体験を実施し、電子顕微鏡技術職員の業務ならびに電子顕微鏡操作に関する指導を行った。今後このような取り組みを通して利用者に対する情報の提供を強化し、利用者の増加を図れる様努めて行きたい。

11.8 機器研究試作室

機器研究試作室は、生理学研究所および基礎生物学研究所の共通施設として、生物科学の研究実験機器を開発・試作するために設置された。当施設は、床面積400 m2で規模は小さいが、生理学・医学系大学の施設としては、日本でも有数の施設である。最近の利用者数は年間延べ約1,000人である。また、旋盤、フライス盤、ボール盤をはじめ、切断機、横切盤等を設置し、高度の技術ニーズにも対応できる設備を有しているが、機器の経年劣化を考慮して、今後必要な更新を進めていく必要がある。

最近では、MRIやSQUID装置用に金属材料を使用できない装置や器具も多々あり、樹脂材料や新素材の加工への対応に迫られ、情報のあまりない樹脂材料等についての特性についても調査を行う必要がある。また、遺伝子改変マウス・ラットの表現型解析のための行動解析の研究が進められ、その実験装置の改良の要望がある。そこで、実験装置の試作のために、機器研究試作室内に実験動物飼養保管エリアを設け、試作機器の試運転および改良がスムースに行えるようにした。さらに、医学・薬学部以外の学科との共同研究を進めるプロジェクトが進行中であり、機械工作だけでなく、電子回路工作の試作研究も進められるように、回路工作室の整備を行い、回路工作機器やテストベンチを設置した。今後は、回路工作に関しても製作依頼を受けられるようにしたい。

しかし技術職員数は近年非常に限られているため、1996(平成8)年4月以降は技術職員1人で研究支援を行っており、十分に工作依頼を受けられないという問題を抱えている。そこで、簡単な機器製作は自分でと言う観点から、『ものづくり』能力の重要性の理解と機械工作ニーズの新たな発掘と展開を目指すために、当施設では、2000(平成12)年から、医学・生物学の実験研究に使用される実験装置や器具を題材にして、機械工作の基礎的知識を実習主体で行う機械工作基礎講座を開講している。これまでに150名近い受講があり、機器研究試作室の利用拡大に効果を上げている。2008(平成20)年度も、安全講習と汎用工作機械の使用方法を主体に簡単な器具の製作実習を行う初級コースと応用コースを開講し、合わせて35名が参加した。講習会、工作実習や作業環境の整備の成果として、簡単な機器は自分で製作するユーザーか多くなり、ここ数年事故も起こっていないことが挙げられる。

11.9 伊根実験室

従来、伊根実験室は生理学研究所直属の施設であり、専任研究部門の教授が伊根実験室長を兼務して運営され、当該部門の研究者が伊根実験室の主利用者でもあった。今年度より、伊根実験室は脳機能計測・支援センターに所属することとなった。センター長は伊根実験室長を兼務し、副室長として助教1人が岡崎と兼務する形で配置されている。 副室長が現地での施設の管理運営や管理事務を担当し、技術職員の協力を得にくい場合には現地で人を雇い、小規模の作業を担当して貰っている。 建物は築22年になり若干の劣化は否めないが、築後行われた改良工事や台風被害後の修理などにより、劣化の進行は緩やかである。

水槽設備は小規模な補修工事により、正常に稼働中である。但し、冷却設備はその能力が発揮できない状態である上、フロン使用などの問題もあり更新が必要である。 長期不在時に水道漏水事故の報告が現地管理人よりあり、純粋製造装置(オートスティル)の電磁バルブの劣化による漏水事故と判明した。不在に関わらず水道料金(滞在時の10倍程度)の支払いが発生したが、現地管理人が水道元栓を止めて応急措置を行った。この装置に関しては生理研共通経費で更新を行った。

電気設備は高圧電力設備の劣化が指摘されており、設備が旧いため法令による定期点検が毎年必要になっている。劣化の激しい部品の交換を勧められている。 管理運営体制が変更されたにも関わらず、その分の経費は計上されていないなどの遠隔地施設の管理に問題がある。

研究に関しては所内利用のみなり、ホヤの研究グループの転出により、イカを用いた研究のみの利用になった。