1 国立精神・神経センター 神経研究所 高坂新一 所長

第1期中期目標・中期計画期間(2004~2009年度)における
生理学研究所運営に対する外部評価

国立精神・神経センター 神経研究所長
高坂 新一

平成22年3月2日、表記案件につき自然科学研究機構生理学研究所を訪れ、生理学研究所の岡田泰伸所長、池中一裕副所長、井本敬二研究総主幹を中心にヒアリングを行った。以下、説明のあった各項目につき評価を記す。

予算: 生理学研究所も他の国立大学法人同様運営費交付金が毎年1%ずつ削減されている。しかし、運営費交付金の減少を外部資金直接経費やそれに付随する間接経費により補う努力をしている。特に2008年度より脳科学研究戦略推進プログラムの拠点として活躍しており、健全な予算運営を行っている。生理学研究所は国立共同研究機構の中心的施設として全国の研究機関との共同研究を推進する使命を担っており、これに付随した多くのサービス業務もあることから、国はこの為に更なる運営交付金を措置すべきである。

組織・運営: 法人化以降研究組織の再編を行い、所長の強いリーダーシップが発揮しやすい体制となっている。生理研独自の研究を推進する研究系と共同研究推進の為のセンターを組織上分離することにより外部から理解しやすい組織構成となっている。さらに行動・代謝分子解析センター、多次元共同脳科学推進センター、情報処理・発信センターなどを新たに設置し、研究の多様化や研究者のニーズによく対応している。一方、生理研独自の事務体制を有しておらず、人員数、機能面、効率面でもさらなる改善が求められる。

人事: 生理学研究所の人事選考は、教授・准教授の場合、外部委員を含む運営会議委員により構成される人事選考委員会の報告を受けて、運営会議で審議を行っている。また助教に関しては、生理学研究所教授会議の審査を経て、運営会議に諮ることとなっている。この選考方法は公正性、透明性ともに優れていると判断される。特徴的なことは生理学研究所では内部昇進を行わないことを原則としていることである。任期は5年で、任期の更新によりパーマネント職としている。内部昇進(原則)禁止は研究所員の流動性を高めることに功を奏しているが、優れた研究者を留めて置けない点、研究職員への応募者が少ない点などから慎重な運営が求められる。また、任期更新によりパーマネント職となる点については、再任時の評価基準をより厳格かつ明確にするなどの改善が必要である。女性研究教育職員や外国人研究教育職員獲得に努力をされているが、まだ不十分であるように思われる。

研究業績: 個々の研究者および研究所全体の業績としては質が高く、申し分ない。ただ、5-10年後の生理学研究所の将来像をもっと明確にし、例えば重点化研究領域の設定などの提案が欲しい。さらに、理化学研究所脳科学総合研究センターとの区分をより明確にした方がよい。

共同研究・共同利用実験: 生理学研究所では、大学共同利用機関として大型設備の「共同利用実験」、「一般共同研究」、「計画共同研究」、「生理研研究会」を公募し研究者コミュニティの便宜をはかるとともに、共同研究活動の高度化と新しいシーズの開拓を行っている。採否の選考過程には外部委員も入るなど、オープンで公正に行っており、評価できる。共同利用件数も増加しているが、生理学研究所ではそれに対して旅費等の研究費を増加させており、共同利用に力を入れていることが理解できる。今後とも生理学研究所に特徴的な電気生理、電子顕微鏡などの共同利用研究を中心に発展に努めてもらいたい。

大学院教育、若手研究者育成: 生理学研究所は総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻の基盤機関として、5年一貫制および後期博士課程(3年)における大学院教育を行っている。またこのほかに、脳神経科学研究や医学生理学研究を志す他大学の大学院生を、生理学研究所特別共同利用研究員として受け入れている。これらの大学院生に対する、教育および経済的サポートは充実しているが、応募者数は年々減少傾向にある。どのようにして優秀な大学院生、若手研究者を集めるのか、今後の重要な課題である。

労働安全衛生・倫理: 労働衛生関係の規則・制度は、法人化後もっとも実際的な変化が大きかったが、技術課、事務センターなど全員の協力により、労働衛生関係の管理は順調に行われている。研究に関わる倫理は倫理委員会でよく審査されているが、Incidental findingの問題など神経倫理に関する事柄を率先して検討する必要がある。

動物実験関係: 動物実験は、生理学研究所の研究にとって不可欠であり、動物実験が適切に行われるように、制度、管理体制が常に見直されている。動物実験の管理体制は、動物愛護法の改訂により管理体制が変更され、それにともなって動物実験コーディネータ室が設置されるなど、管理体制の整備が進められており評価できる。

広報活動・社会連携活動: 公的資金を受けている研究者の社会的説明責任の重みが増すという社会状況の変化を受け、法人化後、生理学研究所は広報活動、社会貢献活動に積極的に取り組んできた。新たな活動を多数開始し、広報体制が強化されていることは評価できる。しかし、活動は研究者の努力に依存していることから、広報を専門とする専門家の雇用も検討すべきである。