10 研究にかかわる倫理
10.1 ヒトを対象とする研究に関する倫理問題
生理学研究所ではヒトの脳活動の研究が行われているため、生理学研究所倫理委員会においてヒトを対象とする実験計画を審査してきた。主な実験は、脳磁計、磁気共鳴画像装置による脳イメージングである。また最近では、経頭蓋磁気刺激により脳機能を局所的に短時間低下させる方法が用いられている。これらの測定方法を用いた研究のガイドラインは、日本神経科学学会において“「ヒト脳機能の非侵襲的研究」の倫理問題等に関する指針”(2001年1月20日)としてまとめられている。生理学研究所の倫理委員会ではこの指針を基準とし、さらにその他いろいろな条件を考慮し、実験計画の可否を判断している。
倫理委員会では、ヒト由来の材料を用いる研究に関しても審査を行っている。下の項目にあるように、ヒト遺伝子解析に関係する研究に関しては、岡崎3機関の委員会である生命倫理審査委員会で審査を行うが、それ以外の材料に関しては、生理研の倫理委員会で審査を行っている。これまでに審査の対象となったものには、ブレインバンク等から提供される脳の標本等がある。
生理学研究所倫理委員会には、外部委員として岡崎市医師会会長等の先生に長年ご参加していただいてきた。しかし昨今の考え方として、倫理委員会の構成員には医療関係者以外の外部委員が含まれることが好ましいとされている。また女性が委員に含まれていることが望ましいとされている。また生理学研究所でブレイン-マシン・インターフェイスに関連する研究等が開始されていることから、神経倫理の領域に詳しい先生に倫理委員会委員になっていただく必要が出てくるかも知れない。現在の委員の任期は2010年3月末までであるので、それまでに委員構成をどのようにするかを検討し、2010年度からは新しい委員会構成とすることが望まれる。
10.2 ヒト由来の材料を用いる遺伝子解析研究
ヒトの遺伝子解析に関しては、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(平成13年3月)が文部科学省・厚生労働省・経済産業省の3省から出されている。この指針は、遺伝子情報を扱う場合の管理、匿名化に重点が置かれている。この指針に対応するために、岡崎3機関では、生命倫理審査委員会を設置している。生理学研究所でヒトゲノムを扱う場合は、既に匿名化された試料の解析なので、依頼元での手続きが的確に行われているかが審査の要点となるが、生理学研究所の研究内容を反映してか、審査対象となる研究は今までに出てきていない。
10.3 研究活動上の不正行為の防止
2006 年8 月に文部科学省から出された「競争的資金に係る研究活動における不正行為対応ガイドライン」に基づき、2007年10月に、機構において、「研究活動上の不正行為の防止に関するタスクフォース」 が立ち上がり、生理研からは、久保教授が加わった。2 回の委員会において、「文部省のガイドラインに基づく取り組み」、「不正行為を防止するための基本方針」、「不正行為への対応に関する規程」、「不正行為に関する通報窓口規程」、「不正行為防止委員会規程」の具体化について議論した。これらは、最終的に2008年2月に策定され、機構のウェブサイト上でも公開されている。
以降、生理研を含む岡崎の3研究所および岡崎共通研究施設では、岡崎事務センターの総務部国際研究協力課を通報窓口として、通報に備えてきたが、2008 年度については、今のところ問題は起きていない。規程は整備されたものの、今後も、研究者自身の意識を高めるために、機を見て、そもそも不正行為はなぜ起こるのか、未然に防ぐために何を行うべきか等について考え、討論することが必要であると考えられる。
10.4 研究費不正使用の防止
生理学研究所で用いられている研究費のほとんど全部が税金に由来するものであり、その使用は厳正に行なわれなくてはならない。研究費の不正使用の防止のため、自然科学研究機構では、競争的資金等取扱規程、競争的資金等の不正使用防止委員会規程等を2007年10月に定めた。事務監査の結果導入された調達課による検収の制度は、研究費の不正使用防止のために、業者が物品を納入する場合に調達課にて確認の印を得るシステムである。これまで課題として残されていた郵送・宅急便等で直接研究室に配送される物品に関しても、対策が講じられた。いずれも手間がかかるシステムであるが、不正防止のためには仕方のない措置であろう。研究者には、不正をしないといった低いレベルの問題ではなく、研究費をいかに有効に使用し研究を発展させるか、ということが問われている。
10.5 モラルハラスメントの防止
セクシュアル・ハラスメントの防止ために、岡崎3機関のセクシュアル・ハラスメント防止委員会が設置されており、生理研からは鍋倉教授、深田(優)准教授が、統合バイオから富永教授が委員として参加している。また生理研内では、研究部門およびセンター等の各部署にセクシャル・ハラスメント防止活動協力員を配置するとともに、明大寺地区および山手地区に各1名の相談員を設置した。 また、セクシャル・ハラスメント防止活動として、生理研新規採用常勤・非常勤全職員に対しセクシャル・ハラスメント防止活動説明会を実施するとともに、生理研ホームページでの周知を行った。
一方、これまでアカデミック・ハラスメントやパワー・ハラスメントにどのように対処するかに関して道筋が定められていなかったが、平成20年度に新たに生理学研究所アカデミック・ハラスメント/パワー・ハラスメント防止委員会(教授2名、准教授、助教、技術職員、契約職員各1名により構成)および外部相談員(弁護士:岡崎3機関共通)の設置を行うとともに、相談受付・対応のシステムの構築を行った。