2004年9月9日−9月10日
代表:富永真琴(岡崎統合バイオサイエンスセンター)
所内対応者:岡村康司(岡崎統合バイオサイエンスセンター)
- (1)
- 新規の電位感受性酵素VSPの構造と機能
岡村 康司,村田 喜理,佐々木 真理,岩崎 広英
(岡崎統合バイオサイエンスセンター・神経分化)
- (2)
- 新規温度感受性チャネルTRPM2によるインスリン放出機構
冨樫和也,東智広,富永知子,富永真琴(岡崎統合バイオサイエンスセンター・細胞生理部門)
原雄二,森泰生(京都大学大学院・工学研究科)
小西康信(三重大学・医学部・生理学第一講座)
- (3)
- 細胞の機械刺激受容の分子機構と形態変化
辰巳仁史,清島大資,河上敬介,井上真寿美,早川公英,曽我部正博(名古屋大学大学院・医学系研究科)
- (4)
- TRPV4は尿流量を感知する
鈴木誠,谷口淳一,鶴岡秀一,水野敦子(自治医科大学・薬理学講座)
- (5)
- 心筋カベオラ局在イオンチャネルのバイオセンシング機構
古川哲史(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・生体情報薬理分野)
- (6)
- アミノ酸トランスポーターを取り巻くタンパク質間相互作用
金井好克(杏林大学・医学部・薬理学講座)
- (7)
- 植物ステロール誘導体に反応するコレステロール代謝センサー LXR
槇島誠(日本大学・医学部・生化学講座)
- (8)
- 内因性一酸化窒素の直接酸化によるカルシウムチャネルTRPC5の活性化
吉田卓史,森泰生(京都大学大学院・工学研究科)
- (9)
- 共鳴ラマン分光法によるセンサーヘム蛋白質の構造化学的研究:可溶性グアニレートシクラーゼの最近の話題
北川禎三(岡崎統合バイオサイエンスセンター・生体分子研究部門)
- (10)
- ROSセンサーアニオンチャネルとアポトーシス誘導
清水貴浩,沼田朋大,岡田泰伸(生理学研究所・機能協関部門)
- (11)
- 活動電位を発生するマウス味細胞の応答と発現分子の解析
吉田竜介,重村憲徳,安松啓子,二ノ宮裕三(九州大学大学院・歯学研究院)
- (12)
- 逆推定法による微細構造体内cAMP変動の実時間測定
竹内裕子,倉橋隆(大阪大学大学院・生命機能研究科)
- (13)
- 脳内Na+センサー:Naxチャンネルの生理的役割
檜山武史 渡辺英治 野田昌晴(基礎生物学研究所・感覚情報処理部門)
- (14)
- GFPを用いたカルシウムプローブG-CaMPによる平滑筋カルシウムの解析
中井淳一(理化学研究所・脳科学総合研究センター・記憶学習機構研究チーム)
- (15)
- プロトンチャネルのrecruitmentと活性振動
久野みゆき,酒井啓,川脇順子,森畑宏一,翁昌子,森啓之(大阪市立大学大学院・医学研究科)
- (16)
- Rab3エフェクターNoc2の開口分泌における役割
三木隆司,清野進(神戸大学大学院・医学系研究科)
松本正成(千葉大学大学院・医学研究院)
- (17)
- リガンド投与による代謝型グルタミン酸受容体細胞内領域の二量体構造の動的変化
立山充博,久保義弘(生理学研究所・神経機能素子部門)
【参加者名】
森 泰生,原 雄二,清中 茂樹,吉田 卓史,飯沼 ゆり子,三木 崇史,吉留 徹,瓜生 幸嗣(京都大大院・工),金井 好克(杏林大・医),松尾洋孝(防衛医大),吉田 竜介(九州大大院・歯),古川哲史(東京医科歯科大),槇島 誠,川名 克芳(日本大・医),鈴木 誠,須崎 正隆(自治医大),中井 淳一(理研),三木 隆司(神戸大大院・医),久野 みゆき(大阪市大大院),川脇 順子(大阪市大),辰巳 仁史,町山 裕亮(名古屋大大院・医),水村 和枝,片野坂 公明(名古屋大),倉橋 隆,竹内 裕子(大阪大大院),小田-望月 紀子,楠野 智幸(立命館大),久保 伸夫,大谷 真喜子,沈 静(関西医大),野田 昌晴,渡辺 英治,檜山 武史(基生研),岡田 泰伸,R.Sabirov,清水 貴浩,高橋 信之,井上 華,沼田 朋大,久保 義弘,立山 充博,藤原 祐一郎,長友克広,鍋倉 淳一,西巻 拓也,温井 美帆,加勢 大輔,本蔵 直樹,箕越 靖彦,緒方 衝(生理研),北川 禎三,永山 國昭,松本 友治,木村 有希子,岡村 康司,岩崎 広英,久木田 文夫,村田 喜理,佐々木 真理,富永 真琴,富永 知子,柴崎 貢志,森山 朋子,冨樫 和也,東 智広,村山 奈美枝,三村 明史(統合バイオ)
【概要】
生体内の全ての細胞は,細胞内外環境の大きな変化の中でその環境情報を他のシグナルに変換し,細胞内や周囲の細胞に伝達することによって環境変化に対応しながら生存している。細胞が存在する臓器・組織によって細胞が受け取る情報信号は異なり,従って細胞が備えている情報信号を受信する機能も異なる。最近,形質膜の代謝型受容体のみならず,チャネルやトランスポーターなどの膜輸送蛋白質も,さらには細胞質内タンパク質も情報センサーの働きをしていることが明らかになりつつある。これらのバイオ分子センサータンパク質は種々の化学的,物理的,生理的情報を受容して他のシグナルに速やかに変換する能力を持っている。バイオ分子センサータンパク質の構造と機能やそのシグナル変換機序を解明していくことは,生命科学の本質である「細胞の生存」を解明するうえで極めて重要である。バイオ分子センサーの欠損・機能不全は細胞の機能不全を招来し,ひいては生体恒常性維持機構の破綻から疾患につながる。また,バイオ分子センサータンパク質の機能制御は細胞の生死を左右することから,機能制御機構の解明は種々の疾患の治療薬創成の礎となる。こうしたバイオ分子センサータンパク質の構造と機能の解明を,既に遺伝子の明らかになっている分子の研究を中心に新たな分子の探索も含めて,分子生物学,生化学,生理学,細胞生物学の融合的研究によって推進するためにこの研究会を開催した。17の演題発表があり,電位センサー,温度センサー,機械刺激センサー,アミノ酸センサー,脂質センサー,活性酸素種センサー,ガスセンサー,味物質センサー,匂いセンサー,Na+センサー,Ca2+センサー,H+センサーなど多岐にわたった。活発な討論,情報交換がなされ,「バイオ分子センサー」研究の発展に有益な会であった。
岡村 康司1,2,3,村田 喜理1,佐々木 真理1,3,岩崎 広英1,2,3
(1岡崎統合バイオサイエンスセンター,2生理学研究所,3総合研究大学院大学)
ユウレイボヤゲノムから,電位依存性チャネルの膜貫通領域と類似する領域を有するが,チャネルのポアの構造が見当たらず,代わりに酵素のドメインを有するタンパク (VSP: voltage sensor-containing protein) をコードすると思われる遺伝子を得た。
酵素ドメインのみからなるGST融合タンパク質を大腸菌で発現させて精製した。Malachite green assay法による吸光度測定によって脱リン酸化反応の測定を行ったところ,時間依存的な脱リン酸化活性が確認された。この活性は,活性中心と思われる部位を置換した分子やGSTのみのタンパクでは認められなかった。
この分子の一次構造から予測される電位感受性を証明するため,ツメガエル卵母細胞にcRNAを強制発現させた。数μAに到る顕著な「ゲート電流」を認めた。この「ゲート電流」は,電位センサーの陽電荷を減らすようなアミノ酸置換により消失した。従って,VSPは電位依存性チャネルに見られるのと同様な電位センサーを有することが明らかになった。
VSPが電位を感知して,かつ酵素活性を有することから,酵素活性が膜電位によって制御されるのではないかと考え,更にツメガエル卵母細胞において,膜電位を変化させつつ酵素活性を検出する電気生理学的実験を行なった。これにより,酵素活性が電位センサーの働きによって膜電位依存的に変化するという証拠を得た。
冨樫和也1,原雄二2,東智広1,小西康信1,富永知子3,森泰生2,富永真琴3
(1三重大学医学部,2京都大学大学院工学研究科,3岡崎統合バイオサイエンスセンター・細胞生理)
TRPM2を強制発現させたHEK293細胞では,パッチクランプ法による解析により,熱刺激によって陰性電位において内向き電流が観察された。これまで明らかにされていた有効刺激β-NAD+, ADP-ribose (ADPR) によって活性化した電流は熱刺激によって著しく増強された。さらに,室温ではTRPM2を活性化しないcyclic ADPR (cADPR) は,熱刺激存在下にのみ大きな活性化電流をもたらす有効刺激であることが明らかとなった。この熱活性化TRPM2チャネルはその活性化温度閾値がおよそ36度近傍であり,直線的な電流電圧関係を示す2価の陽イオンの透過性が大きい非選択性陽イオンチャネルとして機能することも判明した。単一チャネル電流記録から,熱によって直接gateされること,Na+に対して約60pSのコンダクタンスを有することも分かった。cADPRによる活性化が見られることから膵臓における発現を検討したところ,膵β細胞特異的な発現が観察された。そこで,TRPM2を発現するラットインスリノーマ由来のRIN-5F細胞に熱刺激を加えたところ,同じ特性を持つ熱活性化電流が観察された。また,ラット単離膵β細胞でも同様な熱活性化細胞内Ca2+ 濃度上昇が観察され,熱刺激によるインスリン分泌が確認された。
辰巳仁史1,4, 清島大資2, 河上敬介2,3, 井上真寿美2,3, 早川公英5, 曽我部正博1,5
(1名古屋大院・医学系・細胞情報医学,2名古屋大院・医学系・リハビリテーション,
3名古屋大・医・保健,4CREST・JST,5ICORP・「細胞力覚」・JST)
細胞に機械刺激を加えると数秒内にアクチン繊維でできたストレスファイバーが切断または消失し細胞底面の接着斑に加わる力が減少する。そして,細胞底面のintegrinが機械刺激後clathrin依存的なendocytosisによって細胞内に取り込まれ,接着斑が消失する。また,この現象には細胞外から細胞内へのCa2+の流入が関与している。しかし,細胞底面の接着斑への機械刺激からintegrin取り込みまでの細胞内signal伝達は不明である。
血管内皮細胞をβ1 integrinの細胞外ドメインを認識する抗体で染色し,血管内皮細胞の上面にfibronectinをcoatした直径10μmのglass beadを接着させる。このbeadを数μm移動することにより細胞底面の接着斑へ局所的に機械刺激を加える。bead移動後のintegrin-clusterの動態や,細胞と細胞外基質との間の接着状態の変化は,近接場光顕微鏡や反射干渉顕微鏡を用いて細胞のライブ観察する。
この実験系から,bead移動により機械刺激が負荷された接着斑のintegrin-clusterは,数秒以内に細胞底面から消失を開始する。これは接着斑のintegrinのclathrin依存的なendocytosisによる細胞内への取り込みによるもので,この反応には接着斑構成蛋白質のチロシン脱リン酸化が関係していると考えられた。
鈴木誠,谷口淳一,鶴岡秀一,水野敦子(自治医大・薬理学)
TRPV4はCa透過性メカノセンサーチャネルである。細胞内Caを測定し,swell-activated Ca increaseがDCTで消失していることを確認した。
1. バランスケージで電解質測定を行った。定常状態では尿中Na濃度が低かった。Na制限食,負荷によってもこの変化は変わらなかった。
2. サイアザイド,フロセマイドを負荷して,尿流量の増加を図り,特に流量に依存して,Na濃度が変化する機構に異常がある可能性が考えられた。
3. 麻酔下点滴管理によりホルモンの修飾を取り除いた状態で計測した。フロセマイド+2%NaCl投与で,Na濃度,TcH2Oに差があり,Kには差が無いことが明らかになった。
4. CCTを単離還流し,flow圧を5cm H2Oから15cm H2Oに変化させた。JNaはこのflowの変化により,上昇し,VTも深くなる。しかし,TRPV4ノックアウトマウスではこの変化はまったく観察されなかった。TRPV4の刺激薬である4αPDD10 μMは,15cm H2O下のワイルドマウスでのみ効果が明らかであった。
【結論】TRPV4はflow-dependent Na fluxに関与している。従来の考えと異なり,flow-dependent機序は少なくともマウスにおいて,尿中電解質の大きな変化はもたらさないといえる。
古川哲史(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・生体情報薬理分野)
我々は,カベオラにおける“チロシンキナーゼ型受容体刺激−PI3-kinase−Akt(PKB)−eNOS−イオンチャネル”という心血管系の新たなイオンチャネル制御のシグナル伝達経路を明らかにしたが,このシグナル伝達経路は以下のバイオセンシング機構に関与する。
1. 心筋細胞では,収縮を感知して活動電位にフィードバックすることにより収縮の強度を微調節するnegative feedback機構“mechano-electrical feedback”が存在する。このメカニズムとして細胞外マトリックス・インテグリンを介するeNOS活性化による心筋カリウム電流IKsの活性化が関与する。
2. 心筋細胞では,細胞内Ca2+ 濃度を感知して活動電位にフィードバックすることによりCa2+ 流入量を微調節するフィードバック機構が存在する。eNOSはAktあるいはcalmodulin依存性に活性化されるが,Ca2+によるイオンチャネル制御にはcalmodulin依存性eNOS活性化が関与する。
3. 心血管系細胞では,性ホルモン受容体はカベオラに局在しており,遺伝子転写を介さずAkt依存性にeNOSを活性化すること,すなわちnon-nuclear (non-genomic) pathwayがイオンチャネル制御に関与している。
金井好克(杏林大学医学部・薬理学教室)
ヘテロ二量体型アミノ酸トランスポーターは,12回膜貫通型の活性サブユニットと,1回膜貫通型の補助サブユニットがジスルフィド結合により連結して形成される。補助サブユニットの1つである4F2hc (4F2 heavy chain; CD98) は,N-末端細胞内ドメインを介してインテグリンのbeta-鎖と相互作用し,アミノ酸トランスポーター,インテグリン,4F2hcからなる複合体を形成する。インテグリンのリガンドによりアミノ酸取り込み能が上昇し,この上昇はインテグリンの機能抑制や4F2hcの細胞内ドメインの過剰発現により阻止された。この効果は速やかに生じ,インテグリンシグナルを伝えるFAK (focal adhesion kinase) のノックダウンにより影響されなかったことからFAKを介さない経路によることが示唆された。また,ヘテロ二量体型アミノ酸トランスポーターの活性サブユニットのC-末端には電位依存性CaチャネルCav1.2の "targeting domain" と相同な配列があり,この部分のdeletionにより補助サブユニットとの連結が障害され,膜移行が障害されることが明らかとなった。活性サブユニットのC-末端のdeletionによる解析の結果,C-末端は複数のタンパク質間相互作用に関わるドメインがあり,これを介して多岐に渡る調節を受ける可能性が示唆された。
槇島誠(日本大学医学部生化学)
植物ステロールまたは代謝産物がLXRのリガンドとして機能しているとの仮説をたて,植物ステロール及びそれらの誘導体のLXRに対する効果を検討した。その結果,エルゴステロール誘導体(22E)-ergost-22-ene-1α,3β-diol (YT-32) にLXRα及びLXRβを活性化する作用があることを見出した。マウスを用いて,非ステロイド性合成LXRアゴニストT0901317とエルゴステロール誘導体YT-32の効果を比較検討した。T0901317の経口投与は,肝臓でのステロール排出ポンプABCG5/G8や脂肪酸代謝調節因子SREBP-1c,小腸でのABCA1,ABCG5/G8などのLXR標的遺伝子の発現を誘導した。コレステロールの吸収は抑制されたが,血漿中性脂肪は上昇した。一方YT-32の投与は,小腸においてステロール排出ポンプABCA1,ABCG5/G8の発現を誘導したが,肝臓での標的遺伝子はほとんど誘導しなかった。そして高中性脂肪血症を誘導することなく,コレステロールの吸収を抑制した。これらの結果は,LXRが植物ステロールのセンサーとして,小腸選択的な機能をしていることを示唆している。
吉田卓史,森泰生(京都大学大学院・工学研究科)
TRPC5チャネル蛋白質をHEK293細胞およびウシ大動脈内皮細胞 (BAEC) に一過的に発現させて電気生理学的手法,Ca2+インジケーター fura-2を用いた細胞内Ca2+濃度 ([Ca2+]i) 測定を用いてTRPC5の活性を調べた。その結果,TRPC5発現HEK293細胞において一酸化窒素(NO) 供与剤SNAP (100 uM),H2O2 (100 uM),さらにシステイン特異的酸化剤5-Nitro-2-PDS (30 uM) の適用により細胞外Ca2+依存性の [Ca2+]i上昇が見られた。この活性化は酸化物質によるTRPC5蛋白質内の特定システイン残基の直接酸化により引き起こされていることを明らかとした。またTRPC5を一過性に発現させたBAECにおいてATP (1 uM) の刺激によるendothelial nitric oxide synthase (eNOS) の活性化により産生したNOにより[Ca2+]i がTRPC5を強制発現していないコントロールに対して有意に上昇することを見出した。この [Ca2+]i上昇はeNOSの阻害剤であるL-NAMEによりコントロールレベルまで抑えられる。以上の結果より内皮細胞においてTRPC5がNOにより直接酸化されることにより活性化することを明らかとした。
北川禎三(岡崎統合バイオサイエンスセンター)
分子の振動は分子立体構造に非常に敏感であるので,『そのスペクトル測定により分子構造変化を検出していく』というアプローチをとる。分子振動の測定法としてラマン散乱法を用いて可溶性グアニレートシクラーゼ(sGC) を調べた。
ウシの肺から単離・精製したcGMPはαβダイマーで分子量143,000,分子当り1個のプロトヘムをもち,それはβ105-Hisに結合している。この分子にNOが結合すると活性は200〜400倍高くなる。NOは生体中ではL-アルギニンからNO合成酵素により作られるが,ニトログリセリンのような薬剤として外から与えられることもある。NOがFe (II) ヘムに結合すると,Fe (II)-His (β105) が切断される事が共鳴ラマン分光の研究より明らかになっている。しかし,COがその位置に結合しても,Fe(II)-His (β105)結合は切断されず,活性は5倍程度しか上がらない。したがって,Fe-His結合の切断によるコンフォメーション変化がC末端部にある触媒部位でのGTP→cGMP反応を促進するものと考えられる。
ところが,ある種のエフェクター分子(YC-1[3-(5’-hydroxymethyl-2’-furyl)-1-benzylindazole])が存在すると,COもNOと同様の活性増大の効果を生むことがわかってきた。
清水貴浩,沼田朋大,岡田泰伸(生理研・機能協関)
アポトーシス性容積減少 (apoptotic volume decrease: AVD)は,細胞にアポトーシスを誘導する極めて重要な現象であり,主にK+ チャネルとCl- チャネルの活性化によるイオン流出による。このAVD誘導性Cl-チャネルについて検討した。HeLa 細胞を用いた全細胞記録において,ミトコンドリア系アポトーシス誘導剤 (staurosporine: STS)がCl-電流を活性化した。その性質は,外向き整流性,脱分極電位での不活性化,容積感受性,細胞内ATP依存性,薬理学的性質などの点で,これまで報告されている容積感受性Cl- チャネルと同一であった。また,STSが急速に細胞内活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS) を産生したことから,容積感受性Cl-チャネルのアポトーシス性活性化にROSが関与している可能性について検討した。ROSスカベンジャーやNADPHオキシダーゼ阻害剤によるROS産生抑制が,このSTSによる容積感受性 Cl-電流の活性化を抑制した。また,細胞外に投与した過酸化水素も,細胞膨張がないにもかかわらず容積感受性Cl-チャネルを活性化した。これらの結果から,アポトーシス時に活性化するCl-電流が容積感受性Cl-電流であること,またSTSによるCl-チャネル活性化はROS産生を介していることが明らかとなった。
吉田竜介,重村憲徳,安松啓子,二ノ宮裕三(九州大学大学院・歯学研究院・口腔機能)
活動電位を発生させる味細胞の味刺激への応答性を調べ,鼓索神経線維の応答性と比較した。マウス鼓索神経線維と同様に,NaClに応答する細胞はアミロライド感受性・非感受性のグループに分けられた。幾つかのMSGに応答する細胞では,IMPの添加により相乗効果が確認された。刺激により生じる活動電流頻度は刺激濃度依存的であった。味刺激に対する応答を記録できた78個の味細胞のうち,45個 (58%) は4種の刺激(NaCl,サッカリン,HCl,キニーネ)のうち1種に,28個 (36%) は2種に,5個 (6%) は3種に応答した。エントロピー値を計算すると平均0.207±0.253 (SD)となり,この値はマウス鼓索神経の値に近かった。また,個々の細胞の応答性の近似を示すデンドログラムや4基本味のうち特定の味刺激に応答する細胞の割合も味細胞と神経の間で類似していた。これらの結果は,活動電位を発生する味細胞が神経に味情報を伝えていることを示唆する。また,甘味応答を示すマウス味細胞のT1r3(甘味受容体),gustducinの発現パターンを調べた。甘味応答細胞におけるT1r3とgustducinの発現パターンは多様で,T1r3とgustducinを共発現する細胞とT1r3あるいはgustducinのみを単独に発現する細胞がそれぞれ存在した。この結果は,マウスの甘味受容・情報伝達機構が複数存在することを示唆する。
竹内裕子・倉橋隆(大阪大学大学院 生命機能研究科)
cAMPは神経細胞や内分泌細胞で広くSignal Transductionの二次伝達物質として利用されているが,Signal Trasnduction の特性を定量的に知るためには,細胞内cAMP濃度変化を実時間測定する実験が必要となる。
そこで,従来より用いてきたパッチクランプ記録とケージド化合物の光解離のコンビネーションによって,サブミクロン組織空間内のcAMP濃度推定を行う系を確立した。この方法を用いて,嗅細胞繊毛内での匂い応答時のcAMP濃度推定を行ったところ,ステップ状刺激に対して,線形に細胞内cAMP濃度が上昇するという結果を得た。細胞内PDE活性が一定であるなら,この結果は,cAMP産生にかかわるアデニル酸シクラーゼ活性が定常活性を示すことを意味する。このことは,実際に,ケージドcAMPを用いた実験によって推定されている。ところで,従来,G蛋白介在性の情報伝達系として最も定量的な研究が進んでいるもののひとつに視細胞がある。視細胞では,effector酵素としてのPDEの活性は時間とともに線形的に増加すると予測されており,したがって細胞内cGMP濃度変化は指数関数的に変化すると予測されている。今回の嗅細胞における実測結果は,このような従来の予測と異なっており,その不整合性について考察する。
檜山武史 渡辺英治 野田昌晴(基礎生物学研究所 感覚情報処理)
Naxチャンネルは中枢神経系においては主に脳室周囲器官 (CVOs) に発現していた。CVOsは個体の塩分摂取や水分摂取の制御に関わるとされる。脱水状態において,野生型マウスは水を大量に摂取し食塩水を回避するが,ノックアウトマウスは味覚に異常が無いにも関わらず両者を区別無く摂取した。さらに,高張食塩水を脳室内に注入しCVOsを直接的に高Na液で刺激すると,野生型では食塩水忌避行動が出現するのに対し,ノックアウトマウスではこれがみられなかった。
アデノウィルスを用いてノックアウトマウスの脳内にNax遺伝子を再導入したところ,一部のマウスにおいて,脱水時における食塩水回避行動が回復した。回復したマウス全てにおいてCVOsの一つである脳弓下器官へのウィルス感染が確認された。また,Naxを発現している部位の初代培養細胞では10 mM程度の細胞外ナトリウムイオンの上昇に応答して,細胞内ナトリウムイオン濃度が大幅に上昇した。この応答はノックアウトマウス由来の細胞では観察されなかったが,Naxプラスミドベクターの導入により応答が出現した。よって,Naxは体液塩濃度を検出するナトリウムレベルセンサーとして働いており,脳弓下器官が個体の塩分摂取行動制御の一次中枢として機能していると結論した。
中井淳一(理化学研究所 脳科学総合研究センター 記憶学習機構研究チーム)
数年前にGFPを元にしたCaプローブであるG-CaMPを開発した。G-CaMPは1波長励起1波長測定のプローブでGFPとほぼ同様の蛍光波長特性を持つ。そこで,平滑筋に特異的にG-CaMPを発現するマウスを作成した。このマウスには特別な異常は認められず,正常に発育した。冠動脈を含む血管の平滑筋,膀胱平滑筋,腸管平滑筋,気管支平滑筋にGFPの発現が認められた。膀胱平滑筋をサポニンにて処理した後,外液のCa濃度を変えて用量-反応依存曲線を取ったところ,Kdは328 nM(Hill係数2.8)でin vitroの測定結果とほぼ一致した。そこで単離した平滑筋細胞にアセチルコリンおよびカフェインを投与したところ蛍光の増加が観察された。次に膀胱を単離し神経を電気刺激して平滑筋のCa変動を観察したところ,FlashとWaveと呼ぶ2種類のCaの変動が捕らえられた。Flashではまず,P2X受容体が活性化され細胞が脱分極することによってジヒドロピリジン感受性電位依存性Caチャネルが活性化され,細胞内にCaが流入する。さらに流入したCaによりリアノジン受容体が活性化されCa-induced Ca releaseによりCaの上昇が引き起こされる。またWaveはムスカリン性アセチルコリン受容体を介したIP3の生成とその後のIP3受容体の活性化によってCaの上昇が起こることが明らかとなった。
久野みゆき,酒井啓,川脇順子,森畑宏一,翁昌子,森啓之
(大阪市立大学大学院医学研究科分子細胞生理学)
膜電位依存性H+チャネルは,開口すると大量のH+を短時間で細胞外に放出するH+選択性チャネルである。このチャネルは,細胞内外pHのわずかな変動に即応して活性を変える極めて鋭敏なH+センサーであると同時に,H+シグナルの強力な発信器としての役割も兼ね備えている。チャネル開口制御の第一要因はpHであるが,pH環境を一定に維持しても,チャネル活性は様々な要因でダイナミックに変動する。こうした短時間で起こる可逆的な変動の中に,活性化チャネル数の変化,すなわちチャネルのrecruitment機構に基づくものが含まれている可能性を,チャネル活性の温度応答性から検討してみた。H+チャネルコンダクタンスには温度依存性の高い相(high Q10 phase) があり,ユニークな性質のひとつとして知られている。ところが,cell swellingを起こさせH+チャネル電流を強く活性化させると,このhigh Q10 phaseが消失する。またアクチン細胞骨格に作用しswellingを抑える働きのあるcytochalasinやphalloidinによってもhigh Q10 phaseが抑制されることから,high Q10 phaseでH+チャネルのrecruitmentが生じていることが推測された。H+チャネルの大きな活性振動にはrecruitmentが大きな役割を果たしていると考えている。
三木隆司1,松本正成2,清野 進1
(1神戸大学医学系研究科・細胞分子医学,2千葉大学医学研究院・細胞分子医学)
Noc2はRab3のエフェクター分子として膵β細胞から同定され,膵内分泌をはじめ,内分泌組織・神経内分泌組織に強く発現しているがその生理的役割は不明であった。Noc2 KOマウスは外見上大きな異常は認めず随時血糖値も正常であったが,KOマウスはストレス下でのみ耐糖能障害を示した。KOマウスより単離した膵島からのCa2+誘導性のインスリン分泌は明らかに障害されていたが,三量体G蛋白質Gi/oの阻害剤である百日咳毒素による処置で正常化した。Noc2はGi/oによるインスリン分泌抑制機構に拮抗的に働く分子であることが示された。野生型Noc2をアデノウイルスによりKOマウスの膵島に導入するとCa2+誘導性のインスリン分泌が改善するものの,Rab3と結合しない変異型Noc2を導入しても分泌が改善しなかったことから,Noc2はRab3との結合を介して機能していると考えられた。さらに,KOマウスの膵外分泌腺房細胞に分泌顆粒が極度に貯留していることが判明し,単離膵腺房細胞からのアミラーゼの調節性分泌は著明に障害されていた。調節性分泌が惹起される他の腸管細胞でも同様の分泌顆粒の貯留が認められた。以上のことから,Noc2はRab3と相互作用することにより,内分泌・外分泌両者の調節性の開口分泌に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
立山充博,久保義弘(自然科学研究機構・生理学研究所・神経機能素子研究部門)
代謝型グルタミン酸受容体mGluR1の細胞外領域の結晶構造解析によってGd3+の結合部位が2量体サブユニット境界面のE238を中心とする負電荷を持ったアミノ酸に富む部域に同定されたのを受け,この部域がGd3+による mGluR1 の活性化に実際に関与しているかどうかについての解析を行った。(1) E238Q 変異により,Gd3+感受性は完全に消失したが,グルタミン酸,Ca2+ に対する感受性は変化しなかった。(2) 前もって低濃度の Gd3+を投与しておくことにより,野生型ではグルタミン酸に対する感受性が上昇するが,E238Q 変異により,この増強作用も消失した。シナプス間隙に存在する何らかの物質XがGd3+の代わりに E238に作用してmGluR1の機能を修飾するという仮説の下に研究を継続している。
膜表面に発現している受容体の,リガンド投与による動的構造変化をリアルタイムで解析することを目的として,mGluR1の細胞内領域を2色の蛍光蛋白でラベルし,全反射照明下において,蛍光物質間の距離の変化を評価する FRET 解析を行った。その結果,2量体で構成される mGluR1 の,サブユニット内の構造変化ではなく,2つのサブユニットの配置の変化が起きていることを明らかにした。