生理学研究所年報 第27巻
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脳機能計測センター

形態情報解析室

【概要】

 形態情報解析室は,形態に関連する超高圧電子顕微鏡室(別棟)と組織培養標本室(本棟2F)から構成される。

 超高圧電子顕微鏡室では,医学生物学用超高圧電子顕微鏡(H-1250M型;常用1,000kV)を,昭和57年3月に導入して同年11月よりこれを用いての共同利用実験が開始されている。平成17年度は共同利用実験計画が24年目に入った。本研究所の超高圧電顕の特徴を生かした応用研究の公募に対して全国から応募があり,平成17年度は最終的に10課題が採択され,実施された。これらは,厚い生物試料の立体観察と三次元解析,薄い試料の高分解能観察等である。共同利用実験の成果は,超高圧電子顕微鏡共同利用実験報告の章に詳述されている。超高圧電子顕微鏡室では,上記の共同利用実験計画を援助するとともに,これらの課題を支える各種装置の維持管理及び開発,医学生物学用超高圧電子顕微鏡に関連する各種基礎データの集積および電子顕微鏡画像処理解析法の開発に取り組んでいる。電子線トモグラフィーによる手法には,UCSD,NCMIRによる方法及びコロラド大で開発されたIMODプログラムでの方法を用いて解析を進めている。

 本年度の超高圧電顕の利用状況の内訳は,共同利用実験等116日,修理調整等64日である(技術課脳機能計測センター形態情報解析室報告参照)。電顕フィルム等使用枚数は6,946枚,フィラメン点灯時間は430.5時間であった。装置は,平均64%の稼働率で利用されており,試料位置で10-6Pa台の高い真空度のもとに,各部の劣化に伴う修理改造を伴いながらも,高い解像度を保って安定に運転されている。

 組織培養標本室では,通常用およびP2用の培養細胞専用の培養機器と,各種の光学顕微鏡標本の作製および観察用機器の整備に勤めている。

 

小脳生後発達過程におけるバーグマングリア細胞の解析

古家園子,山口 登,有井達夫

 プルキンエ細胞の樹状突起のスパインと平行線維間のシナプスを覆っているバーグマングリアは,発生の過程においてはプルキンエ細胞の分化や機能発現に深く関与していることが考えられている。エンドセリン(ET)は血管平滑筋を持続的に収縮させるだけでなく,種々の細胞の増殖や分化に関与しているが,小脳において,バーグマングリアにETB受容体のmRNAが豊富に存在する。我々は,ETB受容体の一部欠損を持つAR系統(sl劣性遺伝子を持つ)の野生型とsl/slラットを用いて,小脳のゴルジ染色標本を作製し,3-4mmの厚切り切片を超高圧電顕で観察し,3次元構築を行った。バーグマングリアがプルキンエ細胞のスパインと平行線維間のシナプスを包んでいる部位と,非シナプス部位に分け,単位体積あたりのバーグマングリアの膜表面積の値を出すことによって,生後発生過程におけるバーグマングリアの分化過程とエンドセリン受容体の役割を明らかにする。

 

 

機能情報解析室

【概要】

 随意運動や意志・判断などの高次機能を司る神経機構の研究が進められた。サルを検査対象として,大脳皮質フィールド電位の直接記録や陽電子断層撮影法などを併用して解析している。

 

意志に関係する脳活動の研究

逵本 徹

 「意欲」や「意志」の神経機序は不明な点が多い。これまでに陽電子断層撮影法を用いた研究で,前頭前野・前帯状野・海馬の脳血流量が想定される意欲の変化と一致した変動を示すことを明らかにした。大脳辺縁系と前頭前野の「意欲」への関与を示唆する知見と考えられる。さらに一歩進めて,この脳領域でどのような神経活動が行われているのかを解明するために,運動課題を行うサルの前頭前野や前帯状野の大脳皮質フィールド電位を記録した。その結果,この部位のシータ波活動が「意欲」や「注意」に相関していると解釈可能な知見を得た。ヒトの脳波で「注意の集中」に関連して観察される前頭正中シータ波(Frontal midline theta rhythms)に相当するものと考えられる。両者の対応関係やサルのシータ波の発生状況をさらに詳しく研究中である。

 

 

生体情報解析室

【概要】

 2006年1月1日より5年間,根本知己が細胞器官系生体膜研究部門助手から当室助教授に昇任し,当室を担当することとなった。当室は,共通の2光子顕微鏡室と,生体情報解析用コンピュータシステム,所内情報ネットワークの維持管理を担当することが任務である。

 2光子顕微鏡室は共通棟地下の電子顕微鏡施設から本棟5F511号室に移動させ,室温湿度制御系や陽圧系などを設営するなど大幅な整備を実施し,近赤外超短光パルスレーザーを用いたシステムに適したクリーンルームとした。さらにバイオ分子センサープロジェクトの支援を受け,広帯域高出力型の超短光パルスレーザーシステムMaitai HP(米国Spectra Physics社)を導入し,生体恒常機能発達機構研究部門と共同してオリンパスBX共焦点顕微鏡システムの改造し,個体in vivoイメージング用正立型2光子顕微鏡システムを構築した。本システムでは麻酔下のマウス大脳新皮質の表面から0.9mm以上深部においても断層像を得ることが可能であり,世界でトップクラスのスペックを実現することに成功した。また現在,機能協関研究部門の倒立型2光子顕微鏡システムもMaitai HPのレーザー光を導入できるように改良を加え,カルシウムイメージングや,光活性化,長波長蛍光タンパク質の利用といった様々な2光子励起法を活用した細胞機能アッセイが可能となりつつある。

 また,生理学研究所,基礎生物学研究所,分子科学研究所を横断した若手研究者の参加を募り定期的なバイオイメージング・セミナーを主催している。



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麻酔下のマウスの大脳皮質のGFP発現神経細胞群の3次元再構築。2光子顕微鏡の優れた深部到達性は,生体深部の微小細胞形態や活動を観察することを可能とする。新たに構築した“in vivo”2光子顕微鏡は,大脳表面から0.9mm以上の深部を観察することが可能であり,マウス個体を生かしたまま大脳皮質全体を可視化し得る世界トップクラスの顕微鏡である。(鍋倉淳一教授との共同研究)。


 


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