1 共同研究および共同利用研究による顕著な業績

(神経機能素子研究部門)
Nakane Y, Ikegami K, Ono H, Yamamoto N, Yoshida S, Hirunagi K, Ebihara S, Kubo Y, Yoshimura T (2010) A mammalian neural tissue opsin (Opsin 5) is a deep brain photoreceptor in birds. Proc Natl Acad Sci USA107:15264-15268.
  名大・院生命農学の吉村崇教授との「生理研一般共同研究」の成果である。ウズラ脳の視床下部に存在する発生過程の視細胞と類似した形態を持つ神経細胞に、 オプシン5というGタンパク質結合型受容体が発現していることを見いだした。ツメガエル卵母細胞での機能解析により、オプシン5が光受容体であり、紫色の 光に強く反応することが明らかになった。この結果は、ウズラ脳の深部に光受容機構があることを示す。

(分子神経生理研究部門)
Murakami S, Ohki-Hamazaki H, Watanabe K, Ikenaka K, Ono K (2010) Netrin 1 provides a chemoattractive cue for the ventral migration of GnRH neurons in the chick forebrain. J Comp Neurol 518:2019-2034.
  嗅板に由来するGnRHニューロンは、脳の前端部から脳内に入り、最初は後方に、次いで腹側方向に移動し前脳基底部に到達する。本論文では、このうち腹側 方向への方向転換の制御機構を、ニワトリ胚への異所性分子発現と培養系とを用いて調べた。その結果、GnRHニューロンは、前脳基底部の脳室層細胞で発現 するネトリン1に誘引され、方向転換を行い腹側方向に移動することが明らかにされた。

Shimono C, Manabe R, Yamada T, Fukuda S, Kawai J, Furutani Y, Tsutsui K, Ikenaka K, Hayashizaki Y, Sekiguchi K (2010) Identification and characterization of nCLP2, a novel Clq family protein expressed in the central nervous system. J Biochem 147: 565-579.
  新たな細胞接着因子の単離とその局在を明らかにした。その過程で生理研においてin situ hybridization 法を教えた。

Piao H, Minohara M, Kawamura N, Li W, Mizunoe Y, Umehara F, Goto Y, Kusunoki S, Matsushita T, Ikenaka K, Maejima T, Nabekura J, Yamasaki R, Kira J (2010) Induction of paranodal myelin detachment and sodium channel loss in vivo by campylobacter jejuni DNA-binding protein from starved cells (C-Dps) in myelinated nerve fibers. J Neurol Sci 288:54-62.
  Campylobacter jujuniの先行感染はギラン・バレー症候群発症に至る原因因子の一つと考えられている。本研究ではC-Dps蛋白質がその本態であることを示した。生理学研究所はイオンチャネルの染色を担当した。

Bao GM, Tanaka K, Ikenaka K, Fukase K (2010) Probe design and synthesis of Galβ(1→3)[NeuAcα(2→6)] GlcNAcβ(1→2)Man motif of N-glycan. Bioorg Med Chem 18:3760-3766.
  生理研で発見した脳内に存在する新規シアル酸構造を大阪大学で合成した。

Gotoh H, Ono K, Takebayashi H, Harada H, Nakamura H, Ikenaka K. Genetically-defined lineage tracing of Nkx2.2-expressing cells in chick spinal cord. Dev Biol (in press).
  発達期ニワトリ脊髄にmurine retrovirus receptorを部位特異的に発現させた後、組み換えmurine retrovirus vectorを感染させることにより、新たな細胞系譜追跡方法を開発した。これにより、P3ドメインから発生するオリゴデンドロサイト系譜を明らかにし た。

(機能協関研究部門)
Sato K, Numata T, Saito T, Ueta Y, Okada Y. V2 receptor-mediated autocrine role of somato-dendritic release of AVP in rat vasopressin neurons under hypoosmotic conditions. Sci Signal (in press).
  これは産業医科大学医学部 上田陽一教授との2009(平成21)年度計画共同研究(「ラットバゾプレシン産生ニューロンにおける酸感受性について」)による研究成果である。バソプ レシンは、腎臓では水の再吸収を促進して利尿を阻止する役割を担うが、本研究の結果、脳では細胞容積の調節を促進して細胞の破裂を阻止する役割を担う事を 突き止めた。更に、腎臓にしか発現していないとされていたV2型バソプレシン受容体が脳にも発現し、この容積調節機構に関与している事も明らかにした。

Ohbuchi T, Sato K, Suzuki H, Okada Y, Dayanithi G, Murphy D, Ueta Y (2010) Acid-sensing ion channels in rat hypothalamic vasopressin neurons of the supraoptic nucleus. J Physiol 588:2147-2162.
  これは産業医科大学医学部 上田陽一教授との2009(平成21)年度計画共同研究(「ラットバゾプレシン産生ニューロンにおける酸感受性について」)による研究成果である。 ASICは酸をセンスするNa+チャネルであるが、今回、低酸素状態における乳酸増を検知してバソプレッシン神経を興奮させ、バソプレッシン分泌を高める ことを明らかにした。

Inoue H, Takahashi N, Okada Y, M. Konishi (2010) Volume-sensitive outwardly rectifying chloride channel in white adipocytes from normal and diabetic mice. Am J Physiol Cell Physiol 298:C900-C909.
  これは東京医科大学の城田(井上)華博士と小西真人教授との2009(平成21)年度計画共同研究(「白色脂肪細胞における容積センサーアニオンチャネル のインスリン抵抗性発症への関与の検討」)による研究成果である。多くの細胞で、細胞膨張時の容積調節はRegulatory Volume Decrease (RVD)と呼ばれ、そのときの容積調節性Cl$^-$流出路を与えるのが容積感受性外向整流性アニオンチャネル(VSOR)であることが知られている が、今回、白色脂肪細胞にもVSORが発現しており、RVDを担うこと、そして糖尿病マウスの脂肪細胞ではこのVSORの発現が低下しており、RVD能も 抑制されていることを明らかにした。

(神経シグナル研究部門)
Georgiev SK, Furue H, Baba H, Kohno T (2010) Xenon inhibits excitatory but not inhibitory transmission in rat spinal cord dorsal horn neurons. Mol Pain 6:25.
  新潟大学医学部麻酔科との共同研究であり、生理研ではxenonの麻酔作用をin vivoパッチクランプで検討した。

(感覚認知情報研究部門)
Banno T, Ichinohe N, Rockland KS, Komatsu H (2010) Reciprocal connectivity of identified color-processing modules in the monkey inferior temporal cortex. Cerebral Cortex, doi: 10.1093/cercor/bhq211.
  弘前大学医学部(現在国立精神・神経医療センター)の一戸紀孝教授との共同研究で、サル下側頭皮質の前部と後部に同定した色選択性細胞が集中して存在する 複数の領域間の結合関係を調べた。生理学的に同定した各領域にトレーサーを注入することにより、これらの領域が相互に結合を持ち、高次視覚野における色情 報のネットワークを作っていることを明らかにした。

(感覚運動調節研究部門)
Nakato E, Otsuka Y, Kanazawa S,Yamaguchi MK, Kakigi R. Distinct differences in the pattern of hemodynamic response to happy and angry facial expressions in infants -A near-Infrared Spectroscopic study. Neuroimage (in press).
  この論文は中央大学文学部との共同研究で、近赤外線分光法(NIRS)を用いて、乳児の顔認知に関する脳活動を解析したものである。6、7ヶ月前後の赤 ちゃんでは、相手の表情が認識できるようになり、笑顔に対しては活動が持続するが、怒り顔に対してはすぐに活動が低下する事がわかった。また、笑顔には左 半球、怒り顔には右半球が主として活動する事が明らかになった。

(生体システム研究部門)
Hashimoto M, Takahara D, Hirata Y, Inoue KI, Miyachi S, Nambu A, Tanji J, Takada M, Hoshi E (2010) Motor and non-motor projections from the cerebellum to rostrocaudally distinct sectors of the dorsal premotor cortex in macaques. Eur J Neurosci 31: 1402-1413.
  京都大学霊長類研究所高田昌彦教授、玉川大学脳研究所星英司教授との共同研究で、マカク属サルに対して狂犬病ウイルスを越シナプス性とレーサーとして用い、背側運動前野と小脳との線維連絡の詳細を明らかにした。

(脳形態解析研究部門)
Matsuda K, Miura E, Miyazaki T, Kakegawa W, Emi K, Narumi S, Fukazawa Y, Ito-Ishida A, Kondo T, Shigemoto R, Watanabe M, Yuzaki M (2010) Cbln1 is a ligand for an orphan glutamate receptor delta2, a bidirectional synapse organizer. Science. 328:363-368.
  慶応大学医学部柚崎通介教授との共同研究でdelta2受容体に結合するCbln1が小脳平行線維ープルキンエ細胞シナプスの形成を制御することを明らかにした。

(大脳神経回路論研究部門)
Puig MV, Watakabe A, Ushimaru M, Yamamori T, Kawaguchi Y (2010) Serotonin modulates fast-spiking interneuron and synchronous activity in the rat prefrontal cortex through 5-HT1A and 5-HT2A receptors. J Neurosci 30: 2211-2222.
  基礎生物学研究所との共同研究で、セロトニン1A、2A受容体のmRNA発現を皮質パルブアルブミン細胞で調べたところ、両受容体ともに一部の細胞で見ら れたが、両方を発現する細胞は少なかった。この受容体発現様式と電気生理学的解析を併せて、新皮質徐波生成がセロトニン2A受容体に依存することや、ガン マ振動がパルブアルブミンFS細胞の1A,2A受容体を介して調節される可能性を明らかにした。

(心理生理学研究部門)
Iidaka T, Harada T, Sadato N. Forming a negative impression of another person correlates with activation in medial prefrontal cortex and amygdala. Soc Cogn Affect Neurosci (in press).
 名古屋大学医学部飯高哲也准教授との共同研究で顔刺激と不快な音声刺激を用いて、特定の顔に対する印象が形成される過程をfMRIを用いて検討した。こ こでも不快な音声を付加された顔に対する印象の悪化の程度が、扁桃体の活動と相関することが示された。さらに内側前頭前野や上側頭回などの、いわゆる「社 会脳」領域の活動が印象形成にかかわっていることが分かった。

Iidaka T, Saito DN, Komeda H, Mano Y, Kanayama N, Osumi T, Ozaki N, Sadato N (2010) Transient neural activation in human amygdala involved in aversive conditioning of face and voice. J Cogn Neurosci 22:2074-2085.
  名古屋大学医学部飯高哲也准教授との共同研究で、顔に対して不快な音声を付加することで顔に対する嫌悪条件付けを行った研究では、扁桃体の活動が条件付け の初期に一過性に亢進することが分かった。この結果はわれわれが社会生活の中で受けている、顔と声の刺激が心理的なストレスとして働いている可能性を示し たものである。

(認知行動発達機構研究部門)
Higo N, Sato A, Yamamoto T, Nishimura Y, Oishi T, Murata Y, Onoe H, Yoshino-Saito K, Tsuboi F, Takahashi M, Isa T, Kojima T (2010) SPP1 is selectively expressed in corticospinal neurons of the macaque sensorimotor cortex. J Com Neurol 518: 2633-2644.
  産業技術総合研究所の肥後研究員、理化学研究所の小島グループリーダー(現在浜松医大准教授)、京都大学霊長類研究所の大石准教授との共同研究。マカク属 のサルの大脳皮質の組織標本をマイクロアレイによって解析し、特に一次運動野に多く発現する遺伝子の中からin-situ hybridization法により、V層の錐体細胞に特異的に発現する遺伝子SPP-1を見出した。SPP-1は皮質脊髄路細胞に発現している。 SPP-1は他に脳幹の大細胞性赤核や外側膝状体の大型細胞や脊髄運動ニューロンにも発現しており、脳幹、脊髄での発現はげっ歯類と共通しているが、げっ 歯類の大脳皮質には発現していない。さらに興味深いことに、同じ霊長類でもより手指の運動の巧緻性に劣るコモンマーモセットの大脳皮質にも発現していな い。このことからSPP-1の大脳皮質で発現は手指の巧緻性とおそらく関係のある皮質脊髄路と脊髄運動ニューロンの直接結合の存在と関係していると考えら れる。

Yamamoto T, Higo N, Sato A, Nishimura Y, Oishi T, Murata Y, Yoshino-Saito K, Isa T, Kojima T. SPP1 expression in voluntary spinal motor neurons of the macaque monkey. Neurosci Res (in press).
  産業技術総合研究所の肥後研究員、理化学研究所の小島グループリーダー(現在浜松医大准教授)、京都大学霊長類研究所の大石准教授との共同研究。マカク属 のサルの皮質脊髄路細胞に特異的に発言する遺伝子として見出されたSPP-1の脊髄における発現をin-situ hybridization法によって解析したところ、運動神経核の中では、より遠位の筋を支配する外側部で発現が高く、また横隔神経核や膀胱直腸機能を 支配するオヌフ核での発現は低い。これらのことから、SPP-1は随意筋の支配に関係していることが明らかになった。

Yoshino-Saito K, Nishimura Y, Oishi T, Isa T (2010) Quantitative inter-segmental and inter-laminar comparison of corticospinal projection from the forelimb area of primary motor cortex of macaque monkeys. Neuroscience 171: 1164-1179.
  京都大学霊長類研究所の大石准教授との共同研究。マカクザルの一次運動野の手指支配領域の限局した範囲から頚髄への投射を順行性トレーサーBDAを用いて 詳細に定量的に解析したところ、運動神経核への投射は主にC7-Th1髄節がターゲットであるのに対し、介在ニューロン層であるVII層への投射は1-3 髄節吻側部に偏っており、手指領域からの皮質脊髄路は運動神経核への直接投射とともに数髄節吻側の介在ニューロンへの投射を伴っていることが明らかになっ た。

(生体恒常機能発達機構研究部門)
Ebisuno Y, Katagiri K, Katakai T, Ueda Y, Nemoto T, Inada H, Nabekura J, Okada T, Kannagi R, Tanaka T, Miyasaka M, Hogg N, Kinashi T (2010) Rap1 controls lymphocyte adhesion cascade and interstitial migration within lymph nodes in RAPL-dependent and -independent manners. Blood 115, 804-814.
  関西医科大学木梨達雄教授との共同研究で低分子量G蛋白質Rap1はインテグリンを介する接着を亢進させるだけでなくリンパ球に前後の細胞極性を与えて活 発な細胞移動を引き起こすことが明らかになりました。RAPL遺伝子欠損マウスを作製して解析すると、リンパ組織は低形成になり、リンパ球ホーミングや樹 状細胞の接着や遊走能の著しい低下、B細胞の成熟不全、胸腺細胞の移出低下が起こることを2光子顕微鏡を用いてリンパ節のin vivoイメージング法を用いて明らかにした。

(生殖・内分泌系発達機構研究部門)
Misu H, Takamura T, Takayama H, Hayashi H, Matsuzawa-Nagata N, Kurita S, Ishikura K, Ando H, Takeshita Y, Ota T, Sakurai M, Yamashita T, Mizukoshi E, Yamashita T, Honda M, Miyamoto K, Kubota T, Kubota N, Kadowaki T, Kim HJ, Lee IK, Minokoshi Y, Saito Y, Takahashi K, Yamada Y, Takakura N, Kaneko S (2010) A liver-derived secretory protein, selenoprotein P, causes insulin resistance. Cell Metab 12:483-495.
  金沢大学医薬保健研究域医学系恒常性制御学、篁先生との共同研究(平成20年度一般共同研究)で、ヒト肝臓から血中に分泌され、糖尿病の重症度と良く相関 する新規タンパク質Selenoprotein P (Sep P)を発見した。さらに、Sep Pが肝臓のAMPK活性を低下させ、インスリン感受性を低下させることを明らかにした。Sep Pのように肝臓から分泌されインスリン作用を調節する分子はこれまで知られておらず、Sep Pは “Hepatokine”という新規カテゴリーに含まれる分子として注目されている。

Sasaki T, Kim HJ, Kobayashi M, Kitamura YI, Yokota-Hashimoto H, Shiuchi T, Minokoshi Y, Kitamura T (2010) Induction of hypothalamic Sirt1 leads to cessation of feeding via agouti-related peptide. Endocrinology 151:2556-2566.
  群馬大学生体調節研究所、北村教授との共同研究(平成20年度計画共同研究、バイオ分子センサーと生理機能)で、視床下部の脱アセチル化酵素Sirt1が、摂食促進ペプチド発現ニューロンを調節することによって摂食を制御することを明らかにした。

(神経分化研究部門)
Tsutsui H, Higashijima S, Miyawaki A, Okamura Y (2010) Visualizing voltage dynamics in zebrafish heart. J Physiol 588:2017-2021.
  大阪大学筒井秀和博士、岡村康司教授、理化学研究所宮脇敦史グループディレクターとの共同研究である。電位センサー蛋白をベースに作製された膜電位セン サー、Mermaidが、生体内での細胞での生理現象に伴う膜電位変化を捉えることができるかどうかを明らかにするため、ゼブラフィッシュの心筋細胞で Mermaidを用いての膜電位イメージングを行った。その結果、個体レベルでの心臓の拍動と同期する、心筋細胞の膜電位シグナルの二次元的伝搬を観測す ることに成功した。

Agetsuma M, Aizawa H, Aoki T, Nakayama R, Takahoko M, Goto M, Sassa T, Amo R, Shiraki T, Kawakami K, Hosoya T, Higashijima S, Okamoto H (2010). The habenula is crucial for experience-dependent modification of fear responses in zebrafish. Nature Neurosci 13:1354-1356.
  理化学研究所岡本仁グループディレクターとの共同研究である。ゼブラフィッシュを使って、脊椎動物に共通して保存されている手綱核と呼ばれる脳部位が、過 去の恐怖体験に基づく行動の選択に重要な役割を果たしていることを発見した。具体的には、遺伝子組み換え手法で、手綱核の外側亜核の活動だけを神経回路特 異的に阻害し、恐怖体験に対して通常の逃避行動ではなく、過剰なすくみ行動という異常な行動をすることを見いだした。過去に経験した恐怖やストレスに対す る行動の選択にかかわる神経回路を解明したものであり、将来的には神経疾患の治療に貢献しうる研究成果である。

(ナノ形態生理研究部門)
Hosogi N, Shigematsu H, Terashima H, Homma M, Nagayama K (2011) Zernike phase contrast cryo-electron tomography of sodium-driven flagellar hook-basal bodies from Vibrio Alginolyticus. J. Struct Biol 173: 67-76.
  名古屋大学理学系研究科生命理学専攻本間道夫教授との共同研究でビブリオ菌由来の分子モーターの膜貫通部位の構造について、機械一部を欠損したミュータン トと野生型との比較を行った。位相差低温トモグラフィーの応用により野生型とミュータントの構造差が立体構造の差として明確に示された。

(細胞生理研究部門)
Shibasaki K, Murayama N, Ono K, Ishizaki Y, Tominaga M (2010) TRPV2 enhances axon outgrowth through its activation by membrane stretch in developing sensory and motor neurons. J Neurosci 30: 4601-4612.
  京都府立医科大学小野教授、群馬大学石崎教授との共同研究で、マウス胎生期での温度感受性TRPチャネル遺伝子の発現解析から、TRPV4 mRNAがTRPV1, TRPM8よりかなり早く胎生期10日頃から脊髄前角運動神経と後根神経節細胞に発現していることを明らかにした。TRPV2蛋白質の発現、機能的発現も 確認し、TRPV2が機械伸展刺激を感知して軸索伸展をもたらしていることを見いだした。

Kawaguchi H, Yamanaka A, Uchida K, Shibasaki K, Sokabe T, Maruyama Y, Yanagawa Y, Murakami S, Tominaga M (2010) Activation of polycystic kidney disease-2-like 1 (PKD2L1)/PKD1L3 complex by acid in mouse taste cells. J Biol Chem 285: 17277-17281.
  TRPPチャネルに属するPKD2L1とPKD1L3は複合体を形成して酸受容(オフ応答)に関わることが知られている。群馬大学柳川教授、名古屋市立大 学村上教授との共同研究で、マウス舌有郭乳頭において、PKD2L1/PKD1L3複合体がオフ応答を示す酸受容体として機能していることを細胞染色法、 Caイメージング法、パッチクランプ法を用いて明らかにした。

Kohno K, Sokabe T, Tominaga M, Kadowaki T (2010) Honey bee thermal/chemical sensor, AmHsTRPA, reveals neofunctionalization and loss of Transient Receptor Potential channel genes. J Neurosci 30: 12219-12229.
  ミツバチは特異な温度依存性社会行動をとることが知られている。名古屋大学門脇准教授との共同研究で、ミツバチのTRPチャネルを探索し、いくつかの TRPチャネル遺伝子を得た。そのうち、ミツバチに特異的なTRPAチャネルが34度を超える温度刺激や昆虫忌避剤あるいは防虫剤として知られる複数の化 学物質によっても活性化することを見いだした。ミツバチを使った行動解析でも、熱刺激や活性化能が明らかになった化学物質刺激に対して、ミツバチが忌避行 動をとることが判明した。

Mihara H, Boudaka A, Shibasaki K, Yamanaka A, Sugiyama T, Tominaga M (2010) Involvement of TRPV2 activation in intestinal movement through NO production in mice. J Neurosci 30: 16536-16544.
  富山大学杉山教授との共同研究で、腸管神経叢の抑制性運動神経にもTRPV2が発現していることを遺伝子および蛋白質レベルで確認し、nNOSとの共発現 を観察した。腸管抑制性運動神経のTRPV2は機械刺激によって活性化した。TRPV2刺激薬でマウス小腸の収縮力がNO依存的に減弱し、TRPV2刺激 薬は腸管からのNO放出を促進した。TRPV2刺激薬によってマウス腸管内の物質移動は著しく促進された。食塊による腸管壁伸展を抑制性運動神経の TRPV2が感知し、Ca$^{2+}$流入からNO産生をもたらして肛門側の腸管弛緩を導いているものと考えられた。

(形態情報解析室)
Sakamoto H, Arii T, Kawata M (2010) High-voltage electron microscopy reveals direct synaptic inputs from a spinal gastrin-releasing peptide system to neurons of the spinal nucleus of the bulbocavernosus. Endocrinology 151:417-421.
  岡山大学の坂本浩隆准教授との共同研究で、ガストリン放出ペプチド(GRP)免疫組織化学法とラット球海綿体筋を支配する球海綿体脊髄核(SNB)ニュー ロンの逆行性標識法とを組み合わせることにより,超微形態学的にSNBニューロンの樹状突起上にGRP作動性のシナプス入力が存在することを明らかにし た。


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