生理学研究所年報 第27巻 | |
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1.細胞シグナリングの時空間統御機構解明への方略検索2005年10月6日−10月7日
【参加者名】 【概要】
(1) ファゴサイトーシスにおけるRacサブタイプの局在と機能齋藤尚亮(神戸大学・バイオシグナル研究センター) 貪食細胞は,進入物の殺菌のためにNADPH oxidaseを用いて活性酸素を産生するが,その活性化には6つの成分による膜上での機能的複合体の形成が必須である。しかしながら,活性酸素産生に関わるRacの分子種特異性やその作用機序については不明である。今回我々は,GFP標識Rac (1, 2, 3)およびその変異体を用いて,マクロファージ細胞株でのFcgRを介した貪食時のRacの分子種特異的膜ターゲッティング機構の解明を試みた。 その結果,貪食時に,GFP標識RacはRac1>Rac3>Rac2の順に強く食胞膜に集積し,その集積の強さ,活性酸素産生能はC末端側のpolybasic region(PB)の正電荷アミノ酸残基数に依存することがわかった。脂質結合能をprotein lipid overlay assayを用いて行ったところ,Rac1のPBはPIP,PIP3,PAに強く結合したが,Rac2のPBは特異的結合を示さなかった。また,Rac2の活性型変異体の集積を観察すると,小胞体のなど細胞内器官の膜に局在し,貪食時に線状に食胞膜へ癒合するのが観察された。これらのことから,Rac1は貪食時にPBの高い正電荷とその脂質結合能を利用し食胞膜に集積するが,Rac2は,細胞内器官膜にターゲットし,この膜が食胞膜に融合することを利用したPBの正電荷に依存しない集積機序を持つことが示唆された。
(2) 腎マクラデンサ細胞一酸化窒素合成酵素nNOSの発現と活性制御機構川田英明(北里大・医・生理) 腎マクラデンサ(MD)細胞が産生する一酸化窒素(NO)は,尿細管糸球体フィードバック(TGF)機構を抑制する血管拡張因子である。MD細胞は,管腔内液NaCl濃度 ([NaCl]l) の変化を感知し,神経型NO 合成酵素(nNOS)の発現量を増減させているが,その細胞内調節因子は不明である。我々は,新規に樹立したマウスMD細胞(NE-MD)において,細胞外液[NaCl]変化,furosemide (Na+-K+-2Cl- 輸送体阻害薬)やamiloride(Na+/H+逆輸送体阻害薬)投与による,nNOS発現量 (Western blotting)とNO産生(NO 電極法)への影響を調べた。結果:nNOS発現量とL-Arginine(1mM)添加によるNO産生量は,furosemide投与後時間依存性に増加した。このNO産生は,BAPTA-AM(Ca2+ chelator)や50mM 7-nitroindazole (nNOS阻害薬)で完全に阻害された。nNOS発現誘導後,細胞外液の[Na+]低下によるNO産生量は小さかった。結論:MD細胞のnNOS発現量は,furosemide投与や[Cl-]lの低下で誘導され,NO産生量は細胞内Ca2+とpHに影響されることがわかった。
(3) シナプス小胞へのグルタミン酸取り込み速度金子 雅博(東京大学大学院医学系研究科 神経生理学教室) シナプス伝達は,シナプス小胞が伝達物質を開口放出後,再利用されることで維持される。この再利用過程において,シナプス小胞への伝達物質取り込みは必須のステップであり,これに要する時間は,シナプス小胞が再利用されるまでの時間を制限する。シナプス小胞は回収後,数十秒以内に再利用可能となるが,生化学的に単離したシナプス小胞への伝達物質の取り込み時間は数分-10分におよんでいる。我々は脳幹スライスのcalyx of Heldシナプスにおいてこの問題を検討した。シナプス小胞内のグルタミン酸を枯渇させた後にシナプス前末端にケージドグルタミン酸を注入し,UV照射で瞬間的にグルタミン酸濃度を上昇させ,シナプス後細胞から同時記録されるEPSCの振幅の時間経過を指標に,グルタミン酸の小胞への取り込み時間を測定した。UV照射後,EPSCは直ちに増大し,その時定数は室温で5.1秒であった。この反応は,小胞型グルタミン酸トランスポーター(VGLUT)ブロッカーTrypan blue,及びVGLUTの駆動力であるH+の電気化学ポテンシャルをつくる液胞型H+-ATPase (V-ATPase)のブロッカーbafilomycin A1により完全に抑えられた。これらの結果から,シナプス小胞へのVGLUTを介するグルタミン酸取り込み速度は従来の報告より2桁近く速いと結論された。
(4) 海馬シナプスにおける神経ステロイドによるメタ可塑性の調節:膜電位イメージングによる解析曽我部正博(名古屋大学大学院・医学系研究科・細胞生物物理) 神経ステロイドの一部は,核内受容体を経由せずに,細胞膜受容体に急性に作用して,シナプス伝達を修飾することが明らかになりつつある。代表的な神経ステロイドである硫酸プレグネノロン(PREGS)を海馬に注入すると,若齢ラットの学習能力の促進,加齢マウス,ラットの記憶学習の改善,あるいはbアミロイド負荷ラットでみられる学習能力低下の防止効果などが報告されているが,そのシナプス機構も標的受容体も不明である。最近,我々は,ラット脳海馬スライスへのPREGSの急性投与が,歯状回のシナプス伝達に長期増強(LTP)を誘導することを発見した。この長期増強は,短期と中長期の2段階からなり,前者はニコチン受容体を介した前終末からのグルタミン酸放出の増強,後者は,シナプス後膜のNMDA受容体チャネル活性の亢進と,引き続く細胞内シグナリングの活性化を必要とする。一方,海馬では条件刺激の周波数に依存して長期抑圧(LTD)や長期増強(LTP)が生じ,EPSPの振幅変化は,刺激周波数の対数に対してS字状曲線を呈する。この周波数依存性は現在や過去の状況によって変化し,メタ可塑性と呼ばれている。PREGSは,この曲線を大きく左シフトさせることが分かった。即ち,PREGSはそれ自体がシナプス伝達を増強するだけではなく,活動度依存的なシナプス可塑性の周波数依存性を修飾するメタ可塑性調節因子であることが判明した。
(5) NMDA受容体NR1における部分アゴニストの作用機序稲野辺 厚(大阪大学大学院医学系研究科薬理学講座) リガンド開口型イオンチャネルはアゴニストの結合情報をチャネルの開閉に変換する膜蛋白質である。完全アゴニストはチャネルを最大に活性化し,部分アゴニストは不完全に活性化する。NMDA受容体のNR1サブユニットのグリシン結合部位における部分アゴニストの作用を検討するために,炭素環リングの異なる3つのグリシンホモログ(ACPC,ACBC,cycloleucine)を用いて,結晶学的,電気生理学的解析を行った。ACPC,ACBCは完全アゴニストであるグリシンと比して,NR1,NR2BからなるNMDA受容体をそれぞれ約80%,42%活性化した。しかし,それら部分アゴニストとNR1のリガンド結合領域との複合体の結晶構造は,グリシンとの複合体と同程度のドメイン開閉を示した。一方,cycloleucineはアンタゴニストとして働き,リガンド結合領域の開状態を安定化していた。以上の知見は,NR1のリガンド結合領域は完全,部分アゴニストに関らず,一つの閉状態として存在することを示しており,部分アゴニストの作用が,進化的に類似するAMPA受容体のGluR2と異なること示している。
(6) 中枢ニューロンにおける代謝型GABA・グルタミン酸受容体の複合体化と機能的相互作用田端俊英(大阪大学大学院医学系研究科細胞神経科学) 1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)は中枢シナプス可塑性に関わるGタンパク共役性受容体(GPCR)である。我々はマウス小脳プルキンエ細胞において,細胞外カルシウム(Ca2+o)がmGluR1を活性化するとともに,mGluR1のグルタミン酸感受性を劇的に増強することを明らかにした。近年,プルキンエ細胞上でCa2+o感受性を有するB型GABA受容体(GABABR)がmGluR1と近接して存在することが報告された。そこでCa2+oのGABABRに対する作用を薬理阻害した場合やGABABRを遺伝学的にノックアウトした場合について調べたところ,Ca2+oによるmGluR1のグルタミン酸感受性増強が起こらないことが判明した。これらの結果はGABABRがCa2+oの効果を仲介していることを示しているが,従来のGABABR介在反応と異なりGi/oタンパクを必要としない。免疫共沈でマウス小脳からGABABR−mGluR1複合体が検出された事実を考え合わせると,GABABRとmGluR1の直接相互作用が増強を起こしている可能性がある。以上の結果は,中枢ニューロンにおいてGPCRが他のGPCRのco-factorとして働くことを示唆している。
(7) 樹状突起スパインの可塑性と安定性河西春郎(生理学研究所) 海馬CA1錐体細胞の樹状突起スパインの性質をスライス培養標本を用いて調べている。ケイジドグルタミン酸の2光子アンケイジングにより,単一スパインにpairing刺激を与えると著しいスパイン頭部増大が見られるが,これは頭部の形態依存性があり,大きなスパインではほとんど長期的な増大はない。同様な違いは,自発発火環境境で数日に渡る観察でも見られ,大きなスパインは書き込み禁止状態にあると考えられた。この原因の一つとして,大きなスパインのネックは太いことが多く,NMDA受容体依存性カルシウムシグナルが小さいことがある(昨年報告済み)。更に,スパインの主たる細胞骨格であるF-actinの構築を2光子光変換が可能なPA-GFP-actinを用いて調べた結果,大きなスパインと小さなスパインはF-actinの構築に重要な違いがあることがわかってきた。
(8) 破骨細胞におけるVacuolar-type H+ -ATPaseの多様な酸分泌メカニズム久野みゆき(大阪市立大学大学院医学研究科・分子細胞生理学・中央研究室) 破骨細胞は酸・蛋白分解酵素を分泌して骨吸収を行う。骨表面に接する破骨細胞の細胞膜はruffled borderと呼ばれるひだ状の構造を形成し,ここには酸分泌の主力と考えられているvacuolar-type H+-ATPase (V-ATPase)が高密度で存在している。V-ATPaseは,H+トランスポートを担うmembrane sector(Vo)とATPase活性をもつcatalytic sector (V1)から成り,更にそれぞれが複数のサブユニットの集合体である。私達は,破骨細胞からV-ATPaseによるH+電流を記録し,サブユニット構成に基づく酸分泌の制御機構を検討した。V1はactinに結合することが知られている。サイトカラシンで前処理するとH+電流のATP依存性が失われ,actin filamentとの相互作用がポンプ機能の維持に重要な役割を果たしていると考えられた。しかし,サイトカラシン処理あるいは細胞内ATP除去後もバフィロマイシン及びDCCD 感受性H+ 電流が残存した。これらの結果は,破骨細胞ではV-ATPaseがholoenzymeとして働くだけでなく,ATPの枯渇やVo/V1 diassemblyなどでポンプ機能が阻害された際にはVoのH+トランスポート機構によって酸分泌機能が保たれることを示唆している。
(9) 脳脊髄液のpH調節における脈絡叢の重炭酸イオン輸送機構福田英一(東工大・生命理工) 脳脊髄液は中枢神経系を衝撃から守るクッションの役割をするだけでなく,老廃物を排出し,神経伝達における環境を提供するなど重要な機能を担っている。この脳脊髄液の大部分は脈絡叢と呼ばれる組織から分泌されることが知られており,その主要成分の輸送機構も大部分は分子レベルで同定されているが,pH緩衝剤として重要な重炭酸イオンについては明らかにされていない。我々は重炭酸イオン輸送体の有力な候補分子として,ラット脈絡叢よりNa+/HCO3- 共輸送体4の新規バリアント (NBC4g)を単離し,それが脈絡叢上皮細胞の頂端膜に局在することを発見した。NBC4gは既報のNBC4cと異なり,cAMP依存的な電気生理的活性をもつことを示すと共に,ラット脈絡叢上皮の初代培養細胞において,RNA干渉によるNBC4発現抑制を用い,NBC4が頂端膜で重炭酸イオン輸送に関わっていることを明らかにした。
(10) 蛍光1分子イメージングによるシグナル伝達と核内輸送のダイナミクス十川久美子(理研・免疫センター) lipid raftは,シグナル分子が集合し,外からの刺激を効率よく細胞内に伝達する細胞膜のマイクロドメインとして重要であると考えられている。種々のプローブを用いたイメージングにより存在は確認されているものの,その動態については,不明な点が多い。
(11) KCNQ/Mチャネルの抑制におけるPIP2とPKCの異なる役割中條浩一(生理学研究所) 電位依存性カリウムチャネルのKCNQ/Mチャネルは,神経細胞などに発現し細胞の興奮性を抑える役割を果たしている。Gqカップルの受容体が活性化するとこのチャネルは抑制されることが知られているが,近年この抑制機構が主にPIP2の分解によるものであることが報告された。その一方で,PKCの活性化がチャネルの抑制に関わっていることも示唆されているが,PKCがPIP2減少による抑制の補助的な役割を担っているのか,あるいはPIP2とは異なった方法でKCNQ/Mチャネルを抑制しているかは明らかではない。今回,我々はKCNQチャネルとM1受容体を共発現させることでアフリカツメガエル卵母細胞にM電流を再構成した。10mMのoxo-MによってM1受容体を活性化させると,KCNQチャネルのコンダクタンス-電圧関係(G-Vカーブ)が脱分極側にシフトした。またPKCのアクチベーターであるPMAを投与したところ,KCNQ2チャネルのG-Vカーブは約20mVシフトした。一方,10mMのwortmanninによってPIP2を減少させてもG-Vカーブにはほとんど影響を与えなかった。M電流抑制時において,PIP2の減少がチャネルの最大電流量を減少させるのに対し,PKCはチャネルの電位依存性を変化させることでチャネルを抑制すると考えられる。
(12) HERGカリウムチャネルの流動電位測定によるイオン透過機構の解析老木 成稔(福井大学医学部・分子生理) 本研究では1)イオン透過機構を解明するための新しいアプローチとして流動電位を基にした解析法を考案し,2)流動電位の新しい測定法を開発し,3)これをHERGチャネルに適用しその透過機構を検討した。流動電位とは,浸透圧差によってポアを流れる水が透過イオンを押し流し,透過イオンの平衡電位でもイオンが流れることにより生じる。“水で満たされたポア”内のイオンと水の相互作用を反映する。今回私たちは全細胞電流記録法による流動電位測定に成功し(浸透圧パルス法),HERGチャネル発現HEK293細胞に適用した。細胞内外10 mM [K+]において,浸透圧差(500 mOsm〜1500 mOsm)に対する流動電位値は線形変化を示し,その勾配から–0.7 mV/ΔOsmを得た。この値から水−イオンカップル比(n:水流束/K+流束)が1.6と求められた。細胞内外100 mM [K+]ではnが0.9に減少した。透過イオン濃度増大によるn値の減少は,ポア内イオン占有確率の増大による水分子占有確率の減少を意味する。一方,100 mM [K+]でのn値が約1ということはポア内イオンが最小の水和状態で透過することを示し,KcsAの透過モデル(シフト-透過モデル)の特徴的な透過様式に対応する。これらの結果はシフト-透過モデルがHERGチャネルに適用できることを示した(Ando et al., J. Gen. Physiol., in press)
(13) 免疫応答細胞における酸化的ストレス感受性 Ca2+チャネル TRPM2 の活性化機構および生理的役割山本伸一郎(京都大学大学院工学研究科) TRPM2 は過酸化水素(H2O2)などの酸化的ストレスにより活性化されるCa2+透過性チャネルである。しかし,酸化的ストレスによるTRPM2の活性化の詳細はまだ明らかにされていない。TRPM2は単球,好中球,およびリンパ球などの免疫応答細胞で高い発現が認められている。しかしこれらの細胞におけるTRPM2の生理的役割は明らかにされていない。そこで本研究では酸化的ストレスによるTRPM2の活性化機構の詳細および生理的役割を明らかにすることを目的とし検討を行った。TRPM2活性化機構解明にあたり,我々は extracellular signal-regulated kinase がTRPM2活性化に重要な役割を果たしていることをつきとめた。また生理的役割についてはTRPM2発現が認められている単球細胞株U937を用いたところH2O2によるIL-8産生誘導にTRPM2を介したCa2+ 流入が関与することを明らかにした。また当研究室ではTRPM2 KOマウスの作製に成功している。そこで,TRPM2 KOマウスを用いて免疫応答細胞における TRPM2の生理的役割についても現在検討を行っているので報告する。
(14) マクロファージにおけるTRPV2チャネルの制御機構長澤雅裕(群馬大学生体調節研究所) マクロファージにはTRPV2チャネルが発現し,非刺激時には主に細胞内に局在する。fMLPの投与により細胞膜への移行が促進される。パッチクランプ法によりCs+をチャージキャリアーとしたチャネル電流が観察され,ruthenium red,変異型TRPV2遺伝子導入,siRNAの投与により抑制される。このCs+電流はfMLP投与によって増加する。またfMLP投与により急速でかつ持続的な細胞内Ca2+濃度の増加が惹起されるが,細胞外液Ca2+の除去,ruthenium red投与,変異型TRPV2遺伝子導入,siRNA投与などにより持続相のCa2+上昇が消失する。fMLPにより惹起されるTRPV2の細胞膜への移行はPI-3キナーゼを抑制するワートマニンや百日咳毒素によりブロックされる。fMLPにより誘発されるマクロファージの遊走はruthenium red投与,変異TRPV2遺伝子導入により抑制される。マクロファージにおいて,TRPV2は主にポドゾームに局在している。ポドゾームは細胞の遊走に重要な構造で,TRPV2はこのドメインへのCa2+流入を制御して遊走に関与していると考えられる。
(15)PLC-zetaの分子構造とCa2+オシレーション誘発能および核移行能宮崎俊一(東京女子医大・医・第二生理) phospholipase C-zeta (PLCz) は近年マウス精子に発現するPLCとして発見され,卵にCa2+オシレーションを誘発する卵活性化精子因子の有力候補である。PLCz−蛍光蛋白Venus連結蛋白のcRNAをマウス卵に注入して発現させると,30分後からCa2+ オシレーションを誘発し卵は活性化された。発現したPLCzは,RNA注入後約5時間で形成される前核に蓄積した。その後第1卵割直前の核膜崩壊時に核から細胞質に拡散し,2細胞期の核に再び集積した。PLCzの細胞質/核間移動がCa2+ オシレーションのon/offに関係するかも知れない。 PLCzはN端側の4つのEF-hand domain,中央部のXとYのcatalyticdomain,C端側のC2domainから成る。XとY間には分子が折れ曲がるhinge portionが想定され,この付近に核移行配列候補がある。ここにpoint mutation を加えると核移行能を喪失した。他方EF-hand domain のN端から10個目のアミノ酸以降どの部分を削除しても,Ca2+ オシレーション誘発能も核移行能も喪失した(前核形成した受精卵にRNAを注入して発現させ核移行能を観察)。EF-hand domain部分は,Ca2+-binding siteとしてよりも機能的立体構造をとるために必須であると考えられる。
(16)Ca2+オシレーションの細胞分子機構飯野正光(東京大・医学系研究科・細胞分子薬理) アゴニスト刺激に伴って細胞内Ca2+ 濃度が周期的に増減するCa2+ オシレーションは,多種の細胞で見られ,細胞機能制御に深く関わっている。Ca2+オシレーション理論のエッセンスは,Ca2+ストアに「Ca2+ によるCa2+ 放出機構」が存在し,Ca2+ストアから放出されたCa2+ は一旦別のコンパートメントに移った後Ca2+ストアへ再び取り込まれる条件がそろうことである。実際,IP3受容体のCa2+ 感受性低下型変異体を発現する細胞ではCa2+オシレーションが生じないことを我々は示した。オシレーションのペースメーカー機構を追究するため,我々は,小胞体内腔に局在させた分離型カメレオンを用い,Ca2+ オシレーションに伴うCa2+ストア内Ca2+濃度を経時的にモニターした。その結果,アゴニスト刺激開始後最初のCa2+濃度上昇に際しては,ストアからのCa2+ 放出と細胞質Ca2+ 濃度上昇がほぼ同期して起こるが,2回目以降のCa2+ オシレーションでは,まず細胞質のCa2+ 濃度が上昇し始めてからCa2+ 放出が起こることが明らかになった。これは,何らかの細胞内小器官からまずペースメーカーCa2+ が供給され,それに引き続いてCa2+ によるCa2+放出が起きてCa2+ オシレーションが形成されることを示している。このペースメーカーCa2+ がミトコンドリアから由来することについて述べる。
(17)プリズム式全反射蛍光顕微鏡を用いた細胞内タンパク輸送の可視化法の開発最上秀夫(浜松医科大学生理学) 近年の遺伝子工学や光学技術の発展により,開口放出や酵素の活性化などの細胞膜近傍での生体反応を全反射型蛍光顕微鏡法(Total Internal Reflection Fluorescence Microscopy: TIRFM)を用いてシグナル感度よく観察することが可能となってきた。本手法の最大の特徴は,蛍光観察の際に励起光源として,屈折率の異なる2物質界面での光の全反射に伴い発生するエバネッセント波を用いる点にある。エバネッセント波は全反射界面から数十〜数百nm程度の領域に僅かに染み出す光である。高開口数対物レンズを用いて蛍光試料とスライドガラスの界面でエバネッセント波を発生させることで,試料の極一部即ち細胞膜近傍に限定した高SN比の蛍光観察が可能となる。しかしながら,これまでのTIRFMは対物レンズを通してエバネッセンス波を作り出すために細胞膜近傍の高倍率観察に限られており,焦点距離を変えることなく同時に細胞膜近傍より深い核周辺の情報は得ることが出来なかった。そこで,我々はこの点を解決するため,スライドグラス型オープンチャンバーを用いた低倍率対物レンズプリズム式TIRFMを開発することを試みた。多数の細胞の酵素やタンパク輸送など,タンパク局在変化の細胞内と細胞膜との現象を同時観察することにより蛋白質輸送メカニズムや蛋白質の局在変化の多角的検討が可能となった。
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