17 日米科学技術協力事業「脳研究」分野

日米科学技術協力事業は両国政府間の協定にもとづいて 1979年から行われている事業であり、このうちの「脳研究」分野は平成2000年度に開始された。 日本側が生理学研究所、米国側はNIH傘下の神経疾患卒中研究所(NINDS)が担当機関となって両国研究者の協力事業を支援する。 事業のための費用はそれぞれの国で負担するのが原則になっており、日本学術振興会から交付される経費のほとんどはわが国の研究者の米国への渡航、滞在費に充てられている。事業は、1) 共同研究者派遣、 2) グループ共同研究、 3) 情報交換セミナー、 4) その他の情報交換 に大別される。毎年、全国研究者に各事業について計画を募集し、研究計画委員会でその申請書を審査して採択している。募集はホームページ*http://www.nips.ac.jp/jusnou/や学会誌等で公告して、7-9月に受付を行っている。日本側においては、2000年度から2009年度までに、 計107の研究申請が認められた。領域別では、分子・細胞が34% 、発達・修復・可塑性が11% 、行動・システム・認知が43% そして疾病の神経生物学が 12% であった(表1.2参照)。研究者派遣により若手研究者の研究意欲を増進させ、また日米共同研究開始のきっかけとなった。複数年度サポートであるグループ共同研究は安定した研究協力関係を形成するのに大きく役立った。情報交換セミナーは新たな研究領域の開拓と共に、さまざまな研究交流のきっかけとなった。2003年度より米国側でも予算措置が執られる様になり、相互交流が本格化した。さらに2007年より、NIH傘下の、神経科学研究に研究費を配分する10研究所が参加したことにより、領域の拡大が進んだ。年1度日米joint committeeを持つことにより、意見交換セミナーの審査、今後の方針などの議論を深めている。意見交換セミナーの審査は日米共同で行っていることから、申請書の企画・準備をサポートすることに努めた。米国側の予算システムの変更により、米国側における旅費支給の問題が解決して、意見交換セミナーを日本国内で開催することが可能となった。

本事業の知名度を上げるための企画として、2008年3月開催の日本生理学会年会(学会長 佐久間 日本医科大学教授)でランチョンセミナーを開催、生理研研究会で日米脳紹介を行ったことに引き続き、2009年9月開催の日本神経科学学会(大会長:伊佐生理研教授)で、ランチョンセミナーを開催した。いずれも約200人規模のセミナーで、学会内で開催することから、効率のよい広報活動であることがわかり、来年度も実行を検討する。

2006~2008年度助成受領者へのアンケート調査の結果を報告した。20名にアンケートを送付し、13名から回答を得た。その結果、受領者側から成果発表の場を希望していることがわかり、上述のランチョンセミナー等を含めて、検討する予定である。

全体として、サポートは成功裏に進んでおり、全国の研究者に広く活用していただき、脳研究が進展することと共に日米研究交流の深まることが期待される。

表1.2 種目別、分野別の採択件数
年度 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
派遣 4 6 4 4 2 2 3 2 3 1 31
グループ 6 8 12 8 9 7 6 6 6 5 73
情報交換セミナー 0 0 2 1 2 1 0 2 1 1 10
10 14 18 13 13 10 9 10 10 7 114
細胞・分子 6 1 7 5 6 2 2 3 4 3 39
発達・修復・可塑性 0 0 3 1 2 3 0 0 1 2 12
行動・システム・認知 2 10 7 6 5 3 5 5 4 2 49
疾病 2 3 1 1 0 2 2 2 1 0 14