生理学研究所年報 第27巻
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行動・代謝分子解析センター

遺伝子改変動物作製室

【概要】

 2005年11月,脳機能計測センター脳機能分子解析室は行動・代謝分子解析センター遺伝子改変動物作製室に改組された。脳機能に代表されるような複雑な生物反応機構の解明に分子生物学的技術と発生工学的技術を駆使して作製する遺伝子転換動物は必要不可欠で,とくにラットの遺伝子ターゲッティング技術の開発は脳神経系遺伝子を含む数万にも及ぶ遺伝子の役割を研究するために切望されている。遺伝子改変動物作製室では遺伝子改変動物(マウス,ラット)の作製技術を提供しつつ,遺伝子ターゲッティングによってノックアウトラットを作製することを目指している。これまでにES細胞や精原細胞の株樹立を試みるとともに,核移植や顕微授精など,ラットにおける発生工学的技術の高度化に取り組んできた。研究課題のうち下記の3題について具体的に示す。(1)顕微授精(ICSI)技術を応用したラットへの外来遺伝子の導入,(2)凍結乾燥したラット精子のICSIによる産仔発生能の証明。(3)ラットの卵子成熟促進因子と体細胞核注入時の早期染色体凝集との関係。

 

顕微授精を介したトランスジェニックラットの作製効率に影響を及ぼす要因

平林 真澄,加藤 めぐみ,金子 涼輔(大阪大)

 精子に外来DNAを付着させ,卵細胞質内精子注入法 (ICSI)によって作製した胚を移植すればトランスジェニック(Tg)マウスが作製できると報告され,我々はその技術の応用範囲がラットにまで拡大できると確認した。本実験の目的はICSIを介したTgラットの作製効率を改善することで,結果として,超音波による精子膜破壊処理と凍結融解処理が有効なこと,精子と共培養するDNA溶液の濃度はマウスで用いられている濃度の1/50が適していること,DNAの種類(プラスミド,BAC)はICSIを介したTgラットの作製効率に影響しないこと,およびクローズドコロニー系におけるTgラット作製効率が比較的高いこと,を明らかにした。

 

 

凍結乾燥したラット精子の顕微授精による産仔の獲得

平林 真澄,加藤 めぐみ,保地 眞一(信州大)

 精子を凍結乾燥できれば室温あるいは冷蔵庫内で保存することが可能になるので,精子の維持や輸送に関わるコストを大幅に削減できる。本実験では凍結乾燥したラット精子がICSIによって産仔発生に寄与できることを証明しようとした。精巣上体尾部から調製したラット精子に超音波による精子膜破壊処理を施した後,液体窒素中に浸漬し,続いて凍結乾燥機で完全に水分を除去した。2日後に蒸留水で溶かし,ICSI後に胚移植した結果,外見的に正常な複数の産仔が誕生した。精子の超音波処理の有無によって産仔率に差が認められたので,精子膜をあらかじめ破壊しておけば核の脱凝縮が速やかに起こり,胚発生能が向上すると示唆された。

 

ラット卵子のp34cdc2 kinase活性と顕微注入細胞核に
誘起される早期染色体凝集との関係

平林 真澄,伊藤 潤哉,加藤 めぐみ,保地 眞一(信州大)

 クローンマウスを作製するには除核卵子に顕微注入した体細胞核に早期染色体凝集(PCC)が誘起されていることが重要である。しかしラットではPCC誘起が非常に困難なことから,本実験では卵子の加齢化や除核操作が細胞周期維持に及ぼす影響を調べ,p34cdc2 kinaseの活性値とPCC誘起能との関係を検討した。マウス卵子の活性はラット卵子と比較して約2倍高く,ラット卵子の値は体外摘出後の時間増加につれて急減することがわかった。除核によっていずれでも活性低下は認められたが,マウスでは注入核にPCCが起こるのに対し,ラットではまったく起こらなくなった。ラットに特徴的なこれらのことが顕微注入核のPCC誘起を阻害している要因であろう。

 


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