13 動物実験関連
13.1 動物実験コーディネーター室
動物実験の管理は、法律により生理学研究所としてではなく自然科学研究機構として行うことが定められているため、その法律に沿って制度の整備が進められた。岡崎3機関で行われる動物実験をより適切に行うために、本年度8月より「動物実験コーディネーター室」を新たに設置し、特任教授として佐藤 浩先生(長崎大学名誉教授)を迎えた。動物実験コーディネーター室では、動物実験の管理・指導を行うとともに、教育訓練を行っている。なお、国内では東京大学には「動物実験アドバイザー」があるが、研究所としてそのようなポジションを設けたのは今回が初めてである。
13.2 動物実験センターの業務
1.全般
平成19年2月23日に機関内規程「大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程」が制定され、2年目の動物実験が実施された。動物実験の基盤を支える事業計画として、当初は明大寺地区地下SPF化および明大寺地区新館のクリーン化が目標であった。しかし、実際には明大寺地区地下SPF化、明大寺地区本館・新館施設の清浄化、病原体の定期的モニタリング実施、霊長類遺伝子導入実験室の設置、水生動物室の改修、施設の老朽化対策など諸問題が次々に現れ、これらの対応に多くの時間と労力が向けられた。概ね、適切な対応が果たせたと判断しているが、次年度に引き継ぐ事項もある。
研究開発業務も軌道に乗りつつあり、特に伴侶動物に関係する比較腫瘍学の課題は少しずつ進み、年1回の研究会開催に至っている。比較腫瘍学研究センターの構想が全国の獣医科大学で持ち上がり、来年度は実現に向けて歩み出す。当動物実験センターも一翼を担う可能性が高い。また、Hirschsprung diseaseのモデルラット2系統(AR-EdnrbSl/Okkm[cc], LE. AR-EdnrbSl/Okkm) をThe Institute for Laboratory Animal Research (ILAR) に登録し、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」に寄託完了した。
ホームページを大幅に改め、利用者にとって役立つものとした。定期モニタリングの状況や講習会の内容、センターからの情報提供、さらには霊長類の取扱い方法に関するDVDの配信などを行った。
2.明大寺地区地下SPF化
昨年度、明大寺地区地下SPF化計画が完了し、2008年1月から3月にかけて利用案内および実地説明会を開催した。山手地区SPF施設とは異なり、個別換気ケージシステムによるSPF施設と実験室を併せ持つ新しいタイプの動物実験設備である。利用者を募集する中で、並行して進めていたクリーン化事業において、明大寺地区に感染症(Mouse hepatitis virus, Mycoplasma pulmonis, Bordetella bronchiseptica)が存在することが判明し、SPF化業務を一時停止せざるを得なくなった。SPF施設の整備さらにケージの充当を図り、来るべきオープンを目指し準備を進めた。ケージの自動洗浄・サーマル殺菌装置を期待していたが導入が難しく、現有のラック4基の範囲で稼働実績を積み上げたい。2008年12月末日をもって、感染症を一掃できたので、2009年1月より明大寺地区地下SPF担当者を定め、開設に向けて怠ることなく動いている。
3.明大寺地区本館・新館施設の清浄化
明大寺地区の普通環境施設における病原微生物・寄生虫の清浄化を目的として、新館3階クリーン化に着手した。平成19年6月から、半年間一名胚操作技術をトレーニングし、クリーンアップ業務に備え、さらにもう1名補助者を育成した。第一段階で、2008年3月までに施設の汚染状況を調査したところ、Mouse hepatitis virus, Mycoplasma pulmonis, Bordetella bronchiseptica の感染が本館と新館で見つかった。過去の記録を調べると、これらの病原体が2002年には侵入していたことがわかり、恐らく10年近く以前、施設に定着していたものと推測された。急遽、事故対策委員会を開き、病原微生物の撲滅を図った。感染状況を再度チェックするとともに、感染飼養保管施設の消毒および封じ込め対策を実施した。人・物品・実験動物については動線を定め、病原体の拡散防止に努めた。第一期・二期に分けて、消毒作業を行ったが、感染の広がりはなく、2008年12月末をもって終息を見た。一部、汚染が疑われた研究部門内の飼養保管施設も消毒が完全になされた。今後1年間、注意深く定期的モニタリングを行い、検査結果に基づき、完全撲滅宣言としたい。
センター清浄化事業に約1年間の期間を費やしたが、明大寺地区の清浄度は、普通動物施設でありながら、“国動協の示すSPFレベル(minimum status) + 蟯虫・一部消化管原虫フリー”をクリアした。国動協のいうところのカテゴリーA, Bの病原体を排除することを想定したが、他大学のSPF施設と同等の清浄レベルに達することができた。生理学研究所および基礎生物学研究所の皆様のご協力に対して、深く感謝申し上げる次第です。
4.病原体の定期的モニタリング
かねてより、山手地区SPF施設では定期的に病原体の検査を行い、SPF環境維持の確認を続けている。上述の明大寺地区地下SPF化および明大寺地区本館・新館の清浄化に伴い、各研究部門内で飼養保管している実験動物についても、病原体の定期的モニタリングを開始した。2008年7月より、動物実験センター本館・新館、明大寺地区(生理学研究所および基礎生物学研究所)および山手地区研究部門の3エリアに分けてモニタリングを順番に進めている。3か月毎の検査であるが、現時点で問題となる病原体は検出されていない。この業務の担当者も1名置き、円滑に仕事を進める手続きをとった。
全国の大学・研究機関において動物実験センター内のSPF施設では、病原体の定期的モニタリングが実施されている。しかし、普通動物施設や研究室内で飼養保管されている実験動物を対象に定期検査は行われていないのが現状である。そのため、人の出入りが多い動物実験センターは常に感染症侵入の危険に曝されている。当研究機構では、実験動物を飼養保管しているすべての施設で定期的モニタリングを行うこととなり、全国的に誇れる実験動物環境と思われる。また、昨年度より搬入・搬出した実験動物のtraceabilityもとれるようになり、両手段で環境の清浄化維持に努力したい。
5.霊長類遺伝子導入実験室
「脳科学研究戦略推進プログラム・独創性の高いモデル動物の開発」の遂行にあたり、霊長類遺伝子導入実験室を動物実験センター内に設置する必要が生じた。2008年3月から検討に入り、当初新館4階や3階、はたまた2階など、いくつもの候補地が精査された。しかし、実験室の容積が足りず、感染症の検出やマウス・ラットを研究に用いている利用者の問題もあり、場所の選定に苦慮した。最終的に、本館1階の動物検収室を主体とする112, 113, 114, 115-A, 115-Bおよび115-Cから成る6室を導入実験室に供することとした。 このため、動物実験センターの機能を他室に移動することとなった。受理室の新設、本館屋上イヌ運動場の改装・倉庫の設置、本館2階215, 216室の改修、マウス・ラット一時飼養保管施設の設置およびMRI用サル一時飼養保管施設の設置が必要となった。今年度可能な限り進めるが、来年度夏までに完了する予定である。なお、本件については、動物実験センター主催で、脳科学研究戦略推進プログラムの関係者より説明会をお願いした。
6.水生動物室の改修
基礎生物学研究所の耐震補強工事に関連して、水生動物室の改修工事を行った。従来は大型水槽やイカの円形水槽を主体とした大型魚類用の施設であったが、今次の改修により、メダカ、ゼブラフィッシュの小型魚類およびアフリカツメガエルなどの両生類の飼養保管に耐えうる施設に移行した。水槽や飼育形態を改め、さらに遺伝子組換え生物の拡散防止措置も講じた施設とした。排水は二重のトラップを施し塩素を注入して、使用水は消毒し、さらに漏れ出た稚魚や卵は殺滅処理を行う。今後、魚類および両生類が実験動物として取り扱われることを考慮した改修工事となった。利用者の中心がNBRメダカプロジェクトおよび基礎生物学研究所の先生方であり、今後標準操作手順書を作成し、いかに円滑な運営をするかが重要な問題と考える。また、水生動物室に割ける人手が現状では限られており、マンパワーの件も検討課題である。\\
7.施設の老朽化
動物実験センターの開設後、約30年が経過して、施設の老朽化がかなり目立ち始めている。空調機器のトラブル、ボイラーの不具合およびエレベーター・ダムウェーターの障害などが大きな問題である。前任の専任教官から引き継いでから、これらの手直しを図り、機器の延命に努めている。また、人命にかかわる事故などは起こさないように定期点検等をお願いし、小さな修理を繰り返している。大型予算等にも計上しており、ボイラーおよびエレベーター・ダムウェーターについては、更新に向けた希望の明かりがわずかに見える。
13.3 動物実験等に関する19年度の自己点検・評価について
2006年度に、「動物愛護管理法」が改訂され、それに伴い「実験動物の飼養保管等基準」及び文部科学省の「基本指針」並びに日本学術会議の「ガイドライン」の告示や発表が行われ、自然科学研究機構においても「大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程」を制定したうえ、2007年度から施行した(詳細は、2006年度、2007年度点検評価書第14号、15号参照)。この中で、第9章「自己点検」では、機構における動物実験が文部科学省の基本指針に適合しているか否かを自己点検・評価を行い、また、第10章「情報の公開」では、動物実験等に関する情報(動物実験等に関する規程、実験動物の飼養保管状況、自己点検・評価、検証の結果等の公開方法等)を毎年1回程度公表する旨、規定されている。これらに則し、本年度は前年度である平成19年度の自己点検・評価を機構独自として行った。骨子としては、
1. 研究所規程・関連規則等の整備状況
- 機構長の責任の明確化
- 動物実験室、飼養保管施設の許可制
- 動物実験計画書等の機構長への提出
- 実験動物の福祉向上および動物実験の適正化の基本理念を明文化:3R(代替法の検討、実験動物数の削減、苦痛の軽減)への努力
- 講習会等の開催
- 動物実験に関しての情報公開
- 実験動物の定義の明確化
2. 動物実験の実施状況
- 動物実験計画の審査の状況
- 立案時の検討事項と審査のポイント
- 実施結果の把握の状況
- 動物実験計画の審査結果
3. 動物実験室の状況
- 実験室の審査状況、整備状況、マニュアルの整備状況
- 動物実験室数
4. 実験動物の飼養保管の状況
- 飼養保管施設の審査状況、整備状況
- 施設設置時の検討事項と審査のポイント\\
- 飼養保管施設の維持管理の状況
- マニュアルの整備状況
- 飼養保管施設数
- 飼養保管施設における動物種および使用数
5. 動物実験等に関する安全管理の状況
- 特に注意を要する動物実験の計画および実施の状況(遺伝子組換え、病原体、放射性物質等を用いる動物実験の計画および実施場所の記録)
- 実験動物の逸走等の記録、対応(施設外への)
6. 教育訓練の実施状況
7. 今後の問題点
などである。これらの自己点検・評価結果を踏まえて、自然科学研究機構岡崎3機関動物実験委員会として、機構ホームページ上に情報公開する旨検討を行っている。なお、この自己点検・評価後、国立大学法人動物実験施設協議会からひな形書式が提案されたので、以降はこれに従って行う予定である。
13.4 前年度問題点とされた事項に関する対応策について
2007年度は、上記の項目において、基本指針に則して概ね適切に遂行されたと自己点検・評価されたが、下記のような問題点が残った。
- 規程改訂に伴う事務量の増大や教育訓練の充実の必要性。また、その前提として、岡崎3機関で、ある程度、独自に判断し、遂行する体制の整備
- 研究室に直接搬入する実験動物のクリーン度のチェック体制
- 動物実験室、飼養保管施設の審査後のチェック体制
1.に関しては、新たに岡崎3機関に動物実験担当責任所長を制定し、独自に判断、遂行する体制を整えた。動物実験担当責任所長は、生理学研究所所長が兼任することになった。事務量の増大や教育訓練の充実に対応するため、動物実験コーディネータ室を新たに立ち上げ、動物実験コーディネータを配置した。このことにより、動物実験計画書の審査と教育訓練を新たなシステムで開始し、研究者のニーズに応えた。
2.に関しては、動物実験センターの協力下、窓口を一本化して、動物実験センターに搬入するのと同等な基準を設け、研究室に直接搬入する実験動物についてもクリーンな実験動物の搬入の実現に努力している。
本年度の問題点と対応について
- 動物実験室、飼養保管施設の具体的要件と承認後のチェック体制
- 各研究室所属の飼養保管施設飼育中のマウス・ラットの微生物モニタリング
- 魚類・両生類の取扱いについて
- 岡崎3機関の動物実験に関するホームページの設置について
- 動物実験計画書のウエブ申請システムの構築について
1.については、19年度にも問題点としてあげられたが、依然残っている。しかし、20年度に動物実験コーディネータ室の配置が実現したこともあり、特に飼養保管施設の要件を具体化し、今後順次対応していくよう検討を開始している。
2.については、動物実験センターの項で述べられているように、動物実験センターでの、マウス肝炎ウイルスの感染事例が明らかとなり、消毒、封じ込めが行われた。それに伴い、各研究室の協力の元、各研究室所属の飼養保管施設において飼育中のマウス・ラットについても、微生物モニタリングが行われ、一部、感染事例が明らかとなった。これについても、動物実験センターの指導のもと、消毒・封じ込めなどの対策が取られた。今後とも定期的に、各研究室で飼育中のマウス・ラットの微生物モニタリングを、行っていく予定である。
3.については、これまでの経緯と欧米の動向にも注視し、魚類・両生類も現在の規程に盛込むことで、検討している。
4.については他研究所との問題もあり、今後検討を開始する。
5.については、他の事務手続きと統一をはかる必要があるが、他機関での使用経験を踏まえ、より良いシステムの構築を検討したい。