11 基盤整備

研究所の研究基盤には様々な施設・設備があり、それらの設置、保守、更新にはいずれもかなりの財政的措置を必要とするため、基盤整備の計画は長期的な視野をもって行われなくてはならない。しかし、特に最近は財政も逼迫し、研究の進歩にともなった施設整備が十分に進められなくなってきている。

11.1 中長期施設計画

生理学研究所では当面の間5つの研究テーマを柱として研究を進める方向性が定められた。これらの研究方針を支援するために施設整備に取り組んでいる。今年度は「認知行動機能の解明」の研究支援のために「マウス・ラット行動様式解析施設」が充実された。また「より高度な認知行動機構の解明」のため、「霊長類の遺伝子改変施設」を設置された。今後、「四次元脳・生体分子統合イメージング法の開発」のために、神経情報のキャリアーである神経電流の非侵襲的・大域的可視化を行う。またサブミリメートル分解能を持つ新しいfMRI 法やMEG 法(マイクロMRI 法/マイクロMEG 法)の開発を中心に、無固定・無染色標本をサブミクロンで可視化する多光子励起レーザー顕微鏡法を開発し、レーザー顕微鏡用標本をそのままナノメーター分解能で可視化することができる極低温位相差超高圧電子顕微鏡を開発する。これらの三次元イメージングの統合的時間記述(四次元統合イメージング)によって、精神活動を含む脳機能の定量化と、分子レベルからの統合化、およびそれらの実時間的可視化を実現する。このようなイメージング施設の拡充も必要である。

11.2 図書

2009年度に生理研では80編の外国図書・雑誌の購読契約をしている(生理研図書67,部門契約13)。現在の契約は一部出版社に関しては、契約雑誌以外も閲覧できるフリーダムコネクション契約を総研大が追加支出して結んでいる。契約金額自体が毎年5~10%上昇しているため、フリーダムコネクション契約を総研大図書費では維持が難しくなっている。 この出版社との契約では契約雑誌を維持することが条件であり、複数の機関が重複契約している同じ雑誌を整理・統合することは出来ないばかりか、研究室単位で購読している雑誌の継続中止の場合にも大きなペナルティーを払う必要がある。そのため、一部出版社と、購読雑誌のみを閲覧できる購読形態(コンプリートコレクション)へ契約変更をする案が総研大として提案されている。その場合複数の機関が購読している雑誌を整理すること、および購読中止を選択することは可能であり、総研大の支出経費を減額することが出来る。しかし非購読雑誌掲載論文へは1論文あたり2,500円程度の料金を出版社に支払いアクセスすることは必要となる。岡崎3研究所では総アクセス数の約75%が、現在の購読契約雑誌に掲載されている論文である。非契約論文へのアクセス料の試算および、複数の機関による同一雑誌の契約形態など、出版社との契約形態を変更した場合の情報を総研大とともに十分整理・検討する必要がある。

11.3 電子顕微鏡室

電子顕微鏡室は、生理学研究所と基礎生物学研究所の共通実験施設として設置され、各種電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、生物試料作製のための実験機器、写真処理・スライド作成に必要な機器が設備され、試料作製から電子顕微鏡観察、写真処理・作画までの一連の工程が行える施設である。明大寺地区(共通施設棟Ⅰ地下電子顕微鏡室)には透過型電子顕微鏡が2台、走査型電子顕微鏡が1台あり、共焦点レーザー顕微鏡(正立)が1台ある。山手地区(山手2号館3階西電子顕微鏡室)には透過型電子顕微鏡が7台設置され、研究目的に応じて利用できるようになっている。

電子顕微鏡の利用率については、明大寺地区と山手地区との間で大きな差がみられ、山手地区の電子顕微鏡ならびに付随機器は総じて利用率が高いが、明大寺地区の電子顕微鏡ならびに付随機器の利用率は総じて低いという傾向がみられる。これは電子顕微鏡を利用する研究室が山手地区に集中しているためであり、今後、研究者の流動と共に変わる可能性がある。

電子顕微鏡室は本年度より保守契約費を見直し、2台保守契約していたものを1台に減らした。保守契約を停止した明大寺地区の電子顕微鏡については原則として部品を取り寄せ、技術職員により交換を行っている。

電子顕微鏡室の問題点としては、①技術職員が1名であるため、山手地区と明大寺地区を往復する為連絡がとりにくく、即時に対応ができない。②電子顕微鏡画像の電子化促進のため記録装置としてCCDカメラ(2000×2000ピクセル以上)の装着が望まれる。③走査型電子顕微鏡が明大寺地区にしかないため山手地区にも1台設置が望まれる。④電子顕微鏡が全て旧式となり、故障が多発してきたため新型機の導入が望まれる。といった点が挙げられていた。

①に関してはこれまでPHS電話の利用やEメール、連絡ボードを利用して情報伝達の円滑化を図ってきたがまだ十分でない。今後更にweb等を利用した双方向の情報伝達手段の強化が求められる。②に関しては本年度採択され、山手地区JEM1010に新型のCCDカメラが導入される予定である。③④に関しては予算の問題から実現には至っていない。この点、③④が実現されなくとも研究が出来ないわけではないが、今後優れた研究遂行には必要な対応と考えられるため、特に④に関しては長期的な計画を立て対応を進めてゆきたい。

最後に本年度の電子顕微鏡室の運営に関してであるが、従来の運営保守業務に加え、電子顕微鏡操作方法ならびに電子顕微鏡用試料作成方法のマニュアル化、電子化を進めてきた。また電子顕微鏡室に関する情報の公開を企図したデータベースの作成も遂行中である。更に、本年度も近隣中学校の学生を対象とした職場体験を実施し、研究所、技術職員、電子顕微鏡技術職員の業務ならびに電子顕微鏡操作に関する体験を行ってもらった。今後は電子顕微鏡利用者に対する講習を強化し、電子顕微鏡室利用の敷居を下げ、利用者の増加を図れる様努めてゆきたい。

11.4 機器研究試作室

機器研究試作室は、生理学研究所および基礎生物学研究所の共通施設として、生物科学の研究実験機器を開発・試作するために設置された。当施設は、床面積400 m2で規模は小さいが、生理学医学系大学の施設としては、日本でも有数の施設である。最近の利用者数は年間延べ約1,000人である。また、旋盤、フライス盤、ボール盤をはじめ、切断機、横切盤等を設置し、高度の技術ニーズにも対応できる設備を有しているが、機器の経年劣化を考慮して、今後必要な更新を進めていく必要がある。特に、金属加工用のNCフライスと樹脂加工用の三次元プリンターの導入が希望されている。

最近では、MRIやSQUID装置用に金属材料を使用できない装置や器具も多々あり、樹脂材料や新素材の加工への対応に迫られ、エンジニアリングプラスチックの試用を開始した。また、遺伝子改変マウス・ラットの表現型解析のための行動解析の研究が進められ、その実験装置の改良のために、機器研究試作室内に実験動物飼養保管エリアを設け、試作機器の試運転および改良がスムースに行えるようにした。

しかし、1996年4月以降は技術職員1人で研究支援を行っており、十分に工作依頼を受けられないという問題を抱えている。そこで、簡単な機器製作は自分でと言う観点から、『ものづくり』能力の重要性の理解と機械工作ニーズの新たな発掘と展開を目指すために、当施設では、2000年から、医学・生物学の実験研究に使用される実験装置や器具を題材にして、機械工作の基礎的知識を実習主体で行う機械工作基礎講座を開講している。これまでに200名近い受講があり、機器研究試作室の利用拡大に効果を上げている。2009年度も、安全講習と汎用工作機械の使用方法を主体に簡単な器具の製作実習を行う初級コースと応用コースを開講し、合わせ27名が参加した。機械工作基礎講座以外でも、随時、初心者には安全講習と機器の操作指導を行っているため、簡単な機器は自分で製作するユーザーか多くなり、ここ数年は、事故も起こっていない。

11.5 ネットワーク設備

インターネット等の基盤であるネットワーク設備は、研究所の最重要インフラ設備となっている。ネットワーク設備の管理運営は、岡崎3機関の岡崎情報ネッワーク管理室を中心に、各研究所の計算機室が連携し、管理運営に当たっている。生理研では情報処理・発信センター ネットワーク管理室の技術課職員2名が、ネットワークの保守、運用などの実際的な業務を担当している。

ネットワークのセキュリティに関しては、岡崎3機関で共通の対応がなされ、接続端末コンピュータの管理、ファイアウォールの設置、アンチウイルスソフトの配布、各種プロトコルの使用制限などの対応がとられている。下記が現在の問題点で、機能増強は見送り機能の現状維持を基本に対応せざるをえない。機器、設備の更新、人員の増強が必要となっている。
(1) ネットワークの増速ができない。 PCは通信速度1Gbps対応にもかかわらず、提供しているネットワークは100Mbpsで10分の1の速度にしか対応していない。これには、2001年度に導入した岡崎3機関で100台を超えるエッジスイッチの更新が必要であったが、2009年度末に1Gbps対応のエッジスイッチに内部措置で更新する予定である。別に1995年度に導入した100Mbpsまでしか保証できない情報コンセントやLANケーブルの交換工事が必要であるが、これの目処は立っておらず来年度からは規格を超える運用を余儀なく行う。
(2) 8年間24時間運転してきたネットワーク機器の故障率の増加。
(3) 無停電電源装置の電池寿命により瞬時停電に対応できない。
(4) ハードウェア、ソフトウェアのメーカーサポート打ち切り。
サービスを停止しないように内部措置にて更新を行っている。
2006年度:Anti Virus、ネットワーク監視ソフト: 2007年2月に更新
2007年度:メールサーバ等ワークステーション: 2007年度末に更新
2008年度:ファイアウォール機器: 2008年度10月に更新
2009年度:基幹ノード装置: 機器を削減し2008年度末に更新予定
(5) 新旧機器の協調的運用による複雑化したネットワークのため,保守作業は増加し,同時にネットワークの停止が多発している。
(6) ネットワークインフラや情報量の拡大、virusやspamなどの脅威の増加、これらの対応機器導入等による運用人員不足。

11.6 老朽対策

明大寺地区には研究実験棟、超高圧電子顕微鏡棟、共通棟Ⅰ(電子顕微鏡室)、共通棟Ⅱ(機器研究試作室)、動物実験センター棟、MRI 実験棟がある。これら棟は築後27年を越え、建物、電気設備、機械設備、防災・防火設備も劣化が進み、大型改修または設備の更新が必要になっている。しかし、その経費の確保が難しく、事故や故障への一過性の処理対応に終始しているおり、その処理対応や今後の課題は次の通りである。

(1) 建築全般:
建物に関わることでは、地震に対する耐震補強と雨水の浸水、漏水がある。前者は、岡崎3機関の耐震診断調査の結果から、明大寺地区実験研究棟がその対象であり、岡崎3機関・耐震補強計画が立てられ、順次進められる。今年度分子研実験棟が完了し、来年度も引き続き行われる予定である。岡崎3機関のうち2機関の耐震改修が認められたことから、数年内に生理研の耐震改修が行われる可能性が高いと考えられる。耐震改修は、耐震工事とともに老朽化した配管等を取替える等の大がかりな工事であり、研究室を一時的に移転することが必要である。動物飼育室の問題もあり、耐震改修工事を行うとなると期間中のスペース確保が大きな課題となる。後者については、今年10月初旬、台風直撃により、実験研究棟の実験室や廊下で浸水、漏水が多数あった。地下通路や窓枠から雨降りのたびに漏水が見られるところもあり、その都度対応している現状がある。建物劣化によるこうした問題は今後も頻発が懸念され、その場合の経費の確保が引き続き問題となっている。

(2) 電気設備:
電気設備においては、施設課が担当する研究所等の基盤設備(実験棟の電気室のハロン消火設備予備電源取替工事、動物実験センターの高圧引込盤改造工事、実験棟地階変電設備の更新工事)は、その必要性、重要性、優先性から順次計画的に進められている。実験研究における基盤電気設備として、停電時の緊急用電力供給設備として非常用パッケージ発電機があるが、近年、発電機の老朽化により装置の故障が起き、応急処置により現在も稼働させている。いつまた再故障が起きてもおかしくない状態であり、早急な更新が必要となっている。

(3) 機械設備:
機械設備の経年劣化が進んでいる。各実験室には、空調機用の冷却水配管や水道管が引かれている。昨年、計画停電復電後、冷却水ポンプを稼働し冷却水を循環させたところ、一実験室の配管から大量の漏水があり、その階の3室と階下の2室へ大量の浸水があり、実験機器への被水事故が発生した。今年は、水道管から水漏れが発生した。いずれも配管の老朽化によるものである。こうした現象は一部所に限らず、全配管に及んでいることが推測されるが、配管の全交換工事となると、相当な経費を必要とするので、当面は漏水が置きた場所での一時的交換作業で対処することとなる。今後根本的な対策が必要となっている。

空調機は、基本的設備として居室を含め実験研究棟だけで300基近くが設置されている。これまでは基幹整備により順次交換されてきたが、現在そうした整備計画も頓挫したままである。そうした中で、経年劣化による故障修理と部品供給の停止による一式全交換を行っているが、本年度は修理を7基、全交換を4基、行った。こうした経費も大きな負担を強いている。また、パッケージ型空調機の設置も多く、室の効率的な使用の障害となっているので撤去を進めたいが、その経費も大きく、緊急を要する実験室の改修以外、進まない状況にある。またパッケージ型空調機の配管でも劣化による漏水事故が起きており、早急な対応が必要となっている。

低温室では冷媒ガス漏れが見つかり、冷却器の交換を行った。低温室では長時間に亘る実験や試薬が保管されており、低温環境が破られ研究に支障を来すことがないように、定期的に計画的な更新が必要である。

実験研究棟には各種の配管がされている。その配管のなかには循環機能を持つ稼働ポンプなどもあり、配管やポンプの経年劣化もおおきな問題になってきている。近年、雨水排水ポンプの修理や化学排水配管修理、廃水処理施設の排水弁取替工事を行ったが、こうした交換部品のある修理だけではなく、給湯設備である電気ボイラーのヒーターのような部品は経年により入手がもう不可能で、そうした場合には設備一式の交換となり、こうした設備についても年次的な交換計画が必要となっている。

(4) 防災・防火設備:
建物の防災・防火設備として自動火災感知器、防火扉、消火栓、消火器、非常照明、非常口誘導灯が備えられている。これらは事務センター・施設課およびエネルギセンターにより毎年定期的に点検整備され、維持管理されているが、こうした設備の劣化も進んでおり、更新計画が必要となっている。

11.7 スペースマネジメント

研究活動の変化に対応した円滑な利用とその効率的な活用が実験室使用に求められているが、研究所ではスペース委員会を設け、室の効率的な利用を進めている。今年度、流動研究室の新設、行動様式解析室およびfMRI実験室の拡充があり、外国人研究員居室、点検連携資料室、安全衛生推進室、音響実験室、名誉技官室の見直しがあった。 岡崎3機関ではNetFM施設管理システムによる実験室居室の利用状況のデータベース化と有効的利用が推し進められている。

11.8 省エネ対策

岡崎3機関は省エネルギー法に基づき明大寺地区と山手地区が第1種エネルギー管理指定工場に指定されているため、これらの地区においてエネルギーの使用が原単位年平均1%以上の改善を義務付されている。このことから、施設課では改修工事において計画的に各種の省エネルギー対策の実施、また、省エネルギーの意識向上の一環として毎月の教授会において明大寺、山手地区における電気、ガス、水の使用量の報告、毎月1日を省エネルギー普及活動の日として省エネルギー対策事項を機構オールで配信及び省エネ垂れ幕の掲示を行っている。研究所では、夏、冬用の省エネポスターを作成配布し、啓蒙に努めている。また、実験研究棟のトイレ、階段およびエレベータホールの照明設備に人感センサーを設け、省エネ対策を推進している。

11.9 生活環境整備

山手地区では、研究支援センターの設置の見通しがつかないなかで、山手地区職員の生活環境整備が山手地区連絡協議会で議論され、進められてきた。今年度、アンケート調査結果に基づき、研究棟周辺の高木植樹と小道による憩いの場の環境整備が行われた。一方研究棟内には生協、自動販売機等による生活環境の整備も進められてきた。昨年度は業者の営業破綻による自動販売機の販売中断を余儀なくされたが、今年度整備された。

11.10 伊根実験室

本施設では生理学研究所施設としての実験研究を終了することが決定している。建設以来23年に渡り数多くの共同研究者に利用されてきたが、実験設備等は設置されたままである。今年度から来年度にかけて、物品の順次整理を行う。今後の施設利用については自然科学研究機構本部で検討中である。