生理学研究所年報 第26巻 | |
磁気共鳴装置共同利用実験報告 | ![]() ![]() |
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1.MRIによる前頭連合野の観察と電極定位への応用船橋新太郎(京都大学) 前頭連合野は外側部,眼窩部,内側部を含む広い領域であり,これらの部位によって大きく機能が異なる。前頭連合野の機能を理解する目的で主として背外側部より単一ニューロン活動を記録し,解析してきたが,背外側部を構成する主溝の背壁,腹壁,溝底に位置するニューロンの機能については十分に解析されていない。解剖学的研究により,これらの領域で入出力関係が異なること,また,同じ領域でも前後軸に沿って入出力関係が異なることが報告されている。主溝内での部位の違いにより機能的な相違が存在するのか,このような違いが前頭連合野の機能にどのように反映されているのか,を明らかにする研究を計画しているが,そのためには,主溝の走行に関する解剖学的なデータが不可欠である。そのため,MRI画像により主溝の位置,走行を確認した。 2頭のマカクザルの頭部MRI画像を撮影した。ネンブタール麻酔したサルを磁気共鳴装置内にセットし,脳のMRI画像を撮影した。撮影後,SPM99を用いて外耳道,眼窩を基準にした標準表示にした後,前額断,矢状断,水平断の3方向の脳断面を作成した。これら3方向の脳断面を用いて,主溝,弓状溝の位置の確認,主溝の3次元像の構築を行い,記録電極の固定方法,電極先端位置の定位方法を考案した。
2.ニホンザル上側頭溝内皮質のMRIによる構造観察藤田一郎(大阪大学大学院生命機能研究科) 霊長類の上側頭溝内皮質では,視覚刺激の動き,形に関する情報が収斂する。また,顔,視線,動物のしぐさなど社会性意義を持つ視覚刺激に特異的に反応する細胞が存在することを示唆する生理学的証拠とヒトを対象とした脳機能イメージングにおける証拠が存在し,社会性視覚シグナルの処理を行っていると想定されている。しかし,これらの研究の多くでは視覚刺激はヒトや動物の写真もしくはビデオを用いており,反応選択性の解析は充分になされていない。したがって,動作に反応するとされる細胞が,真に動作を形成する動きのパターンに反応しているのか,刺激に含まれる要素運動やほかの視覚属性に反応しているのかの充分な検討はなされておらず,動作反応性細胞の存在はいまだ確立したものとは言いがたい。われわれは,動物または人の関節部のみを光点として提示したバイオロジカルモーション (BM) 刺激の処理に上側頭溝内皮質が関与しているかどうかをシングルユニット活動記録により解析することを計画している。BM刺激は形と動きの情報を含みまた社会性信号として機能している上に,視覚刺激の定量的操作が可能である。この実験計画における困難の一つは,上側頭溝内皮質の構造が複雑に湾曲しており,目標の記録部位からの神経活動の導出や,記録した神経細胞の位置の推定が困難なことである。電気生理学実験に先立ち,MRIを用いて当該個体の大脳皮質構造の精密な画像を得,また,位置マーカーからの座標を得ておくことは,この研究において必須である。本年度は,この手法を適用するための準備を行った。
3.筋の痛みの脳内投射水村 和枝(名古屋大学環境医学研究所 神経性調節分野・教授) 皮膚感覚刺激に対し応答する脳部位は知られているものの,筋の痛みに対して応答する脳部位は未だ不明である。本研究では,皮膚痛でなく筋痛に特異的に応答する脳部位をfMRIを用いて特定することを目的とした。 被験者として健常男性成人2名を用いた。皮膚および筋に対する痛み刺激として,左前脛骨筋部位の皮膚および筋に長さ48 mm,直径0.05 mmの針電極を刺入して電気刺激を行った。電極の刺入深度は皮膚で1.5 mm,筋で20 mmとした。刺激針より30 mm離れた部位に直径8 mmの皮膚表面電極を貼付して陽極とし,両電極間に1 msの矩形波刺激を与えた。刺激強度は実験前に被験者ごとに「刺激を感じるが,痛くない」ものと「適度に痛い」(皮膚・筋共にVAS 5程度)の2種類を決定した。fMRIスキャンは皮膚刺激実験と筋刺激実験の2つに分け,各々の実験において非痛み刺激および痛み刺激をそれぞれ30回ランダムに与えた。 筋への電気刺激を行ったときに脳血流量が有意な応答を示した部位は,両側の前頭葉の下前頭回(Brodmann area(以下BA)10),両側の頭頂葉の下前頭小葉 (BA 40)および楔前部 (BA7),両側の辺縁葉の帯状回 (BA32, 23),左側の島 (BA13)および右側の視床であった。 皮膚への電気刺激を行ったときに脳血流量が有意な応答を示した部位は,対側(右側)の前頭葉の下前頭回 (BA 47),刺激側(左側)の後頭葉の楔状葉 (BA18),両側の辺縁葉の帯状回 (BA32, 23) および対側の視床であった。 皮膚痛に応答した脳部位を排他的にマスクした後に筋痛に応答した部位を解析した結果,刺激側の頭頂葉の下頭頂小葉 (BA40) および縁上回 (BA40) にわずかな部位の応答が見られた。 皮膚および筋への電気刺激で活動が見られた両側の辺縁葉の帯状回 (BA32),前頭葉の下前頭回 (BA10) および島は痛み関連部位として知られており,痛み刺激に対してこの部位に応答が見られたことから実験のプロトコールおよびデータ解析の方法が妥当であることが示唆された。筋痛のみに特異的に応答する脳部位は,痛み刺激の同側(左側)においてわずかに認められた。現在被験者数を増やして筋痛特異的に応答する部位をより詳細に解析中である。 ![]() 図:fMRI断層画像を解析して得られた脳断面図の例。
4.機能画像装置を用いた痒みの中枢性抑制ネットワークの解明谷内一彦,望月秀紀*,田代学,岡村信行 本研究の最終的な目的は,中枢神経系を標的とした痒みの新たな治療法を開発することである。そのためには,痒みの神経器質を同定する必要がある。特に,神経メカニズムが酷似している痒みと痛みの脳内メカニズムの違いを明らかにすることが重要となる。本研究では高空間分解能の3テスラ機能的MRI装置 (fMRI) を用いることによって,痒みと痛みの認知に関係する脳活動の違いを可視化し,痒み特異的な神経器質の同定を試みた。 本研究では健常成人男性15名を対象とした。痒み刺激として,痒みを誘発する代表的な物質であるヒスタミンを用いた。ヒスタミン溶液(ヒスタミンを生理食塩水に溶かしたもの,濃度:0.1%)を作成し,ヒスタミン溶液に浸した電極パットを左手首に固定し,イオントフォレーシスを用いて20秒間通電 (1mA) することによって痒みを誘発した。痛み刺激として氷を左手首に与えた。痒み条件と痛み条件下でfMRI撮影を数分間行うことによって痒みと痛みの脳内活動を可視化した(図1)。図1は本研究によって得られた結果である。黄色の脳部位は痒みと痛みで共通して活動した脳部位,赤色は痒み特異的な脳部位,青色は痛み特異的な脳部位である。特に,帯状回後部が痒みに選択性をもっていることは重要な発見であった。帯状回後部が心理的ストレスに関係すること,アトピー性皮膚炎患者において心理的ストレスが痒みの症状を悪化させることなどが報告されている。帯状回後部の活動をコントロールすることによって痒みを軽減することができる可能性がある。今後,帯状回後部の活動を中心に痒みを軽減する治療法開発を目指した研究を行う。自然科学研究機構生理学研究所の3テスラ高空間分解能fMRIを用いることによって,世界で初めて痒みと痛みの神経器質の違いを明らかにすることに成功した。その結果,痒みを抑制する治療法開発につながる重要な発見を得た。本研究結果は,現在,学術ジャーナルのPainに投稿中である。 ![]() 図1
5.磁気共鳴画像診断用新規造影剤の開発阪原晴海(浜松医科大学医学部) 本研究の目的は,組織特異性あるいは病変特異性をもった,磁気共鳴画像診断用の新しい造影剤の開発を行うことである。 【背景】肝細胞癌 (hepatocellular carcinoma; HCC) の罹患率は世界的にみても増加している。肝細胞癌のMR診断はGd-DTPAなどのガドリニウム造影剤を急速静脈注射後にパフォーマンスの高いMR装置で息止め下に高速撮像を行うことである。これは,ガドリニウム製剤が血管外漏出性のため,first passでの撮像が必要なためである。dendrimers DTPA-D1Glu (OH)(以下デンドリマー)は分子量1448.45Dで,Gd-DTPAをコアとし,4個の糖を側枝とする第一世代のデンドリマー型造影剤であり,静脈投与後に,時間単位で血液中に停滞する血液プール造影剤の性格を有している。このデンドリマー型造影剤を用いることにより,通常のspin-echo法(SE法)で,富血性腫瘍の代表である肝細胞癌の検出が可能かどうか検討した。 【方法】F344ラットに100 ppmのdiethylnitrosamineを混和した蒸留水を給水して109日間通常飼育下で化学発癌(肝細胞癌)を誘導した3匹,23結節を対象に,Gd-DTPA (0.1mol/kg) による造影T1強調画像の連続撮影を2時間後までSE法 (250/9.1) により行った。6時間以上間隔をあけて,引き続き同様の撮像をデンドリマー (0.05mol/kg)を用いて施行した。撮影後肝臓を摘出し,連続切片を作製,H&E染色し,組織切片で判定した癌巣とMRI上それに対応する結節を対照させ,結節,背景肝,画像の背景部分の信号のSDを計測し,コントラスト雑音比 (CNR)を計算した。 【結果】デンドリマーでは通常のSE法で肝細胞癌に対する十分な造影能を示した。デンドリマーでは造影後少なくとも2時間後まで,肉眼的に肝細胞癌の同定が容易であり,CNRとしては2時間後までGd-DTPAに対し約5倍の造影能を維持した。デンドリマーを用いれば,パフォーマンスの低いMR装置でも富血性肝細胞癌の全肝スクリーニングができる可能性がある。更に,イメージングウィンドウも広いため,撮像タイミングが柔軟となる可能性もある。 ![]() Figure1は,デンドリマーおよびGd-DTPA投与後の肝細胞癌の背景肝に対するcontrast to noise ratio (CNR) の推移を表示したものである。デンドリマー投与後少なくとも2時間まで有意の腫瘍増強効果が認められる。また,投与後全ての時相においてデンドリマーの造影能がGd-DTPAのそれを有意に凌駕していることがわかる。
6.両手協調運動の発達と学習効果に関連する脳領域の解明白川 太郎(京都大学医学部医学研究科) 両手協調機能は,日常生活動作において不可欠な役割を果たす。発達の初期段階では,両手を同期して動かす左右対称の動きを獲得し,発達が進むに従い,独立制御を獲得する。両手独立使用は,利き手と補助手という両手の機能分担に繋がり,巧緻性の発達の基礎として重要であると考えられる。 このように,両手協調動作の基本パターンの獲得は発達過程で重要な位置を占める。しかし,標準化されている発達検査での協調動作は,手と目の協調動作が大半であり,両手協調動作に焦点化した検査は殆どみられない。 そこで,脳賦活検査により,神経基盤が明らかにされている両手運動の相転移現象の,発達指標としての可能性を探索することを目的として,4歳児から17歳を被験者として,運動計測を行った。今回用いた指標では,長期学習効果は明らかとなったが,発達の年齢効果に関しては,統計的に有意な差は認められなかった。 発達段階にある児童・生徒に関しては,直接脳賦活検査を行なうのではなく,成人の脳賦活検査で神経基盤が明らかにされている現象を指標として,行動計測をすることが適している。そこで,現在,成人の両手協調運動の脳賦活検査を行い,発達指標として適切な行動指標の可能性を検討している。
7.ヒトの下頭頂葉および44野の脳内身体図式への関与内藤 栄一(京都大学大学院人間・環境学研究科) 研究代表者は,四肢の腱への振動刺激によって惹起される四肢の運動錯覚経験に関与する脳活動の研究を行ってきた (Naito 2004a,b; Naito et al.1999, 2002a,b, 2005など) 。この錯覚は振動刺激が興奮させる筋紡錘からの求心性Ia線維入力によって惹起され,四肢の動きを伴わずに被験者は明瞭な四肢運動を経験する。 四肢(右手,左手,右足,左足)の運動錯覚中には,運動領野の体部位再現部と四肢の相違に関わらず右半球44野,下頭頂葉(ip1,op1野)などが関与する。これは (1) 運動錯覚が,実際の運動を伴わず,また運動の意図もない状態で,その運動を再現する運動領野をリクルートすること(知覚と運動の共通符号化),(2)四肢の位置変化など動的な身体図式の変化に右半球前頭-頭頂部が関与することを意味する。 さて,運動錯覚を経験している手が外界の物体と接触すると,閉眼被験者は手と一緒にその物体も動いているかのような一人称的な手-物体運動を知覚する。このとき,脳は手の運動情報を伝える筋紡錘入力と手掌から送られる物体との皮膚接触情報とを統合している。つまり,脳は振動刺激により動員される運動表象と外的物体という外部表象を統合している。この一人称的手-物体運動知覚を惹起する運動内部表象と物体外部表象の統合に関与する脳領域を同定した。非接触条件で被験者が手の運動錯覚のみを経験している場合には,運動領野および右半球前頭-頭頂部に賦活を認めた。この右領域は左右の手で共通に賦活した。接触条件で被験者が手-物体運動知覚をしている場合,これらに加えて左半球前頭-頭頂部に賦活を認め,この両側前頭-頭頂部は左右の手で共通に賦活した(図1)。 非接触条件に比べて接触条件(手-物体運動知覚)で有意に活動が増加した脳領域は,左手では左44野および下頭頂葉(ip1/op1野)(図2ピンク),右手でも下頭頂葉であった(図2緑)。さらに,この左下頭頂葉活動は,接触条件のみで,実際に物体を操作する場合に賦活することが知られている (Binkofski et al. 1999) 左頭頂間溝後部の活動と有意に相関した。 本研究は,右半球の44野-下頭頂葉は四肢と無関係にその位置変化など動的な身体図式のアップデートに関与し,左半球のそれは手運動と外界物体との相互作用で,運動内部表象と物体外部表象の統合に関与することを明らかにした。 ![]()
8.非侵襲的脳機能検査による統語解析吉田晴世(大阪教育大学) 非自国語の学習における統語解析 (syntax) の獲得過程を,行動学的指標とともに神経活動の変化を観察することにより解明することを目的とする。このために,統語解析課題を自国語(日本語)において確立した後,機能的MRIを用いて,脳神経活動を,血流変化を指標として計測する。ここで確立した方法を,非自国語(英語)における同等課題に適用する。さらに,これらの実験パラダイムを自国語が英語,非自国語が日本語であるグループに適用し,外国語習得過程の違いを比較検討する。 今年度は,日本語の統語解析課題として作成した袋小路文 (garden path sentence) を用いて機能的MRI を施行した。袋小路文は,文法的には正しいが,即座に意味理解をするのが難しい構文を持つ文の一種であり,文の途中で理解に行き詰まり,また始めにもどって理解し直す必要が出てくるため,袋小路文でないものにくらべ,余分の統語解析過程が要求される。現在Broca areaの活動に絞って脳血流により評価される,統語解析過程に関連する神経活動を解析中である。
9.非侵襲的脳機能検査による疲労・疲労感評価法渡辺恭良(大阪市立大学・大学院・医学研究科・システム神経科学) 中枢疲労の神経メカニズムを解明するため,機能的磁気共鳴画像法を用いて疲労前後における脳の血流反応を測定した。疲労負荷前後のタスク関連脳部位に加えて,疲労負荷中のタスク非関連脳部位の血流反応についても検討を行った (Fig. 1)。疲労負荷として,一定の時間ごとにパソコンの画面に出現するランダムに配置された15-25個の数字の中から,目的の数字を探索するタスクを,健常人7名及び慢性疲労症候群 (CFS) 患者6名にそれぞれ1時間,30分間施行した。タスク非関連脳部位の反応については,タスク施行下,磁気共鳴画像装置による雑音を1秒間消したときの血流反応を測定した。 疲労感の主観的指標である,Visual analogue scale (VAS) 値は,疲労タスク前はCFS患者の方が健常人より高く,また,疲労負荷課題により,両群とも有意に増加した。タスク関連脳部位として,視覚野,頭頂葉,Frontal eye fieldの反応が認められ,タスク関連脳部位である視覚野の血流反応は,健常人,CFS患者ともに,疲労負荷後,減弱を認めたが,減弱率は,健常人とCFS患者で差を認めなかった。一方,タスク非関連脳部位として,両側聴覚野の反応が認められ,健常人では疲労負荷中においてタスク非関連脳部位の血流反応の減弱を認めなかったが,CFS患者では疲労負荷中において,タスク非関連脳部位の血流反応の減弱を認めた。さらに,この減弱率は,本実験施行前のVAS値と有意な相関を認めた。また,タスク非関連脳部位の血流反応が健常人と比べて,CFS患者において有意に減弱している部位を探索したところ,左側頭平面の血流反応が特異的に減弱していることが判明した (Fig. 2)。 以上より,中枢疲労は,疲労負荷中の血流反応減弱として特徴づけることができると考えられた。 ![]()
10.マカクザルのMRIテンプレートの作成とPET研究への応用尾上浩隆((財)東京都医学研究機構東京都神経科学総合研究所心理学部門) これまでに我々は,マカクサル(アカゲサル)に陽電子断層撮像法 (positron emission tomography, PET) を用いた非侵襲的な脳機能イメージング法を適用して,視覚認知,時間知覚,記憶・学習などの脳高次機能に関わる神経機構について明らかにしてきた。ヒトのイメージング実験では,群間比較を行うために標準脳が作成されており,世界中のほとんどの研究者がこれを共用している。しかし,サルの場合は,このような標準脳は,一部の種で報告があるものの,我々が日頃使うアカゲザルやニホンザルでは実用性のあるものはなく,これまでの PET などの個々の解析データは,それぞれの個体の MRI に重ね合わすことで処理してきた。今回,アカゲザル,ニホンザル,カニクイザルそれぞれ約 10 程度のデータをファインな形で撮像し,MRI テンプレートを作成,PET による賦活実験などのイメージング実験に応用できるかどうかを検討した。 雄のアカゲザル(5-7才),8頭から得られた良好な画像を用いて作業を行った。それぞれの頭部画像から脳以外の部分を削る作業を行い,8頭のサルの脳の部分の平均画像を作成した。この平均脳を仮のテンプレートとして,SPMのプログラムを用いてそれぞれの脳の形状を変形させ,再びこのデフォルメした個々のサルの脳画像から平均画像を作った結果,良好な画像が得られた。現在,これを今回の最終的なアカゲザルの標準脳として,複数のアカゲサルから得られた18FDGなどのPET画像の群間比較が可能であるかどうかについて検討を行っている。
11.血液−脳関門を温存したMnCl2造影磁気共鳴イメージング法森田啓之,田中邦彦(岐阜大学) 【目的】我々は2000年度から,MnCl2造影磁気共鳴イメージング法を用い,中枢の興奮部位同定を行ってきた。Mn2+は,神経細胞興奮時に電位依存性Ca2+チャネルから細胞内に取り込まれる。このため,血流量に依存せず,神経細胞興奮と直接リンクした画像描出が可能である。しかし,Mn2+は血液−脳関門を通過しないので,Mn2+を神経細胞周囲に分布させるために,血液−脳関門を破壊する必要がある。しかし,血液−脳関門破壊は,正常な応答を障害する可能性があり,血液−脳関門破壊を必要としない方法の開発が望まれている。したがって,本年度の研究目的は,血液−脳関門を破壊しないMnCl2造影磁気共鳴イメージング法を確立することである。 【方法】全ての実験はWistar系雄ラット (200〜280 g) を用いて行った。エンフルラン (1 %),O2/CO2 - N2O (1 : 1.5)吸入麻酔下に,左大腿静脈から下大静脈へMnCl2投与用カテーテルを挿入した。右外頸動脈から総頸動脈に向けカテーテルを挿入し,先端部は総頸動脈−内頸動脈分岐部に固定した。手術終了後,腹腔内にα-クロラロース(25 mg/kg)+ウレタン (250 mg/kg) を投与し,エンフルランを中止した。ラットをアクリル製頭部固定装置に固定した後,23 mmの表面コイルをbregmaの尾側4 mmの場所に中心を合わせて設置した。MnCl2 (100 mM,2 ml/kg/h)を静脈内に投与した。90〜120分間の投与により,Mn2+は血管内から脳室内へ,さらに脳室内から脳実質へと拡散する。実質内に十分拡散したことを確かめた後,刺激として,内頚動脈から高張溶液を投与した。磁気共鳴施設のABX Biospec 47/40(Bruker社,4.7 T)を用い,刺激前,刺激中,刺激後と連続してT1-weighted MRI画像を撮影した(視野:25×25 mm,データ画素数128×128,スライス厚1 mm,9スライス,TR/TE:150/4.2 ms)。刺激前後の信号強度変化スピードを検定し,刺激により有意に信号強度が増加した部位を求めた。 【結果と考察】MnCl2静脈内投与時間に依存してT1緩和時間は減少する。その減少は,脳室内で最も速く,脳室からの距離に依存して遅くなる(図1)。従って,静脈内投与されたMn2+はいったん脳室に排出され,そこから脳実質に再拡散してくることが分かる。この状態で,高浸透圧刺激を行うと,皮質,視床,視床下部の広い範囲にわたり,信号強度が容量依存性に増加した(図2)。以上の結果から,血液−脳関門を破壊しなくても,MnCl2の投与時間を長くすることにより,血管−脳室−脳実質へと拡散して,刺激により興奮した部位に取り込まれることが確認された。この方法により,血液−脳関門を温存したより生理的な解析が可能になる。 ![]() 図1. MnCl2静脈内投与によるT1緩和時間の変化。 ![]() 図2. 120分間のMnCl2静脈内投与後,内頸動脈内高張NaCl溶液投与 (0.5 ml) に対する中枢興奮部位。
12.マンガン造影を用いた,容量刺激,血圧変化に対する延髄および
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