2005年3月8日−3月9日
代表・世話人:松浦 博(滋賀医科大学生理学第二講座)
所内対応者:岡田 泰伸(自然科学研究機構・生理学研究所)
- (1)
- ノックアウトマウスを用いた心房筋および心室筋細胞におけるKATPチャネルの役割の解析
中谷 晴昭1),三枝 紀子1),2),斎藤 智亮1) ,佐藤 俊明1),三木 隆司3),清野 進3),小室 一成2)
(千葉大学大学院・医学研究院・薬理学1),
千葉大学大学院・医学研究院・循環病態医科学2),
神戸大学大学院・医学研究科・細胞分子医学3))
- (2)
- インスリンのATP感受性K+チャネル活性化における細胞骨格の役割
河野 崇1),庄野 加余子2),ナザリーホセイン2),中屋 豊2)
(徳島大学・医学部・麻酔学教室1),徳島大学・医学部・特殊栄養学講座2) )
- (3)
- モルモット心房筋と心室筋のIK1の差異におけるKir2.xサブユニットと細胞内ポリアミンの関与
Yan Ding-Hong,頴原 嗣尚,石原 圭子
(佐賀大学・医学部・生体構造機能学・器官細胞生理分野)
- (4)
- Ca電流不活性化のβスイッチ仮説と心筋活動電位モデル
平野 裕司(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・循環器)
- (5)
- Modified sympathetic response of cardiac muscle in mice lacking the voltage-dependent Ca2+ channel β3 subunit
尾野 恭一,村上 学,藤澤 進,徐 峰,飯島 俊彦
(秋田大学・医学部・機能制御医学講座)
- (6)
- 心筋L型Caチャネル活性に対するJab1/CSN5の関与
當瀬 規嗣1),亀田 和利2),深尾 充宏1),長島 雅人1),
小林 武志1),筒浦 理正1),山田 陽一1),山下 敏彦2)
(札幌医科大学・医学部・生理学第一1),札幌医科大学・医学部・整形外科学2) )
- (7)
- 心筋細胞アポトーシスにおけるクロライドイオンチャネルの役割
高橋 信之1),田辺 秀1),2),王 暁明1),浦本 裕美1),
寺社下 浩一2),内田 信一3),佐々木 成3),岡田 泰伸1)
(自然科学研究機構・生理学研究所・機能協関部門1),
中外薬品・富士御殿場研究所2),
東京医科歯科大学大学院・腎臓内科3) )
- (8)
- 薬物によるHERGチャネル電流抑制機構について
保坂 幸男1),木下 賢吾2),中村 春木2),倉智 嘉久1)
(大阪大学大学院・医学系研究科・薬理学講座・分子・細胞薬理学1),大阪大学・蛋白質研究所2) )
- (9)
- イヌ右室心筋切片を用いたBrugada症候群モデルにおける心室細動発生機序の解明:高解像度光マッピングによる検討
相庭 武司1),清水 渉2),日高 一郎1),上村 和紀1),稲垣 正司1),杉町 勝1),砂川 賢二3)
(国立循環器病センター研究所・循環動態機能部1),
国立循環器病センター・心臓血管内科2) ,
九州大学大学院・医学研究院・循環器内科3) )
- (10)
- QT延長症候群とブルガダ症候群症例における遺伝子変異検出率とチャネル変異の特徴
吉田 秀忠1),竹中 琴重1),牧山1) 武1),大野 聖子1),土井 孝浩1),辻 啓子1),堀江 稔2)
(京都大学大学院・医学研究科・循環病態学1),滋賀医科大学・呼吸循環器科2) )
- (11)
- ヒト肺動脈平滑筋のイオンチャネルの分子生物学的及び電気生理学的検討
中島 敏明1) ,飯田 陽子2) ,大沼 仁1),岩沢 邦明2) ,城 大祐2),永井 良三2)
(東京大学医学部大学院・虚血循環生理1),東京大学医学部大学院・循環器内科2))
- (12)
- ウサギ肺静脈起源の異常興奮とイオンチャネル発現
山本 充1),本荘 晴朗2),清水 敦哉2),堀場 充3),
李 鍾国3),安井 健二4),神谷 香一郎2),児玉 逸雄3)
(名古屋大学大学院・医学系研究科・細胞生物物理学1),
名古屋大学・環境医学研究所・液性調節分野2),
名古屋大学・環境医学研究所・循環器分野3),
名古屋大学・環境医学研究所・生体情報計測・解析(スズケン)寄附研究部門4))
- (13)
- 心筋ミトコンドリアCa2+依存性K+チャネルの性質・機能と作用薬
今泉 祐治,大矢 進,坂本 多穂,桑田 有紀子,村木 克彦
(名古屋市立大学大学院・薬学研究科・細胞分子薬効解析学分野)
- (14)
- 植物ステロール由来サポニンによる心血管系性ホルモン受容体のnon-genomic経路の特異的活性化
古川 哲史,黒川 洵子,白 長喜(東京医科歯科大学・難治疾患研究所)
- (15)
- 心筋IKsとKCNQ1/KCNE1チャネルのメフェナム酸感受性の違い
豊田 太,丁 維光,松浦 博(滋賀医科大学・生理学第二講座)
【参加者名】
松浦 博(滋賀医大),岡田 泰伸(生理研),中谷 晴昭(千葉大院・医),河野 崇(徳島大・医),中屋 豊(徳島大・医),Yan Ding-Hong(佐賀大・医),頴原 嗣尚(佐賀大・医),石原 圭子(佐賀大・医),平野 裕司(東京医歯大・難治研),尾野 恭一(秋田大・医),當瀬 規嗣(札幌医科大・医),高橋 信之(生理研),浦本 裕美(生理研),保坂 幸男(大阪大院・医),倉智 嘉久(大阪大院・医),相庭 武司(国立循環器病センター),吉田 秀忠(京都大院・医),牧山 武(京都大院・医),堀江 稔(滋賀医大),中島 敏明(東京大院・医),山本 充(名古屋大院・医),本荘 晴朗(名古屋大・環研),神谷 香一郎(名古屋大・環研),児玉 逸雄(名古屋大・環研),今泉 祐治(名古屋市大院・薬),坂本 多穂(名古屋市大院・薬),波田野 紀之(名古屋市大院・薬),森村 浩三(名古屋市大院・薬),堀田 真吾(名古屋市大院・薬),森本 岳(名古屋市大院・薬),山崎 大樹(名古屋市大院・薬),山村 寿男(名古屋市大院・薬),大野 晃稔(名古屋市大院・薬),古川 哲史(東京医歯大・難治研),萩原 誠久(東京女子医大),沼田 明大(生理研),丁 維光(滋賀医大),豊田 太(滋賀医大)
【概要】
心臓血管系の細胞膜に存在するイオンチャネルは,細胞膜の興奮性の制御を介してさまざまな心血管機能の発現やそれらの神経体液性の調節に関わっている。近年,多くのイオンチャネル遺伝子が単離・同定され,遺伝性QT延長症候群やBrugada症候群などイオンチャネル遺伝子の変異に起因するイオンチャネル病の存在も明らかにされている。チャネル遺伝子の変異による構造異常とそれにより招来されたチャネル蛋白の機能異常との関連についての解析が進み,チャネル蛋白の構造機能連関も明らかにされつつある。さらには,イオンチャネル病においてチャネル遺伝子異常と疾患表現系との関連(genotype-phenotype correlation) やその症状発現機構についての検討も進み,遺伝子変異に基づいた治療法の開発も行われはじめている。このように,分子生物学,遺伝子工学,電気生理学および薬理学などの手法を用いた学際的研究により,イオンチャネル蛋白の生理的さらには病態生理的意義について知見が集積しつつある。そこで,我が国の心血管系のイオンチャネル研究を更に発展させ,イオンチャネル蛋白の生理的意義の解明に加えその破綻に基づく病態発症機構の解明とその治療戦略の構築を目指すとき,分子生物学,分子遺伝学,電気生理学,薬理学などのさまざまな専門分野の研究者が意見を交換し互いに協力して学際的に研究を押し進めていく必要がある。
本研究会には心血管領域の基礎および臨床研究者が多数集まり,さまざまな異なった研究手法を用いて得られた最新の成果が発表され,また活発な討論が行われた。本研究会で得られたこれらの成果を基盤として,今後新たな学際的共同研究が構築されることが大いに期待される。
中谷 晴昭1),三枝 紀子1),2),斎藤 智亮1) ,佐藤 俊明1),三木 隆司3),清野 進3),小室 一成2)
(千葉大学大学院・医学研究院・薬理学1),
千葉大学大学院・医学研究院・循環病態医科学2),
神戸大学大学院・医学研究科・細胞分子医学3))
心筋細胞膜のATP感受性K+(KATP) チャネルは,ポア成分のKir6.2とスルホニル尿素受容体のSUR2Aから構成される。Kir6.2遺伝子欠損 (KO) マウスを用い,心室における虚血時電気生理学的異常発現および心房における心房性利尿ホルモン(ANP) 分泌でのKATPチャネルの役割を解析した。KOマウスの摘出潅流心室筋標本において潅流を停止し虚血とすると,野生型 (WT) 標本と異なり,活動電位幅は短縮しなかったが,細胞外K+濃度はWT標本と同様に上昇し,静止膜電位が減少した。虚血時のKATPチャネルの活性化は活動電位幅短縮に重要だが,細胞外K+蓄積の主たる要因ではない事が示唆された。KOマウスの心房筋細胞でもKATPチャネル活動は記録されず,細胞の膨化によっても活性化されなかった。KOマウスにおいて容量負荷を与えた時のANP分泌はWTマウスに比し高度であり,摘出心房筋標本に張力負荷を与えた時のANP分泌もKOマウス標本で大きく,KATPチャネル活動が心房からのANP分泌を制御する事が明らかとなった。
河野 崇1),庄野 加余子2),ナザリーホセイン2),中屋 豊2)
(徳島大学・医学部・麻酔学教室1),徳島大学・医学部・特殊栄養学講座2))
膵臓 β細胞でのKATPチャネル活性はインスリン分泌に重要な役割を果たす。また,インスリン自体が種々の組織のKATPチャネル活性に影響を与えることも報告されている。今回われわれは,インスリンによる培養血管平滑筋細胞のKATPチャネル活性に及ぼすアクチン細胞骨格再編の影響を検討した。
【結果】パッチクランプCell-attached法において, インスリンによりKATPチャネルの活性化が認められたが, このKATPチャネル活性化は5-10分後に急速に低下した(不活性化)。インスリンのKATPチャネルの活性化は, Wortmannin(PI-3 kinases阻害剤)の前処置で消失した。一方で, KATPチャネル不活性化は, Cytochalasin D(アクチン重合阻害剤)の前処置で消失した。さらに,Cortactin(アクチン結合蛋白)mutantは,インスリンによる急速なアクチン骨格再編を抑制し,さらにインスリンによるKATPチャネル不活性化を抑制した。
【結論】インスリンは培養血管平滑筋細胞において,PI-3 kinasesを介してKATPチャネルを活性化するが,その後の急速なアクチン細胞骨格の再編によって結果的にKATPチャネルを不活性化する可能性が示唆された。
Yan Ding-Hong,頴原 嗣尚,石原 圭子
(佐賀大学・医学部・生体構造機能学・器官細胞生理分野)
内向き整流K電流IK1の外向き電流は心筋活動電位の再分極(3相)を担い,その振幅は細胞内ポリアミンやMg2+によるチャネルの電位依存性ブロックにより制御される。IK1外向き電流は心室筋より心房筋で小さいが機序は不明である。我々はモルモット心房筋と心室筋のIK1の差異におけるKir2.xチャネルサブユニットと細胞内ポリアミン濃度の関与を検討した。穿孔パッチクランプ法で記録したIK1の内向き整流性は心室筋より心房筋で強く,IK1の再分極誘発外向きトランジェントは心室筋のみに認められた。Kir2.3電流とIK1は細胞外pH感受性と内向き電流活性化速度の点で性質が異なっていた。Kir2.1電流とKir2.2電流は細胞内側に0.6-1.1 mM Mg2+と5-10 μMスペルミン共存下に外向きトランジェントを示したが,より高濃度のスペルミン又はスペルミジン共存下では振幅が小さくなった。モルモット心筋組織のポリアミン及びこれと結合する高分子やATP濃度を測定した結果,細胞内遊離ポリアミン濃度は心房の方が高いという結果を得た。従って心房筋と心室筋のIK1の違いに細胞内ポリアミン濃度の違いが寄与する事が示唆された。
平野 裕司(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・循環器)
Findlayのβスイッチ仮説によれば,心筋のL型Ca電流は 生理的条件下(コントロール)では膜電位依存性不活性化が主であり,交感神経β受容体刺激によってCa依存性不活性化が主要な役割を果たす状態に切り替わることになる (J.Physiol. 2002,2004)。これまでに発表されてきた心筋活動電位シミュレーションモデルにおいて,この仮説をどのように導入し得るか,また どのような役割を担い得るかを検討した。コントロールとβ受容体刺激下のL型Ca電流膜電位依存性不活性化をFindlayのデータに基づいて設定し(例コントロール:+50mVにおいてfinf 0.2, 時定数25msec,β受容体刺激下:finf 0.55, 時定数25msec),Luo-Rudyモデルに導入するとβ受容体刺激条件下での活動電位の再分極は極めて困難となった。一方,我々のCa依存性不活性化の新しい定式化を導入したモデル (Biophys.J.2003) では膜電位依存性不活性化の変化はCa依存性不活性化の増強に相殺され,APDの変化はよりreasonableであったが,膜電位固定実験の再現などは不十分であった。これまでのモデルに細胞内Ca動態やCICRの新しい定式化を導入し,さらに検討を続ける必要がある。
尾野 恭一,村上 学,藤澤 進,徐 峰,飯島 俊彦(秋田大学・医学部・機能制御医学講座)
電位依存性Ca2+チャネルは5つのサブユニットにより構成される複合体であり,薬理学的には5種類に分類される。このうちβサブユニット,特にβ3サブユニットはN型Ca2+チャネル,平滑筋のL型Ca2+チャネルの構成サブユニットとしてチャネルの機能発現に重要な働きを担っていると考えられている。今回,交感神経終末におけるβ3サブユニットの機能的役割を明らかにする目的で,野生型(WT群),β3サブユニット欠損 (β3-/-) 及び過剰発現マウス (Tg) を用い,Field刺激に対する心室筋の収縮変化を測定した。その結果,Field刺激により心室筋の収縮は3群とも刺激強度に依存して増強し,βアドレナリン受容体遮断薬あるいはレゼルピンの前処理により消失した。Filed刺激に対する反応はβ3-/-でWTに比べて有意に減弱し,Tgマウスでは有意に増強していた。単離心室筋細胞のCa2+電流については,電流密度およびキネティクスとも3群間で有意差は認められなかった。以上のことから,β3-/-では交感神経末端からのノルアドレナリン放出が減弱し,逆にTgでは増強していることが示唆された。β3サブユニットが交感神経末端におけるCa2+チャネルの機能的サブユニットを構成していることが示唆された。
當瀬 規嗣1),亀田 和利2),深尾 充宏1),長島 雅人1),
小林 武志1),筒浦 理正1),山田 陽一1),山下 敏彦2)
(札幌医科大学・医学部・生理学第一1),札幌医科大学・医学部・整形外科学2))
L型Caチャネルは,様々な細胞内タンパク分子と相互作用し,それによって生理反応を惹起している。例えば,Gタンパクの一部はL型Caチャネルを直接活性化するし,骨格筋ではL型Caチャネルとリアノジン受容体との相互作用が興奮収縮連関の鍵である。心筋L型Caチャネルの細胞内に露出している部分で,特定のタンパク分子の結合が報告されていない,II-IIIリンカーに相互作用を示す分子種の探索を行った。Yeast-two-hybrid法により,II-IIIリンカーに結合するタンパク分子をヒト心筋ライブラリーで探索すると,細胞増殖にかかわるJab1/CSN5がスクリーニングされた。ウエスタンブロットによりJab1/CSN5がラット心筋細胞に実際に存在することを確認した上で,免疫沈降法を行い,II-IIIリンカーを含むalpha1CサブユニットとJab1/CSN5が共沈することを確認した。さらにラット心室筋細胞を用いて免疫蛍光染色をすると,両分子が筋節にしたがって共存していた。次に心筋L型Caチャネルの全サブユニットを発現させたcos7細胞でパッチクランプ法を行い,Ca電流を測定した。この細胞で,siRNA法によりJab1/CSN5の遺伝子発現を抑制すると,Ca電流は無処置あるいはスクランブルsiRNA処置の細胞に比較して約2倍大きくなっていた。Jab1/CSN5は心筋L型Caチャネルに直接結合して,チャネル活動を抑制することにより,Ca流入量を調節していると考えられる。
高橋 信之1),田辺 秀1),2),王 暁明1),浦本 裕美1),
寺社下 浩一2),内田 信一3),佐々木 成3),岡田 泰伸1)
(自然科学研究機構・生理学研究所・機能協関部門1),
中外薬品・富士御殿場研究所2),
東京医科歯科大学大学院・腎臓内科3) )
スチルベン誘導体であるDIDSは,心筋細胞をはじめ様々な細胞系でスタウロスポリン (STS) 誘導性アポトーシスを抑制する。しかしDIDSは,Cl-チャネルとCl-/HCO3-交換輸送体 (AE) のいずれにも作用する阻害剤である。そこでマウス心筋細胞を用いて,STS誘導性心筋細胞アポトーシスにおけるDIDSの標的の同定を試みた。STS誘導性心筋細胞アポトーシスは,AEが機能しないHCO3-非存在下でも観察され,DIDSの添加により抑制された。さらにAEには作用しないCl-チャネル阻害剤であるNPPBの添加でも,心筋細胞アポトーシスが抑制された。また他の細胞系と同様に,心筋細胞でもSTS添加でアポトーシス性細胞容積減少 (AVD) が起こり,これがCl-チャネル阻害剤によって抑制された。以上より,心筋細胞のアポトーシスは,DIDSがCl-チャネルに作用することで抑制できること,Cl-チャネルが関与するAVDが重要な初期イベントであることが示唆される。
保坂 幸男1),木下 賢吾2),中村 春木2),倉智 嘉久1)
(大阪大学大学院・医学系研究科・薬理学講座・分子・細胞薬理学1),大阪大学・蛋白質研究所2) )
Ikr遮断薬であるニフェカラントはHERG電流に対しblock効果だけでなく,低電位脱分極パルスにてfacilitation効果も有することが報告されている。また,III群抗不整脈薬であるアジミライドにおいて,HERG電流に対するfacilitation効果が,強い脱分極パルスによって起こるactivation curveの左方偏位により引き起こされることが報告されている。今回,HERGチャネルに対するニフェカラントのblock効果とfacilitation効果に関して,pore領域のアミノ酸残基との関連をAlanine-scanningを用いて検討した。Y652とF656はblock効果とfacilitation効果の両方に不可欠であった。また,Y652とF656以外のmutantの多くは,facilitation効果を増強または減弱した。homology modelにおいて,これらのアミノ酸残基のうち,S624とS649のみがinner cavityに面し,channel poreの上方にpocketを形成していることが推測された。さらに,docking modelにおいて,ニフェカラントがそのpocketにはまり込んでいることが推測された。以上より,ニフェカラントとの直接作用またはopen 構造の増強によりセリン残基がfacilitation効果を修飾している可能性が示唆された。
相庭 武司1),清水 渉2),日高 一郎1),上村 和紀1),稲垣 正司1),杉町 勝1),砂川 賢二3)
(国立循環器病センター研究所・循環動態機能部1),
国立循環器病センター・心臓血管内科2) ,
九州大学大学院・医学研究院・循環器内科3) )
【背景】Brugada症候群は心電図右側胸部誘導のST上昇と心室細動 (VF) を主徴とする疾患であり,そのST上昇とVF発生の機序については,右室流出路心外膜側の活動電位変化(domeの消失)とそれに伴うphase 2リエントリー (P2R) が考えられている。しかし,どの程度の心外膜側活動電位の不均一性がVFの誘因となるのか,さらにP2RからVFへの移行過程など未解明な点が多い。
【方法】我々はイヌ右室心筋切片を用いた薬理学的Brugada症候群モデルを作成し,膜電位感受性色素(di-4-ANEPPS) を用いた空間・時間分解能に優れた光マッピングシステムにより,Brugada型ST上昇時およびP2R発生過程における右室心外膜および心内膜側の活動電位の不均一性とVFへの移行過程を詳細に観察した。
【結果】右室心外膜側の機能的な活動電位の変化(domeの消失と回復)が空間的な再分極時間のばらつきの増大を招き心電図上ST上昇を生じた。更に近接した細胞間でのdomeの有無による活動電位持続時間の差がある値(閾値)を超えた場合,VFの起点となるP2Rが発生することが確認された。さらにP2RからVFに移行するためには伝導の異常が関与すると考えられた。
【結語】Brugada症候群のST上昇からVF発生には,右室心筋の再分極異常と脱分極異常の双方が密接に関係することが示唆された。
吉田 秀忠1),竹中 琴重1),牧山 武1),大野 聖子1),土井 孝浩1),辻 啓子1),堀江 稔2)
(京都大学大学院・医学研究科・循環病態学1),滋賀医科大学・呼吸循環器科2) )
致死性心室性不整脈および突然死をもたらす心臓イオンチャネル病は,イオンチャネルとその関連遺伝子の突然変異が関与する。我々は,先天性 [Romano-Ward症候群 (RW) とJervelle-Lange-Nielsen症候群(JLN)] および後天性QT延長症候群,アンダーセン症候群 (AS),ブルガダ症候群 (BS) における遺伝子突然変異のスクリーニング検査をおこない遺伝子変異の頻度および遺伝子変異の部位について検討し,さらに変異チャネルの電気生理学的特徴を検討した。
【方法】患者末梢血白血球よりゲノムDNAを抽出し,PCR-SSCPあるいはPCR-WAVE法にて遺伝子変異スクリーニング,変異を同定した。さらに全細胞型パッチクランプ法にて電気生理学的特徴を検討した。
【結果】先天性および後天性LQTSにおいて147症例中LQT1;31例 LQT2;16例 LQT3;9例 LQT5:2例, LQT7;1例に遺伝子変異を認めた。2家系のJLNにおいてLQT1;1例 (50%),ASではKCNJ11変異を:7/7 (100%) の変異を検出した。BSにおいてSCN5A;4/34例に変異を認めた。LQTS症例のなかにCompound型変異を4例にみとめた。BSで同定された変異SCN5Aは パッチクランプ法にて電流の発現がみられなかった。
【結語】LQTSでの変異検出率は約40%であり,他の遺伝子変異の関与が考えられ,特にBSでは変異検出率は低く他の遺伝子変異が関与している可能性がある。一方ASについては単一遺伝子の異常による症候群であると考えられた。
中島 敏明1) ,飯田 陽子2) ,大沼 仁1) ,岩沢 邦明2) ,城 大祐2) ,永井 良三2)
(東京大学医学部大学院・虚血循環生理1),東京大学医学部大学院・循環器内科2) )
肺高血圧の成因として電位依存性K+チャネル (KV) の異常が報告されているが,ヒト肺動脈平滑筋のKVについてはいまだ不明である。そこで,ヒト肺動脈平滑筋細胞のKVにつき,電気生理学的,薬理学的,分子生物学的に検討した。細胞は,ヒトの主肺動脈より培養した肺動脈平滑筋細胞を用い,パッチクランプ法,reverse transcriptase/polymerase chain reaction (RT-PCR),定量的real-time RT-PCR 及び免疫染色法により検討した。電極内に10 mM EGTA, 3 mM ATPを充填した状態で,保持電位-80 mVより脱分極パルスを与えると一過性(A型)のK+電流に続き,遅延性外向き電流 (IK) が活性化された。IA電流は,4-APで用量依存的に抑制され,TEAに対する感受性により2つの成分に分けられた。TEA感受性成分は,blood depressing substrate (BDS)-IIにより抑制され,非感受性成分はphrixotoxin-IIにより阻害された。これらの成分は,電気生理学的(不活性化曲線及び不活性化からの回復)にも,まったく異なる性質を示した。Flecainideは,TEA非感受性成分を強く抑制した。RT-PCRでは,IKをコードする遺伝子KV1.1, KV1.5, KV2.1とともに,IA をコードする遺伝子KV3.4, KV4.1, KV4.2, KV4.3が検出された。定量的RT-PCR法では,KV4.2 > KV3.4 > KV > 4.3 (long) > KV4.1であり,KV4の修飾蛋白であるK+ channel interacting- proteinは,主にKChIP3が検出された。KV4.3 (short), KChIP1, KChIP4は,検出されなかった。KV3.4, KV4.2,KV4.3蛋白の発現は,細胞免疫染色でも認められ,さらに,正常ヒト肺動脈切片標本の免疫組織化学により確認された。以上より,培養ヒト肺動脈平滑筋細胞のA型電位依存性K+ チャネルは,2つの成分から構成され,これには,KV3.4 及び KV4-KChIP3が関与していると考えられた。
山本 充1),本荘 晴朗2),清水 敦哉2),堀場 充3),
李 鍾国3),安井 健二4),神谷 香一郎2),児玉 逸雄3)
(名古屋大学大学院・医学系研究科・細胞生物物理学1),
名古屋大学・環境医学研究所・液性調節分野2),
名古屋大学・環境医学研究所・循環器分野3),
名古屋大学・環境医学研究所・生体情報計測・解析(スズケン)寄附研究部門4))
心房細動の発生・維持には肺静脈の異常興奮が重要な役割を果しているが,その詳細な機序は明らかではない。本研究では肺静脈異常興奮の分子生物学的背景につき検討を行った。家兎心筋を用いて肺静脈 (PV),洞房結節(SAN),右心房 (RA) におけるHCN1,HCN4,Kir2.1,Kir2.2,Nav1.5,Cav1.2,Cav1.3,RyR2,SERCA2a,ANPのmRNA定量を行った。RAとの比較で,PVではKir2.2,Nav1.5,RyR2,SERCA2a,ANPのmRNA発現の減少を認めたが,HCN1,HCN4,Cav1.2,Cav1.3は同程度のmRNA発現を認めた。SANではHCN1,HCN4,Cav1.3のmRNA発現増加とNav1.5,Cav1.2,RyR2,ANPのmRNA減少を認めた。肺静脈における異常興奮にはKir2.2,RyR2,SERCA2a発現の減少が関与していると考えるが,HCN1,4やCav1.3の発現は低く,SANのような自動能の関与は否定的であった。また,Nav1.5の発現減少は興奮伝導の不均一性増加に関与していると考えられた。
今泉 祐治,大矢 進,坂本 多穂,桑田 有紀子,村木 克彦
(名古屋市立大学大学院・薬学研究科・細胞分子薬効解析学分野)
最近,心筋ミトコンドリア内膜における大コンダクタンスCa2+依存性K+チャネル(BKチャネル)様K+チャネル(mitoKCaチャネル)の機能発現とBKチャネル開口薬による心筋保護作用が話題となっている。本研究では,哺乳類心筋に発現するBKチャネルβ1サブユニット(BKβ1) に着目し,yeast two-hybrid法によりヒト心筋由来cDNAライブラリーからBKβ1結合タンパク質としてミトコンドリア呼吸鎖酵素シトクロムc酸化酵素サブユニットI(Cco1)を同定した。また,蛍光タンパクやタグで標識したBKβ 1,Cco1を用いた可視化解析や免疫沈降法により,両者が心筋ミトコンドリア内膜に共存することを見出した。さらに,ラット単離心室筋細胞を用いて,BKβ 1特異的BKチャネル開口薬17β -エストラジオールや東大院薬の大和田教授と共同開発したBKチャネル開口薬,12,14-dichlorodehydroabietic acidのミトコンドリア膜電位,フラボプロテイン酸化,実験的虚血心筋細胞の保護に対する作用を検討し,mitoKCaチャネル活性化によりミトコンドリア脱分極,呼吸増大及び心筋保護作用が発揮されることを見出した。
古川 哲史,黒川 洵子,白 長喜(東京医科歯科大学・難治疾患研究所)
薬用人参Panax ginsengは万能薬・長寿薬として最も人気のあるherb medicinesの1つであり,心血管系では虚血―再還流障害に対して保護的に働くことが知られている。その主成分は植物ステロール由来サポニンginsenosidesであり,ステロール環に2つの糖が結合している。Ginsenosidesは細胞膜局在性ホルモン受容体に結合し,受容体→c-Src→PI3キナーゼ→Akt→NOS3のnon-genomic pathwayでNOを産生する。産生されたNOはcGMP依存性リン酸化によりICa,Lを抑制し,cGMP非依存性タンパクニトロ化によりIKsを活性化し,これらが活動電位短縮・Ca2+過負荷予防に貢献する。糖を持たない植物ステロールβ-sitosterolも同様の作用を示すが,β-sitosterolはgenomic pathwayも活性化するが,ginsenosidesはgenomic pathwayは活性化しない。これは糖の存在が核内移行を不可能にするためと推測される。以上より,ginsenosidesは性ホルモンの膜型受容体特異的リガンドSERMsの天然素材として有望である。
豊田 太,丁 維光,松浦 博(滋賀医科大学・生理学第二講座)
モルモット心筋IKsならびにCOS-7に導入したKCNQ1/KCNE1チャネル電流におよぼすメフェナム酸の効果を全細胞パッチクランプ法により検討した。メフェナム酸 (0.1 mM) を細胞外から投与するとKCNQ1/KCNE1電流は脱活性化キネティクスが著しく遅延し,刺激頻度依存性に脱分極パルスにともなう瞬時電流が増大し,時間依存性の電流成分が減少した。一方,メフェナム酸は心筋IKsの脱活性化を少し遅延させたものの,脱分極パルス中の電流にはほとんど影響しなかったことから,心筋IKsとKCNQ1/KCNE1チャネルはメフェナム酸の感受性が大きく異なることがわかった。KCNE1の関連蛋白であるKCNE2をKCNQ1と共発現させると常時活性型の時間非依存性電流が記録され,これに対しメフェナム酸は明瞭な効果を示さなかった。KCNE1とKCNE2の両方をKCNQ1と共発現させるとKCNQ1/KCNE1電流と同様にIKsに類似したキネティクスを示す時間依存性の電流が得られたが,メフェナム酸による脱活性化の遅延程度はKCNQ1/KCNE1電流に比べ有意に低下した。このことは心筋IKsとKCNQ1/KCNE1チャネルにおけるメフェナム酸感受性の違いの背景にKCNE2が関与する可能性を示唆する。