生理学研究所年報 第26巻
 研究会報告 年報目次へ戻る生理研ホームページへ

7.シナプス可塑性の分子機構研究と精神神経疾患研究の接点を探る

2004年5月27日−5月28日
代表・世話人:畑 裕(東京医科歯科大学)
所内対応者:井本 敬二(神経シグナル)

(1)
SNAP-25変異マウスの解析−情動異常の分子基盤の解明に向けて−
高橋 正身(北里大学医学部・代謝蛋白学)
(2)
デルタ2受容体によるシナプスの維持と可塑性の新しい分子機構
柚崎 通介(慶應義塾大学医学部生理学)
(3)
樹状突起スパイン形成におけるアクチン細胞骨格の役割
―ドレブリン依存的シナプス分子の集積とその神経活動依存性―
高橋 秀人(群馬大学医学研究科・高次細胞機能学)
(4)
神経伝達を調節するCa2+ 依存性の蛋白質間相互作用
五十嵐 道弘(新潟大学・医歯学系・分子細胞機能学(医学部生化学第二))
(5)
シナプス刺激依存的な局所的翻訳における新規タンパク質RNG105の機能解析
椎名 伸之(国立遺伝学研究所・構造遺伝学センター)
(6)
NMDA受容体のヘテロオリゴメリゼーションとシナプス局在制御
深谷 昌弘,渡辺雅彦(北海道大学大学院医学研究科解剖発生学分野)
(7)
プロスタノイド受容体によるストレス行動制御
古屋敷 智之1,松岡 陽子1,溝口 明2,鍋島 俊隆3,成宮 周1
1京都大医神経・細胞薬理,2三重大医第一解剖,3名古屋大薬剤部)
(8)
統合失調症責任候補遺伝子DISC1と神経発達
尾関 祐二(滋賀医科大学精神医学講座)
(9)
シグナル伝達と統合失調症
宮川 剛(京都大学医学研究科 先端領域融合医学研究機構)
(10)
幻覚・妄想状態の発症・再発モデルとしての長期持続性行動感作現象の分子機構
西川 徹(東京医科歯科大学)
(11)
脆弱X遺伝子FMR1はRNAi/miRNA分子経路に関与する?
岡村 勝友 (徳島大学ゲノム機能研究センター)

【参加者名】
畑 裕(東医歯大・院・医歯学総合),深谷 昌弘,渡邉 雅彦(北大・院・医),白尾 智明,高橋 秀人(群大医),柏 淳,金子 雄二郎,桜井 新一郎,島津 奈,竹林 裕直,谷口 豪,西川 徹,山本 直樹(東医歯大・院・医歯学合),有馬 史子,泉 寛子,尾藤 晴彦,小林 静香,中村美智子,新里 和恵,真鍋 俊也,李 勝天,渡部 文子,竹本 さやか,奥野 浩行(東大・院・医),柚崎 通介(慶大・医),板倉 誠,片岡 正和, 高橋 正身(北里大・医),井ノ口 馨,岡田 大助,斎藤 喜人(三菱化学生命科学研),椎名 伸之(遺伝研),五十嵐 道弘(新大・院・医歯学総合),狩野 方伸,鳴島 円, 橋本 浩一,橋本谷 祐輝(金沢大・院・医),高岸 芳子(名大・環研),溝口 明(三重大医),大貫 宏一朗,中野 真人,古屋敷 智之,宮川 剛(京大・院・医),三木 崇史,森 泰生,若森 実,山崎 浩史(京大・院・工),尾関祐二,藤井 久彌子(滋賀医大),八木 健(阪大・院・生命),岡村 勝友,塩見 春彦(徳島大・ゲノム機能研究センター),宮田 麻理子,東 幹人,成瀬 雅衣,橋爪龍磨,西巻 拓也,溝口 義人,渡部 美穂,本蔵 直樹,重本 隆一,田中 謙二,萩原 明,鍋倉 淳一,深澤 有吾,等 誠司,河西 春郎,井本 敬二(生理研)

【概要】
 近年,分子生物学・細胞生物学・遺伝学的手法を用いた基礎研究により,シナプス可塑性に関わる分子機構について飛躍的に情報が増大し,なお新たな発見が続いている。臨床的側面からは,統合失調症や自閉症が,シナプス可塑性に関わる分子の機能異常と関連する可能性が指摘されている。また,Fragile X syndromeに代表される種々の精神発達遅滞において,シナプス可塑性の成立する場である樹状突起の構造異常が共通して認められることも注目されている。これらの知見は,シナプス可塑性の障害が神経回路のfine tuningを撹乱し,脳の高次機能の異常をもたらすことを示唆している。

 この現況を踏まえて,本研究会では,シナプス可塑性に関わる最近の意欲的な基礎研究を紹介すると同時に,その成果を脳の高次機能異常の理解に結びつける方途を幅広く議論することを目的とした。

 上記の目的に添って,発表をもとに,解剖学・生化学・生理学・細胞生物学領域の多彩な研究者を集めて議論を展開した。

 

(1) SNAP-25変異マウスの解析
−情動異常の分子基盤の解明に向けて−

高橋正身(北里大学医学部・代謝蛋白学)

 シナプス伝達は,神経前終末から開口放出機構によって放出される,神経伝達物質によって担われている。神経伝達物質の放出は,短期的には様々なリン酸化酵素により促進的あるいは抑制的に制御されており,この様な制御がシナプス可塑性の重要な機構の一つであると考えられている。

 これまでに我々は,株化されたラット副腎髄質細胞腫細胞であるPC12細胞を用い,プロテインキナーゼC (PKC)の活性化によって神経伝達物質放出が促進される際に,神経伝達物質放出に必須なタンパク質であるSNAP-25のSer187が特異的にリン酸化されること,PKCによるリン酸化依存的に細胞膜への分泌小胞の移行が促進されることなどを明らかにしてきた。PKC依存的なSNAP-25のリン酸化が,どの様な脳機能の制御に関わっているかを明らかにするため,リン酸化部位であるSer187をAlaに置換したノックインマウスを作成し解析を行った。

 ヘテロマウスを掛け合わせてホモマウスの作成を行うと,出生したホモ個体の数はメンデル則で予想される数の約7割でしかなく,部分的な胎生致死が起こっていると考えられた。さらに出生したホモ個体も,生後2週目から3週目の1週間に約30% が死亡した。しかしこれらの時期を過ぎると順調に生育した。

 ホモマウスは非常に怖がりやすく,少しの環境変化でフリージング行動を引き起こす特徴を示した。オープンフィールドでの自由行動試験を行うと,野生型やヘテロマウスは顕著な探索行動を行いフィールド全体をくまなく歩き回るのに対し,ホモマウスは2種類の特異な行動様式を示した。半数以上のホモマウスは,殆どの時間を壁際で過ごすばかりではなく,実験開始後しばらくすると行動を停止した。しかし,一部のホモマウスは全く異なる行動様式を示し,実験期間中,常に壁際に沿って動き回るという多動性を示した。この様な行動様式の違いは,同腹のホモ個体間でも見られることがあった。不安感の行動試験である明暗選択テストを行うと,野生型やヘテロマウスは暗室のみならず明室でも盛んな探索行動を示したが,ホモマウスは殆どの時間を暗室で過ごしていた。これらの実験以外でも,恐怖条件付け実験や,高架式迷路実験などでもホモマウスでは不安感が亢進していることを示唆する結果が得られている。

 我々が作成したSNAP-25のノックインマウスは,遺伝的変異とそれによって生じる行動様式の変化が明確であり,今後不安感などの情動行動を分子レベルで解析していく上での非常によい実験系になると考えられる。

 

(2) デルタ2受容体によるシナプスの維持と可塑性の新しい分子機構

柚崎通介(慶應義塾大学医学部生理学)

 グルタミン酸受容体 (GluR) は,脳神経系の発達や,成熟脳における記憶・学習,更に様々な病態における神経細胞死に大きく関与していることが知られている。従ってGluRを介する信号伝達系の調節機構の解明は,シナプス可塑性や,さまざまな精神神経疾患の病態の理解のために必須である。近年,GluR信号伝達系の調節機構として,シナプス後膜におけるGluRの選択的輸送系が注目を集めている。例えば,神経活動亢進後に,AMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluR1が選択的にシナプス後膜に輸送されることが,海馬におけるシナプス伝達効率の長期増強現象 (LTP) の成立の本体であると考えられている。一方,GluR2サブユニットがシナプス後部から選択的にエンドサイトーシスされることにより,海馬や小脳におけるシナプスの長期抑圧現象 (LTD)が成立するとされている。このような受容体の選択的トラフィッキングの調節過程については未解明な点が多い。

 デルタ2型グルタミン酸受容体(GluRδ2)は,小脳において平行線維―プルキンエ細胞シナプス後膜にほぼ選択的に発現している。GluRδ2欠損マウスでは,著名な小脳失調と,小脳に依存した学習障害やLTDの障害が見られることから,GluRδ2はこれらの過程に重要な役割を果たしているものと考えられる。しかし,GluRδ2のリガンドが未だに不明であることから,その細胞内信号伝達機構については全く分かっていなかった。最近,私たちは,GluRδ2のリガンド結合予想部位に対する抗体が,プルキンエ細胞におけるGluR2の選択的エンドサイトーシスを引き起こすことにより,LTDの誘発を阻害することを発見した。また,この抗体を成熟マウスの小脳に投与すると一過性の小脳失調を引き起こすことから,GluRδ2は成熟した小脳においても機能していることを明らかにした。このように,GluRδ2はシナプス後膜においてGluR2のエンドサイトーシス過程を制御することにより,シナプス可塑性を調節するユニークな分子である。

 GluRや,その進化的な祖先である細菌のアミノ酸結合蛋白質においては,リガンド結合部位は非常によく保存されており,この部位はGluRδ2にも存在する。驚くべきことに,このリガンド結合予想配列を変異させたGluRδ2を,GluRδ2を欠損したプルキンエ細胞に導入したところ,GluRδ2欠損マウスの表現型が回復することを,私たちは最近明らかにした。これらのことから,GluRδ2の内因性リガンドは典型的なアミノ酸ではないことが明らかとなった。

 GluRδ2は,プルキンエ細胞の遠位樹状突起のシナプス後膜に,非常に効率的に輸送される。このような効率的な輸送は,GluRδ2のC末端部に,様々な分子が結合することにより成立していることを私たちは明らかにした。このような選択的輸送機構はGluRδ2に特異的なものではなく,他の伝達物質受容体においても機能している可能性がある。即ち,GluRδ2信号伝達経路や,その選択的輸送経路を解明することにより,他のGluRの細胞内トラフィッキングやシナプス可塑性機構の理解を大幅に進めることができるものと期待される。更に,小脳以外の脳においても,特に幼若時にはGluRδ2の類似分子であるGluRδ1が発現していることから,私たちの得た知見は更に普遍化できる可能性がある。

 

(3)樹状突起スパイン形成におけるアクチン細胞骨格の役割
―ドレブリン依存的シナプス分子の集積とその神経活動依存性―

高橋 秀人(群馬大学医学研究科・高次細胞機能学)

 樹状突起スパインは,中枢神経系の興奮性シナプスの入力受容器であり,発生初期に多くみられる細長い樹状突起フィロポディアから形成されることがわかってきた。さらに,スパインの形態がシナプス機能と連関していることも明らかになってきた。よって,発生過程におけるスパイン形成のメカニズムは,シナプス機能の発現や可塑性に重要であると考えられる。スパインは,シナプス後肥厚部 (PSD) とアクチン細胞骨格の二つの主要な構造体でできている。最近,PSD-95などのPSD関連蛋白がスパイン形成に関与しているという報告が数多くなされた。その一方で,スパインの形態形成はPSD-95のシナプス集積よりも早いという報告や,PSD-95欠損マウスのスパイン構造は正常であるといった報告もあり,アクチン細胞骨格が優位にスパイン形成を支配している可能性が考えられる。

 これまでに我々は,スパイン頭部の主要なアクチン結合蛋白であるドレブリンに関して,スパインのアクチンに作用しスパインの形態を制御していることや,シナプス形成期にアイソフォーム変換(ドレブリンE→ドレブリンA) が生じることなどを明らかにしてきた。今回,ドレブリンによるスパインアクチン細胞骨格形成が,スパイン形成のメカニズムにおいて主導的立場にあること,さらに,ドレブリンのスパイン集積が神経活動依存的であることを明らかにしたので報告する。

 1)ドレブリンは,樹状突起フィロポディアでF-アクチンとともに集積する。
 低密度分散培養の海馬神経細胞を培養7, 14, 21日目で免疫染色し解析した結果,ドレブリンの集積は,シナプス前終末と接触したフィロポディア内で生じており,その部位にはF-アクチンが必ず集積していた。アンチセンス法でドレブリンA(DA) の発現を抑えると,ドレブリンとF-アクチン両方のシナプス集積が抑制された。

 2) PSD-95のシナプス集積は,先行するドレブリンのシナプス集積により制御される。
 培養14日目において,ドレブリンはシナプス結合を有するフィロポディアの88%で集積していたのに対して,PSD-95は57% しか集積していなかった。一方,シナプス結合を有するスパインでは,ドレブリン・PSD-95ともそれぞれ,87%,90% と同等に高い率で集積していた。アンチセンス法でDAの発現を抑えると,PSD-95のシナプス集積は阻害された。さらに,DAの発現を抑えたのち,GFP-DAの発現ベクターを導入して発現量を回復させたところ,GFP-DAの集積部位に一致して,PSD-95のシナプス集積が再現された。

 3)ドレブリンのスパイン集積は,AMPAおよびNMDA受容体による二方向性制御を受ける。
 GYKI52466でAMPA受容体活性を培養7日から14日目まで阻害すると,単位樹状突起長あたりのドレブリン集積数は減少した(controlの75%)。また,ドレブリンが瀰漫性に分布する未成熟なフィロポディア(diffuse-type filopodia)の割合が増加 (control: 23%→GYKI: 47%) し,スパインの割合が減少した (control: 52%→GYKI: 31%)。一方,APVでNMDA受容体活性を同期間阻害すると,diffuse-type filopodiaの割合が減り(control: 23%→APV: 17%),スパインの割合が増加した(control: 52%→APV: 72%)。ドレブリン集積を介したフィロポディアからスパインへの形態変化は,AMPA受容体活性により促進し,NMDA受容体活性により抑制されることがわかった。

 これらの結果から,ドレブリンは,PSD構造の形成に先立ち,シナプス後部の基盤構造であるスパインアクチン細胞骨格を形成すること,さらに,この過程がAMPA及びNMDA受容体により二方向に制御されていることが明らかとなった。このように,スパイン形態は,神経活動依存的に制御されるドレブリンの集積を介して可塑的に変化すると考えられる。ドレブリンによるスパイン形成機構は,スパインの形態異常が知られている精神疾患(ダウン症,精神遅滞など)の病態解明にも結びつくと考えられる。

 

(4) 神経伝達を調節するCa2+依存性の蛋白質間相互作用

五十嵐 道弘(新潟大学・医歯学系・分子細胞機能学(医学部生化学第二))

 神経伝達の基盤はSNARE機構によるシナプス小胞と形質膜の間の蛋白質間相互作用(SNARE複合体形成)である。この機構はそれ自体が細胞内小胞輸送の特殊形態であるため,伝達物質の放出がCa2+依存性であるためには,さらにCa2+ 濃度を検知する機構が必要となる。このようなCa2+ センサーのうち,もっともよく調べられているのはsynaptotagminファミリーであるが,これらは十分高濃度のCa2+ に対応し,膜融合の過程に直接関わる可能性が示唆される。一方,シナプス小胞のリサイクリングに関するCa2+ 依存性の機構においては,少なくとも複数の異なるCa2+ 濃度要求性の過程があることが示唆されている。

 われわれはこの点を明らかにするために,SNARE機構の中核分子syntaxin 1Aに10-6 M程度のCa2+ 依存性に結合する蛋白質を見出し,その結合の特性を解析した1),2)。1つはCa2+/カルモジュリン依存性蛋白質キナーゼII (CaMKII)で,この結合は自己リン酸化したCaMKIIのみに起こり,脱リン酸化とCa2+ 濃度の低下によって結合は解離する可逆的な反応であった。この結合は,syntaxinの立体構造を閉状態から開状態に変換させ,SNARE複合体を形成させるlinker domainで起こり,CaMKIIはsyntaxinを開状態に固定する役割を有すると考えられる結果を得た。この結合を阻害すると開口放出の確率は半減したことから,syntaxin-CaMKII複合体の形成が神経伝達の調節に寄与すると考えられる。

 もう1つの結合蛋白質は小胞のアクチン依存性モーター分子myosin-Vであった。ミオシンVはpCa≦6.6でsyntaxinのH3 domain(SNARE蛋白質の結合部位)に結合した。この結合はミオシンVが通常,膜蛋白質と相互作用をするglobular tail domainはまったく関与せず,軽鎖(大部分がCaM)が結合して運動性を調節するneck部分で生ずることを,分子生物学的手法ならびにAFM(原子間力顕微鏡)等による可視化で明らかにした。ミオシンVはCa2+ 依存性にカルモジュリンを解離する性質を持っているが,われわれはこの解離にリンクして,syntaxinがneck部分に結合することを突き止めた。この結合はミオシンVの運動性には影響しないが,ATPaseのCa2+依存性増大を抑制した。この結合をneck部分に対する抗体や競合阻害ペプチドで阻害すると,伝達物質放出が阻害されたことから,内因性のミオシンV-syntaxin複合体の寄与が明らかとなった。小胞と膜にSNARE複合体が形成される前にtetheringという段階が想定されており,ミオシンVとsyntaxinの結合はこの過程に関与するものと考えている。

 以上の結果に基づき,CaMKIIとミオシンVは,それぞれCaM結合蛋白質である(CaM結合部位は異なる)ことから,神経伝達に関与する小胞リサイクリングにおいてCaMのCa2+感受性が何がしかの寄与を果たしている可能性が考えられる。

(文献)
1) Ohyama A et al. (2002) J Neurosci 22: 3342-3351
2) Watanabe M et al., submitte

 

(5) シナプス刺激依存的な局所的翻訳における新規タンパク質RNG105の機能解析

椎名 伸之(国立遺伝学研究所・構造遺伝学センター)

 中枢神経細胞において,mRNAが樹状突起へ輸送されることが知られている。これらmRNAはシナプス可塑性に関与するタンパク質をコードしており,これらがシナプス刺激依存的に局所的に翻訳されることが,個々のシナプスの長期増強に必要であり,また記憶や学習に必須のメカニズムであることが明らかになってきた。mRNAの樹状突起への輸送と局所的タンパク合成の制御には,RNA granuleと呼ばれるmacromolecularな複合体が中心的な役割を担っている。

 我々は,海馬および大脳新皮質神経細胞におけるRNA granuleの新規構成タンパク質としてRNG105 (RNA granule protein 105) を同定した。RNG105はRNA結合モチーフをもち,直接mRNAに結合する活性をもつことを明らかにした。RNG105が局在するRNA granuleには,シナプス可塑性に必須の役割を果たすCaMキナーゼIIα,BDNF,TrkBなどのmRNAが局在していることも明らかにした。また,培養細胞での大量発現実験により,RNG105がin vivoで翻訳を抑制する活性をもつことを見いだした。この活性は,RNA granuleがシナプス刺激のない条件下で翻訳静止状態であるという結果とよく一致した。さらに,シナプス刺激(BDNF刺激)によってRNG105がmRNAおよびRNA granuleから解離することを見いだした。この解離は,RNA granule近傍での局所的タンパク合成の活性化と密接に関連していた。以上の結果から,RNG105は樹状突起内を輸送中のRNA granuleにおいてタンパク合成を抑制し,シナプス付近に到達すると刺激依存的にmRNAおよびRNA grauleから解離し,その結果個々のシナプスにおける局所的タンパク合成が起こる,というモデルを考えている。

 現在,マウスの脳から,RNG105に直接結合するmRNAの同定をマイクロアレイ解析により網羅的におこなっている。また,RNG105のノックアウトマウスを作成中である。これらの解析の経過についても紹介したい。

 

(6) NMDA受容体のヘテロオリゴメリゼーションとシナプス局在制御

深谷 昌弘,渡辺 雅彦
(北海道大学大学院医学研究科解剖発生学分野)

 NMDA型グルタミン酸受容体 (NMDA受容体)は,中枢神経系におけるシナプス可塑性を基盤としたシナプス回路発達や高次脳機能発現において中心的な役割を果たしている。この受容体の機能発現には,必須サブユニットのNR1 (GluRζ1) と調節サブユニットのNR2A-D (GluRε1-4) からなるヘテロメリック複合体形成が不可欠である。本研究では,NMDA受容体のチャネル形成からシナプス発現に至る過程におけるそれぞれのサブユニットの役割に焦点をあて,それぞれのサブユニット欠損下での他方のサブユニットの細胞発現と細胞内局在を分子組織化学的,生化学的に解析した。

 その結果,海馬 CA1 特異的NR1ノックアウトマウスの解析から,NR1欠損錐体細胞では,NR2A, 2B サブユニットmRNAの発現量は影響を受けないが,NR2A, 2Bサブユニットともにシナプスから消失し,錐体細胞の細胞体に集積することが明らかとなった。細胞体に集積したNR2サブユニットは,膜タンパクの翻訳装置である粗面小胞体内腔の顆粒 (intracisternal granule) として集積していた。この結果は,NR2単独では樹状突起へ輸送されず,NR1サブユニットとの小胞膜上での複合体形成が必要であることを示している。次に,NR2A/2Cダブルノックアウトの小脳顆粒細胞での解析から,NR2サブユニット欠損顆粒細胞では,NR1サブユニットの細胞体貯留は認められなかったが,NR1サブユニットのC末端のスプライシングカセット (C2, C2’) に関係なくシナプス発現が消失していることが明らかとなった。また,NR2サブユニット欠損下でのNR1サブユニットの各スプライシングカセット (C1, C2, C2’の定量的な生化学的解析を行ったところ,PSD分画での減少量がもっとも顕著であり,細胞内膜系に存在することが示された。この結果は,NR1サブユニット単独でも樹状突起へ輸送されるが,シナプス局在にはNR2サブユニットが必要であることを示している。

 以上の結果より,NMDA受容体にとってNR1サブユニットの存在は小胞膜・ゴルジ装置・樹状突起の輸送段階に必須であり,NR2サブユニットの存在はシナプス局在の段階に必須であることが明らかとなった。このように,NMDA受容体は異なる局在制御能を持ったサブユニットがヘテロメリック複合体を形成することで精緻にシナプスへ輸送され,機能発現できるのである。

 

(7) プロスタノイド受容体によるストレス行動制御

古屋敷 智之1,松岡 陽子1,溝口 明2,鍋島 俊隆3,成宮 周1
1京都大医神経・細胞薬理,2三重大医第一解剖,3名古屋大薬剤部)

 恒常性の破綻は動物にストレスを惹起する。ストレスは内分泌反応や交感神経系の活性化といった生理的変化とともに攻撃性の亢進や逃避行動など行動変化も引き起し,これをストレス反応と呼ぶ。ストレス反応は損傷や疾病などの物理的な要因によっても新しい社会や環境への暴露など心理的な要因によっても誘導される。ストレス反応は適応的なメカニズムであり,その制御の破綻はストレス障害を引き起こす。これまでストレス反応やストレス障害にモノアミンや神経ペプチド,ステロイドといった複数の脳内物質の関与が示唆されてきたが,それらの物質の変化を統合するメカニズムはまだ知られていない。

 我々はプロスタノイド受容体のストレス反応における役割を研究してきた。プロスタノイドはアラキドン酸より産生される脂質メディエイターであり,その一つであるプロスタグランジン(PG)E2は疾病に伴う発熱や内分泌反応における関与が示唆されてきた。我々はPGE2の4種の受容体であるEP1−EP4の各種欠損マウスを作成し,それら受容体のストレス反応における役割を解析してきた。その結果,細菌内毒素であるLPSによる発熱反応にEP3が,ACTH分泌にはEP1とEP3の両方が関与していることが示された。これらの生理的なストレス反応に加え,EP1欠損マウスでは社会ストレス・環境ストレスといった心理的ストレスに対する行動にも異常が観察された。すなわちEP1欠損マウスでは社会行動が減弱し攻撃性が亢進する。また音に対する驚愕反応の亢進や断崖回避反応の異常など環境変化に対する行動にも異常が観察された。神経生化学的な解析ではEP1欠損マウスの前脳・線条体においてドパミン代謝が亢進し,脳微小還流法によりEP1欠損マウスの線条体において細胞外ドパミン濃度が上昇していることが示唆された。さらに,ドパミン受容体の阻害薬によりEP1欠損マウスの攻撃性や音に対する驚愕反応の亢進が改善した。これらの結果は,EP1欠損マウスのストレス行動異常がドパミン系の活性亢進によることを示唆している。

 以上の知見は,PGE2が発熱・内分泌反応といった生理的反応に加え,心理的ストレスに対する行動変化にも重要であることを示している。それではPGE2はどのように多彩なストレス反応を制御するのであろうか。免疫染色を行ったところ,EP1は視床下部・扁桃体・中脳黒質のシナプスに存在し,特に視床下部のCRH陽性細胞や黒質のドパミン細胞上のシナプス終末にも発現が確認された。これらの結果から,PGE2がEP1を介してさまざまな脳部位のシナプス伝達を制御し,複数のストレス反応を統合している可能性が示唆される。面白いことに,ACTH分泌異常や行動異常はストレス障害の一つであるPTSDの患者にも共通して認められる。プロスタノイド受容体がストレス障害克服の新たなターゲットとなる可能性について議論する。

 

(8) 統合失調症責任候補遺伝子DISC1と神経発達

尾関 祐二(滋賀医科大学 精神医学講座)

 統合失調症の遺伝学的研究(連鎖研究,相関研究)により,最近ようやくいくつかの統合失調症感受性候補遺伝子が挙げられるようになってきた。しかしそれらの多くの遺伝子に対する直接的障害,すなわちgenetic variationと疾患の発症に明確な関連性は見出されていない。一方,DISC1 (Disrupted-In-Schizophrenia-1) は遺伝子内の直接的な障害が精神疾患の発症と連鎖することが示されている遺伝子であり,現在の精神疾患研究においては,変異遺伝子,変異蛋白から病態研究に結びつきうる唯一といってもよい貴重な窓口である。

 DISC1は,スコットランドにおける精神疾患多発家系で世代を経て受け継がれていたt(1;11) (q42.1;q14.3) 直接的に障害を受ける1番染色体上の未知の遺伝子として報告された。DISC1タンパクは,その染色体転座によって全854アミノ酸のうちC末端側257アミノ酸を失う。この転座を持つ37人中29人で統合失調症や躁うつ病といった精神疾患 (major mental illnesses) が発病しているのに対し,転座を持たない38人中では精神疾患を1例も認めない。その後,独立した複数の研究グループが,連鎖解析と相関研究により,スコットランド家系以外の統合失調症においてもDISC1が重要であることを示してきている。

 我々はDISC1の機能を明らかにすることが,統合失調症の分子レベルでの病態生理を知る大きな手がかりになると考え,その解析を行った。以下に我々の研究を御紹介する。

 DISC1蛋白は,中枢神経系,特に神経発達時期に強く発現している。DISC1は発見時には機能未知とされていたが,我々は,神経細胞の遊走に重要なNUDEL,LIS1や,後シナプスにあってその形態やグルタミンレセプターの働きと関連するCITRONと相互作用することが主にyeast two-hybrid法などで見いだされた。我々のデータは,DISC1がNUDEL,LIS1などと共にダイニン系を通した微小管構築の調節に重要である事を示している。

【スコットランド家系で見いだされた変異DISC1】 DISC1同士は直接結合し,特に変異DISC1も正常DISC1に結合できる。この結果として,変異DISC1は正常DISC1の細胞内局在を変化させてしまい,それは正常DISC1の機能の喪失につながる。すなわち,変異DISC1は dominant negativeとして働きうることがわかった。

【培養細胞を用いた機能解析】 ダイニン系を通した微小管構築の調節を細胞レベルで評価するために,我々はPC12細胞における突起伸長を用いた。内在性DISC1の発現はその突起伸長時に増強する。正常DISC1をさらに発現させるとダイニンがMTOCにさらに集中し,DISC1が突起伸長傾向に微小管のダイナミクスを調節することが示唆される。これをRNAiで抑制すると突起伸長はおさえられる。一方,スコットランド変異DISC1の強制発現もこの突起伸長をおさえる。これらの結果は,DISC1のダイニン系を通した微小管構築の調節にかかわり,かつ変異DISC1がdominant negativeとしての形質を作りうることを示している。

【動物モデルを用いた機能解析】 統合失調症で最も重要な病理は,大脳皮質構築の小さいが確実におこっている乱れであり,これは神経発達期におこった結果を反映するものだろう,と考えられている。しかしこうした神経病理のコンセンサスがあるのもかかわらず,その分子機構はこれまで全く明らかでなかった。

 一方,ダイニン系を通した微小管構築の調節は,大脳皮質構築,特に神経細胞の遊走,基礎的なシナプス構築時に必須の役割をはたす。従って,我々は統合失調症の遺伝的モデルであるDISC1の機能を大脳皮質構築に注目して,in utero gene transfer法を用いて検討した。

 RNAiをうちこむことでDISC1レベルを抑制すると,神経細胞遊走,配置に異常が認められた。DISC1を抑制できる多種類のRNAiを使う事で,DISC1抑制レベルと病理との関連を検討したところ,dose dependentな影響が認められた。スコットランド変異DISC1の強制発現は,DISC1が大変マイルドに抑制された場合に一致する病理であり,それは,これまで統合失調症の神経病理で報告されてきた剖検脳の異常の本質に合致するものであった。

 すなわち,DISC1のダイニン系を通した微小管構築の調節,変異DISC1の dominant negativeとしての機能を支持する結果を,さらにはそれらが統合失調症の神経病理を説明しうる示唆的結果も得た。

【結論】 統合失調症の遺伝的モデルであるDISC1の機能解析は,この異常が神経病理のコンセンサスに合致する結果をもたらしうる事を支持した。さらにはスコットランド変異DISC1がdominant negativeとして機能することがわかったことにより,DISC1のloss of functionにつながりうる種々の異常(多くはSNPなどによるマイルドな影響だろう)が,ユニークな家系での統合失調症だけでなく,一般の統合失調症の危険因子として働きうることを示唆している。

 なお本研究はジョンスホプキンス大学精神医学部門・神経科学部門,澤明をメインに,ロックフェラー大学Hatten研究室,慶応大学 仲嶋研究室の共同で行われている。

 

(9) シグナル伝達と統合失調症

宮川 剛(京都大学医学研究科 先端領域融合医学研究機構)

 要旨:演者は,これまで,各種遺伝子改変マウスに対して,幅広い領域をカバーした行動テストバッテリーを行うことにより,各種遺伝子の新規機能を見出してきた。最近,マサチューセッツ工科大学の利根川進博士らとの共同研究によって, この行動テストバッテリー戦略を用いることにより,カルシニューリン (CN) の前脳特異的ノックアウトマウスが顕著な作業記憶の障害,注意の障害,社会的行動の障害などを含む統合失調症様の行動異常を示すことを見いだし (Zeng et al.,2001; Miyakawa et al., 2003),さらに,統合失調症患者のゲノムDNAサンプルを用いた相関解析によりCNの遺伝子が統合失調症と強く相関していることも報告した (Gerber et al., 2003)。これらの知見に基づき,演者らはCNが関与するシグナル伝達機構の異常が統合失調症の発症メカニズムに決定的な役割を果たしているであろうことを初めて提唱した。CNはドーパミン受容体やNMDA受容体の下流に位置しており,統合失調症のCN仮説は,ドーパミン仮説やNMDM受容体仮説と高い整合性を持つ。CNミュータントマウスでは,海馬錐体細胞の樹状突起の長さが短く,数も少ないなど,統合失調症の神経発達障害仮説ともよく一致している。さらに,統合失調症患者の免疫系の異常,心臓疾患による高い突然死率,糖尿病の高い罹患率,リウマチの低い罹患率など従来の仮説では説明がつかなかった現象までうまく説明することもできる。シグナル伝達分子であるカルシニューリンについては,既に多くの知見が蓄積されている。これらの知見と統合失調症をシグナル伝達機構の異常ととらえる作業仮説にもとづき,遺伝子改変マウスと行動テストバッテリーを利用することによって,今後どのようにして統合失調症の発症メカニズムを解明していくかについての演者の研究戦略も紹介する。

参考文献

 Zeng, H., Chattarji, S., Barbarosie, M., Rondi-Reig, L., Philpot, B.D., Miyakawa, T., Bear, M.F. Tonegawa, S., Forebrainspecific calcineurin knockout selectively impairs bidirectional synaptic plasticity and working/episodic-like memory, Cell 107 (2001) 617-629.

 Miyakawa, T., Leiter, L., Seeger, T., Gerber, D.J., Gainetdinov, R.R., Sotnikova , T.D., Zeng, H., Caron, M.G., Tonegawa, S., Conditional Calcineurin Knockout Mice Exhibit multiple abnormal behaviors related to schizophrenia, Proc Natl Acad Sci U S A. 100 (2003) 8987-92.

 Gerber, D. J., Hall, D., Miyakawa, T., Demars, S., Gogos, J. A., Karayiorgou, M. Tonegawa, S., Support for association of schizophrenia with genetic variation in the 8p21.3 gene, PPP2CC, encoding the calcineurin gamma subunit Proc Natl Acad Sci U S A. 100 (2003) 8993-8.

 Adler E.M., A signal deficit in schizophrenia? Science 301(2003) 737 (in Editors’Choice: Highlights of the recent literature)

 Manji, H.K., Gottesman, I.I., Gould, T.D.,.Signal transduction and genes-to-behaviors pathways in psychiatric diseases, Science's STKE207 (2003) pe49

 

(10) 幻覚・妄想状態の発症・再発モデルとしての長期持続性行動感作現象の分子機構

西川 徹 (東京医科歯科大学)

 行動感作現象(behavioral sensitization:逆耐性現象(reverse tolerance))は,アンフェタミン類(覚醒剤)・コカインに代表される中枢刺激役薬を単回または反復使用した後に,長期間にわたって,これらの薬物に対する感受性が亢進し,行動の異常や統合失調症様の幻覚・妄想状態が生じやすくなる変化をさす。行動感作が成立した動物およびヒトは,使用した薬物以外の中枢刺激薬やストレスに対しても過敏になることや,断薬後における薬物またはその代謝産物の長期持続する脳内蓄積を示さないことなどから,この現象は脳の可塑的変化と関係があると推測されている。また,一群の統合失調症では中枢刺激薬やストレスによって幻覚・妄想状態が容易に再燃することから,行動感作現象の分子機構の解明により,統合失調症の発症や再燃の神経機序の解明や予防・治療法開発につながる可能性がある。

 私たちは,1) 中枢刺激薬による統合失調症様の症状は児童期には出現し難い,2) 実験動物でも行動感作現象は一定の発達時期以降に成立する,などの現象に注目し,ラット脳において行動感作現象に関連する神経回路および遺伝子を探索している。すなわち,ラット脳において生後発達に伴って中枢刺激薬に対する反応が変化する脳部位を調べ,そこで発達依存的応答変化を示す遺伝子を検索した。

 生後8〜56日令のラットに覚醒剤(methamphetamine(MAP))を投与し,神経活動の一指標であるc-fos遺伝子産物 (c-Fos) の前脳部における発現を調べたところ,発達に伴う分布パターンの変化が認められた。この変化は,大脳新皮質と線条体で著しく,他の部位では目立たなかった。また,行動感作が成立するようになる生後3週頃に成熟期のパターンに移行することがわかった。また,可塑性関連遺伝子のひとつであるtissue type plasminogen activator mRNAの発現を検討し,MAPその他の行動感作を誘導する薬物の急性投与後に,帯状回から線条体内側部に投射するニューロンの一群の細胞体に発現誘導が生ずることが観察された。これらの所見は,大脳新皮質や線条体が行動感作に関連した神経回路を含むことを示唆している。そこで,大脳新皮質においてMAPに対する応答が生後8日令では見られないが生後56日令では発現が変化する遺伝子をスクリーニングし,新規転写産物mrt1(MAP responsive transcript 1)を検出した。mrt1について,1) Mrt1蛋白はPDZおよびPXドメインをもつ,2) MAPによって発現が増加するバリアントはシナプトゾーム画分に存在するMrt1イソフォームをコードしている,3) 生後3週以降にMAPへの応答が出現する,4) 成熟期では,コカインにも応答し,MAP投与後の発現誘導は行動感作形成を阻害するD1ドーパミン受容体遮断薬で抑制される,などの特徴が明らかになった。以上の結果から,mrt1は行動感作の形成に関与する神経回路内の分子カスケードを構成している可能性が示唆された。

 

(11) 脆弱X遺伝子FMR1はRNAi/miRNA分子経路に関与する?

岡村 勝友(徳島大学ゲノム機能研究センター)

 脆弱X症候群は精神遅滞を伴う遺伝病であり,その発症はFMR1遺伝子の機能喪失による。FMR1蛋白質は,RNA結合蛋白質であり,ある一群のmRNAの発現を翻訳レベルで調節していると考えられているが,その詳細な機能は不明である。我々はショウジョウバエをモデル生物として用い,FMR1蛋白質の機能の解明を試みている。

 我々はこれまでにショウジョウバエFMR1 (dFMR1)欠損ショウジョウバエを作成し,dFMR1変異体で概日リズムの異常を見いだしており,ショウジョウバエにおいてもdFMR1が脳神経系の機能に重要な働きを持っていると考えられる。さらにdFMR1蛋白質の生化学的な解析により,dFMR1蛋白質がRNA interference (RNAi)関連因子と共沈降することを明らかにしてきた。このことからdFMR1が,RNAi経路やその類似機構として最近発見されたmicroRNA (miRNA) 経路に代表される小分子RNAによる遺伝子発現制御機構に関わっているのではないかと考え,解析を行っている。現在までにdFMR1蛋白質と共沈降するRNAi必須因子の一つであるArgonaute2 (AGO2) 欠損ショウジョウバエを作成し,RNAi経路における機能,脳神経系での機能,dFMR1との相互作用について検討を行っている。小分子RNAによる遺伝子発現制御機構が脳神経系においてどのように機能しているか,またこれらの系にFMR1蛋白質がどのように関わっているのか,これまでの解析結果を中心に報告したい。

 


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