14 知的財産

    

14.1 全体的な動向

2002年11月に知的財産基本法が制定され、2003年3月には内閣に知的財産戦略本部が設置される等、政府の主導により知的財産の創出・取得・管理・活用の推進が進められてきた(詳細に関しては、第12号以降の点検評価報告書参照)。その具体的な内容は、時々の政府の意向によりかなりの変化が見られる。 2008年6月18日に開催された第20回知的財産戦略本部の会合では、「知的財産推進計画2008 --世界を睨んだ知的戦略の強化--」が決定されている。

この150ページを越える計画書の中には、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究・事業化、 先端医療分野の特許保護の在り方の検討、オープン・イノベーション(研究開発から製品化までを垂直統合の形で全てを自社内で完結させるクローズド・イノベーションに対する用語であり、外部の知識・技術を活用しつつ研究開発や事業化を行う。)に即した知財戦略の促進、等があげられている。

大学関係では、大学からの技術移転も過去6年間で相当拡大したもののライセンス収入は米国の百分の一以下の水準に止まっており、大学発ベンチャーの数や規模でも大きな差が開いている、という現状分析がなされている。iPS細胞以外の取り組みとしては、大学知財本部やTLOの機能強化、共同研究の成果活用の促進、大学発ベンチャーへの支援強化、大学等・TLOによる海外出願の支援が取り上げられている。 これらの取り組みはこれまでも取り上げられてきたものである。なおiPS細胞の知財戦略は、 初めて政府主導で 集中的な取り組みがなされたケースであり、今後の動向が注目される。

14.2 大学共同利用機関知的財産本部整備事業

大学共同利用機関知的財産本部事業は、2003年度より5年の期間に行われた4大学共同利用期間法人の合同の事業であり、国立情報学研究所に置かれた情報・システム研究機構知的財産本部が中心となって、知的財産の専門家による諸規程の整備、知財管理システム(知財データベース+特許出願システム)の構築、教育(各種セミナーの実施等)を行なってきた。本事業は2007年度で終了し、4機構をまたがる活動はその後行われていない。

14.3 自然科学研究機構知的財産委員会

現在、研究所での発明届は各研究所の知的財産委員会で審議され、その結果を受けて自然科学研究機構の知的財産委員会で審議するという2段階の審議をすることとなっている。しかしながら、他の研究所で行われた研究の内容は、説明があったとしても理解することは困難であり、出願までに急を要する場合が多いのにもかかわらず2段階の審議で時間を要する、といった問題点が指摘されている。実際問題として、他の研究所での審議結果が機構の委員会で覆った事はない。しかし、機構の委員会で機構全体の動きを把握しておくことも重要である。このような議論の結果、従来通り機構の知財委員会にて発明届の審議を行うが、メール会議をできるだけ利用することとなった。

また委員会では、法人化以降の知財の管理状況が報告された。2004年度から2007年度までの4年間に知財関係に使用された経費は、5機関の合計でおよそ9千万円であり、一方収入は約5百万円であった。このように、支出に比して収入が少ないことは以前から予測されていたことであって驚くべき事でもないが、改めて知財の管理に関して考え直す必要を迫る結果であった。

14.4 生理学研究所での取り組みと課題

生理学研究所では、いろいろな研究成果を特許として出願することを促してきた。2004年以来、科学技術振興機構(JST)の専門家による特許発明相談等を行ない、その助言に従って年間約10件の特許出願を行なってきたが、特許出願を多く行ってきた研究者が転出したこともあり、今年度は数の面からは低調であった。

また審査請求を行うかどうかについては、それまでの期間に企業から打診があるかどうかによって収入の見通しを立て、それに基づいて判断することが、出願後の処理の考え方として定着してきている。

利益相反のマネジメントに関しては、規則に則ってモニタリングが行われており、問題は発生していない。

技術課を中心として開発が進められている生理科学技術データベースは、コンテンツの充実が進んできており、今後更に高度化することが求められている。

14.5 発明出願状況

2007年度点検評価報告書(第15号)以降のもの
  1. 池中一裕
    「肝癌マーカー」
    出願日 2008年3月18日
    出願番号 特願2008-069836
  2. 富永真琴
    「TRPA1の活性化物質の評価方法」
    出願日 2008年3月24日
    出願番号 特願2008-076109
  3. 乾 幸二・竹島康行
    「 感覚神経刺激装置」
    出願日 2008年10月10日
    出願番号 特願2008-264298