生理学研究所年報 第26巻
 研究会報告 年報目次へ戻る生理研ホームページへ

20.シナプス伝達の細胞分子調節機構

2004年11月26日−11月27日
代表:小松由紀夫(名古屋大学環境医学研究所)
所内対応者:伊佐 正(生理学研究所・認知行動発達機構)

(1)
Roles of Synaptotagmin-1 C2B domain for synaptic transmission
Kidokoro, Y. and Tamura, T.(群馬大・医)
(2)
トモシンによる神経伝達物質放出の制御
匂坂敏朗,馬場威,田中晋太朗,泉鉉吉,安見正人,高井義美(阪大・医・分子生理化学)
(3)
G蛋白を介した神経伝達物質放出制御
持田澄子(東京医科大・生理第一)
(4)
シナプス可塑性と高次脳機能におけるNMDA受容体チロシンリン酸化の役割
真鍋俊也(東大・ 医科研・神経ネットワーク)
(5)
アクチン依存的なPSD蛋白質の動態
岡部繁男(東京医科歯科大・医歯学総合・細胞相関機構学)
(6)
逆行性シナプス伝達調節におけるphospholipase Cβの役割
橋本谷祐輝,少作隆子,狩野方伸(金沢大・医・脳医科学・シナプス発達・機能学)
(7)
小脳プルキンエ細胞における活動依存性PKC制御
鶴野瞬,平野丈夫(京大・理・生物物理)
(8)
抑制性シナプス可塑性のmGluR1活性によるPKAを介した制御
関優子,川口真也,平野丈夫(京大・理・生物物理)
(9)
視覚野抑制性シナプス伝達の長期抑圧,及び長期増強は異なるCaチャネルサブタイプに依存する
黒谷亨,小松由紀夫(名大・環研・視覚神経)
(10)
ミトコンドリアと滑面小胞体による容量性Ca2+流入の制御とノルアドレナリンによる二面性制御
久場健司,久場雅子,須崎尚(名古屋学芸大学・管理栄養学部解剖生理)
(11)
海馬苔状線維シナプスにおけるカイニン酸受容体の機能
神谷温之(北大・医・脳科学・神経機能学・分子解剖)
(12)
小脳プルキンエ細胞の興奮性シナプス伝達におけるグルタミン酸トランスポーターの役割
小澤瀞司(群馬大・医・神経生理)
(13)
中隔核シナプス伝達におけるドーパミンの働き
赤須崇1,2,蓮尾博1,浅海安雄11久留米大学医学部生理第二講座,2久留米大学高次脳疾患研究所)
(14)
シナプス前Ca2+チャネルとしてのP2X受容体
加藤総夫(慈恵医大・神経生理)
(15)
トランスジェニックマウスを用いたシナプトフルオリン開口放出計測システム
八尾寛1,2,荒木力太1,2,石塚徹1,2,柳川右千夫2,3,阪上洋行2,4
明石馨5,平林敬浩6,宮崎純一7,崎村建司5
1東北大院・生命科学,2CREST・JST,3群馬大院・医,4東北大院・医,
5新潟大・脳研,SORST・JST,6自然科学研究機構・生理研,7大阪大院・医)
(16)
海馬苔状線維終末からのBDNF開口放出の測定
須山成朝,小橋雄一,石塚徹,八尾寛(東北大・生命科学・脳機能解析)
(17)
生後発達に伴う前シナプス活動電位変化のメカニズム
中村行宏,高橋智幸(東大・医・機能生物学・神経生理)
(18)
キンギョMb1型双極細胞におけるCa2+マイクロドメイン・シナプスリボン・開口放出部位の分布
緑川光春,立花政夫(東大・院人社・心理)
(19)
リドカイン誘起てんかん様発射の発生機序
田中永一郎,東英穂(久留米大・医・生理学第一)
(20)
マウスを用いた眼球サッケード運動系の解析
坂谷智也,伊佐正(生理研・認知行動発達機構)
(21)
Changes of AMPA Receptor and Synapse Density in the Flocculus after Short-term and Long-term Adaptation of Horizontal Optokinetic Response
王文,重本隆一(生理研・脳形態解析)

【参加者名】
城所良明,小澤瀞司,齋藤康彦,吉田由香里,高鶴裕介(群馬大・医),平野丈夫,田川義晃,大槻 元,髭 俊秀,鶴野 瞬,川口真也,矢和多智,吉田盛史,津村健策,関 優子,北川雄一,宮脇寛行,水野秀信,渡辺聡史(京大・理),八尾 寛,宮崎憲一,須山成朝(東北院・生命科学),持田澄子(東京医科大),岡部繁男,栗生俊彦(東京医科歯科大),小松由紀夫,黒谷 亨,高田直樹,吉村由美子,稲垣 壮,任鳴,舟橋梨江,稲葉三枝(名大・環境),立花政夫,緑川光春(東大・院人社),高橋智幸,山下貴之,中村行宏,金子雅博,堀 哲也,山下慈郎,水谷治央(東大・医),高井義美,匂坂敏朗(阪大院・医),成田和彦(川崎医科大),久場 健司,久場雅子,須崎 尚(名古屋学芸大),神谷温之(北大・医),真鍋俊也(東大・医科研),伊藤 功(九州大・理),加藤聡夫(慈恵医大),赤須 崇,田中永一郎(久留米大・医),日暮陽子(川崎医療短),狩野 方伸,少作隆子,橋本谷祐輝(金沢大・医),山本泰憲(基生研),重本隆一,王文,井本敬二,窪田芳之,前島隆司,張 一成,岸本拓哉,瀬藤光利,宮田麻理子,本蔵直樹,深澤有吾,萩原 明,西巻拓也,伊佐 正,遠藤利朗,坂谷智也(生理研)

【概要】
 平成16年11月26-27日の2日間にわたり自然科学研究機構・岡崎カンファレンスセンターにおいて「シナプス伝達の細胞分子調節機構」に関する研究会を開催した。この研究会は平成9年から毎年開かれており,今回は約60名が参加し,21の演題が発表された。伝達物質の放出とその制御機構,シナプス可塑性,シナプスと行動の関連等に関する新しい実験結果が報告された。伝達物質の放出とその制御については,シナプトタグミンとトモシンの開口放出における役割,伝達物質放出を引き起こすCa2+ チャネル電流とその調節,グルタメイト・トランスポーターやG蛋白共役型受容体を介する制御に関する発表があった。また,開口放出の新しい光学的計測法やP2X受容体を介するCa2+ 流入による新しいタイプの放出機構についても報告された。シナプス可塑性については,NMDA受容体のチロシンリン酸化とエンドカンナビノイドの役割,抑制性シナプスの可塑性,アクチン依存的PSD蛋白の動態に関する発表があった。また,眼球運動制御における抑制性伝達の役割や,小脳AMPA受容体の可塑的変化が報告された。この研究会には,分子生物学者,電気生理学者,形態学者が参加しており,様々な観点から,これらの発表に対する活発な討論が交わされ,今後の共同研究の契機となる模様であった。発表者は,大学院生から長い研究歴をもつ者まで様々であったが,若手がかなりの割合を占めていた。昨今,神経科学や生理学会において,一般演題がほとんどポスターになり若手が講演をする機会に恵まれていない。過去4回の研究会で一研究室あたり2題までの発表を認めたこともあり,若手研究者の発表が増加した。若手の発表者が,様々な質問に対して的確に答えており,この会が次代を担う研究者の育成にも貢献していると感じた。来年度は岡部繁男教授が提案代表者となり,引き続きこの研究会の開催を計画することになった。

 

(1)Roles of Synaptotagmin-1 C2B domain for synaptic transmission

Kidokoro, Y. and Tamura, T.
(群馬大学医学部)

 Between two Ca2+-binding domains of Synaptotagmin I, the distal one, C2B, has two Ca2+-binding sites, Ca1 and Ca2. We examined the effect of deletion of each binding site on synchronous nerve-evoked synaptic transmission and spontaneous quantal events in the Drosophila embryonic neuromuscular junction. Deletion of Ca1 completely abolished nerve-evoked synaptic transmission while spontaneous quantal events, miniature synaptic currents (minis), were still observed. On the other hand, elimination of the Ca2 binding site dramatically reduced the amplitude of synchronous synaptic currents but did not abolish synaptic transmission. The relation between the quantal content and external Ca2+ concentration [Ca2+]e had a slope of 2.0 in the double logarithmic plot, while that of the control was 3.1. We next examined the Ca2+ dependency of mini frequency in high K+ solutions. Deletion of the Ca2 binding site reduced the mini frequency compared with the control, but the frequency increased with [Ca2+]e. In contrast, deletion of the Ca1binding site decreased the mini frequency with [Ca2+]e, suggesting that the negative regulation of spontaneous vesicle release occurs Ca2+-dependently. When Sr2+ substituted Ca2+ in the high K+ external solution, the mini frequency was higher than in Ca2+ solutions and increased with [Sr2+]e in the control as well as in both transformants. No negative regulatory effect was observed even in the transformant lacking Ca1. We concluded that two Ca2+ binding sites in the C2B domain are crucially involved in synchronous transmitter release. Spontaneous release of transmitter is negatively regulated in a Ca2+-dependent manner. Sr2+ does not substitute for Ca2+ in this negative regulatory function.

 

(2)トモシンによる神経伝達物質放出の制御

匂坂敏朗,馬場 威,田中晋太朗,泉 鉉吉,安見正人,高井義美(阪大院・医・分子生理化学)

 神経伝達物質の放出において,まずシナプス小胞は,軸索輸送によりシナプス前膜(ターゲットとなる膜)に運ばれる(ターゲッテイング)。シナプス小胞は,アクテイブゾーンにおいて,シナプス前膜のCa2+チャンネルの近傍にドッキングした状態になり,さらにCa2+濃度の上昇に応答できる状態に成熟する(プライミング)。Ca2+が流入した際,Ca2+チャンネル周辺の局所的に上昇したCa2+ 濃度に依存して,シナプス前膜とシナプス小胞の融合が起こり,シナプス小胞内の神経伝達物質が放出される。これまで,ターゲッテイングにはRab3A 系の蛋白質,ドッキングと融合には普遍的膜融合装置を構成するSNARE系の蛋白質,そしてプライミングにはアクテイブゾーン構成蛋白質が関与していることが明らかにされている。これまで,私共は,神経伝達物質の放出にSNARE系の活性制御タンパク質であるトモシンが抑制的に働くことを明らかにしている。トモシンがt-SNAREとトモシン複合体を形成し,小胞融合に必須な7S SNARE複合体の形成を抑制することにより,神経伝達物質の放出を制御している。最近,トモシンがプライミングに関与していることが明らかにされつつある。一方,PKAが,ドッキングとプライミングを制御していることが知られている。ドッキングにおいては,SNAP-25をPKAがリン酸化することにより調節することが知られているが,プライミングにおいてのPKAのリン酸化基質は,未だ同定されていない。そこで,今回,PKAによるトモシンの活性調節を検討したところ,PKAがトモシンをリン酸化することにより,シンタキシン-1との結合親和性を減弱させることがわかった。また,トモシンのリン酸化により,PC12細胞におけるGrowth hormoneの分泌が制御されていることがわかった。他方,神経細胞における軸索や樹状突起といった神経突起の伸長は,小胞輸送により膜成分が突起の先導端へ運ばれて,そこで膜が融合することにより起こる。膜融合には,普遍的な膜融合装置であるSNARE系タンパク質が関与している。最近,私共は,トモシンがRho-ROCK系により活性調節を受け,非特異的な膜融合を抑制することによりアクチン細胞骨格の再構築と協調して神経突起の伸長を制御していることを明らかにしている。以上の結果から,トモシンはPKAとRho-ROCK系により活性調節を受けることにより,SNARE系を介して小胞融合を制御していることが考えられた。

 

(3)G蛋白を介した神経伝達物質放出制御

Gary Stephens (Dept. of Pharmacology, University College London)
持田澄子(東京医科大・生理第一)

 シナプス前終末からの伝達物質放出を調節する機構として,神経終末のG蛋白共役型受容体の活性化を介した,Ca2+チャネルの抑制,K+チャネルの活性化,あるいは,開口放出の阻害による伝達物質放出阻害が示唆されている。このような作用は,Gαβγから解離したGβγによると考えられている。しかし,シナプス前終末での解析はcalyx Held1とlamprey reticulospinal/motoneuron synapses2での報告があるのみである。ノルアドレナリンが上頸交感神経節のシナプス伝達を阻害することが古くから知られており,シナプス前終末のG蛋白共役型受容体を介して伝達物質放出を阻害することが考えられる。そこで,培養上頸交感神経節細胞シナプスを用いて,シナプス前終末のノルアドレナリン受容体活性化に伴うGβγを介するシナプス伝達調節の機能解析を試みた。

 (1)ノルアドレナリン (0.2-10 mM) は,活動電位のduration,後過分極を減少させるとともに上頚交感神経節細胞シナプス伝達を濃度依存性に阻害した。(2)ノルアドレナリンの効果はヨヒンビン (2 μM) で抑制され,クロニジン (10 μM) はノルアドレナリンと同様の効果を引き起こした。(3) PTX (500ng/ml) 前処理した上頸交感神経節細胞シナプスでは,ノルアドレナリンはシナプス伝達を抑制しなかった。(4)Gαtransducinを過剰発現させたシナプスでは,ノルアドレナリンによるシナプス伝達抑制が減弱した。(5)Gβγをシナプス前終末へ導入したところ,活動電位後過分極の減少,シナプス伝達の阻害が認められた。さらに,Gβγを導入したシナプスでは,ノルアドレナリンによるシナプス伝達抑制が認められなかった。(6)ノルアドレナリン,Gβγは,それぞれ細胞体から記録されるCa2+電流を抑制した。(7)ノルアドレナリンは,活動電位を介さない蔗糖による伝達物質放出を阻害しなかった。

 上記の結果から,Gβγは上頸交感神経節細胞シナプス前終末のα2アドレナリン受容体活性化を介してCa2+チャネルを抑制することによってシナプス伝達を調節することが示唆される。

参考文献

Kajikawa Y, Saitoh N & Takahashi T (2001). GTP-binding protein βγ subunits mediate presynaptic calcium current inhibition by GABAB receptor. Proc Natl Acad Sci USA 98, 8054-8058.
Blackmer T, Larsen EC, Takahashi M, Martin TFJ, Alford S & Hamm H (2001). G protein bg subunit-mediated presynaptic inhibition: regulation of exocytosis fusion downstream of Ca2+ entry. Science 292, 293-297.

 

(4)シナプス可塑性と高次脳機能におけるNMDA受容体チロシンリン酸化の役割

真鍋俊也(東京大学 医科学研究所 神経ネットワーク分野)

 中枢神経系における長期増強をはじめとするシナプス可塑性は,記憶・学習や情動などの高次脳機能の細胞レベルでの基礎過程であると考えられ,その分子機構の解明が盛んに進められている。グルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体は,多くのシナプスにおいて,その可塑性の誘導に重要な役割を果たす。たとえば,海馬CA1領域における長期増強の誘導には,NMDA受容体の活性化が必須であることが知られている。したがって,NMDA受容体の機能調節は,シナプス可塑性,ひいては,個体レベルでの脳機能の制御に直接関与するものと考えられる。中でも,NMDA受容体NR2 (GluRe) サブユニットのチロシンリン酸化は,シナプスにおけるNMDA受容体のチャネル活性を調節することから,NMDA受容体の機能調節機構における最も重要な要素のひとつである。本講演では,NMDA受容体のチロシンリン酸化が,海馬や扁桃体でのシナプス可塑性や個体レベルでの高次脳機能にどのように関与するかについての,私たちの最近の研究成果を紹介したい。

 参考文献

(1) T. Manabe, A. Aiba, A. Yamada, T. Ichise, H. Sakagami, H. Kondo, and M. Katsuki. Regulation of long-term potentiation by H-Ras through NMDA receptor phosphorylation. J. Neurosci. 20:2504-2511, 2000.
(2) T. Nakazawa, S. Komai, T. Tezuka, C. Hisatsune, H. Umemori, K. Semba, M. Mishina, T. Manabe, and T. Yamamoto. Characterization of Fyn-mediated phosphorylation sites on GluRe2 (NR2B) subunit of the N-methyl-D-aspartate receptor. J. Biol. Chem. 276:693-699, 2001.

 

(5)アクチン依存的なPSD蛋白質の動態

岡部繁男(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)

 イメージング技術の進歩により,シナプス形成・維持・リモデリングの過程において,複数のシナプス機能分子がその局在を変化させる事が明らかになった。PSDの足場蛋白質およびアクチン分子に関して活動依存的な局在制御機構が存在する事が報告されている。複数のシナプス後部蛋白質の分子動態を総合的に評価するため,4種類の足場蛋白質の動態を同一の実験条件で定量し,その安定化に関与する因子を検索した。定量的な動態観察を行った結果,足場蛋白質は少なくとも三つの異なった動態を持つ分画から構成されると考えられた。すなわちターンオーバーの速度からほぼ自由拡散によると考えられる分画,数分の寿命を持つ分画,そして数分では置換されない分画であり,異なった種類の足場蛋白質では,三つの分画の存在比率が異なっている。膜蛋白質であるNMDA受容体や代謝型グルタミン酸受容体,更にパルミチル化によりシナプス後膜に付着するPSD-95分子を除去した標本においても,他の足場蛋白質の動態は変化せず,これらの分子は他の足場蛋白質の集積に大きな影響を与えない。一方PSDの細胞質側に存在する動的な構造であるアクチン線維の脱重合により,数分の寿命を持つ動的な足場蛋白質分画が選択的にシナプスから除去された。更に活動依存的なPSD分子の局在変化がアクチン線維の安定化により阻害される事から,アクチン線維がPSD分子の構成変化にも必須である事が明らかになった。アクチン線維自体のシナプス後部でのターンオーバーは非常に速く,数分間でほとんど全ての分子がシナプス後部において置換される。またアクチン線維自体も活動依存的にシナプスにおける分布が変化する。従ってアクチン線維によるシナプス機能制御の分子機構の一つとして,PSD分子の再構成を誘導する事が重要であると考えられる。

 

(6)逆行性シナプス伝達調節におけるphospholipase Cβの役割

橋本谷祐輝,少作隆子,狩野方伸(金沢大学大学院医学系研究科 シナプス発達・機能学)

 最近の研究により,脳の様々な領域において内因性カンナビノイド (eCB) が逆行性シグナルとして働き,シナプス伝達を調節していることが明らかとなった。eCBはシナプス後ニューロンから合成・放出され,それがシナプス前終末に存在するカンナビノイド受容体を活性化し,神経伝達物質の放出を抑制する。eCBの合成・放出は,(1) 脱分極による細胞内Ca2+ 濃度上昇,(2) グループI代謝型グルタミン酸受容体やM1/M3ムスカリニック受容体などのGq共役型受容体の活性化,により引き起こされる。また,脱分極と受容体活性化が同時におこるとeCBの合成・放出は著しく促進される。この相乗効果のメカニズムはこれまで不明であった。Gq共役型受容体はホスホリパーゼCβ (PLCβ) を活性化し,一方,生化学的な過去の実験から,PLCβ 活性はCa2+依存的であることが知られている。そこで我々は,脱分極と受容体活性化の相乗効果をPLCのCa2+ 依存性で説明できるかどうか検討した。

 培養海馬ニューロン・ペアよりIPSCを記録し,受容体活性化によるeCBの放出をIPSCの振幅を指標にして調べた。IPSCにはカンナビノイド感受性のものと非感受性のものがあるが,本実験ではカンナビノイド感受性IPSCのみを使用した。ムスカリニック受容体アゴニスト(oxo-M) 投与により引き起こされるeCBの放出は細胞内Ca2+ 濃度に強く依存し,脱分極による一過性のCa2+ 濃度上昇により著しく増強された。また,同じ条件下でのeCBの放出はPLCβ1欠損マウスでは消失しており,この結果からeCBの放出にPLCβ1が必須であることが判明した。

 次に生きた細胞内のPLCのCa2+ 依存性を調べるために,その代謝産物であるジアシルグリセロール (DAG) 産生量を,DAG感受性のTRPC6チャネルを用いてリアルタイムで測定した。まず培養海馬ニューロンに強制発現させたTRPC6チャネルがDAG感受性であり,且つPLCb1依存的であることを確認した。TRPC6チャネル電流を指標として,PLCβ1活性を調べたところ,oxo-M投与によるPLCb1の活性化が細胞内Ca2+濃度に強く依存し,また,脱分極によるCa2+濃度上昇により著しく増強されることが示された。

 以上の結果より,eCB合成・放出の律速酵素と考えられるPLCβ1がCa2+ 依存性であるため,細胞内Ca2+ 濃度上昇と受容体活性化が同時に起こることにより強く活性化され,それが相乗効果の原因であることが明らかとなった。受容体-PLCβシグナル伝達はさまざまな神経活動において重要な役割を担っており,本研究の結果から,それが生理的範囲のCa2+ 濃度変化の影響を受ける可能性が示唆された。

 

(7)小脳プルキンエ細胞における活動依存性PKC制御

鶴野 瞬,平野丈夫(京都大学理学研究科生物物理学教室)

 小脳プルキンエ細胞が平行線維と登上線維から同時に入力を受けると,平行線維−プルキンエ細胞間のシナプスにおける伝達が長時間減弱する小脳長期抑圧 (LTD)という現象が知られている。そして,LTDはシナプス後部のAMPA型グルタミン酸受容体がC−キナーゼ (PKC)によりリン酸化されることによって引き起こされるとされている。またPKCはCaイオンとジアシルグリセロール(DAG)によって活性化されることが知られており,登上線維入力に依存した脱分極により引き起こされるCaイオン流入と,平行線維入力によるmGluR1―Gタンパク質―PLCの経路を介したDAGの生産がPKCで統合することによってLTDが発現する可能性が考えられている。そこで,私たちはプルキンエ細胞内におけるPKCの制御機構を調べるために以下の実験を行った。

 PKCは活性化する際に細胞質から細胞膜へと移動する性質を持つため,その局在を観測することによって活性を推定することができる。培養プルキンエ細胞にGFPとPKCαの融合タンパク質を強制発現させ,共焦点顕微鏡を用いて様々な刺激に対するPKCの局在変化をリアルタイムで観測した。PKCαは脱分極刺激によって樹状突起全体で一過的に細胞膜へ移動し,その後30秒程度で細胞質へ戻った。この移動は,Caイオン結合能力を失った変異PKCαでは観察されなかった。またDAGを分解するDAG Lipaseの阻害剤や膜透過性のDAGを投与した条件下で脱分極刺激を与えるとPKCαは細胞膜に長く留まるようになり,DAGが活性の長期化に関与することが示唆された。しかし,mGluR1のアゴニストであるDHPGを投与してもPKCαの移動は見られなかった。さらに,脱分極時にグルタミン酸を投与しても,脱分極刺激のみを与えた場合と比較してPKCαの移動の程度に違いは認められなかった。また,細胞内にGTPγSを投与してGタンパク質を活性化させた条件下で脱分極刺激を与えても違いは認められなかった。以上の結果から,培養プルキンエ細胞内においてPKCαは主に脱分極によるCaイオンの流入によって制御され,mGluR1ならびにその下流経路はPKCαの移動に影響を与えないと考えられる。

 

(8)抑制性シナプス可塑性のmGluR1活性によるPKAを介した制御

関 優子,川口真也,平野丈夫(京都大学理学研究科生物物理学教室)

 小脳皮質の抑制性介在ニューロン (IN) はプルキンエ細胞(PN)上にGABA性のシナプスを形成している。このシナプスにおけるGABAAR応答は,PNの脱分極により生じる細胞内Ca2+濃度 ([Ca2+]i) 上昇によって長期間増大する (Rebound Potentiation(RP))。一方,脱分極と同時に代謝型受容体であるGABABRが活性した場合には,RPは負に調節されることが知られている。

 mGluR1活性化は,[Ca2+]i 上昇やPKA活性上昇を介してRP制御に関わる可能性がある。そこで私達は,RP誘導の調節においてmGluR1が果たす役割を解析することを試みた。PNにおけるGABA応答の変化をwhole-cell patch clampによって記録し,RPをモニターした。mGluR1の拮抗薬であるCPCCOEtの存在下で脱分極を行ったところ,RPが抑えられた。一方,DHPGによりmGluR1を活性化すると,GABABRによるRP抑制が起こらなくなった。以上の結果からmGluR1の活性がRP誘導に必要であり,GABABRの作用を相殺するような調節を行う事が明らかとなった。

 なお,上記のmGluR1活性化によるRP誘導促進は,PKCやPLCを阻害しても影響を受けなかった。ところで,GABABRはGi/Goを介してPKA活性を抑制することでRPを調節する。そこで,PKAを阻害したところ,mGluR1活性化によるRP誘導の促進効果が消失した。以上から,mGluR1によるRP調節のシグナル伝達にはGsを介したPKAの活性化が関与する事が示唆された。

 この可能性をさらに検証するために,mGluR1或いはGABABRの活性化によるPKA活性変化をリアルタイムで測定することを試みた。細胞内cAMP濃度を測定するために,変異CNG2チャネルのcDNAを用いた。変異CNGチャネルは細胞内cAMPによって開きCa2+を含む陽イオンを通すので,[Ca2+]i や電流を記録する事により細胞内cAMP濃度変化を推定できる。変異CNGチャネルを発現させたニューロブラストーマ細胞において,ForskolinとIBMXにより細胞内cAMP濃度を増大させると,[Ca2+]i上昇及び内向き電流が観察された。そこで,CNGチャネルを発現させたプルキンエ細胞において,[Ca2+]i及び電流の変化を記録することでmGluR1或いはGABABR活性化によって生じるPKA活性変化の測定を試みた。

 

(9)視覚野抑制性シナプス伝達の長期抑圧,及び長期増強は異なるCaチャネルサブタイプに依存する

黒谷亨,小松由紀夫(名古屋大学環境医学研究所 視覚神経科学)

 我々は近年,視覚野5層のニューロンを通電により高頻度発火させると,その細胞に生じるIPSPに長期抑圧(LTD) が誘発されることを見いだした。またIR-DIC観察下で,視覚野5層の錐体細胞からwhole-cell voltage clamp記録を行い,高頻度発火を模した脱分極パルスを与えることにより,IPSCのLTDが誘発されることも報告した。興味深いことに,同一の脱分極パルスにより,一部ではIPSCの長期増強 (LTP) が生じることが判明した。IPSCのLTD誘発には,L型高閾値電位依存性Caチャネルの活性化が必要であることがわかっているが,LTP誘発に関しては不明である。そこで今回は,L型以外の電位依存性Caチャネルの,LTP誘発への関与を調べた。錐体細胞における高閾値電位依存性Caチャネルの分布は,細胞体と樹状突起では異なることが報告されている。例えば,細胞体部ではL型及びR型が主に分布するのに対し,樹状突起ではL型に加えP/Q型,N型が存在する。この部位的相違を考慮し,細胞体と樹状突起のシナプスを刺激し分ける手法,及び電気泳動的に投与したGABAに対する電流応答を解析する手法などを用いた結果,細胞体部のLTP誘発にはR型が,樹状突起のLTPにはP/Q型が寄与することが判明した。

 高閾値電位依存性Caチャネルは,サブタイプにより活性化,不活性化の電位依存プロファイルが異なる。これらを考え合わせると,錐体細胞においては静止膜電位とそこからの脱分極の程度により,その細胞へ入力する抑制性シナプス伝達効率がダイナミックに制御されている可能性も考えられる。

 

(10)ミトコンドリアと滑面小胞体による容量性Ca2+ 流入の制御とノルアドレナリンによる二面性制御

名古屋学芸大学管理栄養学部解剖生理(久場健司,久場雅子,須崎 尚)

 熱産生器官である褐色脂肪細胞は,交感神経線維の支配を密に受け,β1受容体の活性化を介して,脂質のβ酸化からミトコンドリアでの電子伝達の促進と同時に,脱共役蛋白 (UCP) を活性化し,ATPを合成することなく熱を発生する。一方,α1受容体の活性化は,IP3によるCa2+ 遊離と容量性Ca2+ 流入により細胞内Ca2+ 濃度 ([Ca2+]i) を一過性に上昇する。しかしながら,β3受容体を介するUCPの活性化により,ミトコンドリアのH+ 勾配の短絡による膜電位の減少により,Ca2+ 遊離が起こることが期待されるが,これによる [Ca2+]i の動態変化,β3受容体とα1受容体の活性化による [Ca2+]i 応答の相互作用については全く未知である。

 培養したラット褐色脂肪細胞にCa2+イメージング法と蛍光によるミトコンドリア膜電位測定法を応用した。β受容体の活性化により,2相性の [Ca2+]i 上昇が起こり,第1相はミトコンドリアの脱共役剤であるFCCPにより抑制され,ミトコンドリアの膜電位減少を伴い,第2相は外液のCa2+ 除去により消失した。FCCPは2相性の[Ca2+]i上昇を起こし,第1相はミトコンドリアの膜電位減少を伴い,第2相は無Ca2+ 液により消失した。β活性剤とFCCPによる [Ca2+]i上昇の第2相中では,サプシガーギンは無効か逆に [Ca2+]iを減少する。これらの結果は,ミトコンドリアからのCa2+ 遊離により,滑面小胞体のCa2+ が減少し,容量性Ca2+ 流入が活性化されることを示唆する。一方,α及び β活性剤やサプシガーギンの作用により容量性Ca2+ 流入が活性化された状態で,a及び b活性剤やFCCPを投与すると,容量性Ca2+ 流入の活性化が抑制され,[Ca2+]iは逆に減少する。このことから,容量性Ca2+流入は滑面小胞体のCa2+ 濃度に2面性(ベル型:中程度のCa2+ 減少で活性化,強い減少で抑制)に依存することが示唆される。また,夏に培養した褐色脂肪細胞では,容量性Ca2+ 流入が常時活性化され,静止時の [Ca2+]i レベルが高く,ノルアドレナリンのα及び β作用は [Ca2+]i 減少効果のみであり,サイロキシンは,秋・冬・春型の細胞でのノルアドレナリンの作用を夏型の応答へ変換することも解った。

 以上の結果は,ミトコンドリアと滑面小胞体が機能的に連関し,容量性Ca2+ 流入を制御し,ATPの生成とエネルギー散逸のバランスを巧妙に制御する機構の存在を示唆し,この機構がα及び β受容体の制御下にあること,更に,季節により褐色脂肪細胞の静止時の [Ca2+]i レベルを調節する遺伝子の発現が変化し,これが甲状腺ホルモンにより制御されている可能性を示唆する。また,UCPが骨格筋細胞やその他の細胞に存在することから,褐色脂肪細胞で見られるミトコンドリアと滑面小胞体の機能的連関機構と容量性Ca2+ 流入の制御は細胞一般に共通する機序である可能性がある。

 

(11)海馬苔状線維シナプスにおけるカイニン酸受容体の機能

神谷温之(北海道大学大学院医学研究科 神経機能学講座 分子解剖学分野)

 イオンチャンネル型グルタミン酸受容体のうち,AMPA受容体は興奮性シナプス伝達に,NMDA受容体はシナプス可塑性に必須の分子であることが知られているが,カイニン酸受容体の機能については不明な点が多い。私たちはこれまで,脳内で最も高密度にカイニン酸受容体を発現する海馬CA3野苔状線維シナプスを対象として,その生理的機能を追及してきた。この中で,カイニン酸受容体は特異的に苔状線維シナプス伝達を制御する機能を有し,(1) ポストシナプスでの作用として,低振幅で緩徐なシナプス後電位を生じ興奮性シナプス伝達の一部を担うこと,(2) プレシナプスでの作用として,短期可塑性の増幅に寄与すること,などを示してきた。このうち,(2) のプレシナプス作用についてはこれまで直接的な証明がなされておらず,苔状線維シナプスのプレシナプスにカイニン酸受容体が局在するか否かについて議論が分かれている。本研究会では,私たちのデータを中心に,プレシナプスでのカイニン酸受容体の機能を示唆するこれまでの実験結果を紹介し,これらの結果を説明するさまざまな可能性を整理することで,カイニン酸受容体の生理的意義を検証するための方向性を明らかにしたい。

 

(12)小脳プルキンエ細胞の興奮性シナプス伝達におけるグルタミン酸トランスポーターの役割

小澤瀞司(群馬大学・神経生理学)

 中枢神経系のグルタミン酸作動性シナプスでは,シナプス前細胞の興奮によって軸索終末からシナプス間隙に放出されるグルタミン酸は,放出後直ちに除去される。このグルタミン酸の処理には,グルタミン酸トランスポーターが重要な役割を果たす。脳のグルタミン酸トランスポーターには,GLAST (excitatory amino acid transporter 1; EAAT1),GLT-1 (EAAT2),EAAC1 (EAAT3),EAAT4の4種類があり,興奮性シナプス伝達はこれらのグルタミン酸トランスポーターの活動によって大きな影響を受ける。

 小脳のプルキンエ細胞 (Purkinje cell; PC) は登上線維(climbing fiber; CF) 及び平行線維 (parallel fiber; PF) と樹状突起上に興奮性シナプスを形成し,これらのシナプスはベルクマングリア (Bergmann glia; BG) の突起により取り囲まれている。BGには,GLASTが濃密に発現しているが,GLT-1もタンパク量にしてGLASTの約1/6量程度存在する。また,プルキンエ細胞のシナプス後部には,EAAT4が豊富に存在する。一方,EAAC1はニューロン性トランスポーターとしてPCに発現するとされてきたが,最近PCには存在しないとする研究結果も提出されている。

 筆者らは,PCの興奮性シナプス伝達における,これらのグルタミン酸トランスポーターの役割分担の解明を目指して研究を進めている。今回は,主要なグリア性トランスポーターであるGLAST及び主要なニューロン性トランスポーターであるEAAT4それぞれのノックアウトマウスを対象として,CF及びPFシナプスで興奮性シナプス後電流 (Excitatory postsynaptic current; EPSC) を記録し,それらのkineticsを野生型マウスと比較することにより,GLASTとEAAT4の役割分担について考察した。なお,本研究で用いたGLAST,EAAT4ノックアウトマウスは,東京医科歯科大学の田中光一教授から提供を受けた。

 

(13)中隔核シナプス伝達におけるドーパミンの働き

赤須崇1,2,蓮尾博1,浅海安雄11久留米大学医学部生理第二講座,2久留米大学高次脳疾患研究所)

 大脳辺縁系の一員として中隔核はさまざまな認知機能,怒りや不安などの情動機能さらには自律機能にも深く関与している。中隔核への主な入力線維は海馬のCA3ニューロンの軸索であり,興奮性アミノ酸を伝達物質としてEPSPを発生する。中隔核は主にGABAニューロンから構成され,投射ニューロンは主に視床下部や脳幹の諸神経核を支配する。このうち介在神経は海馬からの興奮性ニューロンの投射を受け,中隔核ニューロン自体にも神経を送ることで,多シナプス性にfast IPSPとslow IPSPを発生する。Fast IPSPはGABAA 受容体を介しており,slow IPSPはGABAB受容体を介して発生する。また中隔核は,中脳の腹側被蓋から投射されるドーパミン(DA) ニューロンを受ける。DAは攻撃的な行動を抑制し,報酬系として働くことが知られており,海馬−中隔核−視床下部回路の重要な調節ニューロンである可能性が高い。しかし中隔核ニューロンに対するDAの働きについては,電気生理学的にこれまでほとんど検討されていない。われわれは海馬からの入力線維を保存したラット脳スライス標本を作成し,EPSPやfast IPSPとslow IPSPに対するDAの作用を検討した。低濃度 (1-30 μM)のDAを5-15分間灌流投与すると,中隔核ニューロンの膜電位には1-2 mV程度の過分極電位しか発生せず,膜抵抗もほとんど変化しないが,100 μMの濃度になると,著明な入力抵抗の減少を伴う約8 mVの過分極電位が発生した。そこで,今回の実験では30 μM以下の濃度のDAの作用を検討した。通常の人工脳脊髄液中では,比較的短時間(5-15分間)のDA灌流によってEPSPが増大し,fast IPSPとslow IPSPは著明に抑制された。このEPSPの振幅の増大はfast IPSP をビククリンで完全に抑制するとみられなくなることから,fast IPSPの抑制による二次的な亢進といえる。DAは単シナプス性に発生させたfast IPSPを同程度に抑制したことから,先行する興奮性シナプス伝達の抑制ではなく,抑制性シナプス伝達を直接減弱させたといえる。DA受容体はD1とD2ファミリーに分かれ,さらにD1ファミリーはD1とD5受容体からなる。一方,D2ファミリーはD2,D3,D4受容体に分類される。種々の選択的アゴニストとアンタゴニストを用いた研究から,DAによるIPSPの抑制は主にD4受容体を介して発生することがわかった。DAは外部からGABAを与えることによって発生させた電流(IGABA)や微小抑制性シナプス後電位(miniature IPSP: mIPSP)の振幅には影響を与えないことから,シナプス後膜のGABAA受容体には影響を与えないことがわかる。おそらくシナプス前終末のD4受容体に働き,GABAの放出を抑制することでIPSPを抑制すると思われる。一般的に,D4受容体はadenylate cyclaseとネガティブに連関するといわれている。しかし,DAによるIPSPの抑制はforskolin投与によって抑制されず,PKA阻害剤であるH-89はDAによるIPSPの抑制作用をブロックしなかった。またPKCの関与も実験的に確認されず,細胞内情報伝達系は現在のところ不明である。

 

(14)シナプス前Ca2+ チャネルとしてのP2X受容体

加藤総夫(東京慈恵会医科大学・総合医科学研究センター・神経科学研究部・神経生理学研究室)

 アストロサイトやニューロンが様々な分子機構を介してATPを細胞外に放出する事実が数多く報告されている。細胞外に放出されたATPは,(1) ニューロンおよびアストロサイトに発現するATP受容体を活性化し,さらに,(2) ecto-nucleotidaseによってadenosineに変換された後,adenosine受容体を活性化する,という二つの機構を介してシナプス伝達を多重に修飾する (Kato & Shigetomi, 2001; Kato et al., 2003; Kawamura et al., 2004) 。ATP受容体は,ATP-gated channelであるP2X受容体チャネルと代謝型のP2Y受容体に大別されるが,なかでもP2X受容体チャネルは,中枢神経系に発現する受容体チャネルの中で静止膜電位レベルにおける最も高いCa2+ 透過性を示すため (Egan & Khakh, J Neurosci 24:3413-, 2004),中枢神経系におけるCa2+流入源としての機能が予想されている。

 内臓性求心情報が収斂し統合される延髄孤束核には,P2X受容体タンパクが高密度に発現しているとともに,その局所的活性化が様々な呼吸循環応答を誘発する事実がin vivo標本において報告されており,中枢神経系におけるP2X受容体チャネル活性化の意義を検討する上で優れた系である。

 我々は,幼若ラット脳幹スライス孤束核から誘発および自発EPSCを記録し,細胞外ATP濃度の上昇が,adenosine受容体を介した誘発EPSC振幅の減少と,P2X受容体を介した自発EPSC頻度の増加を引き起こす事実を報告した (Kato & Shigetomi, 2001)。TTX存在下,孤束核スライス2次ニューロンからは,平均振幅約10 pA,頻度約5-10回/秒の微小EPSC が観察される (basal mini)。その頻度は,P2X受容体作動薬によって約20-30回/秒まで有意かつ著明に増加した。この増加は,Cd2+によって影響されず,細胞外Ca2+に依存していた。この時,約80%のニューロンで,頻度増加に伴って,高振幅微小EPSC (large mini; 20-60 pA) が観察された。その振幅分布はbasal miniのそれと有意に異なっていたが,kineticには差がなかった。P2X受容体作動薬による large miniの発生中も,AMPA直接投与による電流の振幅は変化を示さなかった。Cyclopiazonic acid,ryanodineあるいは2-aminoethoxydiphenyl borate潅流下にもlarge miniは非潅流時と同様に観察された。一方,basal miniは,電位依存性Caチャネル (VDCC) 遮断や細胞外Ca2+除去によっても有意な影響なく観察された。P2X受容体作動薬は,Cd2+によって誘発EPSPが完全に抑制された状態においても高頻度・高振幅微小EPSPを惹起し,その時間的加重はシナプス後細胞に活動電位を発生させた。以上より,孤束核興奮性シナプスにおけるシナプス前P2X受容体を介した軸索終末Ca2+濃度上昇は,高効率の同期的Ca2+依存的グルタミン酸放出を惹起し,シナプス前細胞の興奮(すなわち終末VDCCからのCa2+流入)を介さない「シナプス伝達」を起こして二次ニューロン以下の神経回路の興奮を引き起こす事実が示された。この事実は,孤束核ネットワークにおける細胞外ATP濃度上昇が,求心性興奮性シナプス入力と機能的に等価の情報となりうる可能性を示している (Shigetomi & Kato, 2004)。

参考文献:

Kato F, Shigetomi E, Distinct modulation of evoked and spontaneous EPSCs by purinoceptors in the nucleus tractus solitarii of the rat. J Physiol (Lond) 530: 469-486 (2001).
Kato F, Kawamura M, Shigetomi E, Tanaka J, Inoue K, Synaptic purinoceptors: the stage for ATP to play its “dual-role”. J Pharmacol Sci 94, 107 - 111 (2004).
Kawamura M, Gachet C, Inoue K, Kato F, Direct excitation of inhibitory interneurons by extracellular ATP mediated by P2Y1 receptors in the hippocampal slice. J Neurosci 24: 2004.
Shigetomi E, Kato F, Action potential-independent release of glutamate by Ca2+ entry through presynaptic P2X receptors elicits postsynaptic firing in the brainstem autonomic network. J Neurosci 24:3125-3135 (2004).

 

(15)トランスジェニックマウスを用いたシナプトフルオリン開口放出計測システム

八尾寛1,2,荒木力太1,2,石塚徹1,2,柳川右千夫2,3,阪上洋行2,4
明石馨5,平林敬浩6,宮崎純一7,崎村建司5
1東北大院・生命科学,2CREST・JST,3群馬大院・医,4東北大院・医,
5新潟大・脳研,SORST・JST,6自然科学研究機構・生理研,7大阪大院・医)

 シナプス前終末において,伝達物質は小胞中に蓄えられ,開口放出により細胞外に放出される。開口放出は細胞の基本的な機能だが,直接的な計測が難しく,研究の進展が阻まれていた。われわれは,シナプス前終末からの伝達物質開口放出を解析する目的で,コンディショナルエクスプレッション法を応用して,pH感受性機能プローブを部位特異的に発現する遺伝子改変マウスを作製した。このマウスを用いた研究法を紹介し,その将来性を展望する。

 小胞膜タンパクのひとつであるVAMP-2のC末にpH感受性GFP誘導体のフルオリンを結合させた融合タンパク(シナプトフルオリン)を神経細胞に強制発現させることにより,シナプス前終末のアウトプットである開口放出を定量化することができることが報告されている1,2。シナプトフルオリンを脳において部位特異的に発現させる目的で,シナプトフルオリン遺伝子を組み込んだloxPトランスジェニックマウスを作製した。部位特異的なプロモータ制御下にCreリコンビナーゼを発現するマウスとloxPマウスとの交配により産まれたリコンビナントマウスの脳組織において,期待された部位にシナプトフルオリンの発現を認めた。シナプトフルオリンの分布から,シナプス前終末に局在していると考えられる。また,発現部位における蛍光変化を測定し,NH4Clやバフィロマイシンに対する感受性から,この蛍光変化が開口放出に由来するものであることを検証した。

 われわれが開発した開口放出測定法は,非侵襲的であり,生きた動物を用いて再現性良く繰り返し測定できる可能性がある。また,部位特異的・時期特異的・薬剤誘導特異的にCreリコンビナーゼを発現するマウスと交配すれば,部位特異的・時期特異的・薬剤誘導特異的にシナプトフルオリンを発現させることも可能である。このような遺伝子改変動物を用いた生体機能計測法は,従来の測定法と比較して再現性,利便性,特異性,検出感度において格段に優れており,有用な解析手段になることが期待される。

1. Miesenböck G, De Angelis DA & Rothman JE (1998) Nature 394:192-195

2. Sankaranarayanan S, De Angelis DA, Rothman JE & Ryan TA (2000) Biophy J 79: 2199-2208

 

(16)海馬苔状線維終末からのBDNF開口放出の測定

須山成朝,小橋雄一,石塚 徹,八尾 寛(東北大学 生命科学研究科 脳機能解析分野)

 中枢神経系において,脳由来神経栄養因子 (BDNF) は神経細胞の発生,分化,成長等を調節する分子として同定されたが,近年,神経伝達物質放出の促進,LTPの発生,ナトリウムチャネルを介した活動電位の発生等シナプス可塑性を調節する機能を有することが報告されている。BDNFなどの神経ペプチドは,神経細胞体で合成され,有芯小胞 (LDCV) に充填される。LDCVは,軸索終末において活動依存的に開口放出される。LDCVの開口放出を制御しているメカニズムの研究は,シナプス可塑性との関連において重要であるにもかかわらず,未解明の部分が多く残されている。

 本研究はBDNFの放出制御機構を解明することを目的とし,このために開口放出測定法の開発を行った。BDNFと黄色蛍光タンパク質変異体 (Venus) の融合タンパク質を海馬神経細胞に強制発現させ,シナプス前終末においてLDCVの開口放出にともなうBDNFの拡散による蛍光強度の減少から,BDNFの開口放出を光学的に測定した。

 BDNF-Venusは神経細胞特異性を有するシンドビスウィルスベクターを介して強制発現させた。実験にはSD系ラットE18-P1の海馬の初代培養系及び海馬急性スライス系を用い,ウィルスベクター感染後2-3日で測定を行った。

 BDNF-Venusシンドビスウィルスベクターに感染した海馬初代培養においては,ニューロン特異的に発現が確認された。蛍光は,神経細胞体,樹状突起,シナプス前終末に認められた。細胞体−樹状突起部位においては,高カリウム刺激に応答して顕著な蛍光強度の減弱が観察された。この応答は細胞外液カルシウムに依存し,細胞外カルシウムの除去によりほぼ完全に消失した。したがって,BDNFの開口放出によるものと考えられる。分散培養系では,シナプス前終末を同定することが困難なので,海馬急性スライスで苔状線維終末を同定し,BDNF開口放出を光学的に定量化することを試みた。脳定位固定法により海馬歯状回にウィルスベクターを注入し,3日後に歯状回顆粒細胞の軸索である苔状線維の終末にBDNF-Venusを同定した。高頻度の電気刺激によって単一の苔状線維終末において,BDNF-Venusの蛍光強度が活動依存的に減少すること,および,この応答がN-ethylmaleimide (NEM) により抑制されることを認めた。すなわち,海馬のネットワークを形成しているシナプス前終末においてBDNFが活動依存的に開口放出されることが示唆される。このようなフィードフォワードのBDNFの分泌はこれまでに知られている細胞体樹状突起部位からの分泌と異なる役割を担うと考えられる

 

(17)生後発達に伴う前シナプス活動電位変化のメカニズム

中村行宏,高橋智幸(東京大学大学院医学系研究科神経生理)

 ラット脳幹の音源定位聴覚中継シナプスcalyx of Heldでは,聴覚が獲得される生後1-2週にかけシナプス特性に変化が生じ,高頻度入力信号に対して忠実に対応する高信頼性 (HiFi) のシナプス伝達が獲得される。このシナプス伝達特性の変化は,後シナプス細胞におけるNMDA受容体発現量の減少 (Futai et al, 2001) を初めとする複数の要因によってもたらされると考えられている。生後1-2週にかけて生じる神経終末端の活動電位幅の短縮(Taschenberger & vonGersdorff, 2000) もその一因であるが,活動電位を制御するメカニズムは明らかでない。Kチャネル,Naチャネルの生後発達変化が活動電位に変化をもたらす可能性を検討するために,生後7日 (P7) および14日 (P14) の神経終末端より電位依存性K+ 電流,Na+ 電流をパッチクランプ法によって記録し,それぞれの生後発達変化を解析した。

 P7に比べP14の前シナプスK+ 電流は,速い活性化キネティクスと,単位膜容量当たり大きな振幅を示した。しかし電位依存性に変化はなく,それぞれ1 mM TEA,10 nM margatoxinによって阻害される成分として求めた高閾値活性化型 (Kv3) 電流,低閾値型 (Kv1) 電流の全K+ 電流に対する比率 (Ishikawa et al, 2003) にも差は認められなかった。

 一方,前シナプスNa+ 電流は,電流密度,電位依存性,活性化キネティクスのいずれの点においても発達変化を示さなかったが,P7に比べてP14におけるNa+ 電流の不活性化キネティクスは速く,その差は統計的に有意であった。

 以上の結果から,K+ 電流密度の増加,K+ 電流活性化時間の短縮,およびNa+ 電流不活性化時間の短縮がすべて,生後発達に伴う前シナプス活動電位幅の短縮に寄与するものと結論される。

参考文献

Futai et al, (2001) J.Neurosci. 21:3342-49
Taschenberger & vonGersdorff, (2000) J.Neurosci. 20:9162-73.
Ishikawa et al, (2003) J.Neurosci. 23:10445-53.

 

(18)キンギョMb1型双極細胞におけるCa2+マイクロドメイン・シナプスリボン・開口放出部位の分布

緑川光春,立花政夫(東大・院人社・心理)

 キンギョ網膜のMb1型双極細胞の軸索終末部には,シナプスリボンと呼ばれる微細構造がある。シナプスリボンの周囲には多数のシナプス小胞が係留されており,その直下の細胞膜にCa2+ チャネルが局在していると考えられている。双極細胞の開口放出には早い成分と遅い成分がある。本研究の目的は,Ca2+ 流入部位と開口放出部位を特定し,2相性開口放出の原因を探ることである。

 本研究では,単離したMb1型双極細胞を膜電位固定し,Ca2+ 流入部位と開口放出部位を近接場光顕微鏡で観察すると共に,網膜の超薄連続切片を電子顕微鏡で観察し,双極細胞軸索終末部のシナプスリボンとシナプス小胞の分布を調べた。

 Mb1型双極細胞にHigh K+ 溶液に溶かしたFM色素を細胞外から投与してシナプス小胞にFM色素を取り込ませた。この双極細胞にパッチ電極から蛍光性Ca2+ 指示薬 (Fluo-5F, 200 μM) を導入し,膜電位固定下でCa2+ 電流を計測すると共に,近接場光顕微鏡で軸索終末部におけるCa2+流入部位と開口放出部位を観察した。Ca2+ 電流を活性化させると複数の部位で蛍光性Ca2+ 指示薬の蛍光強度が局所的に急上昇し,Ca2+ 電流の持続時間を長くすると蛍光は各部位を中心に同心円状に拡がった。したがって,これらはCa2+ マイクロドメインであると考えられる。脱分極パルスでCa2+ 電流を活性化させた時に生じるFM色素の蛍光強度変化から,開口放出のタイミングと場所を推定することができた。長い脱分極パルスでCa2+電流を持続的に活性化させると,早い成分に対応する開口放出はCa2+マイクロドメインの近傍で生じ,遅い成分に対応する開口放出はCa2+ マイクロドメインの近傍のみならず,そこから離れた場所でも生じた。

 兵庫医科大学の塚本吉彦教授との共同研究により,キンギョ網膜の超薄連続切片を作成し,Mb1型双極細胞軸索終末部を電子顕微鏡で観察した。形態的に計測したシナプスリボンの分布と近接場光顕微鏡で得られたCa2+ マイクロドメインの分布を比較したところ,両者は非常に類似していた。この結果は,Ca2+チャネルがシナプスリボンの直下に局在しているとの仮説を支持している。

 以上の結果から,網膜Mb1型双極細胞においてシナプス小胞とCa2+ チャネル集積部位(シナプスリボン部位)間の距離が2相性の開口放出を生じさせる重要な要因として示唆された。

 

(19)リドカイン誘起てんかん様発射の発生機序

田中永一郎,東 英穂(久留米大・医・生理学第一講座)

 成熟ラット海馬スライス標本を作成し,CA3,およびCA1領域から細胞外記録を行い,種々の濃度 (1〜100 μM)の局所麻酔薬,リドカインを灌流投与すると,field PSPs (fPSPs) およびfield EPSPs (fEPSPs) の一過性抑制に引き続き持続性増強に伴うてんかん様発作放電がみられた。Presynaptic volleyはリドカイン濃度(>3μM)依存性に抑制された。fPSPsおよびfEPSPs (f (E) PSPs) の一過性抑制はA1受容体拮抗薬,DPCPX(1 μM)存在下で消失した。CA1錐体細胞から細胞内記録を行い,fast EPSPsおよび fast IPSPに対するリドカインの効果を検討すると,両者ともリドカイン濃度依存性に持続的に抑制されたが,その平均IC50はそれぞれ68 mMおよび7 μMで,fast IPSPの方が感受性が高かった。Fast EPSPsとfast IPSPsを含むPSPsではリドカイン低濃度(φ30μM)投与によりfast and late IPSPs抑制に起因するfast EPSPs増強がみられた。一方,Glutamate誘起脱分極電位およびGABA誘起過分極電位はリドカインにより変化しなかった。さらに,fEPSPsのリドカイン誘起持続性増強はCA3切除とCA2領域stratum oriens切断によって著しく抑制された。これらの結果は,リドカインによるf (E) PSPs一過性抑制はA1受容体活性化が関与すること,f (E) PSPs持続性増強はGABA性feedfowardおよびfeedback inhibitionの脱抑制によること,を示唆した。また,CA2,CA3両領域からCA1領域へのシナプス入力とCA3領域内の反回興奮伝搬回路がfEPSPsの一過性抑制と引き続く持続性増強の発生に必須であるという結論を得た。

 

(20)マウスを用いた眼球サッケード運動系の解析

坂谷智也,伊佐正(自然科学研究機構・生理学研究所・発達生理学研究系・認知行動発達機構研究部門)

 視線移動時にみられる高速の眼球運動(サッケード)は,脳により正確に制御される随意運動である。ヒトではサッケードの動的特性に注意・動機付けなどの精神状態が反映するとされている。この眼球運動を制御する神経システムの構造とその修飾機構を解明するにあたり,個体での遺伝子操作が可能なマウスをモデル動物として扱うことはきわめて有用である。我々はこれまでに高速ビデオと汎用PC,独自の動画像解析ソフトを組み合わせてマウスの眼球運動測定システムを開発し,マウスのサッケードを定量的に測定・解析することに成功した(Sakatani & Isa 2004 Neurosci Res)。

【 マウスにおける中脳上丘のサッケード運動地図の解析 】

 サッケード測定システムと併せて,覚醒状態で頭部を固定したマウスの脳内を微小電流刺激する実験系を構築し,マウスにおいてもサルやネコと同様に,中脳にある上丘を高頻度電気刺激することでサッケードが人工的に誘発されることを見いだした。この誘発サッケードについて以下のことを明らかにした。(1) サッケードの誘発と刺激強度の間に顕著な閾値効果がみられ,この閾値は上丘浅層では高く中間層・深層で低くなる (2) 誘発されるサッケードのベクトルは上丘の刺激位置に依存しており,上丘吻側から尾側にかけて振幅が増大し,また内側から外側にかけて上方から下方へとサッケードの方向が変化するといった運動地図が上丘に存在する (3) サッケードの振幅と最大角速度との間に正の強い相関関係がある。これらの結果はネコやサルで報告されているサッケードの誘発機構と酷似しており,側眼動物であるマウスに関しても,少なくとも上丘下流の神経回路について前眼動物であるネコやサルと基本的に類似のサッケード生成機構が備わっていることが示唆された。

【ノックアウトマウスを用いたサッケード制御系におけるGABAの機能解析】

 サッケードの制御における各種神経伝達物質の役割については,これまでのところほとんど不明である。そこで上丘電流刺激によるサッケード誘発系を,抑制性神経伝達物質GABA の合成酵素であるGAD65 のノックアウトマウスに適用し,サッケード制御システムにおけるGABAの役割について解析した。その結果GAD65KOマウスでは (1) 刺激中に眼球の不安定な振動が頻繁にみられ (2) サッケードの最大速度が上昇し (3) 振幅の大きなサッケードがみとめられなかった。以上の結果とサッケード制御の理論モデルに基づいた計算機シミュレーションの結果を比較することにより,サッケード制御系においてGAD65由来のGABAが主としてサッケードの振幅を計算するフィードバックの効率調節に関与していることが示唆された。

 

(21)Changes of AMPA Receptor and Synapse Density in the Flocculus after Short-term and Long-term Adaptation of Horizontal Optokinetic Response

Wen Wang and Ryuichi Shigemoto
(自然科学研究機構生理学研究所 脳形態解析,総研大,科学技術振興機構CREST)

 AMPA receptor (AMPAR) is an essential component in long-term depression of parallel fiber (PF)-Purkinje cell (PC) synaptic transmission underlying cerebellar motor learning. However, it has not been well demonstrated if physiological learning is accompanied with reduction of AMPA receptor content or synapse density in these synapses in vivo. Using SDS-digested freeze-fracture replica labeling, we quantitatively analyzed AMPAR and synapse density in PF-PC synapses before and after adaptation of the horizontal optokinetic response (HOKR) eye movement in adult C57BL/6J mice. PF-PC synapses were identified in the replica samples by double labeling for the GluR δ2 subunit. Immunogold particles for GluR1-4 and delta2 were concentrated on clusters of intramembrane particles, which indicate postsynaptic areas, on E-face of Purkinje cell dendritic membrane. In the middle one third of the flocculus, which is involved in this motor learning, we found a significant reduction of AMPAR density at PF-PC synapses after one hour of HOKR training, accompanied with a significant gain increase of HOKR indicating short-term adaptation. No such difference in AMPAR density was detected in the flocculus of untrained animals or in the paraflocculus of the trained animals. Density and size of PF-PC synapses in the flocculus of the trained animals did not change significantly after the one-hour training. In contrast, after five-day consecutive daily training, which caused significant increase of basal gain values (long-term adaptation), density but not size of PF-PC synapses was significantly reduced. These results suggest that reduction of synaptic AMPAR and synapse number in the flocculus is involved in short-term and long-term HOKR adaptation, respectively.

 


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