生理学研究所年報 第26巻 | |
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17.唾液腺研究からの生理機能研究,その戦略的展開2005年2月28日−3月1日
【参加者名】 【概要】
(1)のどの渇きと唾液分泌稲永清敏1,佐藤奈緒1,2,小野堅太郎1,本田栄子1,芳賀健輔2,横田誠2 唾液腺にはM3受容体が存在し,催唾剤であるピロカルピンが作用することにより唾液分泌が促進される。一方,脳室周囲器官や視床下部にある口渇中枢にもM1/M3受容体が存在し,活性化されることにより口渇感を引き起こす。ラットの腹腔内にピロカルピンを注入すると唾液分泌ばかりでなく,飲水行動が誘発されることが報告されている。誘発された唾液分泌促進効果は,脳室への高濃度のアトロピン投与や脳室周囲器官の破壊により減弱されることから,ピロカルピンは中枢に作用し,唾液分泌を促進していると考えられていた。つまり,ラットでは,ピロカルピンが一方では,口腔内の湿潤性を高め,もう一方では,同じような経路を介して口渇感を誘発している可能性が指摘されていた。われわれは,無麻酔・無拘束下で,ラットの腹腔内・脳室内ピロカルピン投与に対する飲水量および唾液分泌量を測定し,ピロカルピンの作用部位と生理的意義について検討した。スライス標本を用いた電気生理学的実験の結果と併せて報告する。
(2)ラット上唾液核細胞に対する下行性の興奮性および抑制性入力に関する電気生理学的研究美藤純弘(岡山大学大学院医歯学総合研究科 口腔生理学分野) ラットが食物摂取をしているときには多量の唾液分泌が生じる。この唾液分泌には,口腔領域からの感覚入力と摂食中枢などの上位中枢からの下行性入力の影響が考えられる。本研究では,顎下腺に分布する副交感神経の一次中枢である上唾液核に対する下行性入力を電気生理学的に検討した。Wistar系の幼若ラットの上唾液核細胞を逆行性に蛍光標識した。更に一部の動物は上位脳からの入力を遮断する為に記録側の除脳手術を行った。矢状断スライス標本を作成し,標識細胞からホールセルパッチクランプ法により,電気刺激による誘発性シナプス電流を記録した。除脳動物における多くの上唾液核細胞では,興奮性および抑制性シナプス後電流の大きさが増加していた。この現象は,除脳により上位中枢からの下行性神経が変性した為に神経伝達物質の放出が減少し,シナプス後膜受容体の感度が上昇したことが原因と考えられる。上唾液核細胞は上位中枢から下行性の興奮性および抑制性入力を受けていることが示唆された。
(3)ラット顎下腺からの求心性神経の経路と電気生理学的特性松尾龍二(岡山大学大学院医歯学総合研究科 口腔生理学分野) 唾液腺炎や唾石症のときに疼痛が発生することから,唾液腺には感覚神経が分布すると考えられている。本研究では,まずラット顎下腺を対象にして感覚神経の中枢への入力経路をWGA-HRPを用いて組織化学的に検索した。つぎに,感覚神経の活動様式を電気生理学的に分析した。その結果,1)感覚神経は遠心路である交感神経と副交感神経の経路中を走行しており,交感神経の経路中の感覚神経は主に脊髄後根神経節を通過し,副交感神経の経路中の感覚神経は主に三叉神経節を通過することが分かった。2)これらの感覚神経にはともに自発活動は無く,顎下腺体を圧迫すると応答した。また顎下腺導管にカニューレを装着し,逆圧を負荷すると圧に比例して放電頻度が増加した。3)放電の閾値は最大分泌圧よりやや小さいものの,導管系にとっては大きな負荷であると考えられる。4)カニューレからBradykininなどの発痛物質を注入すると,高頻度で発火した。以前の組織化学的研究では,substance PとCGRPを含む線維(感覚神経)は腺体内の導管と血管の周囲に存在する。今回の結果から,唾液腺の感覚神経は圧や痛みの情報を伝達しており,導管内圧や血圧の過度な上昇を反射的に調節している可能性がある。
(4)イメージングによる唾液腺細胞の機能解析・現状と将来展望・谷村明彦(北海道医療大学・歯学部・歯科薬理学教室) 生きた細胞のダイナミックな変化をリアルタイムで可視化できるイメージングによって,Ca2+シグナルの詳細が明らかにされてきた。さらに近年,GFPなどの蛍光タンパク質を利用して,受容体,リン酸化酵素,転写因子など様々なタンパク質の分子動態の解析が可能になった。特に,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した新しい分子センサーの開発やタンパク質相互作用の解析法によって,研究の可能性が広がっている。こうした蛍光タンパク質を用いた研究から,様々な細胞内分子の動態が,時間・空間的に調節されている事がわかってきた。 これまで我々は,培養細胞や分離唾液腺細胞を用いたイメージングによって,細胞内情報伝達物質やそれらに関係するタンパク質の分子動態を調べてきた。現在,より生体に近い条件で機能解析を行うために,耳下腺スライスを用いたイメージングを試みている。これらの結果とあわせて,イメージングの現状や生きた動物を用いた「in vivoイメージング」への展望と課題について議論したい。
(5)ラット顎下腺導管細胞におけるカルシウムシグナルの解析東城庸介(北海道医療大学・歯学部・歯科薬理学教室) カルシウムシグナルは唾液腺導管部の電解質輸送の調節に重要な役割を果たしていると考えられるが,導管細胞の単離調製が難しいことなどから導管部のカルシウム情報伝達機構の研究は腺房部の研究に比べて遅れている。我々は,Percoll 遠心分離法によってラット顎下腺の単離導管細胞を調製し,受容体刺激による細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の変化を解析した。その結果,導管細胞には腺房細胞にはないβ-受容体を介したCa2+動員機構が存在することが示された。さらに,Ca2+イメージングシステムを用いてアゴニスト刺激による導管細胞と腺房細胞の[Ca2+]i応答を同時に測定した。腺房細胞はサブスタンスPやムスカリン受容体アゴニストに対して高い反応性を示したのに対し,導管細胞はエピネフリンに対して高い反応性を示すことが明らかになった。また,導管細胞と腺房細胞の受容体mRNA発現をRT-PCR法により解析し,[Ca2+]i応答とmRNA発現との相関性を比較したので,併せて報告する。
(6)耳下腺開口分泌における低分子量GTP結合タンパク質の役割道家洋子(日本大学 松戸歯学部 生理学) 耳下腺腺房細胞では,βアドレナリン受容体刺激によりサイクリックAMP (cAMP) が上昇し,アミラーゼの開口放出が引き起こされる。しかしその詳細なメカニズムは,まだ明らかではない。われわれはcAMP依存性のアミラーゼ開口放出における低分子量GTP結合タンパク質(SMG)の役割に注目し,検討を進めている。今回はラット耳下腺腺房細胞におけるSMGについて紹介し,特に細胞内小胞輸送に関わっていることが知られているArf1の開口放出への関与と,細胞骨格系の制御に関わっていることが報告されているRhoの活性化がcAMP依存性開口放出に関わることを報告する。
(7)耳下腺腺房細胞の分泌顆粒形成におけるsyntaxin6の役割吉垣純子(日本大学松戸歯学部生理学教室) 耳下腺腺房細胞において,アミラーゼは分泌顆粒に貯留され刺激依存的に分泌される。分泌顆粒は最初未成熟な物が形成され,徐々にアミラーゼが濃縮され成熟していくと考えられている。我々は分泌顆粒の形成過程の解析を試みた。ラット耳下腺分泌顆粒を,パーコール密度勾配遠心法により,低密度および高密度画分に分離した。低密度画分を未成熟な分泌顆粒,高密度画分を成熟分泌顆粒と予想し,解析を行った。膜タンパク質の分布を調べたところ,syntaxin6およびVAMP4は低密度画分の方に多く検出された。それに対して,VAMP2およびSNAP-23は高密度画分に濃縮されていた。次に分泌顆粒形成におけるsyntaxin6の役割を調べるために,syntaxin6遺伝子の欠失変異体を作成し,耳下腺腺房細胞の初代培養系に遺伝子導入を行った。その結果,変異遺伝子を導入した細胞では,他の細胞に比べ分泌顆粒の数が減少していた。したがって,分泌顆粒がゴルジ体から形成される際に,syntaxin6が必要であると考えられる。
(8)耳下腺腺房細胞におけるcAMP分解調節杉谷博士1,西連寺央康2,古山俊介1(日本大学松戸歯学部1生理学教室,2歯科麻酔学講座) 耳下腺腺房細胞においてはβアドレナリン受容体の活性化は細胞内サイクリックAMP(cAMP)上昇を介し,糖質分解酵素であるアミラーゼの開口放出を引き起こす。細胞内cAMP濃度は,合成酵素であるアデニル酸シクラーゼと分解酵素であるサイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)により調節される。ウサギ耳下腺腺房細胞を用いてβ受容体刺激によるアミラーゼ分泌はPDE阻害剤であるロリプラム存在下で促進された。また,β受容体刺激によるcAMP濃度上昇もロリプラムにより促進された。ウサギ耳下腺腺房細胞より部分精製したcAMP-PDE活性はロリプラムにより阻害された。これらのことから,ウサギ耳下腺腺房細胞においてcAMP依存性の開口放出にはロリプラム感受性のPDEアイソフォーム(PDE4)が関わっていることが示唆された。
(9)外分泌腺導管の機能分化に必要な転写因子CP2-like1山口良文1, 2,高田慎治2 外分泌腺の導管部は,腺房部で生成された分泌液から水や電解質の再吸収を行い分泌液の組成を調節するという共通の機能を持つ。従って外分泌腺導管部の機能分化には共通した遺伝子発現プログラムがあると推察されるが,その実体は不明である。私はES細胞を用いた遺伝子トラップ法により胚発生に関与する遺伝子を探索する過程で,唾液腺,涙腺などの外分泌腺の導管部と腎遠位側尿細管で特異的に発現するCP2L1(Transcription Factor CP2-like1)遺伝子座に遺伝子トラップベクターが挿入された変異マウスを得た。CP2L1の生体内での機能を調べるため,我々はこの挿入変異をホモに持つ個体を作製した。生理学的解析からホモ個体では腎機能低下及び唾液腺導管部機能異常が示唆された。CP2L1は唾液腺導管と腎集合管・遠位尿細管で発現する。挿入変異ホモ個体ではこれらの組織自体は認められたが,これらの部位で共通に発現するケラチン7の発現が消失していた。同様にCP2L1の発現するその他の外分泌腺(涙腺,鼻腺)でもケラチン7の発現が消失していた。以上の結果から,CP2L1は様々な外分泌腺導管部に共通の遺伝子発現を成立させるために必要な転写因子であると考えられる。
(10)顎下腺の発生・分化・成熟と機能発現赤松徹也,細井和雄(徳島大学大学院HBS研究部摂食機能制御学講座口腔分子生理学分野) 唾液腺は上皮−間葉相互作用により形成される。この過程ではTGFbファミリー等の増殖因子群が重要な役割を果たしている。我々は増殖因子等の不活性型前駆体蛋白質の活性化に関わるプロセシング酵素SPCと唾液腺の重要な生理機能である唾液分泌に関わる水チャネルAQP5に着目し,ラット胎仔顎下腺器官培養系により顎下腺の発生・分化・成熟と機能発現の制御機構について解析している。胎生15日SDラット胎仔顎下腺を各種阻害剤等の存在下で培養し,形態変化,およびAQP5等の発現をRT-PCRにより解析した。SPCに共通の阻害剤Dec-RVKR-CMK存在下で分枝形成とAQP5発現が抑制されたが,他のトリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤では抑制されなかった。この時,SPCファミリーのPACE4の発現も減少したが,同ファミリーのfurinの発現は減少しなかった。PACE4はfurinと異なりヘパリン結合配列を有し細胞外マトリクスに局在することから,分枝形成へのヘパリンの影響を解析した結果,分枝形成とAQP5発現は共に抑制された。また,PACE4触媒領域に対する特異抗体でも分枝形成とAQP5発現は共に抑制され,Dec-RVKR-CMKによる分枝形成とAQP5発現の抑制はレコンビナントBMP2を加えることで回復した。以上より顎下腺の分枝形成はPACE4により活性化される増殖因子等のシグナル伝達の結果促進され,AQP5発現が誘導されることが示唆された。
(11)腎臓のアクアポリン水チャネルの分布・動態高田邦昭,松崎利行,多鹿友喜(群馬大学大学院医学系研究科生体構造解析学) 腎臓にはAQP1-4をはじめとして複数の水チャネルアクアポリンが部位特異的に発現している。なかでも集合管主細胞に発現するAQP2は,尿濃縮において決定的に重要な役割を果たしていて,AQP2の変異は尿崩症の原因のひとつにもなっている。AQP2は細胞内の小胞に貯蔵されていて,抗利尿ホルモン刺激により頂部細胞膜へと移行し,その水透過性を上げる。AQP2を発現させたMDCK細胞を用いて,AQP2の細胞内動態を観察することができる。非刺激時にはAQP2は,頂部細胞膜直下に位置するRab11陽性の頂部リサイクリングエンドソームに主として分布する。フォルスコリン刺激によりこれらは頂部細胞膜へ移行するが,フォルスコリンを除くとAQP2はエンドサイトシスにより,まず核上部に位置するEEA1陽性の初期エンドソームに取り込まれ,ついで頂部リサイクリングエンドソームへと復帰する。このようなAQP2のトラフィッキングは,PI3キナーゼ,アクチン,微小管,Rab11などにより調節されている。
(12)耳下腺分泌顆粒におけるアクアポリンの存在と浸透圧調節への寄与松木美和子1,2,橋本貞充1,下野正基1,吉垣純子2,道家洋子2,古山俊介2,杉谷博士2,村上政隆3 Aquaporin (AQP) は,様々な組織の細胞形質膜に存在する水チャネルで,唾液腺ではAQP1,4,5,8の存在が報告されている。近年,AQPは細胞内小器官にも存在することが明らかとなりつつあることから,唾液腺腺房細胞の腺腔側膜に局在することが知られているAQP5について詳細な検討を行った。形態学的観察とwestern blottingにより,ラット耳下腺の分泌顆粒膜上にAQP5が存在することが明らかとなった。そこで,分泌顆粒におけるAQP5の機能を解明するため,Thevenodらの方法を用い,分泌顆粒の溶解を吸光度540 nmにて測定し,抗AQP5抗体の影響を検討した。その結果,抗AQP5抗体は濃度依存性および時間依存性に分泌顆粒の溶解を促進した。さらに,溶媒よりCl-イオンを取り除いたところ,抗AQP5抗体による分泌顆粒の溶解は完全に阻害された。同じ現象は,陰イオンチャネル阻害剤を用いても確認された。これらのことからAQP5は,分泌顆粒の浸透圧調節に関与することが明らかとなった。さらにその他のAQPアイソフォームについても同様の方法で検討したところ,AQP6が耳下腺に存在することが明らかとなった。そして,抗AQP6抗体により分泌顆粒の溶解が促進されることから,AQP6もまた,分泌顆粒の浸透圧調節に関与することが示唆された。
(13)耳下腺導管細胞におけるHCO3- 分泌機構−現在のモデルと今後の課題広野 力,柴 芳樹,杉田 誠,岩佐 佳子 ラット耳下腺導管はHCO3-を分泌するが,その分泌機構には不明な点が多い。我々は,従来のホールセルパッチクランプ法に比べ格段に生理的条件に近い陰イオン環境でHCO3-分泌を電流として測定できるグラミシジン穿孔パッチ法を用いて分泌機構を解析してきた。現在までに,グラミシジン穿孔パッチ法による膜電位固定下のラット耳下腺導管細胞ではCa2+系やcAMP系の刺激でHCO3-は交換体ではなくイオンチャネルを介して分泌されること,経細胞的な輸送ではなく主に細胞内で産生されたHCO3-が分泌されること,分泌刺激時に細胞内のHCO3-濃度が上昇し駆動力を増大させ積極的に分泌を促進していることが示唆された。さらにグラミシジン穿孔パッチ法により得られた細胞レベルのHCO3- 分泌量から耳下腺全体での分泌量を推定し,実際の唾液分泌量やイオン濃度の測定値と比較した結果や電気的中性を保つためにHCO3-分泌と同時に細胞外に放出される陽イオンあるいはHCO3-の代わりに細胞内に流入する陰イオンの候補および水分泌駆動の可能性についての考察を行い,より生理的な分泌機構に迫りたい。
(14)クローディンファミリーによる細胞間隙の透過性の制御古瀬幹夫(京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学講座) 上皮シートを横切る物質輸送経路のうち,細胞間隙を介するparacellular pathwayでは,タイトジャンクション(TJ)と呼ばれる細胞間接着構造が溶質の自由拡散を制限している。興味深いことに,このTJの「バリア」は,上皮のタイプによって電気生理学的に測定できるコンダクタンスや電荷選択性が異なり,その違いが各々の上皮の生理機能に重要な役割を果たしているといわれる。TJを構築する主要な接着分子であるクローディンは20以上のタイプからなる遺伝子ファミリーを構成しており,TJのバリア機能にも直接関与する。各組織は特有の組み合わせのクローディン分子を発現することによってparacellular pathwayの輸送特性を調節していると予想され,実際に,特定のクローディンを強制発現させた上皮細胞株やクローディンの遺伝子欠失マウスの解析からこの考えが証明されつつある。
(15)細胞間隙の唾液分泌への寄与村上政隆 原唾液は細胞の中からの分泌と傍細胞経路を通過した成分との混合物であり,血液成分は唾液に移行するのはこのためである。ラット摘出血管灌流顎下腺を用い,標識デキストランをプローブとして分子径に対する分泌プローブの唾液/潅流液比を,muscarine受容体刺激中に求めると,Stokes-Einsteinの拡散式に従う通路と半径5Å以下の分子を通すフィルター特性を持つ通路が見い出された。後者は,水の分子半径1.5Åで1の値に外挿され,水のほとんどが細胞間隙/tight junctionを通過することを示唆した。一方,管腔に導入した蛍光色素の希釈経過から細胞経由の水分分泌を求め,灌流腺の分泌量と比較すると,刺激初期一過性に細胞内よりの水分放出が優位であり,持続刺激期には傍細胞輸送経路を通過する水分が腺を経由する水分より多いことが示された。これは分泌刺激経過に応じ水通過に対する細胞間隙の開閉が行なわれていることを示している。muscarine受容体刺激にβ-adrenergic受容体刺激を重畳させると灌流液から移行する基質の唾液濃度が上昇することが知られていたが,分泌速度との比較が不十分であり細胞間隙の開閉の直接的な証拠にはならなかった。今回蛍光色素Lucifer Yellowの唾液/灌流液の蛍光強度比が分泌速度に依存しわずかに上昇することが認められ,細胞間隙の開閉が開口分泌誘発時に起こることが支持された。
(16)急速凍結レプリカ法による唾液腺傍細胞輸送調節機構の検討橋本貞充,村上政隆 ラット唾液腺におけるtight junction(TJ)を介した傍細胞輸送経路 (para-cellular pathway) による水および蛋白質の選択的透過の機構に焦点を当てその超微細構造の変化を検討した。実験にはWistar 系雄ラットより摘出した顎下腺を用い,pH 7.4の 10 mM HEPES 緩衝液にて灌流し,isoproterenol (1 μM) とcarbachol (1 μM) 刺激時のTJの構造変化について,新鮮組織の液体ヘリウム急速凍結試料を用いたfreeze-fracture replica 法により検討した。 分泌刺激後では,分泌顆粒の細胞間分泌細管部の腺腔側膜への癒合にともなってmicrovilli が消失し,膜内粒子で構成されるTJの網目構造が基底側に拡がるとともに,free end や terminal loop が増加した。さらに断面像では,TJを構成する膜内粒子と細胞膜を裏打ちするごく短かい微細線維を介して,分泌刺激後も直下のactin線維と直接結合しているのが認められた。これらのことから,分泌時の急速な細胞骨格系の改変にともない,TJを構成する内在性膜蛋白と細胞膜裏打ち蛋白が,腺腔側膜直下のactin線維との密接な関連を持ちながら局在を変化させることにより,傍細胞輸送経路の透過性が亢進している可能性が示された。
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