2004年12月13日−12月14日
代表・世話人:柿木隆介(自然科学研究機構生理学研究所)
所内対応者:柿木隆介(自然科学研究機構生理学研究所)
- (1)
- 海馬硬化症例におけるてんかん波の電流モーメントと,WAIS-R所見との関係
芳村勝城,渡辺裕貴(独立行政法人国立病院機構療養所静岡てんかん・神経医療センター)
- (2)
- 光刺激による命令嚥下時の事象関連磁場について
長崎信一1,橋詰 顕2,柴 芳樹3,山科 敦1,藤原百合1,末井良和4,栗栖 薫2,谷本啓二1
(1広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 病態情報医科学(歯科放射線学),
2先進医療開発科学(脳神経外科学),3病態探求医科学(口腔生理学),
4広島大学病院(歯科放射線科)
- (3)
- 体性感覚刺激時の事象関連脱同期
橋詰 顕,栗栖 薫,志々田一宏
(広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 創生医科学専攻先進医療開発科学講座)
- (4)
- Angelman症候群における体性感覚誘発磁場所見
江川 潔1,朝比奈直子1,白石秀明1,須藤 章1,香坂 忍1,斉藤伸治1,中根進児2,有働康代2
(1北海道大学大学院 小児科,2北海道大学病院 臨床検査部)
- (5)
- マウス用脳磁図・心磁図計測システムの開発
小野弓絵1,白井健吾1,中村 祐1,葛西直子2,石山敦士1
(1早稲田大学大学院 理工学研究科 電気・情報生命工学専攻,2産業技術総合研究所)
- (6)
- 統計的基準によるMEG順モデル選択
吉岡 琢1,佐藤雅昭1,3,梶原茂樹2,外山敬介2
(1 ATR脳情報研究所,2 島津製作所 基盤技術研究所,3 科学技術振興機構 CREST)
- (7)
- 複数信号源の時間相関に対してロバストなBeamformer法の開発
栗山紘明1,星野大介1,中村 祐1,白井健吾1,小野弓絵1,石山敦士1,葛西直子2
(1早稲田大学大学院 理工学研究科 電気・情報生命工学専攻,2産業技術総合研究所)
- (8)
- 脳磁図の空間時間的クラスタリングを用いたモデル次数推定
星野大介1,栗山紘明1,白井健吾1,中村 祐1,小野弓絵1,石山敦士1,葛西直子2
(1 早稲田大学大学院 理工学研究科 電気・情報生命工学専攻,2産業技術総合研究所)
- (9)
- 母音刺激による誘発磁場N1mの検討
尾形エリカ,湯本真人,伊藤憲治,関本荘太郎,狩野章太郎,伊藤 健,加我君孝
(東京大学大学院 医学系研究科 脳神経医学専攻 感覚・運動神経科学講座)
- (10)
- 音声ミスマッチング課題のMEGのフラクタル次元解析
金子 裕,岡崎光俊,湯本真人
(国立精神・神経センター武蔵病院 脳神経外科・臨床検査部,
国立精神・神経センター武蔵病院 精神科,
東京大学医学部附属病院検査部)
- (11)
- 音の高さ(ピッチ)の明瞭性に関わる脳磁界反応
添田喜治,中川誠司,外池光雄
(独立行政法人 産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門 くらし情報工学グループ)
- (12)
- 聴性40Hz応答がもたらす位相同期の検討
田中慶太,川勝真喜,阿部雅也(東京電機大学)
- (13)
- 気体刺激のリアルタイムモニタリングによる嗅覚誘発電位・磁場の同時計測
秋山幸代1,2,斉藤幸子1,後藤なおみ1,小林剛史1,3,小早川達1
(1産業技術総合研究所 脳神経情報科学部門,2日本体育大学,3文京学院大学)
- (14)
- 高濃度食塩水による三叉神経応答の有無
小見山彩子1,2,池田 稔2,斉藤幸子1,後藤なおみ1,小早川達1
(1産業技術総合研究所 脳神経情報科学部門,2日本大学医学部 耳鼻咽喉科学教室)
- (15)
- 脊髄誘発磁界測定の現状報告
富澤將司(東京医科歯科大学 整形外科)
- (16)
- 指先電気刺激による体性感覚の感覚的強度とMEG信号強度の比較
川西雄一郎,井口義信,多喜乃亮平,根本正史,木村友昭,関原謙介,橋本 勲
(東京都立科学技術大学大学院 工学研究科 システム基礎工学専攻)
- (17)
- 体性感覚野での階層的情報処理
乾 幸二,柿木隆介(生理学研究所)
- (18)
- 縦書き,横書きの文字および視覚刺激に関する脳磁場研究
山川恵子1,伊藤憲治1,湯本真人2,狩野章太郎3,加我君孝1,3
(1東京大学 医学部 認知・言語医学, 2東京大学医学部附属病院 検査部, 3東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科)
- (19)
- 音高と音韻の視聴覚間照合の脳磁場:音楽家 vs 非音楽家
湯本真人1,伊藤憲治2,宇野 彰3,狩野章太郎4,斉藤 治5,金子 裕6,松田眞樹7,加我君孝4
(1 東大病院検査部,2 東大医学部認知・言語医学,3 筑波大学人間総合科学,
4 東大病院耳鼻咽喉科,5 国立精神神経センター武蔵病院精神科,
6 国立精神神経センター武蔵病院脳外科,7 東京芸大大学院音楽研究科)
- (20)
- 言語流暢性課題遂行時のβ帯域活動の相互相関
志々田一宏1,橋詰 顕2,上田一貴1,山下英尚1,岡本泰昌1,栗栖 薫2,山脇成人1
(1広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 精神神経医科学,
2広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経外科学)
- (21)
- 視覚認知における先行刺激の影響;周波数解析を用いた検討
岡崎光俊(国立精神・神経センター武蔵病院 精神科)
- (22)
- 刺激間隔における1/fnゆらぎの視覚誘発脳磁図反応に対する影響の検討
原田暢善,中川誠司,岩木 直,山口雅彦,外池光雄(産業技術総合研究所 人間福祉医工学部門)
- (23)
- アルファ波電流ダイポールの左右半球間の位相差
川端啓介1,内野勝郎2,村田和優3,外池光雄4
(1大阪府立大学,2平成医療学園,3藍野学園短大,4産総研関西センター)
- (24)
- フィードバックシステム論的解析と正中神経刺激による誘発磁場について
岸田邦治1,篠崎和弘2,深井英和1,鵜飼 聡3,石井良平3
(1岐阜大学工学部 応用情報学科,2和歌山県立医科大学 精神医学教室,
3大阪大学大学院 医学研究科 神経機能医学講座)
- (25)
- Magnetoencephalograpy (MEG) -Beamformer法をもちいた解析
−主に側頭葉てんかんを中心とした臨床症例の検討−
露口尚弘1,田中博昭2,下川原正博2,関原謙介3
(1大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科学,2横河電機MEGセンター,
3東京都立科学技術大学電子システム工学科)
- (26)
- 聴性誘発磁場N100mに対するスペクトル包絡の影響
水落智美1,湯本真人2,狩野章太郎3,伊藤憲治4,山川恵子4,加我君孝1,3
(1東京大学大学院 医学系研究科 感覚運動神経科学,2東京大学医学部附属病院 検査部,
3東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科,4東京大学大学院 医学系研究科 認知・言語医学)
- (27)
- 脳磁界応答から見た聴覚逆方向マスキング現象
阿部雅也,川勝真喜,田中慶太,小谷 誠(東京電機大学大学院 工学研究科)
- (28)
- ミスマッチフィールドの計測による骨導超音波知覚特性の検討
中川誠司1,竹形理佳1,2,外池光雄1
(1産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門,2Department of Psychology,University of Helsinki)
【参加者名】
吉岡琢(ATR脳情報研究所),高田あゆみ(エレクタ株式会社),杉山尚(かなえ・めでぃす),下川原正博(横河電機株式会社),田中博昭(横河電機株式会社),萬谷惇(関西大・工),木野元裕一(関西大大院・工),岸田邦治(岐阜大・工),浦川智和(宮崎大・工),松林潤(京都大大院・医),川西雄一郎(都立科学技術大大院・工),後藤純信(九州大大院・医),田代研之(九州大大院・医),飛松省三(九州大大院・医),前川敏彦(九州大大院・医),山崎貴男(九州大大院・医),緒方勝也(九州大大院・医),黒田智美(九州大大院・医),中島大輔(九州大大院・医),設楽直也(群馬大大院・医),荻野祐一(群馬大大院・医),荒木康智(慶應義塾大・医),青山敦(慶應義塾大大院・理工),中村茉莉(慶應義塾大学・理工),船津誠也(広島女子大・生活科学),志々田一宏(広島大大院・医歯薬学総合),長崎信一(広島大大院・医歯薬学総合),橋詰顕(広島大大院・医歯薬学総合),岡崎光俊(国立精神・神経センター武蔵病院),金子裕(国立精神・神経センター武蔵病院),藤本礼尚(西新潟中央病院てんかんセンター),芳村勝城(静岡てんかん・神経医療センター),渡辺裕貴(静岡てんかん・神経医療センター),岩木直(産総研・人間福祉医工学),添田喜治(産総研・人間福祉医工学),外池光雄(産総研・人間福祉医工学),中川誠司(産総研・人間福祉医工学),原田暢善(産総研・人間福祉医工学),秋山幸代(産総研・脳神経情報科学),小見山彩子(産総研・脳神経情報科学),小早川達(産総研・脳神経情報科学),斉藤幸子(産総研・脳神経情報科学),村山真紀(鹿児島大大院・医歯学総合),高田橋篤史(八日会藤元早鈴病院),藤田賢太郎(八日会藤元早鈴病院),藤巻則夫(情報通信研究機構),中村祐(早稲田大大院・理工学),福田大輔(早稲田大大院・理工学),本間俊道(早稲田大大院・理工学),小野弓絵(早稲田大大院・理工学),栗山紘明(早稲田大大院・理工学),星野大介(早稲田大大院・理工学),白井健吾(早稲田大大院・理工学),露口尚弘(大阪市立大大院・医),川端啓介(大阪府立大学),吉田恵(筑波大大院・体育),木田哲夫(筑波大大院・体育),高林俊幸(筑波大大院・体育),富澤將司(東京医科歯科大),小森博達(東京医科歯科大),別所央城(東京歯科大),渡邊裕(東京歯科大),大櫛哲史(東京歯科大・市川総合病院),久保浩太郎(東京歯科大),坂本貴和子(東京歯科大),仲村圭太(東京大大院・総合文化),山川恵子(東京大学・医),尾形エリカ(東京大大院・医),水落智美(東京大大院・医),田中慶太(東京電機大・先端工学研究所),阿部雅也(東京電機大大院・工),湯本真人(東京大・病院検査部),川田昌武(徳島大・工),鶴澤礼実(福岡大・医),江川潔(北海道大大院・医),白石秀明(北海道大大院・医),山田由美(北陸先端科学技術大学院大・知識科学),柿木隆介(生理研),金桶吉城(生理研),渡辺昌子(生理研),乾幸二(生理研),井原綾(生理研),王暁宏(生理研),秋雲海(生理研),三木研作(生理研),和坂俊昭(生理研),廣江総雄(生理研),中田大貴(生理研),野口泰基(生理研),赤塚康介(生理研),田中絵美(生理研),本多結城子(生理研),Nguyen Thi Binh(生理研),辻健史(生理研),尾島司郎(生理研),橋本章子(生理研),中村舞子(生理研),宮成愛(生理研),宝珠山稔(生理研),中村みほ(生理研),関和彦(生理研),郷田直一(生理研)
【概要】
本年度は,所外から77名,所内から26名,計103名の研究者が参加し,例年にも増して盛況であった。
発表演題数は28題であり,計算理論的な発表から,各種感覚刺激(体性感覚,痛覚,視覚,聴覚など)に対する脳反応の解析,言語機能などの高次脳機能に関する研究,さらには「てんかん」を初めとする臨床疾患への応用など,広範囲に及んだ。
本研究会の特徴として,大学院生の参加が多く若手研究者の意見交換の場としての役割を果たしている事,20分ないしは30分の口演であり,余裕を持った発表ができ,しかも十分な討議の時間があること,コーヒーブレークの時間を十分にとってフロアでの活発な討議を可能にしていること,などがあげられ,通常の学会では考えられないような,濃密でperson-to-personの意見交換が可能である事があげられる。この特色(長所)は本年度も十分に生かされていた。
幸い日本では脳磁図研究が盛んであり,稼動する脳磁計の数は世界一を維持している。しかし,世界的にみれば,ニューロイメ−ジング研究分野では,機能的磁気共鳴画像 (fMRI) の空前のブームは未だ衰えを知らず,脳磁図研究はかなり押されている事は間違いない。また,最近は近赤外線スペクトロスコピー (NIRS) を使った研究が盛んになってきており,今後,脳磁図研究をどのように進めるかは大きな課題として残っている。
脳磁図の持つ高い時間分解能を十分に生かした研究が今後の主流となるべきであろうし,またBrain rhythmと称される周波数分析による研究も,脳磁図独自の手法として今後の発展が期待されるところである。幸い,本年度の研究会では今後の展開が期待される演題も多く発表されており,柔軟な発想を持つ若手研究者の頑張りに期待している。
芳村勝城,渡辺裕貴(独立行政法人国立病院機構療養所静岡てんかん・神経医療センター)
言語優位側に海馬萎縮があるてんかん患者23例について,脳磁図によって等価電流双極子が側頭葉に推定されたてんかん波の電流モーメントとWechsler Adult Intelligence Score-Revised所見との関係について調べた。
その結果,病変側側頭葉に等価電流双極子が推定されたてんかん波の電流モーメントの平均と,全知能指数および言語性知能指数との間に正の相関が認められた(相関係数それぞれ0.51,0.60)。また言語性知能指数が80未満で,両側にてんかん波の等価電流双極子が推定された5例では,健常側側頭葉におけるてんかん波の電流モーメントの平均値が病変側側頭葉に比較して有意に高かった (p <0.05)。
これらの結果から,電流モーメントの低下は海馬硬化を伴った側頭葉における発作間欠時てんかん放電の減少を反映していると考えられ,言語性知能指数の低下との関連が示唆される。
長崎信一1,橋詰 顕2,柴 芳樹3,山科 敦1,
藤原百合1,末井良和4,栗栖 薫2,谷本啓二1
(1広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 病態情報医科学(歯科放射線学),
2先進医療開発科学(脳神経外科学),3病態探求医科学(口腔生理学),
4広島大学病院(歯科放射線科))
【目的】命令嚥下運動時の各周波数帯域における事象関連磁場を明らかにする。
【対象と方法】嚥下障害の既往ならびにその症状を認めない,成人男性12人(右利き9人)。1mlの蒸留水を口腔に保持し,光刺激により嚥下を50回行った。全頭型204chの脳磁計を用いて,各嚥下における表面筋電図とMEGのデータを同時収集した。嚥下開始を頤下表面筋電図の立ち上がり時とした。脳磁計の各センサーで,Band-pass filterを用いて2Hzずつ,0-40HzのTime frequency chartを作製した。脱同期および同期の基準は嚥下開始前 -3500ms〜 - 1000msの各センサーの各周波数の平均とした。
【結果】嚥下運動開始前は,中心前回付近と頭頂小葉付近において,右側が左側より広範囲でβ帯域の脱同期を認めた。
【結論】嚥下運動の脳活動に左右差がある可能性が示唆された。
橋詰 顕,栗栖 薫,志々田一宏
(広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 創生医科学専攻先進医療開発科学講座)
【目的】体性感覚刺激時の背景脳磁場活動の変化を調べる。
【対象と方法】成人男性5人に右正中神経を8〜10秒間隔で約50回電気刺激し,脳磁場活動を測定した。覚醒レベルを保つため,検査中被験者はビデオを見るよう指示された。オフラインで0〜50Hz,2Hz刻みで周波数解析を行い,解析結果をセンサー単位で被験者の脳表に投射した。
【結果】5人全員でS1およびS2を認める明瞭な体性間隔誘発磁界が認められた。5人中3人で右半球を中心にベータ波帯域で刺激後約2秒持続する脱同期が認められた。ガンマ波帯域の変化は明らかでなかった。
【結論】電気刺激が対側の背景脳磁場活動に及ぼす影響はわずかである。
江川 潔1,朝比奈直子1,白石秀明1,須藤 章1,
香坂 忍1,斉藤伸治1,中根進児2,有働康代2
(1北海道大学大学院 小児科,2北海道大学病院 臨床検査部)
【目的】Angelman症候群 (AS) は精神遅滞,てんかん等を来たす遺伝性疾患で,15q11-q13の母性発現遺伝子UBE3Aが原因遺伝子である。発現機序には15q11-q13欠失,父性片親ダイソミー,刷り込み変異,UBE3A変異がある。15q11-q13にはGABRB3が存在し,欠失例では中枢神経におけるGABAArecepterの発現に異常を認める。遺伝学的に診断されたAS症例において,SEF所見を検討した。
【方法】AS患者9例(6〜27歳: 欠失例7例,刷り込み変異例1例,UBE3A変異例1例)で,正中神経刺激によるSEFを204ch全頭型脳磁計にて測定した。
【結果】:欠失例では全例N1m頂点潜時が平均32.1msと遅延し,そのonsetは約20msで中潜時までなだらかな1峰性の波形を呈した。刷り込み変異例では,N1mは軽度遅延し,後期成分は増大していた。UBE3A変異例では正常反応を認めた。結論:ASにおけるSEFは特に欠失例で特徴的な異常を認め,中枢神経活動の病態を示していると示唆された。
小野弓絵1,白井健吾1,中村 祐1,葛西直子2,石山敦士1
(1早稲田大学大学院 理工学研究科 電気・情報生命工学専攻,2産業技術総合研究所)
近年,脳神経・循環器疾患の機序解明や早期予防法の確立を目的として,遺伝子改変技術を応用した種々の疾患モデルマウスが作製されている。これらの疾患モデルマウスに対する脳磁図・心磁図等の生体磁気計測は,ヒトと同じモダリティに表れる疾患情報の知見を与えるものとして重要だと考えられる。我々は,高感度,高空間分解能を備えたマウス用生体磁気計測システムを開発した。体躯の小さいマウスの脳や心臓から発する電気生理学的信号を高空間分解能で計測するため,有効直径0.3mmのマグネトメータを用いた。また,デュワー底部と検出コイルとのリフトオフ距離を0.7mmとすることで,空間分解能と磁気感度の向上を図った。本システムの最小空間分解能は0.5mmであり,ノイズレベルは1.3pT/√Hz (10Hz〜10kHz)であった。実際にマウスの心磁図・脳磁図計測実験を行い,本システムの有用性を検討した結果について発表する。
吉岡 琢1,佐藤雅昭1,3,梶原茂樹2,外山敬介2
(1ATR脳情報研究所,2島津製作所 基盤技術研究所,3科学技術振興機構 CREST)
MEG逆問題は一般に解が一意に定まらない不良設定問題であり,何らかの事前知識を導入することに解を定めている。事前知識の一つとして,MRI画像から抽出した皮質上に電流双極子を配置する方法がある。このときSQUIDセンサの位置と頭の位置の関係が計測誤差などにより正しく計測されていない場合,誤った順モデルを用いて逆問題を解くことになり,その結果推定した脳活動部位もずれてしまう。我々は変分ベイズ推定を用いてMEG逆問題を解く方法を提案している。変分ベイズ推定では自由エネルギーにより順モデルを統計的に評価することができる。自由エネルギーを用いることにより,センサと頭の位置関係のずれを補正できることをシミュレーションによって示す。
栗山紘明1,星野大介1,中村 祐1,白井健吾1,小野弓絵1,石山敦士1,葛西直子2
(1早稲田大学大学院 理工学研究科 電気・情報生命工学専攻,2産業技術総合研究所)
聴覚反応や視覚反応などが混合しているMEGデータにおいて,全ての反応が同時刻にピークを迎えることはまれであり,Multi-Dipole Fittingやノルム最小化推定などのNon-Adaptiveな推定手法では時間的に安定した解を得ることが難しい。そこで我々は,データの時間変化を推定に考慮するAdaptiveな空間フィルタ法であるBeamformer法について研究している。Beamformer法は,時間的に安定した解を得ることができ,またノイズにも強いというメリットを持つので非常に有用な方法である。しかし,信号源間に時間相関が存在すると推定解が干渉してしまい,歪んだ時間変化が求まってしまうというデメリットがある。そこで,データ共分散行列の信号空間固有ベクトルを個々の成分に分解することにより,時間相関成分を除去する手法を試みた。この手法により,MEGデータに含まれる複数の反応がいかなるピーク時刻を持っていても,Beamformer法を用いて信号源を推定することが可能となり,時間的に安定した解を得られることを示せた。
星野大介1,栗山紘明1,白井健吾1,中村 祐1,小野弓絵1,石山敦士1,葛西直子2
(1早稲田大学大学院 理工学研究科 電気・情報生命工学専攻,2産業技術総合研究所)
これまでに多くの脳磁図の複数信号源推定手法が提案されている。複数信号源推定手法は優決定的手法と劣決定的手法に大まかに分類でき,このうち計算磁場と測定磁場の間に誤差を許容する優決定的手法はノイズの影響を受けにくく,S/Nの低い脳磁図の信号源推定に適すると考えられる。しかし,優決定的手法では信号源の数を事前に仮定する必要がある。そこで,我々は優決定的信号源推定手法の適切な使用を可能にするために,空間時間情報を利用したクラスタ分析と主成分分析を組み合わせた信号源数推定手法を開発した。提案手法は二つのステップに分かれており,第1ステップではクラスタ分析により空間的時間的に近い波形をグループ化し,第2ステップにおいて各グループでの信号数を求めることにより,最終的に全体の信号源数を求める。今回は,提案手法をシミュレーションデータ及び聴覚刺激実データに適用したので,その結果について検討する。
尾形エリカ,湯本真人,伊藤憲治,関本荘太郎,狩野章太郎,伊藤 健,加我君孝
(東京大学大学院 医学系研究科 脳神経医学専攻 感覚・運動神経科学講座)
健聴者8名を対象とし,母音刺激による誘発磁場を204チャネル全頭型脳磁計を用いて計測した。女性話者の発話による日本語5母音を擬似ランダムに両耳提示し,/e/でボタン押しをするよう教示し,各母音250回以上加算した。/e/を除く各母音に対する誘発磁場N1mの局在推定を行い,局在推定座標に対し半球毎に分散分析を行った所,各母音間で有意な差は認められなかった。更に,母音間の局在推定座標の乖離が大きかった1名の被験者に対し,同様の計測を反復して6回施行した。その結果,左半球では,/o/は/u/より約2mm前方,/a/,/o/ は /i/,/u/より約5mm上方にあった。右半球では,/i/ は /a/,/o/より約5mm内側,/i/,/o/ は /u/より約5mm前方,/a/,/o/ は/u/より約8mm上方にあった。局在推定座標は個人間では一定の傾向は見られなかったものの,個人内での再現性が示唆された。
金子 裕,岡崎光俊,湯本真人
(国立精神・神経センター武蔵病院 脳神経外科・臨床検査部,
国立精神・神経センター武蔵病院 精神科,東京大学医学部附属病院検査部)
ひらがなを先行して視覚呈示し,これを読み上げる際に15% の確率で間違って読み上げるという音声ミスマッチング課題を行った。Neuromag社製204チャンネル脳磁計を用いてMEGを測定し,MATLABを用いて解析した。周波数解析を行う一方,フラクタル次元の解析を行った。フラクタル次元は波形の複雑性を表すパラメーターである。
右利きの9名の健常ボランティアを被検者に実験を行った。周波数解析で聴覚野近傍で左右差が得られたのは2名のみであった。一方,フラクタル次元解析では5名で聴覚野近傍で左右差が得られ,その内容は300-500msec付近でincongruentのフラクタル次元が低下(単純化)するというものであった。周波数解析で明らかにならない変化でもフラクタル次元解析で明らかにできる可能性が示され,また,言語機能の左右差を求める一つの方法となることも示唆された。
添田喜治,中川誠司,外池光雄
(独立行政法人 産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門 くらし情報工学グループ)
音の高さ(ピッチ)は,音声認識や音楽の知覚において重要な要素である。本研究ではピッチの明瞭性に注目し,繰り返しリプル雑音を用いて脳磁界計測を行った。繰り返しリプル雑音とは,雑音信号を遅延し,もとの信号と加算する過程をN回繰り返すことによって作る信号である。遅延時間に対応したピッチが知覚され,その明瞭性は繰り返し数Nに伴い増加する。本研究では繰り返し数Nを0,1,4,16で変化させた。刺激は,継続時間0.5 s,刺激間間隔1.5 sでランダムな順序で呈示し,各刺激について50回以上の加算平均を行った。被験者は,聴覚健常者10名で,計測中は映画(音声なし,字幕付き)を見るように教示した。解析の結果,繰り返し数Nが増加するほどN1m振幅は大きくなる傾向が見られた。N1m潜時,信号源推定により求めたダイポールの位置に関しては,繰り返し数Nの変化に対応する反応は見られなかった。
田中慶太,川勝真喜,阿部雅也(東京電機大学)
連続的あるいは定常的な聴覚刺激により,gamma帯域(約40Hz)応答を出現することが確認されている。それには一時的な40Hz応答とsteady-state応答に分類され,一時的な40Hz応答は注意に対して関連する。しかし,Auditory Steady-State Response(以下ASSR)の機能的意味は明確になっていない。そこで本研究ではヒトが聴覚刺激に注意しているときと,そうでないときのASSRの聴覚刺激に対する位相同期を調べることでASSR の注意に対する影響を検討した。その結果,ASSRは刺激時に非注意条件に比べ注意条件において,刺激波形に位相同期することが確認された。このことからASSRは,聴覚刺激周波数 (40Hz) への位相同期が注意に関連することを示唆する。
秋山幸代1,2,斉藤幸子1,後藤なおみ1,小林剛史1,3,小早川達1
(1産業技術総合研究所 脳神経情報科学部門,2日本体育大学,3文京学院大学)
本研究は,我々のグループで開発した超音波ガスセンサーを用い,気体刺激をリアルタイムにモニターすることによって誘発された嗅覚誘発電位と脳磁場を同時に計測し,検討することを目的とした。ニオイ刺激はKobal式の嗅覚刺激装置を用い,被験者の右側の鼻孔に提示した。ニオイ物質にはバニリンを用い,刺激提示時間は200 ms,刺激間間隔は40sとして30回提示した。得られた誘発電位から従来の嗅覚刺激装置の電磁弁が開いた時点および,超音波ガスセンサーの出力が最大の70% を超えた時点をオンセットとし,それぞれ加算し比較した結果,後者において各成分のピ−ク潜時が早かった。また,誘発電位の各成分に対応する潜時において脳磁場でも応答が認められた。活動部位の推定を行った結果,島皮質や上側頭溝に活動が観察された。以上から,これまでに報告されている嗅覚誘発電位の各成分の潜時は,再考する必要のある事が示唆された。
小見山彩子1,2,池田 稔2,斉藤幸子1,後藤なおみ1,小早川達1
(1産業技術総合研究所 脳神経情報科学部門,2日本大学医学部 耳鼻咽喉科学教室)
味覚障害の中には医療用の味覚検査キット(テーストディスク)の4.32Mの食塩水を知覚できないケースがある。その場合でも患者がピリピリ感や温覚などを訴えない。一方でラットを用いた実験では0.4M以上の食塩が鼓索神経の他に三叉神経も活動させることが報告されている。食塩がどの濃度でヒトの三叉神経を刺激するかについては不明であり,この解明には鼓索神経と三叉神経の活動の分離を行う必要がある。健常者を用いた実験では鼓索神経経由の応答と三叉神経経由の応答の区別は困難である。そこで我々は真珠腫性中耳炎の手術のため両側鼓索神経を切断された被験者を用いた。本被験者の舌の先端に刺激を行った場合,刺激に対する応答が鼓索神経経由で伝えられないことが保証され,純粋な三叉神経の応答計測が可能である。
この被験者に対し高濃度(3M)の食塩水を舌の先端に提示を行い,三叉神経刺激による応答が出現するか脳磁場計測を行うことで検討した。
富澤將司(東京医科歯科大学 整形外科)
我々は磁界計測による脊髄機能診断法の確立に向けて研究を進めている。2001年度の本研究会において,ネコの上行性脊髄誘発磁界を測定することで脊髄障害部位診断が可能なこと,脊髄内伝導路をマッピングすることができたことを報告したが,今回はウサギ末梢神経を刺激しその髄節高位でのシナプス活動をとらえることができたこと,ウサギ脊髄の3次元成分の磁界を測定し,神経周囲に生じる体積電流による磁界を含め電流源の時間的・空間的経過を3次元的に把握することが可能であったので報告する。
また,臨床応用としてヒト頚髄での誘発磁界測定に成功したのであわせて報告する。
川西雄一郎,井口義信,多喜乃亮平,根本正史,木村友昭,関原謙介,橋本 勲
(東京都立科学技術大学大学院 工学研究科 システム基礎工学専攻)
本研究では,感覚閾値上の指先電気刺激(示指,示指と中指の2本指同時刺激,示指・中指・薬指の2本同時刺激)によって誘発された体性感覚誘発脳磁界を計測し,体性感覚の感覚的強度とMEG信号強度の対応を調べた。MEGの信号強度には,得られた磁気信号のピーク時における各センサ値の二乗平均若しくは信号源推定による推定信号強度を用い,感覚的強度には,ヒトの主観的な感覚量を表すマグニチュード推定値を用い,2本同時刺激の際に感じる強度を標準刺激として,この刺激に対する感覚量を10とした時の主観的感覚量を任意の数字で報告させた。そして,指の本数を標本の大きさn,MEGの信号強度を標本Xn,感覚的強度を標本Ynとし,被験者(健康な男女7名(年齢18-42歳))ごとの2次元標本分布を求め,相関を取って比較・検討を行った結果,N50において平均で標本相関係数rxy=0.988という高い値を得ることができた。
乾 幸二,柿木隆介(生理学研究所)
【目的】サルを用いた単一細胞記録や解剖学的連絡の研究は体性感覚野での階層的処理様式を示唆しているが,各皮質活動の時間的関係を検討した研究は少ない。本研究ではヒト触覚情報の皮質内処理様式を検討した。
【方法】健康成人男性13名の左手背皮膚表面に電気刺激(感覚閾値の3倍)を与え,右半球から37チャンネル脳磁計(Bti)を用いて誘発磁場を記録した。記録磁場は多信号源解析ソフト,BESAを用いて解析した。
【結果】右半球の3b野,4野,1野,5野および第二次体性感覚野 (SII) 領域に活動が認められ,それぞれの立ち上がり潜時は14.4,14.5,18.0,22.4,21.7ミリ秒であった。
【考察】3b野と4野の活動潜時に差はなく,両者が視床からの投射により活動したものと考えられた。3b野-1野間,1野-5野間の潜時差はそれぞれ3.7ミリ秒,4.4ミリ秒であり,これらの部位の連続的活動を示唆した。SIIの活動は3b野よりも7.3ミリ秒,1野よりも3.7ミリ秒遅く,第一次体性感覚野 (SI) - SII間の連続的活動を示唆した。
【結論】ヒト触覚情報処理の早期過程では,中心後回を後方へ向かう経路とSIからSIIへ向かう経路の少なくとも二つの階層的処理経路が存在する。
山川恵子1,伊藤憲治1,湯本真人2,狩野章太郎3,加我君孝1,3
(1 東京大学 医学部 認知・言語医学,2 東京大学医学部附属病院 検査部,
3 東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科)
縦書き,横書き表記された単語,シンボル,ラインを中心視野に提示し,視覚誘発脳磁場の比較を行った。全頭および左右側頭部の被験者全員のRMS (Root Mean Square) を算出し,およそ5ms毎に縦・横×刺激の種類(2×3) の分散分析を行い,条件ごとの反応における有意差を検討した。その結果,刺激提示後約140msから400msまでの間に単語の処理において出現する刺激提示後150msあたり,180-190msあたり,250msあたり,380msあたりをピークとする4つの成分が観察された。中でも180-190msの反応については,縦書きの方が信号強度が強く,潜時も遅かった。また電源推定の結果では,この成分の反応は左右紡錘状回に求められた。縦書き文字の処理が横書きに比べ困難なこと,また縦書きと横書きの書式の弁別にはこの時間帯の紡錘状回が関わることが,これらの結果から示唆された。
湯本真人1,伊藤憲治2,宇野 彰3,狩野章太郎4,斉藤 治5,金子 裕6,松田眞樹7,加我君孝4
(1東大病院検査部,2東大医学部認知・言語医学,3筑波大学人間総合科学,
4東大病院耳鼻咽喉科,5国立精神神経センター武蔵病院精神科,
6国立精神神経センター武蔵病院脳外科,7東京芸大大学院音楽研究科)
音楽家,非音楽家各8名を対象とし,視聴覚間音高・音韻照合を課した際のMEGを204ch全頭型脳磁計により記録した。音高課題は1オクターブ内12音のランダム音列(音韻課題はカナ9字のランダム文字列)を用い,楽譜(文字列)を視覚提示した上で音高(音韻)逸脱(約13%)を含む聴覚刺激を毎秒1音の速度で提示し,被験者に視聴覚間不一致に注意して聴くよう教示した。聴覚刺激の立ち上がりをトリガに,視聴覚間の一致音,不一致音別に誘発脳磁場を加算平均した。楽譜(文字列)を視覚提示せず,聴覚刺激のみに対する反応を予め記録した。MCE (Minimum Current Estimates) 法および電流双極子法を用いて電源解析した結果をMRIに投影し評価した。音楽家に対する音高課題のみ,聴覚誘発N1mの振幅が視覚提示により顕著に低下し,逸脱課題により頭頂に誘発される活動の音高,音韻課題間の局在の相違が確認された。
志々田一宏1,橋詰 顕2,上田一貴1,山下英尚1,岡本泰昌1,栗栖 薫2,山脇成人1
(1 広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 精神神経医科学,
2広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経外科学)
【目的】:言語流暢性課題施行中に,Broca野などにおいてBOLD信号上昇,β帯域活動の脱同期が見られる。Broca野が他の領域とどのような関連性を有しているのかを相互相関を用いて調べた。
【方法】被験者にひらがな1文字を呈示し,その文字で始まる名詞を想起させ,そのときの脳磁場を204ch脳磁計にて記録した。個人毎に合わせたβ帯域でバンドパスし,グラジオメータの1対ごとに絶対値を平均し,さらに移動平均を行った。刺激呈示前後の1秒間を抽出し,約30回の試行を連ねてセンサーごとにベクトルとした。3-D構築したMRIにてBroca野に最も近いセンサーを選択し,他のセンサーとの間の相関係数を計算した。
【結果】刺激提示後,Broca野近傍のセンサーとの相関係数は一旦低下し,その後,個人差が見られたが,500ms〜2000msにおいて近傍のセンサーとの相関係数が高まる例があった。
【考察】言語流暢性課題におけるBroca野の役割を示唆すると思われた。
岡崎光俊(国立精神・神経センター武蔵病院 精神科)
だまし絵(2通りの絵に見えるあいまいな絵)をより具体化した2種類の絵を先行刺激として呈示したときに得られる2条件において,Neuromag 社製204チャンネル全頭型脳磁計を用いて,それぞれ周波数・統計解析を行った。スペクトログラム上健常被験者12名中11名で潜時300-350ミリ秒・後頭-頭頂領域をピークとする20-40Hzのガンマパワー値の上昇を認めた。さらに潜時250-500ミリ秒で統計的有意差の得られたチャンネルを空間的にマッピングしたところ,α,β,γの各周波数帯域で後頭-頭頂-後側頭領域に有意差が認められた。一方,同じ潜時における誘発磁場では2つの刺激間に明らかな差を認めなかった。潜時300ミリ秒付近の後頭領域に出現するガンマバンド活性は知覚の統合や表現および記憶における情報の維持に関係していると考えられており,今回の我々の結果は,形態的に同一の視覚刺激が先行刺激の影響を受けて後続する刺激が脳内で異なる処理を受ける可能性があることを示唆している。
原田暢善,中川誠司,岩木 直,山口雅彦,外池光雄
(産業技術総合研究所 人間福祉医工学部門)
視覚刺激間隔における1/fnゆらぎの視覚誘発脳磁図反応に対する影響について検討を行った。刺激間隔に,1/f0,1/f1,1/f2,および1/f∞(一定間隔)のゆらぎを導入し,平均刺激間隔を600msとし,視覚誘発脳磁図反応の加算平均波形に対するゆらぎのべき乗nの影響について検討を行った。後頭領域において,加算平均波形の約100msの成分の振幅が標準刺激および比較刺激において,1/fnゆらぎのべき乗nの増加とともに増加する傾向が観察された。これまで刺激間隔における1/fnゆらぎの影響を聴覚刺激で検討した結果においては,約100msの成分の振幅は,1/fnゆらぎのべき乗nの増加とともに減少する傾向が観察されており,視覚刺激においては1/fnゆらぎのべき乗nの効果が丁度逆になっていることが観察された。
結果を報告するとともに,これら現象について議論を行いたい。
川端啓介1,内野勝郎2,村田和優3,外池光雄4
(1大阪府立大学,2平成医療学園,3藍野学園短大,4産総研関西センター)
昨年のこの研究会で演者らはpatriel 部分にlocalなアルファ波を発見しその挙動を報告した。 その要点は,(1)電流dipoleは左右の両半球に一個づつありアルファ波の周波数で振動する,(2)この振動には90度の位相差がある,(3)これらは等磁場ループマップ上に直接に且つ明確に示される,(4)このマップ上の優勢な方のdipoleの位置はsingle-dipole-modelにより求めたものと一致する,である。2個のdipoleでありながら,single-dipole-model が良く合うということは,90度の位相差があるので,一方が最大のとき他方は最小になる時間が存在することに依る。この様なdynamicsの直接観察はlocalなアルファ波の存在により初めて可能となった。よく知られている閉眼時に後頭部に現れるアルファ波については図から直接には判断できないが,single-dipole-modelにより上と同じような左右交替が現れることを報告した。今回は,これが直接観察でも可能であることを報告する。側頭,後頭で上述のような従来報告されなかったdynamicsが存在することは,直接観察により確信を持って言える様になった。さて,この結果は脳がなぜ90度の位相差を選ぶかという興味ある問題を提出する。
岸田邦治1,篠崎和弘2,深井英和1,鵜飼 聡3,石井良平3
(1岐阜大学工学部 応用情報学科,2和歌山県立医科大学 精神医学教室,
3大阪大学大学院 医学研究科 神経機能医学講座)
【方法・目的】正中神経繰り返し刺激の誘発磁場データには繰り返し周期なる時間構造があるので,それを手掛かりにして誘発磁場を分離した。そのデータをフィードバックシステム論的手法で解析し,結果はこれまで2度報告した。今回は被険者数を増やした結果をまとめて報告し,その過程で気づいた以下の点について主に発表する。
【考察・結果】加算平均波形の応答が機械的か否かに興味がある。数学辞典にもあるようにWoldの分解定理として定常過程が決定的か否かは大切な分類である。前者が確定性をもつことで加算平均波形として取り扱われて,後者が確率的であり,統計的にそのダイナミックスは相関関数で扱われる。フィードバックシステム論的手法は後者を取り扱っている。誘発磁場データから確定周期分を除去するとデータのガウス性が向上し,同定モデルの最小位相性も増し,報告済みの結果が補強された。
露口尚弘1,田中博昭2,下川原正博2,関原謙介3
(1大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科学,
2横河電機MEGセンター,
3東京都立科学技術大学電子システム工学科)
臨床の場においては,脳機能マッピングやてんかん焦点の同定にたいしdipole modelによる解析が主に用いられる。誘発脳磁場のように局所に強い電流源が単一に集積しているような場合は信頼性が高いが,てんかんのように広範囲での磁場活動があるような場合はdipoleで判断するには困難な場合がある。今回の発表では側頭葉てんかんに対象を絞りdipole解析と空間フィルタを用いた解析−adaptive beamformer法−を比較した。症例は内側側頭葉てんかんと診断された15例で,160チャネルMEGにて頭蓋内脳波を同時記録し,二つの方法を用いて解析した。また一部の症例でSEFを施行し同様の解析をおこなった。その結果beamformer法を利用することによりdipole法では解析できなかった異常磁場を検出することができたが,それが臨床的にどのような意味があるのかをSEFと比較しながら考察したい。
水落智美1,湯本真人2,狩野章太郎3,伊藤憲治4,山川恵子4,加我君孝1,3
(1東京大学大学院 医学系研究科 感覚運動神経科学,2東京大学医学部附属病院 検査部,
3東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科,4東京大学大学院 医学系研究科 認知・言語医学)
音色の定常的な要素を構成し,音の重要な情報を伝えるスペクトル包絡の音処理への影響を明確にするために,3つのカテゴリー (vocal,instrumental,linear) のスペクトル包絡と,2つの基本周波数 (110,220Hz) 以外は要素が全て一致した24種類の複合音を,無視条件下で両耳提示した時のN100mを記録した。各半球,各基本周波数,各スペクトル包絡に対するN100mのピーク潜時,振幅,等価双極子の局在を分析した結果,潜時は220Hzより110Hzの方が長かった。振幅はvocal及びinstrumentalの方がlinearより大きく,この差は左半球で明白にみられた。双極子は両半球のHeschl回周辺に現れ,vocal及びinstrumentalの方がlinearより前方だった。以上よりスペクトル包絡の複雑さが,N100mに反映する音処理を特に左半球で増強する事が示唆された。
阿部雅也,川勝真喜,田中慶太,小谷 誠(東京電機大学大学院 工学研究科)
先行する小さな音(信号音:maskee)のすぐ後に大きな音(マスク音:masker)が呈示された場合,小さな音が聞こえにくくなる。これを,聴覚逆方向マスキング現象という。今回,この逆方向マスキングに着目してペア音,マスク単独音の聴覚刺激に対する脳磁界反応を計測した。マスク音の大きさを変化させたときのペア音,マスク単独音の,刺激呈示後100ms付近のN1mピーク振幅の影響を調べた。得られた脳磁界波形からペア音とマスク単独音を比較した結果,マスク音の大きさを大きくさせていくにつれてペア音とマスク単独音の波形相関は高くなるという結果がみられた。またマスク音を大きくさせていくにつれて潜時が短くなったことから,後続するマスク音の反応が徐々に支配的になっていくと考えられる。
中川誠司1,竹形理佳1,2,外池光雄1
(1産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門,
2 Department of Psychology, University of Helsinki)
骨導で呈示された20kHz以上の高周波(骨導超音波)は重度感音性難聴者にも知覚される。また,骨導超音波を振幅変調することで,言語音や環境音の伝達までもが可能であることが報告されており,この現象を応用した重度難聴者用の補聴器開発が試みられている。本研究では,このような骨導超音波知覚の時間分解能の検証を目的として,刺激音持続時間の変化に対するミスマッチフィールド (Mismatch Field: MMF) の計測を行った。以下の4種類のバーストを異なるセッションで呈示した:1kHz気導音 (AC),30 kHz骨導超音波 (BCU),1kHz正弦波で振幅変調された30kHz骨導超音波 (AM-BCU),1kHzおよび12kHzを混合した気導音 (Complex-AC)。なお,刺激AM-BCUと刺激Complex-ACはほぼ等価なピッチを有している。各セッション内では,標準刺激(持続時間75ms,出現確率85%)と3種類の逸脱刺激(持続時間52.5 ms,37.5 ms,および22.5 ms,各刺激の出現確率5%)がランダムに呈示された。各逸脱刺激に対するMMFピークにおいて,等価電流双極子(ECD)を推定した。
MMF強度(ECDモーメント)にはセッション間の有意差が観察された (AC: BCU: AM-BCU: Complex-AC = 1.0: 0.53: 0.91: 0.92)。ピッチがほぼ等しいAM-BCUおよび Complex-ACに対しては,ほぼ等しい大きさのMMFが観察されたことから,MMFは刺激の知覚メカニズムというより,聞こえの違いを反映していると考えられる。また,AM-BCUのMMF強度は気導音の90% 程度に達していることから,骨導超音波補聴器による聞こえが,実用的な時間分解能を有することが示唆される。