3 細胞器官研究系 細胞生理研究部門
(岡崎統合バイオサイエンスセンター)
(富永真琴教授)の評価
3.1 Bernd Nilius教授
It is with the maximum possible enthusiasm that I recommend Dr. Makoto TOMINAGA for continuing his professor position in National Institute for Physiological Sciences. I am a physiologist whose laboratory has studied the biophysics and biology of ion channels for more than 35 years. For the past ten years, my laboratory has been one of the world's leading laboratories in the study of TRP channels. I have therefore had ample opportunity to evaluate Professor Tominaga's outstanding contributions to this field. In short, he is a one of the major international leaders in the study of ion channels and TRP channels and has contributed substantially to these field on multiple, diverse fronts.
More specifically, I have been working on thermosensitive TRP channels for more than ten years, and for the first time had a chance to see Professor Tominaga in the TRP Channel Meeting at Leuven, Belgium which I organized in September, 2005. Since then, I have seen him many times in the international TRP channel-related meetings, and have had lots of very intensive, fruitful and pleasant discussions with him. Professor Tominaga got an assistant professor position in Tsukuba University, Japan after coming back from David Julius laboratory in UCSF, USA where he was involved in the cloning and functional characterization of capsaicin receptor TRPV1 and its related molecule TRPV2, the first and second temperature-activated ion channels. He published indeed landmark papers on the cloning and characterization of the first heat-gated ion channels. The work provided a tremendous impact on the people working not only on thermosensation but also on other ion channels. He received a professor position in Department of Physiology, Mie University School of Medicine in 2000. Then, he moved to Okazaki Institute for Integrative Bioscience (National Institute for Physiological Sciences) in Okazaki. Professor Tominaga has intensively worked on the activation and regulation mechanisms of capsaicin receptor TRPV1, and he also found several critical amino acid residues involved in the important TRPV1 functions. As Editor in Chief, I asked Professor Tominaga to contribute to Pflüger Archiv - European Journal of Physiology with a review article titled “Structure function of TRPV1” in 2005 and I invited him for all his excellent support to become a member of the Editorial Board of this oldest Physiology journal in the world! He published several works in the high international journals such as PNAS when he was in Mie University. Then, upon moving to Okazaki, his interest seemed to show a little bit shift to physiological significance of other thermosensitive TRP channels since five of the nine known thermosensitive TRP channels are activated by warm temperatures. He found the ninth thermosensitive TRP channel, TRPM2 which is activated by body temperature and involved in insulin secretion from the pancreatic β-cells. He also found that warm temperature-activated TRPV4 channels are expressed in hippocampal pyramidal neurons and involved in the regulation of nerve excitability. His group showed the interesting ATP-mediated transmission mechanisms of temperature information to sensory neurons from the skin keratinocytes where TRPV3,TRPV4 causes Ca2+ influx upon activation by warm stimulus. These works were published in the high journals such as EMBOJ, and shed lights on the temperature physiology.
Because of Professor Tominaga's continuing impact on the study of TRP channel biology, he is frequently invited to speak at international conferences, including those I have organized. His presentations are always a highlight of the meetings. I have enjoyed his presentations for their clarity and content, and have especially enjoyed our collegial scientific banter over details about which we might or might not agree. He also has been an administrative leader in the field, having co-organized successful several international meetings.
I had a chance to visit his laboratory in 2009 following my attending IUPS meeting in Kyoto and PAT-CVR meeting in Okazaki, and was very much impressed to see that many young researchers in his laboratory were working hard. With no doubt, Professor Tominaga has created an excellent research environment for young scientists but also for senior post docs which is worldwide considered as one of the most productive places in ion channel research and more specifically in the extremely important field of TRP channel research. Thus, I am very much confident that Professor Tominaga would be highly successful and lead the TRP channel research in the world.
In summary, I strongly and wholeheartedly support Professor Tominaga's for continuing his professor position in National Institute for Physiological Sciences. Few laboratories have continued to break new ground across the TRP ion channel field the way his lab has. I therefore have no doubt that Professor Tominaga will remain a world leader in the study of TRP channels for years to come.
Very respectfully,
Bernd Nilius, M.D., Ph.D.
Full Professor of Physiology
Bernd Nilius, M.D., Ph.D.,
Full Professor of Physiology
Member Academia Europea (Committee Member Medicine/Physiology)
EMBO Member
Foreign Corresponding Member Belgium Royal Academy of Medicine
Editor in Chief Pflügers Arch Europ J Physiol
KU Leuven, Campus Gasthuisber, Herestraat 49, bus 802
Tel 32-16-345 937 Fax 32 16 345 991
e-mail: bernd.nilius@med.kuleuven.be
(和訳)
私は、最大限の熱意をもって、富永真琴教授の生理学研究所での教授職の継続を推薦するものです。私は生理学者であり、私の研究室は35年以上にわたってイオンチャネルの生物物理学・生物学の研究をしてきました。過去10年、私の研究室はTRPチャネル研究で世界をリードする研究室の1つです。したがって、私はこの研究領域への富永教授の多大な貢献を評価できる立場にあると言えます。短く言えば、彼はTRPイオンチャネル研究の国際的リーダーの一人であり、多彩な面からこの研究領域に貢献してきました。
もっと詳しく言えば、私は10年以上、温度感受性TRPチャネル研究に携わってきましたが、2005年9月に私の企画でベルギー リューベンで開催されたTRPチャネル会議で初めて富永教授と会いました。それ以来、TRPチャネルに関する国際会議でたびたび富永教授に会い、多くのつっこんだ実り多き討論を重ねてきました。富永教授は、カプサイシン受容体TRPV1とそのホモログTRPV2(世界最初と2番目の温度感受性イオンチャネル)の遺伝子クローニングと解析を行った米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校のデイビッドジュリアス研究室から帰国した後、筑波大学に講師の職を得ました。彼は、その最初の熱作動性チャネルのクローニングと解析に関してランドマークとなる論文を発表しました。その仕事は、温度感受性研究者だけでなくほかのイオンチャネル研究者にもとても大きなインパクトを与えました。彼は、2000年に三重大学医学部生理学講座に教授職を得ました。それから、岡崎にある岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所)に異動しました。富永教授はカプサイシン受容体TRPV1の活性化および制御メカニズムの研究を精力的に進め、また、重要なTRPV1機能に関わるいくつかのアミノ酸残基を発見しました。私は、チーフエディターとして2005年、富永教授にPflüger Archiv - European Journal of Physiologへの総説「Structure and function of TRPV1」執筆を依頼しました。そして、世界で最も古いこの生理学雑誌のEditorial Boardメンバーに加わってもらいました。彼は、三重大学にいるときにPNASを初めハイレベルの国際雑誌に論文を発表しました。岡崎に移ってからは、ほかの温度感受性TRPチャネルの生理学的意義の解析に少し研究方向をシフトさせました、というのは、9つの温度感受性TRPチャネルのうち5つは温かい温度で活性化されるからです。彼は、体温で活性化して膵臓$\beta$細胞からのインスリン分泌に関与する9つ目の温度感受性TRPチャネルTRPM2を発見しました。彼はまた、温かい温度で活性化するTRPV4が海馬錐体細胞に発現して神経興奮性の制御に関わることを見いだしました。彼のグループは表皮ケラチノサイトでTRPV3, TRPV4が温度刺激によって活性化してCa2+を流入させて表皮から感覚神経に温度情報をATPを介して伝達するという興味深いメカニズムを示しました。これらの成果はEMBOJをはじめとするハイレベルの国際誌に発表され、温度生理学に大きな影響を与えました。
富永教授のTRPチャネル生物学研究への持続的なインパクト故に、彼は私がオーガナイズしたものも含めて国際カンファレンスにしばしば講演者として招待されています。彼のプレゼンテーションはいつも会議のハイライトです。私は、講演の明快さと内容ゆえに彼のプレゼンテーションをいつも楽しんでおり、また、私たちが同意できるかあるいは同意できない実験結果の詳細についての科学的な冗談を特に楽しみました。彼はまた、成功裏に終わったいくつかの国際ミーティングをオーガナイズして、その分野での運営手腕も卓越しています。
私は、2009年に京都で行われたIUPSミーティングと岡崎で行われたPAT-CVRミーティングに参加した後に彼の研究室を訪問する機会を得ました。彼の研究室の多くの若い研究者が一生懸命研究していたのがとれも印象的でした。疑いもなく、富永教授は若い研究者やシニアポスドクに素晴らしい研究環境を作っており、そこは、イオンチャネル研究や、もっと特別には非常に重要なTRPチャネル研究領域において最もプロダクティブな場所の1つであろうと思われました。このように、私は、富永教授が非常に成功しており、世界のTRPチャネル研究をリードしていることを確信しています。
要約すると、私は、富永教授が生理学研究所での教授職を継続することに関して強く、また、心から支持します。彼の研究室のようにTRPイオンチャネル領域で新しい発見を続けるラボは非常に少ないです。したがって、私は、疑いなく、富永教授が今後もTRPチャネル研究で世界をリードし続けると思っています。
Bernd Nilius
ベルギー リューベン大学 生理学教授
ヨーロッパアカデミア メンバー
EMBOメンバー
ベルギー医学ロイヤルアカデミー メンバー
Pflüger Archiv -- European Journal of Physiology チーフエディター
3.2 畿央大学大学院 金子章 教授
自然科学研究機構 生理学研究所 細胞生理研究部門 外部評価報告書
平成22年1月8日に外部評価委員として生理学研究所細胞生理研究部門を訪問し、富永真琴教授、山中章弘准教授始め部門の構成員の皆さんから当該部門のこれまでの研究の成果と現状について説明を受け、研究室を視察させていただいたので、その結果を報告する。
本部門は生理学研究所細胞器官研究系の一部門であると同時に、自然科学研究機構・岡崎共通研究施設である岡崎統合バイオサイエンスセンター・生命環境研究領域の研究部門であるという二面性を有しており、研究室は山手地区の2号館6階西にある。約1,000 m2という恵まれた環境の中で、助教以上の教員(着任予定の者、特任教員も含む)4名、技術職員1名、博士研究員3名、学振外国人特別研究員1名(リビア出身)、総合研究大学院大学大学院生5名、受託大学院生3名、技術支援員2名の総勢19名のチームで研究が進められている。
富永真琴教授は平成16年(2004年)5月に三重大学より赴任され、5年半が経過した。その間、TRPイオンチャネルスーパーファミリーの機能解析を中心とした研究を進められてきた。その研究は生理学研究所細胞生理研究部門としてだけでなく、自然科学研究機構内共同研究「バイオ分子センサーの学際的・融合的共同研究」として、また、特定領域研究:「セルセンサーの分子連関とモーダルシフト」の領域代表者として行われている。2008年度には10件の生理研内の計画共同研究、一般共同研究を受け入れており、また、TRPチャネル研究会、体温研究会、痛み研究会をそれぞれ5年間開催している。また、本年度はこれらに加え光操作研究会(山中章弘准教授が担当)を開催され、このような活動を通じて所外との連携を深め、共同利用研究所としての責務を遂行されている。一方、5名の総合研究大学院大学大学院生や3名の受託大学院生を受け入れて大学院教育にも貢献されている。これまでに富永教授指導の下で3名の方が学位(博士)を取得された。
産学連携も盛んで11社との間で産学連携研究が行われている。この取り組みについても、サンプルのテストを請け負うというのではなく、外部の会社の研究者が研究室を訪問して研究指導を受け自らが実験に参加して成果を得るという連携体制が取られている。
TRPイオンチャネルはさまざまな細胞表面に発現しているイオンチャネル分子である。TRPイオンチャネルは大きなスーパーファミリーを構成しており、その分子構造によってA, M, Vのグループに分類され、さらにサブタイプに分けられている。TRPイオンチャネルは温度依存的にゲートされ、さらにリガンド感受性を持っている。そのため、温度受容、痛み刺激受容、味覚受容に関わる機能を持つと考えられている。本研究部門の富永教授を中心とする研究チームは分子細胞生物学的、生化学的、発生工学的、電気生理学的手法を用いてTRPイオンチャネルの機能を解析し、温度受容、痛み受容、味覚受容の分子機構の解明を行っている。また、哺乳動物細胞での細胞接着と細胞運動に関わる情報伝達経路、イオンチャネルの解析を行っている。
温度受容の分子機構の解明に関する研究では既知の温度受容体の異所性発現系を用いた解析、変異体等を用いた構造機能解析、感覚神経細胞等を用いた電気生理学的な機能解析、組織での発現解析、遺伝子欠損マウスを用いた行動解析を通して温度受容機構の全容解明を目指している。また、体温近傍の温度でのイオンチャネル活性化の生理学的意義の検討も進め、さらに、新規温度受容体の探索も行っている。最近、表皮ケラチノサイトにTRPV3, TRPV4が発現していることを明らかにし、これらのTRPイオンチャネルの活性化によって表皮ケラチノサイトはATPを放出し、これが感覚神経のプリン受容体に作用して温感覚を生じさせる可能性を示唆している。また、海馬の神経細胞に体温環境下で活性化するTRPV4チャネルの存在を明らかにし、脳内にも体温の検出に関わる機能が存在することを示唆している。さらに膵臓のβ細胞がTRPM2チャネルを発現しており、これが発熱すると血中インシュリン濃度を高める現象に関わっていることを示している。これら温度感受性のTRPイオンチャネルは哺乳動物の細胞だけでなく昆虫にも見出されており、これらによってミツバチの活動やカイコの休眠活動がトリガーされるのではないかと示唆している。
温度感受性のTRPイオンチャネルはStretch-activated チャネルの性質も持っており、膀胱上皮細胞にあるTRPV4チャネルは尿の貯留による膀胱の伸展によって活性化され、細胞内カルシウムの上昇を介してATPを放出し、これが感覚神経のプリン受容体に作用して排尿反射を誘発するメカニズムが示唆されている。
痛み刺激受容の分子機構の解明に関する研究は主に感覚神経細胞、異所性発現系を用いて行われており、感覚神経終末における侵害刺激受容の分子機構の解明を目指している。 体温調節、摂食行動や睡眠覚醒調節などの生体恒常性維持に重要な視床下部神経細胞を中心に解析を行なっている。山中准教授を中心とするグループは睡眠障害ナルコレプシーが視床下部の神経ペプチド、オレキシン、の不足によって発生することに注目し、様々な遺伝子改変動物を作成し、それらを用いてスライスパッチクランプをはじめとする電気生理学的解析や、インビボ細胞外記録、免疫組織化学、睡眠解析などの多岐にわたる手技を組み合わせた解析を行なっている。特に、神経ペプチドプロモーターを用いて光活性化蛋白質を発現誘導させ、視床下部へ刺入した細い光ファイバーから光を照射することによってオレキシン細胞を刺激してオレキシンを分泌させそれが睡眠や本能行動にどのように影響するかを研究している。視床下部神経細胞に光感受性を付与するには近年、光感受性網膜神経節細胞に発現しているメラノプシンを導入する方法が取られている。
2006年度以降の研究業績の発表は2006年にはNature Chemical Biology, Proc Natl Acad Sciなど計6篇、2007年にはJ Clin Invest, J Neurosciなどに5編、2008年にはJ Clin Invest, J Neurosciにそれぞれ2編を含め計10編、2009年は年度中途であるがJ Biol Chemなどに5編と一流の国際学術雑誌に多数の論文を発表している。
総括:以上述べてきたように、富永真琴教授、山中章弘准教授を中心とする細胞生理研究部門はCell Sensorの考えの下に、個々の細胞がそれを取り巻く環境を検出し、その機能を発揮するメカニズムを解明している。しかし、個々の細胞の働きにとどまらず、それらが個体としてのさまざまな生理機能にどのように関連しているかに注目しているのはまさに生理学の目標である“Function of Life: Elements and Integration”を意識して研究しておられる態度であると感銘を受けた。生理学は医学の基礎となる分野であり、メカニズムの理解・解明がその目指すところではあるが、その知見は臨床応用に生かされるものである。近年、ヒトを対象として脳の高次機能を解明しようというアプローチが盛んであるが、個々の細胞の機能から個体へと理解を積み上げていくという方法論は極めて貴重であり、私は生理学研究所としてこのような研究を今後も力強く支援していくことが重要であると考えている。
平成22年1月27日
畿央大学大学院・健康科学研究科
研究科長・教授 金子章道
3.3 東京大学 大学院 医学系研究科 森憲作教授
細胞生理研究部門 富永真琴教授の外部評価
東京大学 大学院医学系研究科
森 憲作
岡崎統合バイオサイエンスセンター、生命環境研究領域、細胞生理研究部門は、2004年5月の富永真琴教授の着任以来、一貫して、細胞におけるTRPイオンチャネルスーパーファミリーの構造機能解析、活性化制御機構の解析を通して、細胞による細胞外情報感知の分子メカニズムの研究を推進してきた。 この研究テーマの一貫性は、富永教授の優れた研究ストラテジーを反映しており、当研究部門の研究活動の展開の基盤をなしている。 実際、研究の焦点を、侵害刺激、温度刺激、機械刺激を受容するセルセンサーにあて、今日までに、「侵害刺激受容にかかわるカプサイシン受容体のリン酸化機構の解析」、「プロスタグランジンによる炎症性疼痛発生のメカニズムの解明」、「表皮ケラチノサイトにおけるTRPV4の生理機能と、表皮ケラチノサイトから感覚神経への温度情報伝達メカニズムの解析」、「海馬ニューロンにおけるTRPV4の体温に依存した機能の発見」、「糖尿病性神経痛におけるTRPV1機能の解析」、「パラベンがTRPA1チャネルの新規刺激物質であることの発見」、「膵臓ベータ細胞におけるTRPM2のインスリン分泌への関与の発見」、「TRPA1チャネルの細胞内アルカリ化による活性化の発見」、「味細胞の酸味受容体としてのPKD1L3/PKD2L1とそのOffチャネルとしての機能の解明」、「ショウジョウバエのpainlessは熱感受性チャネルであることを発見」など、短期間に多くの研究成果をあげている。 これらの研究内容を個々に記述することはしないが、いずれもセルセンサー研究の最も基礎的な研究であり、なおかつ、国内、国外を問わずこの分野の最先端を行くものである。 また、山中章弘准教授は、2008年に着任以来「オレキシン神経に焦点をあてて、睡眠覚醒調節の神経回路網の解析」を開始している。
細胞生理研究部門は現在、富永教授、山中准教授、助教1名(2010年2月着任予定)、曽我部特任助教の4名のスタッフと、技術職員1、博士研究員3、学振外国人特別研究員1、大学院生5、特別共同利用研究員3、技術支援員2、秘書2、からなっている。 2010年1月8日に、外部評価委員の一員として細胞生理研究部門を見学し、研究部門のメンバーの方々とお話しする機会を持った。 このサイトビジットにより、細胞生理研究部門はチーム一丸となって運営されるとともに、個々の研究者はそれぞれの研究課題を熱心に追求しているとの強い印象を得た。 それぞれの研究者の現在おこなっている研究課題は非常に興味ある独創的なものであり、このまま継続して研究を進めれば大きな知識の進歩につながると期待される。 また、研究室の研究装置類は非常に機能的に配置されよく整備されており、活発で効率的な研究活動が推測できた。さらに、富永教授は若い大学院生の教育にも熱心で、3人の博士号取得者を育て、現在5人の大学院生と3人の受託大学院生の研究指導をおこなっている。
富永教授の研究の特徴の1つは、卓越した研究展開予測のもとに多様な研究者との共同研究をおこない、セルセンサー分野の研究を共同して強力に推進する点である。 富永教授は文部科学省科研費特定領域研究「セルセンサーの分子連関とモーダルシフト(細胞感覚)」の領域代表として、日本を代表してこの分野の研究の推進役を担っている。 また、自然科学研究機構内共同研究「バイオ分子センサーの学際的・融合的共同利用研究」や生理学研究所共同研究においても多くの多様な研究者との共同研究を積極的に進めている。 さらには、大阪大学蛋白質研究所との「蛋白質研究国際フロンテイア」での共同研究や、生理研研究会、および産学連携研究をも推し進め、様々な細胞でのセルセンサーの研究を推進してきた。 このような共同研究を進めるためには周到な研究計画と時間とエネルギーが必要だが、富永教授の優れた能力と努力で上記の共同研究が成功しており、大きな感銘をうけた。 共同利用研究機関としての生理学研究所の教授として今後もセルセンサーの共同研究・連携研究を持続的にかつ大きく展開されることを期待する。
以上のように、現在 細胞生理学部門はセルセンサー研究のフロンテイアに立っており、その精力的な研究と研究技法により今後大きな展開が期待される。 また、細胞生理学部門は国内・国外のセルセンサー研究者のネットワークや連携研究の要としての重要な役割をも果たしている。 さらに、細胞生理学部門から育ちつつある若手研究者の将来の発展も十分に期待できる。 現在の細胞生理学部門の研究体制を維持・発展させ、セルセンサー研究のこれからの新しい展開を図るべく、機関としての支援がなされるようお願いしたい。
平成22年1月27日
森 憲作
東京大学、大学院医学系研究科
細胞分子生理学分野 教授